君が負けた3つの理由
ドサリ。と、地面に叩きつけられた『奪取』は未だに理解できていなかった。
何故、身体が動かない?
何故、目の前に空が広がっている?
何故、夜空なんだ?
嗚呼・・・星が美しい。
嗚呼・・・月が輝いている。
叩きつけられた後頭部の痛みも、切断された胴の痛みも・・・この夜空を見ていればちっぽけな物に感じる。
雄大な光景に呆け、口元を緩めていると・・・足音が聞こえる。
誰だ?
邪魔をするのは?
今私はとても清々しい気分なんだぞ?
「流石はナナシ君だ。本番でキチンと決めてくれたね。いや・・・私の教え方が上手かったのかな?まぁ、いいや。気分はどうだい?『乳袋』」
「『奪取』だって・・・言ってるじゃない・・・。まぁ・・・もう・・・どうでも・・・いいわ・・・」
もう自分は長くない。
呼ばれ方など・・・どうでもいい。
それよりも気になる事がある。
「ねぇ・・・何が・・・起きたの・・・?」
「ん?あぁ、見えてなかったのかい?簡単だよ。君が張った防御魔法ごと、その身体をナナシ君が斬っただけさ」
「ナナシって・・・あの男・・・?」
「どの男か分からないが・・・多分君の思っている男だろうね」
「・・・そう。あの男が・・・私を・・・」
「そうだね。しょうがない・・・私は優しいからね。君にも見せてあげるよ。君を・・・魔女を殺した男を」
『不老』は『奪取』の身体を動かす。
思わず眉を顰めた。
少し先、確かに横たわっている男が見えるが・・・その背後の毛玉は何だ?
紅く、丸く、モコモコとした物体は・・・何だ?
視線の先に気が付いたのか、『不老』の声。
「あぁ、あれは私のもう一人の友人のパルシィ君だよ。君も会っただろう?私に指輪を貸してくれた子さ。可愛いだろう?まるで大きなヒヨコちゃんだ。あの魔力量から察するに・・・指輪を3つ外したと言ったところかな?」
以降も饒舌に話を続ける彼女だが・・・頭に入ってこない。
この私が・・・あんなふざけた奴等に・・・負けたのか・・・
不思議と笑みが零れる。
相手に対する称賛か、自分の情けなさか・・・それは分からない。
再び身体を動かされ、天を仰ぐ。
夜空に瞬く星々を見つめるその身体は、徐々に灰化が始まりつつある。
「・・・ふふっ。私の・・・負け・・・ね」
「あぁ、そうだね」
「本当に・・・強いのね・・・。話に聞いていたよりも・・・ずっと・・・」
「君が誰にどんな話を聞いていたのかは知らないけど、君が負けた理由は3つ程あるかな」
何?と、痛みを堪え『不老』に視線を移す。
「1つ目。君はこの国の人々をなめすぎた事。大切な物を守る為に決死の覚悟で戦う者を相手にするには、少々油断が過ぎた。奪う事を求めすぎだよ、君は。私だったら・・・そうだね、後の事や自分の欲求を満たす事など考えずに上空から魔法を連発して焦土にしたかな。頭を潰せば自ずと瓦解する・・・今の君達みたいにね」
「酷い事・・・言うのね・・・」
「かもね。2つ目は・・・これも1つ目とあまり変わらないが、自分の力を過信しすぎた事。戦い方は実に理に適っていた。私の魔法や戦い方をよく観察していたみたいだからね。けど、問題はそこじゃない。初めて私に会った時に自分の魔名を私に教えた事だ、『奪取』。その時に私の事をどこまで知っていたかは分からないが・・・悪手だったね。『奪取』の魔名を持つ魔女とは何度か戦った経験がある。その経験があれば、作戦を立てる事は容易い。情報や知識は最大の武器だ。魔女の基本だろう?」
「無茶・・・言うわね・・・」
「物事は常に最悪の事態を想定して動くものさ。そうしたら、何が起きてもいい方向に転ぶだけだからね」
随分と簡単に言うじゃないか・・・
「3つ目は・・・?」
「3つ目?一番簡単な答えだよ。言っただろう?『勝負下着を履いている今日の私は強い』って」
フロウは裾を掴み、したり顔をする。
暫く呆けていたが、参ったな。と、苦笑いを浮かべ・・・徐々に身体が崩れ落ち始める。
「おや?もう時間みたいだね。最後に何か言い残す事はあるかい?今の私はナナシ君の成長が見れて気分がいい。聞いてあげるよ」
「せ、精々・・・気を付ける・・・ことね。貴方は・・・生きていては・・・いけない魔女。・・・あ、あの世で・・・待ってるわよ・・・せ「あぁ、そう言えば・・・君を娘の所に案内してやると約束していたね。私とした事がうっかりしていたよ」
瞬間―――頭部が消し飛び、氷の大地が砕け散る。
手を翳しているフロウの眼は・・・酷く冷たい物だった。
夜を創った『奪取』の魔力が消えた事により、周囲に再び光が差す。
状況を飲み込めずにいた兵達の視線の先には、1人の魔女と舞い上がる灰。
その灰の量は凄まじく、空を覆いつくさんばかり。
呆気にとられる周囲を余所に、『不老』は足元の何かを拾い上げ歩き出す。
向かう先は・・・ナナシの元。
たどり着くと、そこでは元の姿に戻ったパルシィが慌てふためいていた。
「ピヨっ!?あわわ・・・フ、フロウちゃん!ナナシさんが大変ですよ!?傷が酷いし、返事も無いし、ミミズも食べてくれません!どうしたら・・・!」
「落ち着きたまえ、パルシィ君。どれ、見てみようじゃないか」
彼女を宥めつつ、ナナシの状態を確認。
傷は・・・深いな。
だが、息はある。
命に別状は無さそうだ。
隣でミミズを頬張る彼女を尻目に、口元を緩ませ優しく頭を撫でる。
「よくやってくれた、ナナシ君。君は本当に・・・いい子だ」
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