また会うその時まで:4-9
神殿の最奥にたどり着く。
最奥には光を失ったクリスタルが鎮座していた。
かつては大地に恵みをもたらしていたが、今はその力を失っている。
クリスタルの前に立つミア。
ミアはクリスタルをじっと見上げている。
その表情には笑みが浮かんでいる。
覚悟でも悲壮でもなく、希望がその顔には表れていた。
だからエリオも彼女を悲しませないよう、旅立ちを見送る笑みをつくっていた。
ミアが手を伸ばす。
聖印の描かれた手のひらでクリスタルの表面に触れる。
彼女の身体が青い光を帯びる。
それはマナの輝き。
彼女の中のマナがクリスタルに流れ込んでいく。
マナがクリスタルに流れていくにつれ、ミアの姿が少しずつ薄くなっていく。
「ミアさま!」
エリオはたまらず声を出してしまった。
振り返ったミアは「心配ないよ」と言いたげな笑み。
彼女を今すぐにでもクリスタルから引きはがしたい。
そんな思いをエリオはぐっとこらえていた。
ミアの姿がどんどん透明になっていき、消えていきつつある。
「ねえ、エリオ」
「はい」
「ひとつだけエリオに言わなくちゃいけないこと思い出したよ」
「……なんですか?」
「次に会うときは『さま』をつけちゃダメだからね」
「え……?」
エリオはぽかんとする。
最後の別れの際にそんなどうでもよさそうなことを言われてしまった。
「わたしのことは『ミア』って呼んでね」
「……わかりました。ミア」
「またね。エリオ」
「ええ。また会いましょう。ミア」
視界を奪う白い閃光。
熱いほどの白い光が暗闇を払しょくする。
エリオはたまらず目を閉じる。
まぶた越しにも痛いほどの光が突き刺さる。
手をかざして目を光からかばう。
しばらく耐えていると光がふっと収まる。
ゆっくりと目を開ける。
目の前には光を取り戻したクリスタルが浮遊し、ゆっくりと回転していた。
エリオの大切な少女は――どこにもいなかった。
「また、会えますよね」
ステンドグラスから光が差し込んでくる。
時間の流れが歪んだのか、さきほどまで夜中なのに朝陽が昇ったらしい。
神殿の外に出る。
フラワーヴェールの町はさわやかな朝陽に照らされていた。
大地を覆っていた雪はすべて溶け、さわやかな緑の草が風になびいていた。
そしてその名のとおり、色とりどりの花が緑の大地に咲き乱れていた。
とても暖かい。
冬に閉ざされいた世界に今、春が訪れていた。
澄み渡る青空を鳥の群れが飛んでいく。
白い雲がゆっくりと流れていく。
エリオは誇らしげな気持ちでいっぱいになっていた。
愛する少女がこの町に花を咲かせた。
エリオは一歩踏み出し、花畑の大地を歩く。




