また会うその時まで:4-1
「あなたたち兄妹?」
店員の若い女性が話しかけてきた。
「違うわ。わたしは聖女で、こっちは従者なの」
「従者がいるってことはあなた、貴族の子だったのね。聖女っていうのはよくわからないけど」
「この町が緑豊かなのは、わたしたち聖女がクリスタルにマナを注いだからなのよ」
豊かな自然に囲まれた町であるにもかかわらず、その住人は聖女の存在を知らない。
聖女がこの町のクリスタルにマナを注いだのは相当昔なのだ。
小さな少女が命をかけて町を救ったのを知らないことに、エリオは切なさをおぼえた。
ミアを救世主として称えたモーングレイヴの人たちも、何十年も経って住人が入れ替わるにつれ、ミアの存在を少しずつ忘れていくのだろう。
悲しい。こんなにがんばっているのに。
いつまでもミアの存在を記憶していてもらいたい。
店員は「クリスタル……? マナ……?」と首をかしげていたが、別段詳しく知りたいわけでもないらしくミアににこりと笑いかけた。
「じゃあ、そんな聖女さまと従者さんにデザートをおごってあげるわ」
「わーいっ」
店員が厨房に戻ってからしばらくしてデザートが運ばれてきた。
プリンの甘さとカラメルがほろ苦さが合わさったおいしいプリンだった。
「おいしいよ、エリオ!」
「驚きました。王都のパティシエが作るものにも負けないです」
「よろこんでもらえてうれしいわ」
エリオが半分食べる間に、ミアはもう平らげてしまった。
おいしそうに食べてくれて店員も満足そうだ。
「世界を救ってちょうだいね。聖女さま」
「てへへー」
ミアは満面の笑みを浮かべた。
それが冗談だと気付いていない。
食事を終えて宿に戻る。
宿屋の部屋は小さくて古びており、寝るためにしか役目を果たせないありさまだった。
その寝るためのベッドすら固くて寝心地は悪い。
もっとも、旅人が利用する安宿など大半がそうなのだが。
「プリン、おいしかったね」
「この小さな町でこれほどのものを食べられるとは思いませんでした」
「明日も出発の前に食べようよ」
「そうしましょうか」
「でもあの店員さん、失礼だなー。わたしが聖女だって信じてなかったよ」
「あ、気付いてたんですね」
ふくれっ面になるミア。
クリスタルの存在も、マナの存在も、知っている者は少ない。
ミアが窓の外を眺めながら言う。
「この町でおいしいプリンが食べられたのも、他の聖女のおかげなんだよね」
彼女はどこか誇らしげだった。
「わたしたちが世界を救ってるんだ」
そうつぶやく。
辺境の町で食べたおいしいプリンは、はからずもミアの決意を固くしたのであった。




