課せられた使命:3-3
いや、余計な考えはよそう。
エリオはミアと共に神殿の入り口に足を踏み入れた。
数百年間、誰も足を踏み入れられなかった神殿。
薄暗い。
崩落した天井から差し込む太陽の光が唯一の光源。
神殿内は経年によってあちこち崩れており、廃墟と化していた。
クリスタルはその最奥に無言でたたずんでいた。
六角形の巨大なクリスタル。
本来は澄んだ透明であるはずのそれは、墨を流し込んだかのように黒ずんでいる。
大地にマナを供給する力を失っているのは明らかだった。
しかも、このクリスタルは今まで見たものよりもかなり濁っている。
もはやマナは一滴たりとも残っていないのだろう。
ミアは無言のままクリスタルを見上げていた。
聖女とはいえ、こんな小さな少女がマナを満たせるのだろうか。
不安をおぼえるエリオ。
ミアの表情も同様だった。
しばらくの沈黙の後、ミアは一歩前に出た。
そして、聖印を宿した手でクリスタルの表面に手を触れた。
「エリオ。わたし、やるね」
「……はい」
よぎるさまざまな感情を振り払い、エリオはうなずいた。
クリスタルに振れたミアが目を閉じる。
すると、彼女の輪郭に青い光が浮かびだした。
可視化されたマナ。
青い光は彼女の手を伝ってクリスタルに流れ込んでいく。
人々はその光景を奇跡と呼ぶが、エリオにはクリスタルがミアの命を喰らっているように見えた。
クリスタルは貪欲にミアからマナを吸っていく。
クリスタルの黒い淀みが徐々に失われていく。
ミアは苦しげな表情をしている。
足をふらつかせたのを見た瞬間、エリオは彼女を抱いて身体を支えた。
「ミアさま。いったん休みましょう」
エリオは異変を感じ取っていた。
これまではもうとっくにクリスタルは輝きを取り戻していたのに、このクリスタルは未だに光を完全には取り戻していなかった。
これ以上はミアの身体が持たない。
「まだ……。まだだよ。わたし、まだいけるよ」
ミアはやめようとしなかった。
強がりの笑みを見せて再び集中する。
ミアの顔色は悪い。
無理矢理にでもクリスタルから引きはがすべきか。
エリオは迷う。
そうしている間にもマナはミアからクリスタルに流れ込んでいく。
クリスタルの内部に漂う淀みが失われていく。
それと同時に光が宿っていく。
薄暗い神殿はすでにクリスタルの光に染められていた。
そしていよいよ目もくらむほど光が強くなる。
クリスタルがよみがえる。
光が爆発する瞬間、エリオはミアをクリスタルから引きはがした。
すさまじい光がクリスタルから発せられる。
爆発した光は神殿の内部を瞬時にして白に染めた。




