課せられた使命:3-2
「どうしよう……」
アルタイルとの約束は果たせなかった。
これではクリスタルに近づけない。
皆、一様に落胆する。
しかし、思いがけないことが起こった。
沈黙していたアルタイルが身体を横にどけたのだった。
クリスタルのある神殿への入り口がミアたちの前に開かれる。
「どっ、どういうこと!?」
「通ってもよい、ということでしょうか」
「もはや我は道を阻まぬ」
ミアとエリオはどうしてアルタイルが道を開けてくれたのかわからず目をぱちぱちさせていた。
「いいの? あなたの翼を作るのに失敗しちゃったのに」
「我ははなから成功するなどとは思っていなかった。今の人間の技術で竜の翼など到底作れぬ」
「じゃあ、どうして……」
「聖女よ。お前の想いに応えたのだ」
アルタイルの声色はやさしかった。
小さな少女に語りかける大人の声だった。
「我は人間と争い続けてきた。無益で不毛で、愚かな戦いを幾度も……。1000年以上生きてきたが、分かり合おうとした人間はお前が初めてだった。お前の言葉になら耳を貸してやろう」
ぽかんとアルタイルを見上げるミア。
しばらくしてから彼女はにっこりと笑顔になった。
「アルタイルがやさしい竜でよかったっ」
「我を『やさしい』などと言った人間もお前が初めてだ」
ミアがエリオの手を握る。
「これで先にすすめるね」
「……そうですね」
「エリオ。そんな顔しないで」
どんな顔をしているのだろうか。
エリオは自分の顔に手を振れる。
この先にあるものは自分たちにとっての利益でも幸福でもない。
ただ、命を消耗させるだけ。
その見返りとして世界をわずかに生きながらえさせられる。
エリオがよろこべる理由などどこにもないのだ。
ミアだってそうだ。
緑豊かになった世界をミアは見ることができない。
そうなるころには彼女の命はもう、とうに尽きているだろうから。
なのに、ミアは先にすすめることをよろこんでいる。
エリオはいたたまれない気持ちになった。
「いこっ」
ミアが手を引く。
エリオは彼女の隣に並んで歩き出す。
「小さき聖女とその従者よ」
アルタイルの横を通り過ぎようとしたとき、呼びかけられる。
「その身に背負った運命を嘆かぬのか」
「んーん」
ミアは首を横に振る。
「だって、そのおかげでエリオと出会えたんだものっ」
にこにこの、満面の笑みでエリオを見つめる。
エリオは急に恥ずかしくなって視線をそらした。
いじらしい。
抱きしめて頭をなでたくなるほどミアがかわいかった。
ふと思う。
ミアにとって自分はどのような存在なのだろう。
兄か、まさか父か。それとも……。




