アポカリプス・ナウ
「思ったんだが」
摩訶不思議な魔法陣を中空に描くロナの背中に声をかけた。魔方陣ではない。チンダル現象のように煌めく粒子の集まりが、いつかのドローンショーみたいだなと思った。
テレビの討論会だか、会議だかは続いていた。僕の研究室に突っ込んできたドローンのCPUがアメリカ製であることは極めて遺憾である。
「なんでしょう、今手続きの準備をしておりますので」
「なんでそんなに転生させたいんだ? まあ俺はいいよ、強くてニューゲームなんだろ? 君らになんの得がある?」
世界的サプライチェーンを阻止することは事実上不可能で、水際で止められなかった日本政府の瑕疵である、と召喚された米高官は宣言した。
「フェリン」
ロナは振り返りもせず言った。
「早くお相手をなさい。私は忙しいんです」
「えっ! 私ですか?! だって私の手に負えないから…」
ロナは魔法陣を描く手を止め、フェリンの肩を殴った。鈍い嫌な音がした。議事堂に怒声が響き、米国が死の商人となっていることをなじった。
「あいたたたたた…痛いです!」
「OJTです。このくらいこなせなくてなんですか」
嫌な上司すぎた。だからこそ謎である。そのサプライチェーンの果実だけを得ようとするのがおこがましいと。前線に立っているのは我が国の軍人である。
フェリンは肩をさすりながら、恨みがましく僕を見た。
「こんな面倒をしてまで、なんで転生させる」
碌な答えが得られないのは薄々わかりつつも、聞かずにはいられない。フェリンの痣が増えるかもしれない。僕は不憫に思った。
「そういう仕事だからです」
投げやりにフェリンは言った。
「佐藤さんの魂は再録対象なんです」
「なるほどわかった。このままだとフェリン、君が可哀想なことになる。落ち着いてひとつずつ答えてくれ」
「人間風情がなんですか? 指導者気取りですか?」
吐き捨てるように言った。なにが彼女をこんなにおバカたらしめているのだろう。米軍は戦闘区域から南方100㎞の公共施設を接収すると言った。
僕はため息をついた。肺はあるんだな、はいはい。なんてね。
「再録して何をする。何を目的に?」
「また放流します。放流することが私の仕事です。あなたが唾棄すべきへそ曲がりであったとしても」
「へそはもうない。その鮎の稚魚みたいな存在ひとつ、面倒だから捨てちゃえばいいんじゃないか?」
「あゆ? あゆってなんですか?」
「変なところに引っかからないでくれ。塩を振って焼く魚だよ」
「塩! 塩は美味しいですよね。また舐めたいです」
ロナがもう一回殴ってくれないかと少し期待したが、石膏のような背中をこちらに向けるだけだった。
「ああもう。そろそろ私は時間です。これが終わったら行きますよ」
とロナが言った。
「え! 行っちゃうんですか?!」
フェリンはまた素っ頓狂な声を上げ、心細げな顔をした。
「言ったでしょう私は忙しいんです。これから対象者が増えるので」
キュン、キュン、と甲高い風切り音がして、僕らのいた建物が爆音と共に崩落した。僕らは落ちなかった。




