人権宣言
テロリストは東北北部の山岳地帯に広く存在しているが、72時間以内の鎮圧が可能である、と太平洋方面群総司令部は発表した。
拠点の空爆により継戦能力は著しく低下し、士気は低下するだろうと。
「お名前を教えていただいても?」
武装集団は金庫をこじ開けることに成功し、ファイルと幾ばくかの現金をバックパックに詰めて部屋を立ち去って行った。
「佐藤だ。佐藤良二。転生させる人間の名前も知らないのか?」
ロナは笑顔を崩さなかった。
「そこまで詳細な紐づけは当方としてもできかねまして」
「紐づけ? 魂と名前は紐づかないのか?」
「先ほど釈迦の概念をおっしゃいましたね」
ロナはお茶をすすった。
「魂は同一。肉体は異なる。正にそういうことなのでは?」
「だがそれは現世の概念だろう? 輪廻転生。肉体と魂の数が等しいのなら、魂が管理できている以上そんな難しいか?」
武装を解除し投降すれば日本国民として扱うことを約束する。との声明が出された。
「その認識でなにかお困りが?」
「対象者と非対象者がいる。その選別を君らはしている。そして君こそ当選者だと言って説明できないものを押し付けてくる」
避難民と投降した残党、投降するふりをした武装勢力をどう峻別するのか、と生放送で討議がなされていた。
「ええい黙れ佐藤! くどい! 二度とそのにやけづらを見せるな!」
「フェリン」
ロナは静かに言った。
「土下座しなさい」
「どげざ? …って、なんでしたっけ、てへへ」
頭をかくフェリンの脚を、ロナが素早く払った。フェリンは膝から崩れて床に座り込み、頭を押さえられて床にこすりつけた。こいつら同士は触れ合えるのだなと思った。
「土下座とはこのようにして、話の腰ではなく自分の腰を折って謝意を表明する日本語圏の重要な概念です。メモしなさい」
後頭部を押さえつけられながらも、フェリンは器用にメモ書きを始めた。
「至らぬ部下で申し訳ありません佐藤さま」
ロナも深々と頭を下げる。
「ご確認なのですが、転生の意思確認条項は説明を受けましたでしょうか?」
「ああ、なんだかそれらしいものは聞いた」
「それはなによりです!」
ロナは言った。
「そこが抜け落ちてしまっていては話になりませんからね」
投降者については包括的に対応すべきだ。国連の捕虜条項という重大な指針がある。
「では転生のロケーションについてお話させていただきます」
僕はお茶をすすった。不思議と全然冷めていなかった。




