ストライクイーグル
米基地から攻撃機が発進したとき、フェリンの通話が終わった。どういうわけか椅子には座れた。なるほど柔らかい。文科省の事務次官が座るだけのことはあった。
「あなたには転生を拒否する権利があります」
とフェリンは厳かに告げた。
「転生後の地位について明確な告示を受ける権利があります」
メモを読み上げている。東北圏住民に対し、屋内退避して窓や換気扇を閉めるようにとの政府発表があった。
「記憶の消去レベルについて、現時点の意思表示能力が正当であると認められる限り、選択権があります」
生物兵器を搭載したドローンは、高温処理できる迎撃によらないと被害を拡大しうると専門家は告げた。なるほどそりゃそうだ。
「聞いてますか?」
「もちろんだとも」
僕は肯首した。
「では、転生しますか?」
「だから転生ってなんだよと言っている」
フェリンは細い足でリノリウムの床を何度も何度も踏みつけた。息を切らして髪をかきあげ、白い肌を紅潮させた。昨日食べた焼き肉屋の岩塩みたいな色だなと思った。
「楽しいですか? 親御さんもそんなかんじ? 呼びましょうか?」
「残念ながらうちの親はもっとひどい」
フェリンは泣き出してしまった。
僕は罪悪感に苛まれた。でも事実なのだ。アメリカ国務長官は、地域独立を主張する武装勢力への攻撃は内政干渉にあたらないとの見解を示した。無い胸が痛んだ。
思い返せば、親の血で僕はこうなっている気がする。遺伝や環境因子の産物である。屁理屈両親よ、どうか避難してくれ、と思った。
「担当を引き継がせていただきます」
見知らぬ女が脈絡もなく眼前に現れ、さしもの僕も驚いた。
黒曜石の髪。硫酸銅のような瞳。
「この度はフェリンが大変な失礼をいたしました。わたくしユーラシア東部地域を総括しておりますロナと申します」
落ち着き払った声だった。
フェリンはロナの影に隠れ、恨めしげに僕を見ていた。天気予報は機密情報3に格上げされますとテレビが告げた。
「初めての生命活動停止とのことで、大変お困りだったかと思います」
「そうでもない。面くらいはしたけど」
「あら。フィリップ・マーロウですか?」
うふふ、とロナは笑った。なんだそりゃ、タバコの銘柄か。僕は言わなかった。冗談にかかずらうほど野暮ではない。八戸港から黒煙が上がった。
「アジアの文化圏では、魂と転生について複雑な価値観が交錯していますね」
導かれて、面談用のソファーに座った。ロナは対面。なぜかフェリンは僕の隣に座り、ロナの言うことを熱心にメモしていた。青森は本州防衛の要衝として勇敢に戦ってきたが、日本は奪うばかりだった!
「いきなり転生と言われても、様々な解釈ができる」
そう言ったロナの手にはいつの間にかティーカップが握られていた。僕の前にも。映像は突然乱れ、公共放送のスタジオに戻った。
「まあ、そうだな」
僕はティーカップに口をつけた。色合い的に発酵茶だった。味覚もあった。
化学防護服とライフルで武装した集団が応接室に入ってきて、理事長の机や金庫を漁り始めた。英語でコミュニケーションしていた。
「転生と聞いて何を思い浮かべますか?」
「うーん。釈迦かなあ。無論信じていたわけではないし、今もそれを問うている」
「屁理屈ばっかりなんですよ! もううんざり!!」
フェリンが怒鳴った。そんなフェリンに、にっこり笑ってシーっとジェスチャーをした。あとから応接室にやってきた何者かが、問答無用で撃ち倒された。




