森に残された声
ゆっくりと目を開けると、もう青木ヶ原樹海の入り口には立っていなかった。
目の前には、さっきと同じ木々の連なりと、テープレコーダーが散らばっていて、地面には初代のソニーのプレイステーションみたいなものが転がっていた。
虫の声も、風の音も、何一つ聞こえなかった。ただ奇妙な静けさだけが、その場所全体を分厚く包んでいた。
その静けさは耳に強く押し寄せてきて、自分の呼吸の音さえ大きすぎるように感じられた。何も持っていない両手が、体の横でかすかに震えていた。さっきまでいたどこかの寒さが、まだ手に残っているみたいだった。
呆然としたまま、その場に立ち尽くして周りを見渡した。景色は、あの氷穴から青木ヶ原樹海の入り口までの道と、何も変わらないように見えた。
同じ暗い木の幹が、あらゆる方向にそびえていた。同じ苔と落ちた松葉の絨毯が、足音を柔らかく吸い込んでいた。ここまで歩いてくる間ずっと落ち着かない気分にさせた、鳥の鳴き声がまったくないところも、同じだった。
なぜか、そこに立っている時間が長くなるほど、木々の後ろから何かに見られているような感覚が強くなっていった。
ぞわぞわとしたものが、ゆっくりと、まるでわざとするみたいに、首の後ろを這い上がってきた。それは肩甲骨のあたりに落ち着いて、そこから離れようとしなかった。
それでも、好奇心の方が勝った。
本当にプレイステーションなのかどうか、確かめたくなった。だから、そちらに向かって近づいていった。
スニーカーが、柔らかくてでこぼこした土に、一歩ごとにへこみをつけた。その足音は、周りの静けさにあっという間に飲み込まれていった。
近づいてみると、それはプレイステーションではなく、テープレコーダー用の何かの機械らしいとわかった。四角くて灰色で、細かい埃が薄く積もっていて、端に触れた瞬間、指先にその埃がまとわりついてきた。
正面には、小さなスピーカーの穴が、まるで小さな網目みたいに並んでいた。上の方には、ブランドのロゴらしきものがあったけど、もう色あせてほとんど読めなくなっていた。
しゃがみ込んで、それをちゃんと観察した。膝が、冷たくてでこぼこした土に押しつけられて、その冷たさが冬服越しにもすぐに染み込んできた。
「うわ……これ、おばあちゃんが持ってるやつにそっくりだ。日本のペンパルからもらったっていう、あれ。おばあちゃんはいつも、これは骨董品だって言ってたな……プレイステーションかと思ってたのに」
声は小さく出てきて、話し終えるとほとんどすぐに木々に飲み込まれていった。
「でも……なんでこんなもの、富士山の森の真ん中にあるんだろう。しかも、こんな風に地面にただ転がってるなんて」
肩越しに後ろを振り返って、自分の後ろに木々以外何もないことを確かめた。裸の枝は、風を遮る壁も屋根もないはずなのに、まったく揺れていなかった。
ゆっくりと立ち上がって、近くに置かれていたテープレコーダーの一つに向かって歩いた。それは、さっきの奇妙な機械のすぐ右側に、枯れ葉の浅い層に半分埋もれるようにして置かれていた。
もう一度しゃがみ込んで、両手で丁寧に持ち上げた。裏庭で見つけたおもちゃを調べるみたいに、あちこちの面をひっくり返して眺めた。
ボタンは、ところどころすり減って丸くなっていて、何年もの間、誰かの指が押し続けてきた跡が残っていた。それは、僕がまだこの世に生まれていなかったころの年月だった。
ひっくり返して見尽くすと、また正面に戻した。最初に目についたのと同じ場所に、小さな紙のテープが貼られていた。その端は、年月のせいでくるりと丸まっていた。
そこに書かれた文字は、日本語とインドネシア語の両方だった。インクは色あせていたけど、目を細めればまだ読めた。読んでいくうちに、心臓が少しずつ速く打ち始めて、指がプラスチックのケースを、無意識のうちにぎゅっと握りしめていた。
「PLAY AND BACK……パート・ワン……パート・ワン?」
首を一度片方に傾けてから、また戻した。そして体全体を回して、後ろに散らばっている他のテープレコーダーを見渡した。十個以上はありそうで、どちらを向いても、葉っぱと土に半分埋もれていた。
それから、まだ手の中にあるそれに、また目を戻した。
「これがパート・ワンだとしたら……パート・ツーもあるってこと?パート・スリーも、それからもっと、いくつあるんだろう」
周りに散らばったレコーダーを数えようとしたけど、十個を超えたあたりでわからなくなった。数えるたびに、胸がどんどん締めつけられていった。
その考えだけで、肋骨の裏側で何かが不快にねじれるような感じがした。まるで、僕がまだ理解していないものが、たくさんここで待っているみたいだった。それも、一気に押し寄せてくるよりも、なぜかもっと嫌な感じのする、辛抱強い待ち方だった。
もう一度、あの奇妙な機械の方を振り返った。埃をかぶったケースは、何一つ答えを教えてくれなかった。小さなスピーカーの穴だけが、まるで表情のない顔みたいに、こちらを見つめ返してきていた。
「なんでこんなものがここにあるんだろう。なんでこんなにたくさんのテープレコーダーが、森の真ん中に転がってるんだろう」
誰かに答えてもらうためというより、自分自身に向かって、そっとつぶやいた。
「意味がわからない」
ゆっくりと、そのテープレコーダーを胸に抱きしめた。プラスチックのケースが、ジャケットの生地越しに少しずつ温かくなっていった。
なぜか、それを抱えているだけで、見知らぬ場所に一人で立っているという心細さが、少しだけ和らいだ気がした。もちろん、こんな古い機械が本当に何かから守ってくれるはずがないことくらい、頭ではわかっていたけど。
日本に、お父さんとお母さんと一緒にこの旅行に来てから、奇妙なことがいくつも積み重なっていた。
最初は、お父さんもお母さんも、周りの誰もが、まるで僕がそこにいないみたいに振る舞ったこと。それから、あの巫女の女の子と、彼女が宙に書いたメッセージ。
そして今度は、この古いテープレコーダー。おばあちゃんの家の棚に、いつも埃をかぶって置かれているのと同じ種類のもので、僕が一度も会ったことのない人たちの色あせた写真の隣に、いつも置かれていた。
それでも今、こうしてバラバラのピースに囲まれて一人で座っていても、まだ何一つ意味がわかっていなかった。
お父さんとお母さんとは、これまでも何度もホラーがテーマの旅行に行ったことがあった。地元では、古い神社や廃墟に何度も連れていかれた。晴れた昼間でも、空気がいつも少しだけ、必要以上に静かに感じられる場所だった。
どこに行っても、いつも何か嫌なものが僕たちを待っているみたいだった。何かの影や物音のせいで、お母さんが握る手に、少しだけ力がこもることもあった。
でも、それでも、こんなに奇妙で、こんなに恐ろしいと感じたことは、一度もなかった。今、この富士山で、青木ヶ原樹海の中で起きていることほどには。
特に、僕みたいな、まだ九歳の子供にとっては。本当の世界の縁のすぐ外側に存在しているような場所に、たった一人で立っていて、普通のルールが静かに通用しなくなってしまった場所だった。




