温泉に映るもの
お父さんとお母さんは、宿にある温泉に僕を誘ってくれた。
でもお母さんによると、僕はもうお父さんと二人だけで男湯に入っても大丈夫な年齢になったらしい。
ただうなずいてから、お父さんについて脱衣所に入った。ジャケットには、夕方の冷たい空気がまだうっすらとまとわりついていた。
すでに何人かの男の人たちが中にいて、服を脱いでいるところだった。部屋の空気は、さっきまでいた凍えるような外とは違って、はっきりと暖かかった。息が白く曇らなくていいことに気づいて、ようやく落ち着いた。黙ったまま、目の端でお父さんの動きを追いながら、同じようにまねをした。お父さんが服をたたむのと同じやり方でたたんで、同じ種類のかごに入れた。指先は、外の寒さのせいでまだ少しこわばっていた。
着替え終わると、お風呂の方へ歩き始めた。タイル張りの床は、裸足に冷たくて少し湿っていて、奥の方からはすでに湯気がかすかに漂ってきていた。
でもそれ以上進む前に、お父さんが肩をつかんで止めた。優しい力だったけど、僕を途中で止めるには十分だった。
「ちょっと待って、ギラン」
何か見逃していたのかと気になって、振り向いた。
「何、お父さん?」
お父さんは、シャワーの蛇口の前で小さな椅子に座っている何人かの男の人たちを指さした。冷たい浴室の空気の中に、すでに湯気がうっすらと立ちのぼっていて、流れる水の音が、タイルの壁に柔らかく反響していた。
「まず、あの人たちを見てごらん」
その男の人たちをじっくり観察した。裸足がタイルの床に冷たく触れていた。目は、一つひとつの小さな動きを追った。彼らは体にお湯をかけて、湯船に入る前に体を洗っていた。首をかしげた。よくわからなかった。
「お父さん……なんで、先に体を洗うの?」
お父さんは微笑んだ。
「ここではそういう決まりだからだよ」
「でも、なんで?」
「お湯をきれいに保つためさ。みんな、浸かる前にまず体を洗うんだ」
もう一度、その男の人たちを見た。今度は少し丁寧に。お父さんの言う通りだった。誰一人として、いきなりお湯に入っている人はいなかった。
「へえ……」
考えてみると、なんとなく納得できた。家でのルールも、誰かが理由をちゃんと説明してくれたときに、ようやく腑に落ちるのと同じだった。
お父さんについて、小さな椅子の一つに腰かけた。タイルはほんの一瞬だけ冷たかったけど、すぐに蛇口から出てくる温かいお湯が頭に流れてきて、首や肩を伝っていった。
「あったかい……」
お父さんが小さく笑って、その声がタイルの壁にかすかに反響した。
「もっとあったかくなるぞ、これから」
体を洗い終えると、二人でゆっくりと湯船に向かった。湯気が体の周りに濃く立ちのぼって、奥の壁の冷たい窓ガラスを曇らせていった。
「ゆっくりでいいぞ」
まず足から入れた。熱さがつま先からほとんど一瞬で駆け上ってきた。
「うわあ……」
お湯は、想像していたよりずっと熱かった。足首が水面に触れた瞬間、湯気がふわりと巻き上がった。最初は変な感じがした。ほとんど耐えられないくらい。外の鋭い寒さのあとだったせいで、皮膚が急な熱さにチクチクした。でも長く浸かっているうちに、体全体がだんだんとその熱に馴染んでいって、気づかないうちにため込んでいた緊張が、肩からゆっくりと抜けていった。
ゆっくりと息を吐いて、それが目の前に立ちのぼる湯気の中に溶けていくのを眺めた。
「気持ちいい……」
お父さんが微笑んで、目じりにしわが寄って、なぜか少し若く見えた。
「だろ?」
うなずいて、水がちょうどあごの下あたりに来るくらいまで、もう少し体を沈めた。
「うん」
「日本人はよく、ただリラックスするために温泉に来るんだ。本当に体がほぐれるんだよ」
お父さんは、心からそう信じているとわかるような、静かな満足感を込めてそう言った。肩の力は、今日一日の出来事があったにもかかわらず、一日の中で一番抜けているように見えた。
周りにいる他の入浴客に目をやった。湯気が水面の上でゆっくりと漂って、頭上の淡い光を受け止めていた。湯船の縁近くで、男の人たちが低い声で話していて、蛇口からの静かな水音のせいで、言葉まではよく聞き取れなかった。中には完全に目を閉じて、顔を湯気の方に向けている人もいた。
他の人たちはただ静かに座って、熱さを肩に染み込ませていて、その体は、僕がまだ慣れていないくらいゆったりと、急かされることなく落ち着いていた。僕も黙ったまま、周りの静けさに合わせた。湯船の縁のすぐ向こうでは、曇ったガラス越しに、冷たい夜がかすかに押し寄せていた。
体は、今日一日の中で一番落ち着いている気がした。長いドライブでたまっていた痛みが、この熱の中で少しずつほぐれていった。
でも心は、何度も何度も、あの巫女の女の子と、彼女が書いたメッセージのことに戻っていった。この温かさに気をそらしてもらおうとどれだけ頑張っても。
お父さんが僕の背中を洗い終えたあと、ざらざらして温かいタオルの感触が肌に残ったまま、今度は僕がお父さんの背中を洗う番になった。小さな手を、僕よりずっと広い肩の上で動かした。
タオルをお父さんの肩に滑らせながら、明日の予定について話した。声が、周りのタイルの壁にかすかに反響した。
お父さんは、富士山の麓近くにある二つの洞窟と、一つの森を訪れる予定だと言った。その声は軽やかで、その言葉が僕にとってどれだけの重さを持つか、まったく気づいていなかった。
手が、動きの途中で止まった。タオルは、まだお父さんの肩に押し当てられたままだった。
あの女の子のメッセージが、一気に頭の中に押し寄せてきた。周りを包む温かさとは正反対に、鋭く、突然に。
富士山から離れろ。
神社へ行け。
ごくりと唾を飲み込んだ。周りの湯船の静かなざわめきの中でも、その音が自分の耳の中で大きく響いた。
まだ、どれも意味がわからなかった。
もし本当に神社へ行かなきゃいけないんだとしたら……
どこの神社?
そこまでは、彼女も教えてくれなかった。
濡れた手で、ゆっくりと顔をこすった。お湯の熱さはまだ肌にまとわりついていたけど、その考えのせいで、胸の中には冷たい何かが沈んでいった。
「もしかして……どこの神社でもいいから、行けば……」
「……また、あの子に会えるかもしれない」
なぜそう思うのか、自分でもわからなかった。その確信は、奇妙で重くて、肋骨の裏側のどこかに、下ろすことのできない石みたいに居座っていた。
でも、何かが僕にこう告げていた。全部を説明できるのは彼女だけだって。手を少し動かすたびに、水面がかすかに波立った。
なんで彼女の声が聞こえないんだろう。
なんで富士山から離れてほしいんだろう。
なんで神社に行ってほしいんだろう。
熱いお湯の表面をじっと見つめた。低い光の下で揺れて形を変えていく水面に、自分の姿が、動くたびに崩れては、また形になっていった。
「だったら……」
自分に言い聞かせるみたいに、お父さんにというよりも、静かにつぶやいた。周りの水音を、かろうじて上回るくらいの声で。
「もう一度、あの子を見つけないと」




