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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第9話 防御を“支配”するという発想

 放課後の理科室。


 机の上に並ぶのは、見慣れた工具と――明らかに“用途の違う”二つの装置だった。


 一つは、腕輪のような形状。薄くて軽い、金属と樹脂のハイブリッド素材でできている。


 もう一つは、小型の据え置き機器。弁当箱くらいのサイズで、側面に展開用のパネルが折りたたまれている。


「……よし、これで完成」


 僕は最後の設定を端末で確定させる。


 直後、二つの装置が同時に淡く発光した。


 位相の同期、問題なし。


「ピノ」


「うん?」


 ふわふわ浮いていたピノがこっちを見る。


「澪呼んで」


「また急に!?」


「テストする」


「だと思ったけど!」


 ピノは頬を膨らませながらも、くるっと回って光を弾けさせる。


「呼んでくる!」


 数分後。


 勢いよく理科室の扉が開いた。


「理久くん! 今度は何――」


 言いかけて、澪の視線が机の上で止まる。


「……なにそれ」


 真顔だった。


 僕は椅子に座ったまま、腕輪の方を軽く持ち上げる。


「防護シールド生成装置。改良版」


「……この前のやつ?」


「そう。あれは試作。これは実用モデル」


 澪がゆっくり近づいてくる。


 警戒半分、興味半分。


「で、今回は何が違うの?」


「まず名前つけた」


「そこ?」


「重要だろ。呼びにくいと不便」


 僕は腕輪を軽く振る。


「これは《フェーズシールド》。位相干渉で防護壁を展開する」


「……フェーズグラスの仲間ってこと?」


「そういうこと」


「ネーミング統一してきたね……」


 澪が呆れたように言う。


 僕は気にせず、もう一つの装置を指さす。


「で、こっちが設置型。《フェーズドーム》」


「ドーム……?」


「拠点防衛用。展開すると一定範囲を丸ごと保護する」


 澪の眉がぴくっと動いた。


「……ちょっと待って。それって」


「安全地帯を作れる」


「それ、めちゃくちゃ重要じゃない!?」


「だから作った」


 即答。


 澪は一瞬言葉を失って、それから頭を抱えた。


「……なんでそんなさらっと言えるの……」


「必要だったから」


 僕は立ち上がる。


「で、テストする」


「うん、知ってた」


 澪は深くため息をついたあと、顔を上げる。


「場所は?」


「学校裏の空き地。センサー的にも出やすい」


「出やすいで済ませていいのそれ……」


「いいから行くぞ」


 僕は装置を回収して歩き出す。


 澪とピノが慌ててついてくる。



――――――


 学校裏の空き地。


 人通りは少なく、視界も開けている。実験にはちょうどいい。


 僕は地面に《フェーズドーム》を置いた。


「まず設置型から」


「うん……」


 澪が少し緊張した顔で頷く。


「展開」


 スイッチを押す。


 ――ブゥン、と低い振動音。


 装置のパネルが展開し、光が走る。


 次の瞬間。


 半透明の球体が、ゆっくりと広がった。


「……え」


 澪が目を見開く。


 直径十メートルほどのドームが、空間ごと切り取ったみたいに形成される。


「これが《フェーズドーム》。内部の位相を安定化させて、外部からの干渉を遮断する」


 僕は端末で数値を確認する。


「ヴォイドの攻撃も、かなり軽減できるはず」


「軽減ってレベルじゃなくない……?」


 澪がドームの内側に一歩踏み込む。


 そっと手を伸ばして、壁に触れる。


「……すごい。全然揺れない」


「固定型だからな。出力は携行型より高い」


「携行型って、こっち?」


 澪が腕輪を見る。


「そう。《フェーズシールド》」


 僕はそれを澪に投げる。


「え、ちょ、いきなり!?」


「落とすなよ」


「受け取れたけど!」


 澪は慌てて腕輪を装着する。


 少しサイズが自動調整されて、ぴたりと腕にフィットした。


「なにこれ……勝手に……」


「使用者認識機能。誤作動防止」


「ほんと無駄に高性能だね……」


「無駄じゃない」


 僕は一歩下がる。


「起動してみろ」


「どうやって?」


「意識して“防ぐ”イメージ」


「またそれ!?」


「ピノが補助する」


 ピノが澪の肩の横で頷く。


「ミオ、いけるよ。これ、すごく操作しやすい」


「……ほんとに?」


「うん!」


 澪は一度深呼吸して、目を閉じる。


 そして――


「……防ぐ」


 小さく呟いた。


 次の瞬間。


 パァン、と軽い音がして、澪の前方に半透明の壁が展開される。


「……出た」


「出たな」


 僕は即座に数値を確認する。


「反応速度、良好。出力も安定」


 澪は自分の前にある壁を見つめる。


 ゆっくり手で触れて――


「……これ、動かせる」


 壁が、わずかに位置を変える。


「可変型。ある程度は自由に展開できる」


「すご……」


 澪が素直に呟いた。


 そのとき。


 ピノがぴくっと反応する。


「……来る」


「ちょうどいい」


 僕は口の端を上げる。


「実戦テストだ」


 空間が、歪む。


 裂け目が開き、ヴォイドが這い出してくる。


 澪の目がすぐに切り替わる。


「――いくよ!」


 同時に、腕の《フェーズシールド》が光る。


 澪は一歩前に出た。


 その動きに、迷いはない。


 ――新しい“防御”を手に入れた、魔法少女として。


 空間の裂け目から、ヴォイドが這い出る。


 黒い塊。腕のようなものを引きずりながら、ゆっくりと形を成していく。


「……来たね」


 澪の声が、すっと低くなる。


 さっきまでの戸惑いはもうない。


 腕に装着された《フェーズシールド》が、かすかに光を帯びる。


 ピノがその横で集中した様子で浮かぶ。


「ミオ、いつでもいけるよ」


「うん」


 短く頷いて、澪が一歩踏み出す。


 ヴォイドが腕を振り上げる。


 その瞬間。


 澪は動いた。


「――っ!」


 振り下ろされる黒い腕。


 それに対して、澪は“避けない”。


 代わりに。


 ――パァンッ!


 目前に展開された半透明の壁。


 《フェーズシールド》。


 ヴォイドの攻撃が、それに直撃する。


 鈍い衝撃音。


 だが、壁はびくともしない。


「……いける!」


 澪の目が鋭く光る。


 そのまま、手首をひねる。


 すると――シールドが“滑る”ように動いた。


 ヴォイドの腕に沿って、位置を変える。


「……!」


 その動きに、ヴォイドのバランスが崩れる。


 叩きつけたはずの腕が、逆に弾かれるように流される。


 僕は思わず、端末を見るのも忘れて呟いた。


「……そう使うか」


 澪はさらに踏み込む。


「ピノ!」


「うん!」


 次の瞬間、シールドがもう一枚展開される。


 今度は横。


 ヴォイドの胴体に“押し当てる”ように。


「挟む……!」


 澪の判断は速い。


 前方のシールドで攻撃を受け流しながら、横の壁で押さえ込む。


 ヴォイドの動きが鈍る。


「まだ……!」


 さらにもう一枚。


 今度は背後。


 逃げ場を塞ぐように展開される壁。


 ――三方向からの固定。


 ヴォイドの体が、ぎしりと歪む。


「……っ、動きが止まった!」


 澪の声に、確信が混じる。


 完全な拘束ではない。


 でも、“動きを制限する”には十分すぎる。


 僕は遅れて、端末に視線を落とす。


「シールド同時展開……三枚。出力維持も問題なし……」


 予想以上だ。


 澪は、そのまま一歩距離を取る。


 拘束を維持したまま、呼吸を整える余裕すらある。


「――スターライト・ショット!」


 光弾が放たれる。


 動きの鈍ったヴォイドに、直撃。


 回避も、防御もできない。


 続けて二発、三発。


 確実に削る。


「……これ、すごい」


 澪が小さく呟く。


 でも手は止めない。


 シールドで押さえ込みながら、冷静に撃ち続ける。


 ヴォイドの再生が追いつかない。


 体が崩れていく。


「……いける」


 その一言と同時に、澪が踏み込む。


 シールドを一瞬で解除。


 そして――


「――スターライト・バースト!」


 至近距離からの一撃。


 閃光が炸裂し、ヴォイドを包み込む。


 逃げ場のない状態での直撃。


 結果は、明白だった。


 黒い塊はそのまま崩壊し、粒子となって散る。


 静寂。


 風が、ふっと通り抜けた。


「……はぁ」


 澪が息を吐く。


 でもその表情は、さっきまでとは違う。


 明らかに――余裕がある。


「……これ、ただ防ぐだけじゃないんだね」


 腕の《フェーズシールド》を見る。


 その視線に、さっきより強い光が宿っていた。


「使い方次第で、戦い方そのものが変わる」


 僕は端末を閉じながら言う。


「固定、誘導、遮断。応用は無限だ」


「うん……」


 澪がゆっくり頷く。


「さっき、自然に体が動いた。ここに置けば止められるって、わかったから」


 ピノが嬉しそうにくるくる回る。


「ミオ、すごかった! あんな使い方、最初からできるなんて!」


「……たぶん、これがあったから」


 澪は腕輪を軽く撫でる。


「余裕があったから、考えられた」


 その言葉に、僕は少しだけ納得する。


 リソースが増えれば、選択肢が増える。


 単純な話だ。


「……いいな」


 思わず、口に出ていた。


「え?」


「いや。想定以上だ」


 僕は澪を見る。


「戦闘センス、ちゃんと活かせてる」


「……それ、褒めてる?」


「事実言ってるだけ」


 澪が少しだけ笑う。


「そっか」


 それから、ぐっと拳を握る。


「……これなら、もっといける」


 その声は、さっきよりずっと力強かった。


 僕は小さく頷く。


「次はドームとの併用だな」


「もう次の話!?」


「当然」


 改良の余地は、まだいくらでもある。


 でも一つだけ、はっきりしたことがある。


 ――この装備は、当たりだ。


 そして。


 使い手も。

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