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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第10話 戦う前に勝つために

 放課後の理科室。


 窓の外はまだ明るいのに、室内はやけに静かだ。


 理由は単純で――机の上に置かれている“それ”が、明らかに静かじゃないからだ。


 低く、規則的な振動音。


 円盤状の装置の中央で、淡い光が脈打っている。


「……よし」


 僕は端末を見ながら、小さく頷いた。


 位相波形、安定。


 予測モデルとの誤差も許容範囲内。


「完成、っと」


 そう呟いた瞬間、横から顔を覗き込んでいたピノがぱっと目を輝かせた。


「りく、それ……もしかして!」


「もしかしなくてもそうだな」


 僕は円盤を軽く指で叩く。


「位相センサーの改良版」


「えっ、もう!?」


「もう」


「早すぎない!?」


「前のは精度が低かった」


「基準が高すぎるよ!?」


 ピノのツッコミを流しながら、僕は続ける。


「これまでは“出現した後”か、“直前の歪み”しか取れなかっただろ」


「うん……だから、急いで現場に向かう感じだった」


「それ、非効率」


 僕は端末をくるりと回す。


「これは違う。位相の“揺らぎ”そのものを拾う」


「揺らぎ……?」


「ヴォイドが出現する前段階で、空間に微細な歪みが発生する。それを積算して、予兆として検出する」


 ピノがぽかんとする。


 理解は半分くらいだろう。


「つまり」


 僕は簡潔に言う。


「出現の、約三十分前にわかる」


「……え?」


 ピノが固まる。


「さ、三十分前……?」


「だいたいな。場所と規模にもよるけど」


「それって……それって……!」


 言葉にならないみたいに、ピノがぐるぐる回る。


「澪呼んで」


「呼ぶ!!」


 食い気味だった。


 光が弾けて、ピノが消える。


 数分後。


 ――バンッ!


「理久くん!!」


 勢いよく理科室の扉が開いた。


 澪が息を切らせて入ってくる。


「ピノが“すごいの出来た”って――って、なにこれ」


 視線が、机の上の円盤に釘付けになる。


 僕は軽く顎で示した。


「新型センサー。《フェーズレーダー》」


「レーダー……」


「広域位相観測装置。従来のセンサーの上位互換」


 澪がゆっくり近づいてくる。


「何ができるの?」


「出現予測」


「それは前からじゃないの?」


「レベルが違う」


 僕は端末を操作して、画面を澪に見せる。


 波形データと、簡易マップ。


「これまでが“直前検知”だとすると、これは“予兆検知”」


「……どれくらい前?」


「三十分前」


「……は?」


 澪が止まる。


 最近よく見る反応だ。


「さ、三十分って……それもう、待ち構えられるじゃん……」


「そうなるな」


「え、それって魔法少女協会でも……」


「多分無理」


 僕は即答する。


「人力観測前提だから。これは自動で拾う」


 澪が口を押さえる。


「……それ、すごすぎない?」


「普通」


「普通じゃないよ!?」


 ピノが横でうんうん頷く。


 僕は無視して、机の横からもう一つの装置を取り出した。


 今度は、細長いスティック状のデバイス。


「で、こっちはおまけ」


「おまけ!?」


「機能追加したらできた」


「何それ怖い」


 僕はそれを軽く投げる。


 澪が慌てて受け取る。


「ちょ、いきなり投げないで!」


「壊れない」


「そういう問題じゃない!」


「それ、《フェーズシフター》」


「シフター……?」


「位相のズレを局所的に操作する装置」


 澪が嫌な予感をした顔になる。


「……具体的には?」


「ヴォイドの出現位置、多少ずらせる」


「……はい?」


「完全制御は無理。でも数十メートル単位なら誘導できる」


 沈黙。


 数秒。


「……それ、どういうことかわかって言ってる?」


「わかってる」


 僕は肩をすくめる。


「戦う場所を選べる」


「……」


「人のいない場所に誘導できる」


「……!」


 澪の目が見開かれる。


 今度は、理解した顔だ。


「……それ、被害……減らせる」


「そういうこと」


 ピノがぱっと笑顔になる。


「すごい! ミオ、これあれば安全なとこで戦えるよ!」


「うん……うん……!」


 澪がスティックを見つめる。


 ぎゅっと握る手に、力がこもる。


「……使えるの?」


「使えるように作ってる」


「またそれ……」


 でも、否定はしない。


 少しだけ、覚悟を決めた顔になる。


「……試す」


「だろうな」


 僕は端末を手に取る。


「ちょうどいい。もう一つ反応が出てる」


「え!?」


「予兆。南東方向、三百メートル先」


「もう出てるの!?」


「三十分前だからな」


 僕は歩き出す。


「準備して行けばいい」


 澪がその場で立ち尽くす。


 でもすぐに顔を上げた。


「……うん」


 その目には、はっきりとした意思があった。


「今回は……場所も選べるんだよね」


「選べる」


「じゃあ――」


 澪が《フェーズシフター》を握り直す。


「誰もいないところで、終わらせる」


 その言葉に、僕は小さく頷いた。


 ――今度の実験は、“戦う前から有利”だ。


 それがどこまで通用するか。


 試す価値は、十分ある。



――――――


 住宅街の外れ。


 使われていない資材置き場に、僕たちはいた。


 周囲に人影はない。フェンスで囲われているせいで、一般人もまず入ってこない。


「……ここなら、大丈夫」


 澪が小さく呟く。


 その手には《フェーズシフター》。もう片方の腕には《フェーズシールド》。


 装備が増えても、動きに迷いはない。


「ここを“終点”にする」


「妥当」


 僕は端末を操作しながら答える。


「現在の予兆位置はここから北西三百メートル。自然発生だと、あのまま住宅地の真ん中に出る」


「……それ、絶対ダメなやつだね」


「だからずらす」


 僕はバッグから追加の《フェーズシフター》を取り出して、澪に投げた。


「え、まだあるの!?」


「複数使う前提だからな」


「最初から言って!?」


「言ってる暇あったら置け」


「理久くんほんとそういうとこ!」


 文句を言いながらも、澪はすぐに動く。


 フェンスの外側、道路脇に一つ目を設置。


「ここでいい?」


「いい。そこは第一誘導点」


 僕は端末のマップを見ながら指示を出す。


「次、そこから二十メートル南。ゆるく曲げる」


「ゆるく……って、そんな感覚でいいの?」


「急に曲げると位相が乱れる。自然に流す」


「……なんか、川の流れみたいだね」


「近いな」


 澪が走る。


 二つ目、三つ目。


 等間隔で《フェーズシフター》を置いていく。


 ピノがその上を飛びながら、光を当てて調整する。


「ミオ、ここ少し強いかも!」


「え、どこ?」


「ここ!」


 澪がしゃがんで、装置の出力を少し下げる。


 微調整。


 ほんのわずかな数値の差で、流れが変わる。


 僕はその様子を見ながら、端末の波形を確認する。


「……いいな。滑らかに繋がってる」


「ほんとにこれで……来るの?」


 澪が立ち上がる。


 額にうっすら汗が滲んでいる。


「来る」


 僕は即答する。


「位相の流れは誘導できてる。あとは時間の問題」


「……」


 澪は少しだけ不安そうに、設置した装置たちを見渡す。


 点々と並ぶ小さなデバイス。


 目に見えない“道”を作っている。


「なんか……不思議」


「何が」


「まだ何も起きてないのに、もう戦ってる感じがする」


「準備の時点で勝敗は決まるからな」


「それ、さらっと言うね……」


 澪が苦笑する。


 でも、その表情は少しだけ引き締まっていた。


 僕は最後の一つを取り出す。


「終点、ここ」


 資材置き場の中央に、それを置く。


「ここに集約する」


「……うん」


 澪が頷く。


 ピノがふわりと上空に浮かんで、周囲を見回す。


「全部、繋がってるよ。流れ、こっちに向いてる」


「確認」


 僕は端末を軽く叩く。


 マップ上の波形が、一本のラインとして収束していく。


 自然発生の“歪み”が、ゆっくりとこちらへ引き寄せられている。


「……ほんとに来てる」


 澪が小さく息を呑む。


 まだ何も見えない。


 でも、確実に“近づいている”。


「あと五分」


「そんなに正確にわかるの……」


「データがあるからな」


 僕はシールド装置の状態も確認する。


「準備しとけ」


「うん」


 澪が一歩前に出る。


 《フェーズシールド》が、かすかに光る。


 呼吸を整える。


 視線は、空間の一点に固定されている。


 ピノがその横で、静かに浮かぶ。


 さっきまでの慌ただしさが嘘みたいに、空気が張り詰める。


 ――やがて。


 空間が、歪んだ。


「……来た」


 澪の声が、静かに落ちる。


 裂け目が開く。


 その位置は――


「……ここだ」


 僕は確認する。


 資材置き場の、ど真ん中。


 人のいない、安全な場所。


 設計通り。


「……ほんとに、誘導できた」


 澪が呟く。


 その声には、驚きと、少しの高揚。


 ヴォイドが姿を現す。


 だが、その規模は中型程度。


 いつも通りの相手だ。


「いくよ」


「うん」


 短いやり取り。


 澪が踏み込む。


 ――ここからの戦闘は、速かった。


 シールドで一撃を受け流し、位置を固定。


 そのまま光弾で削る。


 余計な動きはない。


 準備で流れを作っていた分、迷いもない。


「――スターライト・バースト!」


 閃光。


 それで終わりだった。


 ヴォイドは崩壊し、粒子となって消える。


 静寂が戻る。


 澪がゆっくりと息を吐いた。


「……あっけない」


「そういうもんだ」


 僕は端末を閉じる。


「条件揃えれば、難易度は下がる」


 澪が周囲を見渡す。


 誰もいない。


 壊れたものもない。


「……これ、すごいね」


「どっちが」


「全部」


 少しだけ笑う。


「事前にわかって、場所も選べて、守りながら戦えて……」


 言葉を区切って、僕を見る。


「負ける要素、減ってる」


「ゼロにはならないけどな」


「それでも、全然違う」


 澪が《フェーズシフター》を拾い上げる。


 さっき自分で置いたもの。


「……戦う前から、守れてる感じがする」


 その言葉に、僕は少しだけ考えてから答える。


「それが目的だ」


 戦闘は結果でしかない。


 その前段階を制御できれば、リスクは減る。


 単純な話だ。


 ピノが嬉しそうに飛び回る。


「りく! これ、すごいよ! ほんとにすごい!」


「知ってる」


「またそれ!」


 澪が苦笑する。


 でも、その表情はどこか晴れていた。


 僕は空を見上げる。


 何もない、普通の空。


 でも、その裏側で起きていることは――もう、ただの“偶然”じゃない。


「……次は」


「まだあるの!?」


「ある」


 即答。


 澪が呆れた顔をする。


 でも、もう止めない。


 たぶん、わかってきてる。


 この研究が、どこに向かってるのか。


 僕は歩き出す。


「戻るぞ。データまとめる」


「はいはい……」


 澪とピノが後ろからついてくる。


 その足取りは、さっきより軽かった。

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