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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第70話 焼肉の約束、回収完了

「で、結局ここでやるんだ」


虚界研究部の部室に入って、澪が周りを見渡しながら言った。


 


机は端に寄せられて、中央にはスペースが空いている。


 


その真ん中に――


 


「うん。ちょうどいいでしょ」


 


僕は床に置いた箱を軽く叩く。


 


中身は、ホットプレート一式と食材。


 


 


「いや、ちょうどいいの基準が分からないんだけど……」


 


澪が呆れたように言う。


 


「学校の部室で祝勝会って、普通やる?」


 


「普通じゃないからやるんでしょ」


 


僕は即答する。


 


 


太陽が、袋をぶら下げながら入ってきた。


 


「おっしゃー! 肉買ってきたぞ!!」


 


 


テンションが無駄に高い。


 


 


「太陽、声大きい」


 


「いいじゃん! もう戦い終わったんだしさ!」


 


 


その言葉に、澪が一瞬だけ言葉を詰まらせる。


 


 


「……まあ、そうね」


 


小さく息を吐いて、気を取り直す。


 


「でも一応学校なんだから、節度は守りなさいよ?」


 


「はーい!」


 


全然守る気のない返事。


 


 


透花が、後ろからゆっくり入ってくる。


 


両手には、紙袋。


 


「追加の食材と、お飲み物を用意してまいりましたわ」


 


 


その所作が妙に上品。


 


部室とのギャップがひどい。


 


 


「ありがと」


 


僕は袋を受け取って中身を確認する。


 


肉、野菜、ジュース。


 


あと――


 


「……なんでデザートこんなにあるの?」


 


「お祝いですもの」


 


透花がにこっと笑う。


 


 


合理性はないけど、まあいいか。


 


 


 


僕は手早くホットプレートを設置する。


 


電源を繋いで、温度設定。


 


同時に、簡易的な換気用に窓を開ける。


 


 


「理久、手際いいわね」


 


澪が感心したように言う。


 


 


「別に」


 


 


ただの作業だし。


 


 


太陽はもう待ちきれない様子で肉のパックを開けている。


 


「早く焼こうぜ! 腹減った!!」


 


 


「ちょっと! まだ準備終わってないでしょ!」


 


 


「いいじゃんちょっとくらい!」


 


 


「よくない!!」


 


 


いつものやり取り。


 


 


透花がくすっと笑う。


 


 


「賑やかですわね」


 


 


「うるさいだけでしょ」


 


 


「でも、嫌いではありませんわ」


 


 


そう言って、自然にエプロンを取り出す。


 


 


……持参してるのか。


 


 


「透花、何それ」


 


 


「料理をするなら、必要かと思いまして」


 


 


「ここでガチるの?」


 


 


「はい」


 


 


迷いがない。


 


 


 


澪も観念したように袖をまくる。


 


 


「……もういいわ。さっさと終わらせましょう」


 


 


「お、やる気だな!」


 


 


「太陽は黙ってて」


 


 


「ひどっ!?」


 


 


 


僕はその様子を横目に、食材を並べていく。


 


 


手は動いてるけど、頭は別のことを考えてる。


 


 


 


――大人組は、来ない。


 


 


鬼塚は戦場から戻って、そのまま報告やら何やらで拘束されてるはず。


 


 


白峰も同じ。


 


 


むしろあの人たちは、これからが本番だ。


 


 


戦後処理。


 


各国との調整。


 


技術の管理。


 


 


面倒なこと全部。


 


 


「大人って大変だね」


 


 


ぽつりと呟くと、澪がちらっとこっちを見る。


 


 


「……そうね」


 


 


その表情は、少しだけ複雑だった。


 


 


「私たちはこうやって騒いでるけど、あの人たちは今も仕事してるんだもの」


 


 


「まあ、役割分担でしょ」


 


 


僕は特に気にせず答える。


 


 


「僕たちは終わらせた。あとは処理するだけ」


 


 


「言い方が雑すぎるのよ……」


 


 


ため息混じりのツッコミ。


 


 


でも否定はしない。


 


 


 


太陽が肉を持ち上げる。


 


 


「よっし、準備完了だな!」


 


 


「まだよ!!」


 


 


即座に澪の制裁が飛ぶ。


 


 


 


そんな感じで。


 


 


部室の中は、完全にいつもの空気に戻っていた。


 


 


戦いなんてなかったみたいに。


 


 


 


でも。


 


 


その“いつも”が、どれだけ貴重かは――


 


 


全員、ちゃんと分かっている。


 


 


 


「……よし」


 


 


僕はプレートの温度を確認する。


 


 


十分に温まっている。


 


 


 


「準備、終わり」


 


 


その一言で、全員の動きが止まる。


 


 


視線が、自然と中央に集まる。


 


 


 


――始まる。


 


 


小さな、小さな祝勝会が。



「――じゃあ」


 


澪が軽く手を上げる。


 


部室の真ん中、ホットプレートを囲むようにして座る僕たち。


 


ジュースの入った紙コップが、それぞれの手にある。


 


 


「えっと……なんて言えばいいのか分からないけど」


 


澪が少しだけ困ったように笑う。


 


 


「とにかく……お疲れさま」


 


 


シンプルな言葉。


 


でも、それで十分だった。


 


 


「お疲れー!!」


 


太陽が一番でかい声で応える。


 


 


透花も、上品にコップを持ち上げる。


 


 


「皆さま、本当に……お疲れさまでした」


 


 


僕も、とりあえずコップを持ち上げる。


 


 


「ん」


 


 


「かんぱーい!!」


 


 


コップが軽くぶつかる音。


 


 


その直後。


 


 


「よっしゃ焼くぞ!!」


 


 


太陽が即座に肉を投下した。


 


 


ジュウウウウウッ!!


 


 


一気に広がる音と匂い。


 


 


「ちょっと太陽! 早すぎ!」


 


 


「いやもう待てないって!!」


 


 


「火力強すぎ! 焦げる!!」


 


 


「え、マジ!? どうすんだこれ!?」


 


 


「落ち着いてくださいまし」


 


 


透花がすっとトングを取り上げる。


 


 


「ここはこうして……」


 


 


手際よく肉をひっくり返す。


 


火加減も調整。


 


 


「……完璧」


 


 


「すげえ……!」


 


太陽が目を輝かせる。


 


 


「料理人かよ……」


 


 


「ただの嗜みですわ」


 


 


さらっと言う。


 


 


レベルが違う。


 


 


 


焼き上がった肉が皿に並ぶ。


 


 


「ほら、食べて」


 


 


澪が取り分けてくる。


 


 


「ありがと」


 


 


一口。


 


 


……うん。


 


普通にうまい。


 


 


「うっっっま!!!」


 


 


太陽が爆発した。


 


 


「なにこれ!? めっちゃうまくね!?」


 


 


「焼肉なんだから美味しいに決まってるでしょ」


 


 


「いやでもさ! なんかこう……!」


 


 


言葉になってない。


 


 


 


透花も小さく頷く。


 


 


「ええ、とても美味しいですわ」


 


 


「なんかさ」


 


 


太陽が肉を頬張りながら言う。


 


 


「こうやって普通に飯食ってるの、めっちゃ久しぶりな気がする」


 


 


その言葉に、澪が少しだけ動きを止めた。


 


 


「……そうね」


 


 


戦いの準備。


 


虚界への侵攻。


 


連戦。


 


 


ずっと気を張ってた。


 


 


だから――


 


 


「今、めっちゃ平和だわ」


 


 


太陽の言葉に、誰も否定しなかった。


 


 


 


少しの間、黙々と食べる時間が流れる。


 


 


ジュウウという音。


 


皿が動く音。


 


小さな会話。


 


 


全部が、やけに心地いい。


 


 


 


「なあ!」


 


 


太陽が急に顔を上げる。


 


 


「俺たちさ、世界救ったんだよな!?」


 


 


「急にどうしたのよ」


 


 


「いやだってさ! なんか実感湧いてきてさ!」


 


 


テンションがまた上がってる。


 


 


「ニュースとかでさ、“人類救った英雄”とか言われるんだろ!? 俺たち!!」


 


 


「……たぶんね」


 


澪が苦笑する。


 


 


「でも実感ないでしょ?」


 


 


「あるわけないじゃん!」


 


 


即答。


 


 


「だって昨日まで普通に中学生だぞ俺!?」


 


 


「今も中学生よ」


 


 


「いやでもさ!!」


 


 


言葉が追いついてない。


 


 


 


透花がくすっと笑う。


 


 


「でも、本当にすごいことをなさいましたわ」


 


 


その言葉は、静かで。


 


でも、ちゃんと重みがあった。


 


 


「世界規模の危機を解決するなんて……普通は一生関わることもありませんもの」


 


 


「まあね」


 


 


澪が頷く。


 


 


「普通じゃないこと、しちゃったわよね」


 


 


少しだけ遠い目。


 


 


でも、その口元は笑っている。


 


 


 


「理久はどう思ってるのよ」


 


 


突然、話を振られる。


 


 


全員の視線がこっちに来る。


 


 


 


「別に」


 


 


いつも通り答える。


 


 


「やることやっただけでしょ」


 


 


「うわ出たよそれ」


 


 


太陽が笑う。


 


 


「お前ほんとブレねえな!」


 


 


「だって事実だし」


 


 


僕は肉を一枚取る。


 


 


「未知があったから調べて、解決しただけ」


 


 


それ以上でもそれ以下でもない。


 


 


 


澪が呆れたように息を吐く。


 


 


「ほんと……」


 


 


でも、どこか納得してる顔だった。


 


 


「まあ、理久らしいわね」


 


 


 


その一言で、話は終わった。


 


 


 


「よっしゃ! もっと焼こうぜ!!」


 


 


「ちょっと! まだ残ってるでしょ!」


 


 


「全部食う!!」


 


 


「食べすぎ!!」


 


 


 


また、いつもの騒がしさが戻る。


 


 


笑い声が混じる。


 


 


 


――世界を救った直後とは思えないくらい。


 


 


でも。


 


 


たぶん、これでいい。


 


 


 


僕たちは、いつも通りで。


 


 


それが、そのまま続いていく。



ひとしきり食べて、騒いで。


 


ホットプレートの上から肉が消え、代わりにデザートが並び始めた頃。


 


部室の空気は、さっきまでの勢いから少しだけ落ち着いていた。


 


「……ふぅ」


 


澪がコップを置いて、軽く息を吐く。


 


「食べた……」


 


「まだいけるだろ?」


 


太陽が当然みたいに言う。


 


「いけるわけないでしょ」


 


即答。


 


 


透花は小さく笑いながら、紙皿を片付けている。


 


「皆さま、よく召し上がりますのね」


 


「太陽が食べすぎなのよ」


 


「え、俺のせい!?」


 


 


いつもの軽いやり取り。


 


でも、その裏にある緊張は、もう完全に抜けていた。


 


 


「……でさ」


 


太陽が背もたれに寄りかかりながら言う。


 


「これからどうすんの?」


 


 


少しだけ、空気が変わる。


 


 


さっきまでの“終わった”って話から、“その先”の話へ。


 


 


「どうするって?」


 


澪が聞き返す。


 


 


「いや、戦い終わったじゃん」


 


 


太陽は手を広げる。


 


 


「もうヴォイドも出ないし、世界も平和だし」


 


 


「うん」


 


 


「じゃあさ、俺たちって何すんのかなって」


 


 


 


沈黙が少しだけ落ちる。


 


 


それぞれが、自然と考える。


 


 


 


「……俺はさ」


 


 


最初に口を開いたのは太陽だった。


 


 


「サッカー、ちゃんとやろうと思う」


 


 


その言葉は、迷いがなかった。


 


 


「今までも一応やってたけどさ、空いた時間に顔出すくらいだったし」


 


 


「兼部みたいな感じだったものね」


 


 


澪が頷く。


 


 


「でもさ」


 


 


太陽がニヤッと笑う。


 


 


「やるならガチでやりたくね?」


 


 


目が、完全にスイッチ入ってるやつ。


 


 


「全国とか、行ってみたいじゃん」


 


 


「軽く言うわね……」


 


 


「いやでもいける気すんだよな」


 


 


太陽が拳を握る。


 


 


「なんかさ、前より全然動けるし」


 


 


「ああ、それはそうでしょ」


 


 


僕が横から言う。


 


 


「魔法使って戦ってたんだから」


 


 


全員の視線がこっちに向く。


 


 


「身体能力、普通に底上げされてるよ。反応速度も、持久力も、判断力も」


 


 


「え、マジで?」


 


 


「マジ」


 


 


僕はデザートをつまみながら続ける。


 


 


「しかも実戦経験付き。対人戦の読み合いも強くなってる」


 


 


「……あれ、それって」


 


 


太陽がニヤニヤし始める。


 


 


「めっちゃ有利じゃね?」


 


 


「まあね」


 


 


僕はあっさり肯定する。


 


 


「普通にやれば、かなり上いけると思うよ」


 


 


「よっしゃああああ!!」


 


 


テンションが爆発した。


 


 


「全国行くわ!!」


 


 


「単純ね……」


 


 


澪が呆れつつも、少し笑っている。


 


 


 


「澪は?」


 


 


太陽がそのまま振る。


 


 


「どうすんの?」


 


 


 


澪は一瞬だけ考えてから、答えた。


 


 


「……私も、陸上に戻ろうかなって思ってる」


 


 


その言葉は、少しだけ慎重だった。


 


 


「戻るって……また入るの?」


 


 


「うん」


 


 


澪は小さく頷く。


 


 


「一回辞めちゃってるし、まずはそこから認めてもらわないと」


 


 


「大変そうだな」


 


 


「まあね」


 


 


でも、その表情に暗さはなかった。


 


 


「でも……」


 


 


澪が、軽く拳を握る。


 


 


「今なら、ちゃんとやれる気がする」


 


 


その目は、まっすぐだった。


 


 


 


「だろうね」


 


 


僕が言う。


 


 


「澪も同じ」


 


 


「え?」


 


 


「身体の使い方、完全に変わってる」


 


 


澪の方を見て、続ける。


 


 


「魔法少女としての戦闘経験、かなり蓄積されてるし」


 


 


「……」


 


 


「単純なフィジカルだけじゃなくて、判断速度とか、状況把握とか」


 


 


「……そんなに変わってる?」


 


 


「うん」


 


 


即答。


 


 


「勝負事なら、普通の中学生じゃ相手にならないレベル」


 


 


 


一瞬、沈黙。


 


 


 


「……それ、ちょっとずるくない?」


 


 


澪が苦笑する。


 


 


「ズルだよ」


 


 


僕はあっさり言う。


 


 


「でも使えるなら使えばいいでしょ」


 


 


「まあ、そうなんだけど……」


 


 


少しだけ照れたように視線を逸らす。


 


 


でも――


 


 


その口元は、少しだけ嬉しそうだった。


 


 


 


「透花は?」


 


 


今度は澪が振る。


 


 


 


透花は、一瞬だけ手を止めて。


 


 


それから、いつもの穏やかな笑顔で答えた。


 


 


「わたくしは……地元に戻ることになりますわ」


 


 


「……そっか」


 


 


澪が小さく頷く。


 


 


魔法少女協会の都合。


 


最初から分かっていたこと。


 


 


「でも」


 


 


透花はすぐに続ける。


 


 


「電車ですぐ来られますもの」


 


 


にこっと笑う。


 


 


「ですから、いつでもお会いできますわ」


 


 


その言葉は、軽くて。


 


でも、ちゃんとした“繋がり”を感じさせた。


 


 


「……そうね」


 


 


澪も笑う。


 


 


「じゃあ、あんまり寂しくないわね」


 


 


「はい」


 


 


透花が頷く。


 


 


「それに――」


 


 


少しだけ、間を置いて。


 


 


「まだ先のお話ですし」


 


 


 


その言い方で、場の空気が少しだけ柔らかくなる。


 


 


終わりじゃない。


 


ただ、少し形が変わるだけ。


 


 


そんな距離感。


 


 


 


「理久は?」


 


 


最後に、澪がこっちを見る。


 


 


「これからどうすんの?」


 


 


 


僕は少しだけ考えてから、答えた。


 


 


「次の研究対象、探す」


 


 


それだけ。


 


 


「……やっぱりそれなのね」


 


 


澪が呆れたように笑う。


 


 


「だって終わったし」


 


 


僕は肩をすくめる。


 


 


「次、何調べるか考えないと暇でしょ」


 


 


「普通は休むのよ……」


 


 


「休むのも暇でしょ」


 


 


価値観が違う。


 


 


 


でも。


 


 


「まあ、理久らしいわね」


 


 


結局、それで片付けられる。


 


 


 


こうして。


 


 


それぞれの“これから”が、なんとなく決まった。


 


 


大きな目標じゃなくていい。


 


 


ちゃんと、自分の足で進める方向。


 


 


 


それで十分だった。



――――――



気づけば、外は少し暗くなっていた。


 


窓の外、校庭の端に伸びる影が長い。


 


部室の中は、さっきまでの熱気が嘘みたいに落ち着いている。


 


 


「……さて、と」


 


澪が立ち上がる。


 


 


「そろそろ片付けましょ」


 


 


「えー、もう終わりかー」


 


 


太陽が名残惜しそうに言う。


 


 


「当たり前でしょ。いつまでやる気?」


 


 


「朝まで!」


 


 


「却下」


 


 


即答。


 


 


 


透花はすでに動き始めていた。


 


 


「お皿はこちらへ……」


 


 


手際よく紙皿をまとめていく。


 


 


「ゴミは分別しておきますわね」


 


 


「助かる」


 


 


僕はホットプレートの電源を落として、粗熱を確認する。


 


 


温度は問題なし。


 


 


フェーズストレージを展開して、そのまま収納。


 


 


「相変わらず便利ね、それ」


 


 


澪が感心したように言う。


 


 


「まあね」


 


 


 


太陽はというと――


 


 


「……食ったなあ」


 


 


床に座り込んで満足そうにしている。


 


 


「手、動かしなさい」


 


 


「はいはい!」


 


 


言いながらもちゃんと動くあたり、成長してるのかしてないのか微妙なライン。


 


 


 


数分。


 


 


軽い会話を挟みながら、片付けはあっという間に終わった。


 


 


来たときと同じ、いつもの部室。


 


 


何もなかったみたいに、元通り。


 


 


 


「……なんかさ」


 


 


太陽がぽつりと呟く。


 


 


「普通だな」


 


 


「何がよ」


 


 


「いや、だってさ」


 


 


太陽が部室を見回す。


 


 


「ついさっきまで世界救ってたやつらが、今ここで片付けしてるってさ」


 


 


「……まあ、そうね」


 


 


澪が苦笑する。


 


 


「ギャップすごいわよね」


 


 


 


透花も小さく頷く。


 


 


「ですが……わたくしは、この時間がとても好きですわ」


 


 


「……分かる」


 


 


澪が静かに言う。


 


 


「こういうのが、ちゃんと続くって思えるのが一番いい」


 


 


 


その言葉に、少しだけ静けさが落ちる。


 


 


でも、それは重い沈黙じゃない。


 


 


落ち着いた、安心できる静けさ。


 


 


 


「じゃ、帰るか」


 


 


太陽が立ち上がる。


 


 


自然な流れ。


 


 


誰も異論はない。


 


 


 


「鍵、閉めるわね」


 


 


澪が戸締まりを確認する。


 


 


電気を消して、ドアを閉める。


 


 


カチリ、と音がする。


 


 


 


廊下に出ると、夕方の空気がひんやりしていた。


 


 


窓の外は、もうほとんど夜。


 


 


 


「……なんかさ」


 


 


太陽が歩きながら言う。


 


 


「明日、普通に学校なんだよな」


 


 


「当たり前でしょ」


 


 


「なんか不思議じゃね?」


 


 


「ちょっとはね」


 


 


澪が肩をすくめる。


 


 


「でも、それがいいのよ」


 


 


 


透花も微笑む。


 


 


「ええ。日常、ですもの」


 


 


 


僕は特に何も言わず、前を歩く。


 


 


廊下を抜けて、校門を出る。


 


 


見慣れた道。


 


 


見慣れた景色。


 


 


 


戦いは終わった。


 


 


でも――


 


 


それで全部終わり、ってわけじゃない。


 


 


 


「じゃあな!」


 


 


太陽が手を振る。


 


 


「また明日な!」


 


 


 


「うん、また明日」


 


 


澪が自然に返す。


 


 


 


透花も軽く手を振る。


 


 


「お疲れさまでした。また明日、お会いしましょう」


 


 


 


僕も軽く手を上げる。


 


 


「ん、また明日」


 


 


 


それだけ。


 


 


特別な言葉も、約束もいらない。


 


 


 


“また明日”で、全部伝わる。


 


 


 


それが普通で。


 


 


それが続く。


 


 


 


――それで十分だった。

お読みいただきありがとうございました!


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