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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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68/73

第68話 理解したので終わりです

「……行くよ」


理久の一歩で、戦場の空気が“変わった”。


音が戻る。


距離が戻る。


上下が定まる。


それまで曖昧だったすべてが、急に“普通”になる。


「……え?」


澪が、息を呑む。


さっきまで、何をしても成立しなかった。


攻撃も、防御も、移動も。


すべてが意味を持たなかったはずなのに。


「……戻ってる?」


太陽が、周囲を見回す。


倒れていた仲間が、動ける。


崩れていた隊列が、形を取り戻している。


「……」


ゼル=フィアは、動かない。


ただ、理久を見ている。


その視線に、わずかな“違和”が混じる。


「……何をした」


低く、問う。


その問いに。


理久は、軽く肩をすくめた。


「大したことじゃないよ」


本当に、そう言う調子で。


「君がやってたの、真似しただけ」


その一言。


意味は、あまりにも重い。


「……」


ゼル=フィアの目が、細くなる。


理解できない。


だが、無視もできない。


その間に。


「……戻れ」


理久が、軽く手を上げる。


その仕草は、あまりにも簡単で。


あまりにも雑だった。


だが。


次の瞬間。


「――ッ!?」


澪の身体から、衝撃が抜けた。


痛みが、消える。


疲労が、消える。


「……え?」


自分の手を見る。


さっきまで震えていたはずの指が、止まっている。


「完全……回復……?」


「うおっ!?」


太陽が、飛び起きる。


「体が……軽い……!」


さっきまでのダメージ。


蓄積した疲労。


すべてが――


「なかったことに……?」


セレスティアが、信じられないというように呟く。


「……違う」


理久が、あっさり否定する。


「“なかったことにした”」


同じだが、違う。


結果としては同じ。


だが、その過程は――


「……」


ゼル=フィアの目が、明確に変わる。


「……それを」


低く。


「貴様が、やったのか」


確認。


信じられない、というより。


理解が追いつかない。


「うん」


理久は、軽く頷く。


「さっき見せてもらったし」


それだけ。


まるで。


簡単な手品でも真似したかのように。


「……」


沈黙。


ほんの一瞬。


だが、その間に。


「……全員、状態確認!」


澪が声を上げる。


「怪我、なし!」


「問題なし!」


「正常化を確認!」


次々に報告が上がる。


誰一人、欠けていない。


消耗すら、ほとんど残っていない。


「……嘘でしょ……」


澪が、小さく呟く。


さっきまで。


完全に押されていた。


敗北寸前だった。


それが――


「……戻った……?」


「違うよ」


理久が、軽く言う。


「“進めた”」


一度崩壊した状態から。


最適な状態へ。


強制的に。


「……」


イリスが、静かに理久を見る。


その目に、わずかな驚き。


だが、それ以上に。


「……変わったな」


短く、そう言った。


「そう?」


理久は、特に気にした様子もなく返す。


「別に」


だが。


明らかに。


違っていた。


「……」


ゼル=フィアが、一歩踏み出す。


その動きに、迷いはない。


だが。


「……理解できん」


ぽつりと、呟く。


それは。


この戦いにおいて、初めての言葉だった。


「理解できないものは、排除する」


そう言ってきた存在が。


「……」


“理解できない”と認めた。


その事実。


「……いいよ」


理久が、軽く手を振る。


「別に理解しなくて」


その言葉。


あまりにも軽く。


あまりにも傲慢。


「そのままでも」


一歩、踏み出す。


「十分、倒せるし」


完全回復した地球連合。


そして。


覚醒した理久。


戦場の主導権は――


完全に、入れ替わっていた。



「……なるほどね」


理久は、ゆっくりと息を吐いた。


目の前に広がる戦場。


さっきまで“理解できなかったもの”。


それが今は――


「全部、見える」


澪たちの位置。


ゼル=フィアの“干渉”。


空間の歪み。


魔力の流れ。


いや――


それよりもっと手前。


「……前提」


ぽつりと呟く。


その言葉の意味を、もう迷わない。


「そういうことか」


一人、納得するように頷いた。


「理久……?」


澪が、不安と期待の混ざった声で呼ぶ。


だが、理久はそれにすぐには答えない。


視線は、ずっとゼル=フィアに向いたまま。


「……さっきまでさ」


ぽつりと、話し始める。


独白のように。


「僕たち、何してたか分かる?」


「え……?」


澪が戸惑う。


「何って……戦って……」


「違う違う」


軽く手を振る。


「もっと手前の話」


一歩、前に出る。


「発魔器で魔力を作って」


その言葉に、太陽が反応する。


「お、おう……」


「それを貯めて、制御して」


さらに続ける。


「魔法って形に変換して」


澪が、息を呑む。


「それでようやく、“結果”を出す」


一連の流れ。


今まで当たり前だった工程。


「……うん」


澪が、小さく頷く。


それが“戦い”だった。


それが“魔法”だった。


「……遠いよね」


理久は、あっさりと言った。


「……え?」


「無駄が多い」


軽く言い切る。


「魔力を作る必要、ない」


「……は?」


太陽が間の抜けた声を出す。


「変換もいらない」


さらに続ける。


「魔法っていう“形式”も、別に必要ない」


「……ちょっと待って」


澪が思わず口を挟む。


「じゃあ……どうやって……」


その問いに。


理久は、少しだけ笑った。


「決めればいい」


それだけ。


「……」


一瞬、全員が沈黙する。


意味が分からない。


だが。


「こうなれ、って」


理久が、軽く手を上げる。


「そう“決める”」


その瞬間。


空気が、揺れた。


いや。


揺れたように“見えた”。


「――ッ!?」


澪が目を見開く。


何かが起きた。


だが、何が起きたのか分からない。


ただ。


「……軽い」


自分の身体。


さらに軽くなっている。


負担が、消えている。


「……今、何したの?」


「何もしてないよ」


理久は、あっさり答える。


「ただ、“そうなる”ようにしただけ」


魔力も。


詠唱も。


術式も。


何も使っていない。


「……」


ゼル=フィアが、無言でそれを見ている。


その視線に、初めて“警戒”が混じる。


「……同じだろ?」


理久が、軽く首をかしげる。


「君もやってること」


同じ領域。


同じ手段。


だが。


「……」


ゼル=フィアは、答えない。


その沈黙が、すべてを物語っていた。


「……今までさ」


理久が、少しだけ視線を上げる。


「遠回りしてたんだね」


発魔器。


魔力供給。


術式構築。


すべて。


「全部、必要なかった」


その言葉。


それは、これまで積み上げてきたものを否定するもの。


だが。


「無駄じゃないよ」


すぐに付け加える。


「ここに来るまでに必要だっただけ」


そこを経由したからこそ、今がある。


「……」


一歩、また一歩と前に出る。


ゼル=フィアへ向かって。


「で、ここからは」


軽く肩を回す。


「ショートカットでいいよね」


その言葉に。


戦場の空気が、完全に変わった。


魔法を使う者ではない。


魔力を操る者でもない。


「……」


“結果を直接出力する者”。


それが今の理久だった。



「で――次」


理久が、軽く視線を落とした。


足元。


戦場の端。


そこに、黒い影が一つ。


「……アルゴ」


低く呼ぶ。


呼応するように、その影が揺れた。


フェーズを跨ぐ猟犬――アルゴ。


理久が最初に改造し、使い続けてきた“相棒”。


「……」


アルゴが、ゆっくりと姿を現す。


今まで通りの形。


だが、その存在もまた――


「……縛られてるね」


理久が、小さく呟く。


「仕様に」


ヴォイドとしての構造。


フェーズ移動。


物理と非物理の中間。


そのすべてが、ある“定義”に従っている。


「……まあ、当たり前か」


軽く肩をすくめる。


「今までは、それで十分だったし」


だが。


「今は違う」


視線を、ゼル=フィアへ向ける。


「こいつとやり合うなら――」


一歩、アルゴに近づく。


「そのままじゃ足りない」


そして。


しゃがみ込む。


アルゴの頭に、手を置く。


「……いい?」


小さく、問いかける。


アルゴは答えない。


だが。


尻尾が、わずかに揺れた。


それだけで十分だった。


「じゃあ、やるね」


軽く、言う。


その口調は、いつも通り。


だが。


その中身は、まったく違う。


「……まず」


理久の目が、細くなる。


アルゴを“見る”。


だが、それは表面ではない。


構造。


定義。


存在の前提。


「……ここか」


何かを見つけたように呟く。


「“フェーズ移動”」


空間と非空間の境界を跨ぐ能力。


だが。


「制限がある」


今までは、それを“特性”として扱っていた。


だが今は。


「いらないね」


あっさりと切り捨てる。


その瞬間。


「――ッ」


アルゴの輪郭が、ぶれた。


揺れる。


歪む。


再構築される。


「……!」


澪が、息を呑む。


「何……してるの……?」


理解できない。


ただ、何かが変わっているのは分かる。


「……次」


理久は止まらない。


「再生干渉」


さっき使った、対ルク用の機能。


「これも……浅い」


もっと深く。


もっと直接的に。


「“干渉”じゃなくて」


言葉を選ぶ。


そして。


「“無効化”でいい」


その一言で。


アルゴの内部構造が、塗り替わる。


干渉するのではない。


再生という概念そのものを――


「成立させない」


「……」


ゼル=フィアが、静かにそれを見ている。


その目に。


明確な変化。


警戒。


「……何をしている」


低く問う。


その声には、わずかな重み。


「ん?」


理久が、顔を上げる。


「改造」


あっさりと答える。


「……」


ゼル=フィアが、沈黙する。


理解が追いつかない。


だが。


無視はできない。


「……あと」


理久が、再びアルゴに視線を戻す。


「思考速度」


これも、制限がある。


生物としての限界。


構造としての限界。


「いらない」


また、同じ言葉。


その瞬間。


アルゴの目が、光る。


知性が、変わる。


いや。


「……追いついた」


理久と同じ領域に。


「……いいね」


小さく笑う。


「これで――」


立ち上がる。


アルゴも、同時に立つ。


その姿は、もう“猟犬”ではなかった。


形は同じ。


だが。


中身が、違う。


完全に。


「……完成」


理久が、軽く手を叩く。


「行ってきて」


その一言。


命令ですらない。


ただの指示。


だが。


「――」


アルゴは、迷わない。


次の瞬間。


“消えた”。


移動ではない。


存在の位置が、意味を失う。


そして――


「……ッ!」


ゼル=フィアの目前に、“現れた”。


「……」


戦場が、静止する。


誰もが、その光景を見ている。


理解できない。


だが。


「……始まるね」


理久が、静かに呟く。


その声には。


確かな確信があった。


――次は、蹂躙だ。



「――」


アルゴは、そこに“在った”。


現れたのではない。


最初からそこに存在していたかのように、ゼル=フィアの目前に。


距離も、移動も、過程も。


意味を持たない位置。


「……」


ゼル=フィアの視線が、アルゴへ向く。


わずかな間。


その一瞬で、すべては決まっている。


アルゴは、何も考えない。


迷いも、躊躇も、選択もない。


ただ一つの基準だけが存在する。


――理久。


その意思。


その望み。


それが、絶対。


そして。


「……目障り」


理久が、そう認識した。


それだけで。


ゼル=フィアという存在の価値は、ゼロになる。


排除対象。


ただ、それだけの存在。


アルゴの内部で、“理解”が完了する。


対象:ゼル=フィア。


構造:把握済み。


前提:理久と同一層にて認識。


ならば。


手段は一つ。


“触れる”。


現象ではなく。


結果でもなく。


その前提へ。


「――ッ!」


ゼル=フィアが、動く。


回避。


防御。


干渉。


すべてを同時に行う。


だが。


アルゴは、それを“前提として成立させない”。


次の瞬間。


ゼル=フィアの腕が、消えた。


斬撃はない。


衝撃もない。


ただ。


“存在しない”。


最初からなかったかのように。


「……ッ!?」


澪が、息を呑む。


「今の……」


理解はできない。


だが、結果だけは明確だった。


「……通ってる……」


完全に。


ゼル=フィアが、自身の腕を見る。


そこにあるはずのものが、ない。


「……あり得ん」


初めての否定。


だが。


その思考が完結するよりも早く。


アルゴは次へ進む。


ゼル=フィアが、干渉を行う。


再生。


巻き戻し。


これまでと同じ手段。


だが。


成立しない。


その“再生”という概念が、発動条件を満たさない。


なぜなら。


“許可されていない”から。


理久の定義において。


それは不要な処理だから。


「……!」


ゼル=フィアの表情が、明確に歪む。


動揺。


理解不能。


それでも。


アルゴは止まらない。


理由がない。


次の瞬間。


脚部が消える。


支えが消失する。


だが、倒れない。


その必要がないから。


「……」


ゼル=フィアが浮いたまま、わずかに後退しようとする。


だが。


“位置”が固定されている。


逃げ場はない。


アルゴは、ただ処理を続ける。


理久の敵。


排除対象。


それを、最短で消去する。


そのための最適解を、実行し続ける。


戦場は、完全に静止していた。


誰も動かない。


動けない。


ただ、見ている。


一方的な破壊。


いや。


それですらない。


“削除”。


「……」


理久は、視線をわずかに上げる。


興味は、もうない。


観察は終わっている。


理解も終わっている。


「……いいよ」


小さく、呟く。


それだけで。


アルゴにとっては、十分すぎる指示。


それ以上は、必要ない。


伝達も不要。


最初から共有されている。


ゼル=フィアという存在は。


もはや、脅威ではない。


ただの。


「……邪魔なもの」


その認識。


その優先度。


それが、この場のすべてを決める。


そして。


アルゴは、処理を完遂するために動き続ける。



「……なぜだ」


ゼル=フィアの声が、低く響く。


腕も、脚も、削られ。


それでもなお“存在”だけは保っている状態。


その不安定な輪郭のまま、理久を見据える。


「……同じはずだ」


言葉を絞り出す。


「同じ力だ……!」


現象ではなく、前提へ干渉する力。


世界の定義そのものに触れる能力。


「……なぜ」


声に、明確な困惑が混じる。


「なぜ、こうも差が出る」


それは問いというより。


理解できないことへの、拒絶。


「……」


理久は、それを聞いて。


少しだけ首を傾げた。


「同じ?」


軽く、繰り返す。


「いや、全然違うよ」


あっさりと否定する。


まるで、当たり前のことを言うように。


「君がやってたのはさ」


一歩、近づく。


「“結果の調整”」


軽く手を動かす。


空間が、わずかに歪む。


だがそれは、今の理久にとっては“副次的な現象”でしかない。


「発生したものを、消したり戻したり」


「位置を変えたり」


「成立しなかったことにしたり」


一つずつ、挙げていく。


「確かに強いよ」


素直に認める。


「普通なら、対処不能だし」


だが。


「……浅い」


その一言で、切り捨てた。


「……ッ!」


ゼル=フィアの表情が歪む。


怒りではない。


否定されたことへの、理解不能。


「だってさ」


理久は、軽く笑う。


「それ、“後処理”じゃん」


核心。


その言葉に。


ゼル=フィアの思考が、一瞬止まる。


「……後、処理……?」


「そう」


理久は頷く。


「起きたことに対して、後から手を入れてるだけ」


「だから遅いし」


「無駄も多い」


軽い口調。


だが、その内容は致命的だった。


「……」


ゼル=フィアが、何かを言いかける。


だが、言葉にならない。


「僕は違う」


理久が、続ける。


「そもそも“起き方”を決めてる」


その一言。


それが、すべての差。


「結果をいじるんじゃない」


「結果がどうなるかを、先に決める」


「だから――」


一歩、さらに近づく。


ゼル=フィアの目前へ。


「速いし、正確だし」


「無駄がない」


「……」


沈黙。


ゼル=フィアは、もう理解し始めている。


差を。


決定的な違いを。


「……そんな、ことが」


かすれた声。


否定したい。


だが、否定できない。


目の前で起きている。


それがすべて。


「うん、できるよ」


理久は、あっさりと言う。


「だって――」


軽く肩をすくめる。


「ルール書き換えてるだけだし」


その一言。


あまりにも軽い。


だが、その意味は重い。


「……ッ」


ゼル=フィアの目が、見開かれる。


自分が触れていたはずの領域。


そのさらに上。


「……前提に干渉できる」


理久が、静かに言う。


「この世界のルールそのものに」


そして。


「それを理解して使ってる僕と」


わずかに、笑う。


「なんとなく触ってる君じゃ」


その差は。


「そりゃ、こうなるよね」


軽く、言い切る。


その口調。


あまりにも自然で。


あまりにも残酷。


「……思考が浅くて、遅い」


一歩、下がる。


「この力の使い手としては――」


ほんの一瞬、間を置いて。


「下も下じゃん」


見下ろすように。


軽く。


本当に軽く。


そう言った。


「……」


ゼル=フィアは、何も言えなかった。


理解してしまったから。


自分が、どれだけ“未熟”だったのか。


同じ領域に触れているはずなのに。


まるで、別物だったという事実を。


戦場は、静まり返っていた。


誰も、口を挟めない。


ただ一人。


理久だけが、いつも通りの調子で立っている。


その姿は。


もはや。


「……上にいる」


誰かが、小さく呟いた。


それは、誰にも聞こえないほど小さかったが。


確かな事実だった。



「……違う……」


ゼル=フィアの声が、歪む。


「違う……違う違う違う……!」


輪郭が、揺らぐ。


削られたままの存在が、不安定に震える。


「……そんなはずはない……!」


理解してしまった。


だが、認められない。


その矛盾が、存在そのものを軋ませる。


「私は……!」


声が、荒れる。


「私は、頂点だ……!」


その瞬間。


空間が、再び歪む。


無理やりに。


壊れかけた構造を、強引に引き上げるように。


「――ッ!」


澪が息を呑む。


「まだ……!」


終わっていない。


終わらせようとしている。


自分の存在ごと。


「……やめろ」


理久が、ぽつりと呟いた。


その声は、小さい。


だが。


確実に、届く。


「……見苦しいよ」


その一言で。


すべてが止まった。


「……」


ゼル=フィアの動きが、止まる。


空間の歪みも、消える。


無理に引き上げていた構造が、崩れる。


「……」


静寂。


完全な。


「……終わり」


理久が、静かに言った。


それは宣言でも、命令でもない。


ただの、確定。


「――」


アルゴが、動く。


一切の迷いなく。


余計な演出もない。


一瞬で。


ゼル=フィアの“中心”に触れる。


そして――


消えた。


爆発も、衝撃もない。


音すらない。


ただ。


「……」


そこにあったはずの存在が。


完全に、消失した。


最初から、いなかったかのように。


静寂が、残る。


誰も、すぐには動けない。


理解が、追いつかない。


「……終わった……?」


澪が、小さく呟く。


その声は、震えている。


恐怖ではない。


解放の震え。


「終わり」


理久が、短く答える。


振り返りもしない。


確認する必要がないから。


「完全に消した」


その言葉に。


ようやく。


実感が、追いつく。


「……はは……」


太陽が、その場に座り込む。


「マジで……勝ったのか……」


「……ええ」


セレスティアが、静かに頷く。


「完全に……」


雷華も、短く言う。


「反応、なし」


ヴァルキリアは、何も言わない。


ただ、静かに力を抜いた。


「……」


イリスが、目を閉じる。


わずかな沈黙。


そして。


「……終わったな」


低く、呟いた。


その声には、重みがあった。


空間が、変わり始める。


黒が、薄れる。


歪みが、ほどける。


押し付けられていた何かが、消えていく。


「……軽い……」


澪が、空を見上げる。


今まで感じていた圧が、ない。


「……これ……」


太陽が、周囲を見回す。


「虚界……崩れてんのか?」


「支配が消えた」


理久が、簡単に言う。


「維持してたやつがいなくなったから」


それだけ。


それだけで。


この世界は、変わる。


遠くで。


光が差す。


あり得ないはずの現象。


だが。


今は、当たり前のようにそこにある。


「……帰れるね」


澪が、小さく言う。


その声に。


誰もが、頷く。


理久は、少しだけ振り返った。


戦場だった場所。


もう、何も残っていない。


「……」


特に感慨はない。


やることをやっただけ。


ただ、それだけ。


「行こう」


軽く言う。


それだけで、全員が動く。


虚界の奥で。


ネメシスの支配は、完全に消えた。


四天王は倒れ。


首魁は消え。


侵略の意志は、断たれた。


そして。


地球を脅かしていた戦いは――


静かに、終わりを迎えた。

お読みいただきありがとうございました!


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