表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/73

第67話 未知の先へ

「全体、同時圧力――今!」


理久の指示が走る。


澪の光弾が三層に分かれて射出される。


雷華の雷が面で広がり、逃げ場を削る。


セレスティアが空間を閉じ、ヴァルキリアが重力で軸を固定する。


そして――


「行く!」


イリスが踏み込む。


無駄のない最短軌道。


斬撃が、一直線にゼル=フィアへと届く。


完璧な連携。


逃げ場はない。


重ねた。


封じた。


通る――はずだった。


「――」


ゼル=フィアは、動かなかった。


ただ、そこにいる。


それだけで。


「――消えろ」


一言。


それだけ。


次の瞬間。


「……え?」


澪の光弾が、消えた。


消された、ではない。


「発射……してない……?」


違う。


撃った。


確かに。


だが。


“撃っていないことになっている”。


「……ッ!」


雷華の雷も、同じように消える。


展開したはずの面が、最初から存在しなかったかのように。


「空間固定、維持――」


セレスティアが叫ぶ。


だが。


「無意味だ」


ゼル=フィアの視線が、わずかに動く。


それだけで。


「――ッ!」


空間が、ほどけた。


固定されていたはずの構造が、根本から崩壊する。


「嘘でしょ……!」


澪が声を上げる。


「理屈が……!」


通じない。


対抗策として組み上げたすべてが、意味を持たない。


「……まだだ」


理久の声が、思考共有に流れる。


冷静。


だが、速い。


「別パターン、切り替え」


「了解!」


即座に動く。


形を変える。


攻撃の“発生源”を分散。


一点ではなく、多層で。


「――ッ!」


だが。


「遅い」


ゼル=フィアが、指を鳴らす。


その瞬間。


「――ッ!?」


全員の位置が、ずれた。


「なに……!」


前にいたはずの仲間が、後ろにいる。


左右が入れ替わる。


距離感が崩壊する。


「座標……書き換えられてる……!」


セレスティアが、かすれた声で言う。


「こんなの……!」


対応不能。


「――ッ!」


イリスが踏み込む。


迷いなく。


唯一、迷いがない動き。


距離も、位置も関係ない。


“当てる”ための最短。


「……」


その一撃は、確かに届いた。


ゼル=フィアの“位置”に。


だが。


「……」


そこに、いなかった。


「……ッ!」


イリスの目が、わずかに細まる。


感触は、あった。


だが。


対象が、いない。


「そこか」


背後。


ゼル=フィアが、立っている。


移動ではない。


“そうなっている”。


「――ッ!」


反射で振り向く。


だが。


「遅い」


軽く、手が動く。


それだけで。


「ぐっ……!」


イリスの身体が、吹き飛んだ。


直撃ではない。


触れてすらいない。


それでも。


空間ごと弾かれたように。


「イリス!」


澪が叫ぶ。


だが。


「よそ見」


ゼル=フィアの声。


次の瞬間。


「――ッ!!」


圧。


全方位からの圧縮。


「くっ……!」


澪が、膝をつく。


動けない。


押し潰される。


「……重力じゃない」


理久が呟く。


「“存在圧”」


存在そのものが、押し込まれている。


だから。


「耐えろ!」


指示を飛ばす。


だが。


「……限界……!」


太陽が歯を食いしばる。


身体が軋む。


骨が鳴る。


「……ッ!」


ヴァルキリアが踏み込む。


重力で対抗。


だが。


「無駄だ」


ゼル=フィアの一言。


それだけで。


ヴァルキリアの重力が、消えた。


「……!」


制御が、途切れる。


いや。


最初から“なかったことにされた”。


「……」


戦場が、崩壊していく。


連携が成立しない。


攻撃が成立しない。


防御が成立しない。


「……こんなの……」


澪が、息を荒げる。


「どうやって……」


答えは、ない。


「……」


理久は、黙って見ていた。


目の前の光景を。


ゼル=フィアという存在を。


「……」


理解が、追いつかない。


いや――


「……追いつけない」


それを、初めて認識する。


その間にも。


「――ッ!」


再び、衝撃。


誰かが弾き飛ばされる。


誰かが地面に叩きつけられる。


「……ぐっ」


イリスが、立ち上がる。


だが、動きが鈍い。


確実に、削られている。


「……まだだ」


それでも、前に出る。


だが。


「無駄だ」


ゼル=フィアが、繰り返す。


その言葉通りに。


すべてが、意味を失う。


「……」


戦場は、完全に支配されていた。


ゼル=フィア一人に。


何も通らない。


何も届かない。


何も残らない。


「……」


理久は、ただ見ていた。


その光景を。


そして――


“初めて”思った。


(……分からない)


完全な未知。


理解不能。


その事実が。


静かに、思考の奥へと沈んでいく。


「……分からない」


その事実を、理久ははっきりと認識した。


今までにない感覚だった。


目の前で起きている現象。


攻撃が“なかったことになる”。


距離が“意味を失う”。


存在そのものが“押し潰される”。


どれも観測できている。


だが。


「……繋がらない」


理屈が、結びつかない。


モデルが構築できない。


「――ッ!」


背後で衝撃。


澪が吹き飛ばされる。


「くっ……!」


イリスが踏み込み、援護に入る。


だが。


「無駄だ」


ゼル=フィアの声。


すべてが、断ち切られる。


戦場は崩壊している。


それでも。


「……」


理久は、動かなかった。


いや。


“動けない”のではない。


「……面白い」


小さく、呟いた。


その口元が、わずかに歪む。


笑っている。


「はは……」


息が漏れる。


抑えきれないように。


「そう来るんだ……」


視線は、ゼル=フィアに固定されたまま。


その目は、完全に“別のもの”を見ている。


敵ではない。


脅威でもない。


「……未知だ」


その言葉に、熱が宿る。


「完全に」


今までの敵は、強かった。


だが、理解できた。


構造があった。


理屈があった。


だから。


(追いつけば、勝てる)


無意識に、そう思っていた。


だが――


「違う」


目の前の存在は。


「最初から、理解の外にいる」


その事実。


それを。


「……最高だ」


理久は、笑った。


はっきりと。


「理久!?」


澪の声が飛ぶ。


だが、届いていない。


理久の意識は、完全に別の場所にあった。


「……どうやってる?」


独り言のように、呟く。


「干渉? 違うな」


頭の中で、仮説が立ち、崩れる。


「上書き? いや、それも浅い」


否定。


即座に。


「そもそも“前提”が違う……?」


その瞬間。


また一つ、可能性が浮かぶ。


「……ルール層か?」


だが、すぐに首を振る。


「それでも足りない」


もっと深い。


もっと根本的な。


「……なんだこれ」


口元が、さらに歪む。


笑いが止まらない。


「こんなの、初めて見た」


心拍が上がる。


思考が加速する。


外の戦闘音が、遠くなる。


「……いいね」


その声には、明確な喜びがあった。


恐怖ではない。


絶望でもない。


「楽しい」


ただ、それだけ。


「――ッ!」


また一人、吹き飛ぶ。


「理久! 指示を――!」


誰かが叫ぶ。


だが。


「ちょっと待って」


軽く手を上げる。


まるで、会話を中断するかのように。


「今、いいとこ」


その言葉に。


戦場との乖離が、はっきりと現れる。


「……」


理久の目が、細くなる。


ゼル=フィアを、見ている。


だが、見ているのは“存在”ではない。


その奥。


構造。


法則。


「……分かるかもしれない」


ぽつりと、呟く。


根拠はない。


だが。


「……いや」


すぐに、言い直す。


「分かる」


確信に近い何か。


まだ形になっていない。


それでも。


「絶対、解ける」


その言葉は、狂気じみていた。


戦況は、最悪。


味方は押され続けている。


敗北が、目前にある。


それなのに。


「……面白すぎる」


理久は、笑っていた。


完全な未知。


理解不能。


その中心に立って。


歓喜している。


――それが、天原理久という存在だった。



戦場は、崩れ続けている。


「――ッ!」


澪が再び弾き飛ばされる。


受け身を取る暇すらない。


空間そのものに叩きつけられるような衝撃。


「くっ……!」


イリスが前に出る。


最短。


最速。


迷いのない一撃。


だが。


「無意味だ」


ゼル=フィアの声。


その瞬間。


「……ッ!」


イリスの斬撃が、“届かなかったことになる”。


触れていたはずの感触が、消える。


「……」


わずかに、動きが止まる。


だが、すぐに立て直す。


それでも。


押されている。


確実に。


「理久……!」


澪が叫ぶ。


「何か……!」


だが、その声は届かない。


届いていても、届いていない。


理久の意識は――


別の層にあった。


(……違う)


思考が、流れる。


今までとは違う速度で。


違う形で。


(干渉じゃない)


仮説を立てる。


即座に、捨てる。


(上書きでもない)


否定。


早い。


速すぎる。


(“結果”を触ってる?)


違う。


それも浅い。


「……もっと前だ」


言葉が、漏れる。


誰に聞かせるでもなく。


(過程じゃない。結果でもない)


その“間”でもない。


(……定義)


その単語が、浮かぶ。


そして。


消えない。


(定義……?)


今まで使ってきた概念。


魔力。


空間。


座標。


それらを支える“前提”。


(……触ってる)


そこに。


ゼル=フィアは、触れている。


「――ッ!!」


現実が、割り込む。


太陽が吹き飛ぶ。


「ぐあっ!」


地面に叩きつけられる。


立ち上がるが、足元が揺れる。


「……くそっ!」


その間にも。


「消えろ」


ゼル=フィアの一言。


澪の光弾が、発生しない。


「……っ!」


「こんなの……!」


理解できない。


対抗できない。


戦術が成立しない。


だが。


理久の中では、別のことが起きていた。


(……なら)


思考が、形を変える。


今までの延長ではない。


枠組みそのものを、外す。


(“観測”が先じゃない)


今までは。


現象を見て、理解して、対応していた。


だが。


(逆だ)


先に、“定義”がある。


だから、現象がある。


(……なら)


そこを、見ればいい。


「……」


理久の視界が、わずかに歪む。


実際に歪んでいるわけではない。


“見え方”が変わる。


澪の位置。


太陽の動き。


イリスの軌道。


それらの背後に。


薄く。


何かが、重なる。


(……なんだこれ)


線のようなもの。


いや、違う。


もっと抽象的な。


“繋がり”。


(……見えてる?)


いや。


正確には。


(“見ようとしてる”)


その瞬間。


わずかに。


本当にわずかに。


ゼル=フィアの動きが、“遅れて見えた”。


「……?」


理久の目が、細まる。


錯覚か。


そう思う。


だが。


(……今の)


もう一度、観る。


ゼル=フィアが、手を動かす。


その前に。


“何か”が動いた。


(……先にある)


現象の前に。


“予兆”のようなものが。


「理久!」


澪の声。


「危ない!」


その瞬間。


ゼル=フィアの視線が、理久に向く。


「……」


手が、動く。


いつものように。


それだけで、終わるはずだった。


だが。


「――右」


理久が、呟く。


無意識に。


自分でも、考える前に。


身体が、動く。


半歩。


ほんのわずか。


その結果。


「……?」


ゼル=フィアの干渉が、空振る。


初めて。


「……」


ゼル=フィアの目が、わずかに動く。


「今……避けた?」


澪が、呆然と呟く。


偶然か。


違う。


「……」


理久自身も、理解していない。


ただ。


(……見えた)


確信だけが、残る。


(今の、見えた)


思考が、さらに加速する。


今までとは違う。


無理に考えているわけではない。


自然に。


勝手に。


(……いける)


根拠はない。


だが。


(これ、いける)


理解に、手が届き始めている。


その感覚。


「……はは」


小さく、笑いが漏れる。


戦場は、まだ崩壊している。


仲間は押されている。


状況は最悪。


それでも。


「……面白い」


理久は、笑っていた。


そして。


その内側で。


何かが、確実に変わり始めていた。



戦場は、崩れていた。


「――ッ!」


澪が膝をつく。


呼吸が荒い。


回復は間に合っていない。


「くっ……!」


太陽が踏み込もうとして、弾き飛ばされる。


「ぐあっ!」


イリスが立ち上がる。


だが、その動きは確実に鈍っている。


「……まだだ」


短く、呟く。


それでも前に出る。


だが。


「無意味だ」


ゼル=フィアの一言。


それだけで。


イリスの斬撃が、“成立しない”。


「……」


誰も、通せない。


何も、届かない。


「……」


セレスティアの空間制御も、雷華の攻撃も。


すべてが、同じように消えていく。


戦術は、完全に崩壊していた。


「……っ」


澪が、顔を上げる。


視界の端で。


仲間が倒れる。


また一人。


また一人。


「……これ……」


声が震える。


「もう……」


終わり。


その言葉が、喉まで出かかる。


「……」


ゼル=フィアは、ただ立っていた。


動く必要すらない。


「……」


静かに。


確実に。


全員を、削っていく。


「……終わりだ」


その声に。


否定する者はいなかった。


できなかった。


それほどまでに。


差は、絶望的だった。


その中で。


「……」


一人だけ。


違う反応をしている者がいた。


「……はは」


理久が、笑っていた。


小さく。


だが、はっきりと。


「理久……?」


澪が、信じられないものを見るように呟く。


だが。


理久は、戦場を見ていなかった。


いや。


見ているものが、違う。


「……なるほど」


小さく、呟く。


その目は。


ゼル=フィアの“奥”を見ている。


「そういうことか」


すべてが、繋がる。


断片が、結びつく。


「……分かった」


その一言。


それは、今までのどんな分析とも違った。


確信。


完全な。


「……え?」


澪が、息を呑む。


だが。


理久は、止まらない。


「違うんだ」


ぽつりと、言う。


「魔力でも、空間でもない」


今までの仮説を、すべて否定する。


「……もっと手前」


そして。


「“決めてる”」


その言葉。


それが、核心。


「現象じゃない」


「結果でもない」


「過程でもない」


一つずつ、切り捨てる。


そして。


「“前提”だ」


その瞬間。


思考が、完成した。


「……ああ」


深く、息を吐く。


「そうか」


すべてが、理解できた。


「理久……?」


澪が、かすれた声で呼ぶ。


だが。


その声に、理久は答えない。


代わりに。


「……面白いな」


はっきりと、笑った。


「こんなやり方、あるんだ」


純粋な感心。


そして。


「じゃあ」


一歩、踏み出す。


戦場の中心へ。


「使える」


その言葉。


ゼル=フィアの目が、わずかに動く。


初めて。


明確に。


理久を“脅威”として認識した。


「……」


無言の圧。


だが。


理久は、止まらない。


「……ありがとう」


ぽつりと、呟く。


誰に向けてでもない。


「いいもの見せてもらった」


そして。


顔を上げる。


ゼル=フィアを、まっすぐに見据える。


「もういいよ」


軽く、手を振る。


「理解したから」


その一言で。


空気が、変わる。


絶望だったはずの戦場に。


まったく別の何かが、入り込む。


「……」


ゼル=フィアが、初めて沈黙する。


その沈黙が、何よりの証明だった。


「……行くよ」


理久が、静かに言う。


その声は。


今までと同じで。


今までと、まったく違った。


――覚醒は、完了した。

お読みいただきありがとうございました!


この作品を

「面白い!」

「続きが気になる!」


と思っていただけましたら、

★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


皆さまの応援が更新の大きな力になります。


今後ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ