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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第66話 ゼル=フィア

虚界の奥へ進むほどに、“色”が消えていった。


紫も、黒も、歪みも。


すべてが、どこかに吸い取られるように――均質化していく。


「……変ね」


澪が、小さく呟く。


「さっきまでと、空気が違う……」


その感覚は、正しい。


「魔力の“流れ”がない」


理久が淡々と答える。


「ここだけ、止まってる」


風もない。


揺らぎもない。


虚界特有の“歪み”すら存在しない。


代わりにあるのは――


「……静かすぎる」


太陽が、落ち着かない様子で周囲を見回す。


「気味悪ぃ……」


足音が、妙に響く。


反響しているのに、どこにも届いていないような感覚。


空間そのものが、閉じている。


「……見えてきたわ」


セレスティアが、前方を指す。


そこにあったのは――


城。


だが、それを“城”と呼ぶには、あまりにも異質だった。


壁はある。


塔もある。


形としては、確かに“建造物”。


だが。


「……何あれ……」


澪が、言葉を失う。


黒い。


ただ黒いだけではない。


光を反射しない。


吸い込む。


輪郭が曖昧で、見ていると“形が揺らぐ”。


石でも、金属でもない。


何か“別のもの”で構成されている。


「……構造が安定してない」


理久が、興味深そうに目を細める。


「でも崩れない。むしろ固定されてる」


矛盾。


それが、そのまま存在している。


「……これが、首魁の居城……」


鬼塚が低く呟く。


周囲には、守備兵はいない。


ヴォイドも、ネメシスも。


「……罠か?」


太陽が身構える。


だが。


「違う」


理久が首を振る。


「“必要ない”だけ」


その一言で、全員が理解する。


守る必要がない。


誰も、ここまで来られないから。


「……舐められてるってこと?」


澪が眉をひそめる。


「そうだね」


理久はあっさり肯定した。


「実際、ここまでは来れなかったはずだし」


だが。


「来ちゃった」


軽く肩をすくめる。


「なら、行くしかない」


そのまま、一歩踏み出す。


誰も止めない。


止める理由がない。


「……行くわよ」


澪が続く。


その後ろに、太陽、透花、そして他の主力たち。


誰一人、躊躇しない。


扉は、なかった。


入り口らしきものも。


ただ、壁があるだけ。


「……?」


太陽が首をかしげる。


「どうやって入るんだこれ」


その瞬間。


「――歓迎しよう」


声が、響いた。


どこからともなく。


全方向から。


「――ッ!」


全員が身構える。


だが、敵影はない。


「招かれている」


理久が、静かに言う。


次の瞬間。


目の前の“壁”が、溶けた。


黒い表面が、液体のように波打ち、開く。


内部が、露出する。


「……行けってことね」


澪が息を整える。


「そういうこと」


理久は迷わない。


そのまま、足を踏み入れる。


一歩。


中へ。


その瞬間。


世界が、切り替わった。


「……っ」


澪が、息を呑む。


内部は、外と同じく黒。


だが、違う。


広い。


果てが見えない。


天井も、床も、壁も。


存在しているはずなのに、距離感が狂う。


「空間が……おかしい……」


セレスティアが低く言う。


「折りたたまれている……?」


「それ以上だね」


理久が淡々と観察する。


「定義が違う」


距離。


方向。


重力。


すべてが、曖昧。


それなのに、立てている。


歩けている。


「……気持ち悪ぃ……」


太陽が顔をしかめる。


「酔いそうだ……」


「大丈夫ですわ」


透花がそっと声をかける。


「わたくしがいますので」


その一言で、わずかに緊張が和らぐ。


だが。


「……いるね」


理久が、前を見据える。


その視線の先。


空間の中心。


そこに――


“玉座”のようなものがあった。


そして。


「……」


そこに、座る影。


動かない。


だが。


「……っ」


全員が、同時に息を呑む。


まだ、何もしていない。


ただ、そこにいるだけ。


それだけで――


空気が、重くなる。


「……行こう」


理久が、一歩踏み出す。


その声は、いつも通り。


変わらない。


だが。


その背中を追う全員が、理解していた。


ここから先は――


今までとは、違う。


――最終決戦が、始まる。



一歩、また一歩。


誰もが無言のまま、進んでいく。


距離は分からない。


近づいているのか、それとも同じ場所を歩いているだけなのか。


それすら曖昧な空間。


だが――


「……近い」


理久が、静かに言った。


その一言で、全員の神経が張り詰める。


目の前。


黒の中心。


そこにある“玉座”。


その輪郭が、ゆっくりと明確になっていく。


「……」


澪が、思わず息を止める。


理由は分からない。


ただ、本能が告げている。


“あれに近づくな”と。


だが。


足は止まらない。


止められない。


引き寄せられているように。


「……これ……」


太陽の声が、かすれる。


いつもの軽口はない。


ただ、圧倒されている。


それだけが伝わる。


そして。


「……」


視界が、定まった。


玉座。


その上に――


“それ”は、座っていた。


人の形。


それは間違いない。


だが。


「……何あれ……」


澪の声が、震える。


黒い。


ただ黒いだけではない。


光を吸い込む、底の見えない黒。


輪郭が、定まらない。


見ているはずなのに、視認が安定しない。


視線を外した瞬間に、形が変わっている気がする。


「……」


顔が、ある。


はずなのに。


表情が、読み取れない。


いや――


“表情”という概念が、そこに存在していない。


ただ。


「……っ」


目。


それだけは、はっきりと分かった。


見ている。


こちらを。


「……」


その視線と、合った瞬間。


空気が、変わった。


重い。


今までのどんな魔力とも違う。


圧力ではない。


威圧でもない。


もっと根本的な――


「……存在が、違う……」


セレスティアが、かすかに呟く。


その声は、いつもの余裕を失っていた。


「……」


雷華も、言葉を発さない。


ただ、静かに構える。


だが、その動きに、わずかな“慎重さ”が混じっている。


ヴァルキリアですら、無言。


視線を逸らさず、だが一歩も踏み込まない。


「……」


鬼塚が、歯を食いしばる。


冷や汗が、頬を伝う。


「……なんだよ、これ……」


太陽が、小さく呟く。


その声に、いつもの勢いはない。


「四天王より……」


言葉を切る。


比較にならない。


そんな感覚が、全員の中にあった。


「……ああ」


理久が、短く答える。


視線を外さない。


むしろ、興味深そうに観察している。


「別物だね」


その一言。


それが、最も正確な評価だった。


強い、という言葉では足りない。


格が違う。


「……」


玉座の存在――ゼル=フィアは、動かない。


ただ、座っている。


それだけ。


それなのに。


「……っ」


澪の呼吸が、わずかに乱れる。


心臓が、嫌な音を立てる。


近づくだけで、削られていくような感覚。


「……理久」


小さく呼ぶ。


無意識に。


「何」


いつも通りの返答。


それだけで、少しだけ落ち着く。


「……あれ、本当に……」


言葉を選ぶ。


だが、結論は一つ。


「今までの敵と、同じなの……?」


その問いに。


理久は、ほんの一瞬だけ考えて。


「同じ“種族”ではあるね」


そう答えた。


そして。


「でも」


視線を、わずかに細める。


「性能が違いすぎる」


その言葉。


全員が、理解する。


四天王。


それでも強かった。


だが。


目の前の存在は――


その“上”にいる。


明確に。


圧倒的に。


「……」


その時。


初めて。


ゼル=フィアが、動いた。


わずかに。


指が、動く。


それだけ。


それだけで。


「――ッ!」


全員の身体が、強制的に“止まった”。


「な……!」


太陽が声を上げる。


だが、動けない。


筋肉が、命令を拒否する。


「……」


澪も同じ。


呼吸はできる。


だが、それ以上ができない。


「……干渉……?」


セレスティアが、かすれた声で言う。


「空間……いえ……」


違う。


もっと直接的な。


「……構造に、触ってる……?」


理久が、静かに呟く。


その目は、むしろ輝いていた。


「……なるほど」


理解している。


だが。


それを止める手段は、ない。


「……」


ゼル=フィアが、ゆっくりと立ち上がる。


その動作一つで。


空間が、わずかに歪む。


いや――


“従う”。


存在そのものに。


「……よく来たな」


声が、響く。


低く。


だが、はっきりと。


全員の意識に直接届く。


耳ではない。


脳に、響く。


「……人間」


その一言で。


完全に理解する。


これが。


ネメシスの首魁。


ゼル=フィア。


今まで戦ってきた誰よりも。


圧倒的に強い存在。


――それと、今、対峙している。



「……人間」


その一言が、空間に沈む。


重い。


音としてではなく、意味そのものが押しつけられてくる。


誰も、すぐには言葉を返せなかった。


だが。


「どうも」


理久だけが、いつも通りの調子で口を開いた。


肩の力も抜けている。


視線も逸らさない。


「招待、ありがと」


軽い。


あまりにも。


「……」


澪が思わず横目で見る。


(この状況で、それ言う……?)


だが、止めない。


止められない。


「……ふむ」


ゼル=フィアが、わずかに首を傾けた。


興味。


その仕草一つで、空間がわずかに歪む。


「貴様が、中心か」


問いではない。


断定。


「まあね」


理久はあっさり肯定した。


「だいたい僕が決めてる」


「……」


一瞬の沈黙。


そして。


「……面倒だ」


ゼル=フィアが、ぽつりと呟いた。


その声に、感情はほとんどない。


ただの事実確認のように。


「四天王が、全て消えた」


ゆっくりと、言葉を紡ぐ。


「ルク=エリオス……」


ほんのわずかに、間が空く。


「イグ=レイヴ……」


名を呼ぶ。


だが、そこに悲しみはない。


怒りもない。


「……」


ただ。


「……再編が必要だ」


そう続けた。


淡々と。


「戦力の補充、指揮系統の再構築……」


面倒そうに、ほんのわずかに眉が動く。


「時間がかかる」


それが、結論。


つまり。


「……貴様らは、手間を増やした」


評価。


それだけ。


「そりゃどうも」


理久が軽く肩をすくめる。


その反応に、周囲の空気がわずかに緊張する。


だが。


「……だから」


ゼル=フィアの視線が、理久に固定される。


まっすぐに。


逃げ場のない圧。


「提案だ」


その一言で、空気が変わる。


「……?」


澪が小さく眉をひそめる。


「配下になれ」


その言葉は、あまりにも簡単だった。


あまりにも当然のように。


「……は?」


太陽が、思わず声を漏らす。


だが、ゼル=フィアは気にしない。


視線は、理久だけに向いている。


「その頭脳」


続ける。


「効率が良い」


評価。


完全に。


「無駄がない。理解が早い」


淡々と、分析するように。


「使える」


そして。


「私の下に来い」


それが、結論。


命令ではない。


勧誘。


だが。


拒否という選択肢が存在しないかのような口調。


「……」


沈黙。


一瞬。


だが、その間に、全員の視線が理久に集まる。


「……どうするの?」


澪が、小さく問う。


その声には、緊張が混じっている。


だが。


理久は。


「やだ」


即答した。


間もなく。


迷いもなく。


「……」


ゼル=フィアが、わずかに目を細める。


初めての変化。


「理由は」


短い問い。


それに対して。


理久は、ほんの少しだけ考えて。


「つまらないから」


そう答えた。


「……」


一瞬。


場の空気が、固まる。


「は?」


太陽が思わず声を上げる。


澪も、思わず目を見開く。


だが。


理久は、続けた。


「誰かの下で動くの、興味ない」


肩をすくめる。


本当に、それだけ。


「自分で決めて、自分で動いた方が面白いし」


善悪でもない。


正義でもない。


倫理でもない。


ただの、好み。


「だから無理」


はっきりと、言い切る。


その言葉を聞いて。


「……なるほど」


ゼル=フィアが、静かに呟いた。


その声に、怒りはない。


失望もない。


ただ。


「理解した」


それだけ。


そして。


「ならば」


わずかに、手が動く。


「交渉は、終了だ」


その一言で。


空気が、変わった。


完全に。


「……来る!」


理久の声。


その瞬間。


――戦いが、始まる。



「交渉は、終了だ」


その言葉が落ちた瞬間。


“世界の前提”が、書き換わった。


「――ッ!」


誰かが息を呑む暇すらない。


音が、消えた。


視界の端で、床と天井の区別が曖昧になる。


前後左右の概念が、ほどける。


「全体――」


理久が言いかける。


その声が、途中で“途切れた”。


「……?」


発声はできている。


だが、届かない。


音が、伝わらない。


「通信、遮断されてる……!」


澪が叫ぶ。


だが、その声も、誰の耳にも届かない。


“音という現象”が、局所的に消されている。


「……厄介」


理久が、短く呟く。


思考共有に切り替える。


だが。


「――遅い」


ゼル=フィアの声が、“直接”意識に刺さる。


次の瞬間。


「――ッ!!」


空間が、折れた。


直線が、曲がる。


距離が、消える。


「な……!」


太陽の目の前に、ゼル=フィアが“現れた”。


移動ではない。


“そこにある”ことになった。


「――ッ!」


反射で拳を振るう。


だが。


「無意味だ」


触れる前に。


太陽の身体が、横に“ずれた”。


位置が、書き換わる。


「ぐあっ!」


そのまま、壁に叩きつけられる。


衝撃。


だが、原因が分からない。


「太陽!」


澪が駆ける。


だが、その一歩が――


「……?」


“進まない”。


足は動いている。


だが、距離が縮まらない。


「なに、これ……!」


「距離固定……!」


セレスティアが、歯を食いしばる。


「座標を、固定されている……!」


「……概念干渉」


理久が、冷静に言う。


「物理じゃない。ルールを触ってる」


だから、対処が難しい。


「――なら」


雷華が、動いた。


無言で。


最短距離を、選ぶ。


「……」


雷が、走る。


だが。


「遅い」


ゼル=フィアの視線が、わずかに動く。


それだけで。


雷が、“途中で消えた”。


「……ッ!」


雷華の眉が、わずかに動く。


「消されてる……?」


「違う」


理久が否定する。


「“発生しなかったことにされた”」


過程ごと。


結果ごと。


消去されている。


「……厄介すぎるでしょ……!」


澪が、思わず吐き出す。


だが。


「まだ、いける」


理久の声が、思考共有に流れる。


「全体、単独行動禁止。連携を維持」


この状況で。


それが唯一の正解。


「セレスティア、空間“固定”で対抗しろ」


「やりますわ!」


空間を、閉じる。


歪みを、固定する。


「ヴァルキリア、重力で“基準”を作れ」


「……了解」


重さを、与える。


不確かな空間に、“軸”を通す。


「雷華、直線じゃなく“面”で削れ」


「……了解」


範囲で、削る。


一つ消されても、残りで当てる。


「澪、視覚に頼るな。理久の補助を優先」


「分かった!」


「太陽、前に出るな。今は耐えろ」


「……ちっ、了解!」


バラバラになりかけた戦場が。


再び、“一つ”に戻る。


「……」


ゼル=フィアが、それを見ていた。


ただ、見ている。


それだけで。


「……ほう」


わずかに、声が落ちる。


興味。


ほんのわずかに。


「適応するか」


その評価。


だが。


「――無意味だ」


次の瞬間。


“重力”が消えた。


「――っ!?」


全員の身体が、浮く。


いや、違う。


上下の概念が、消えた。


「なに……!」


「方向が……!」


どこが上か、分からない。


どこに力をかければいいか、分からない。


「……くそ」


理久が、わずかに舌打ちする。


「層が違うな」


今までの敵とは。


やっていることのレベルが違う。


「……それでも」


視線を、外さない。


ゼル=フィアを、見据える。


「崩す」


短く、言い切る。


その言葉に。


澪が、小さく息を吐く。


「……ええ」


恐怖は、ある。


だが。


「やるしかない」


それ以上に。


ここまで来た事実がある。


「……」


ゼル=フィアが、わずかに手を上げる。


その動きに合わせて。


空間が、再び歪む。


今度は――


“圧縮”。


全員を、中心へと押し潰す力。


「――ッ!!」


「来る!」


理久の声。


「全体、分散!」


だが。


今までのようには、いかない。


逃げ場がない。


空間そのものが、閉じている。


「……っ!」


澪が、歯を食いしばる。


押し潰される。


このままでは――


その瞬間。


「――止まれ」


低い声が、割り込んだ。


空気が、震える。


圧が、一瞬だけ――緩む。


「……?」


ゼル=フィアの視線が、わずかに動く。


理久たちではない。


その“外側”へ。


「……来たか」


その言葉が、落ちた瞬間。


空間が、裂けた。


――新たな戦力が、戦場に加わる。



空間が、裂けた。


歪みではない。


破断。


閉じられていたはずの構造が、外側から“こじ開けられる”。


「――ッ!?」


澪が目を見開く。


先ほどまで、どこにも逃げ場はなかった。


座標も、距離も、方向も。


すべてがゼル=フィアの支配下にあったはずなのに。


それが、強引に“破られた”。


「……誰?」


太陽が、息を呑む。


その裂け目の中から。


一人の影が、踏み込んでくる。


静かに。


迷いなく。


「……遅くなった」


低く、落ち着いた声。


その姿が、はっきりと現れる。


白と光をまとった存在。


「……イリス!」


澪が叫ぶ。


イリス=ヴァレナ。


単独で別戦線に向かっていた、もう一人の主力。


「片付けてきた」


短く、それだけ告げる。


視線は、ただ一つ。


ゼル=フィアへ。


「……」


その瞬間。


空気が、わずかに変わる。


先ほどまで絶対的だった支配に、ほんのわずかな“揺らぎ”が生まれる。


「……」


ゼル=フィアが、静かにイリスを見た。


初めて。


明確に。


理久たちではなく、“別の存在”として。


「……同胞か」


低く、呟く。


その言葉に。


イリスの目が、わずかに細まる。


「……」


無言。


だが、否定はすでに態度で示されている。


「……来ると思っていた」


ゼル=フィアが続ける。


「アストラ」


その名を、口にする。


「同じ虚界に生きる種族」


分類。


評価ではない。


「貴様らもまた選別の対象だが……」


一拍。


「使える個体は、残す価値がある」


そして。


「来い」


短く。


「我が配下になれ」


その言葉。


理久に向けたものと同じ構造。


だが。


意味は違う。


「……」


イリスは、しばらく何も言わなかった。


ただ、見ている。


その視線に、感情は少ない。


だが。


完全に“拒絶”している。


「……」


一歩、踏み出す。


静かに。


重く。


「……同胞、か」


ぽつりと呟く。


低い声。


「……」


短く息を吐く。


「笑えないな」


それだけ。


だが、十分だった。


「貴様らがやったことは」


一拍。


「覚えてる」


視線が、鋭くなる。


「それで、その言葉か」


短い否定。


そして。


「……ふざけるな」


低く。


静かに。


だが、確実に怒りを含んで。


それ以上は言わない。


語る価値もない。


そういう切り捨て方。


「……」


ゼル=フィアは、沈黙した。


だが、その目に。


わずかな変化。


「……なるほど」


低く、呟く。


「無駄か」


それだけ。


感情はない。


ただの判断。


「ならば――」


その一言で。


空気が、再び変わる。


完全に。


「排除する」


その宣言。


戦場が、再び動き出す。


だが――


「……いい」


イリスが、静かに構える。


その隣に。


澪たちが並ぶ。


そして。


「合流完了」


理久が、短く言った。


その一言で。


全員の意識が、完全に揃う。


四天王を越えた戦力。


そして、アストラの主力。


すべてが、一つになる。


「……」


ゼル=フィアが、それを見ていた。


ただ、見ている。


その目に映るのは。


敵ではない。


「……集合体か」


評価。


そして。


「……ならば、潰す」


その一言で。


最終戦が、完全に幕を開けた。

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