第65話 ルク=エリオス撃破
「……負けるか」
その一言で。
空気が、変質した。
さっきまでの“余裕”が、消える。
代わりに現れたのは――
「――ォォォォッ!!」
咆哮。
理性を削り取った、純粋な“生存本能”。
「来る!」
理久の声が走る。
その直後。
ルク=エリオスが、消えた。
「――っ!?」
視界から、消失。
次の瞬間。
「ぐっ……!」
中央の隊列が、弾き飛ばされた。
衝撃。
見えない何かに、まとめて叩きつけられる。
「なに……!?」
澪が目を見開く。
「速すぎる……!」
さっきまでの動きとは、別次元。
軌道も、予測も、意味をなさない。
「全体、散開!」
理久が即座に指示を飛ばす。
「固まるな! 一点で受けるな!」
だが。
「遅ぇ」
低い声。
すぐ後ろ。
「――っ!」
澪が振り向く。
そこに。
ルクが、いた。
距離、ゼロ。
「死ね」
振り下ろされる腕。
「――ッ!」
澪が咄嗟に光を展開する。
だが。
砕ける。
一瞬で。
「くっ……!」
衝撃が、身体を貫く。
吹き飛ばされる。
「澪!」
太陽が叫ぶ。
だが、その瞬間。
「余所見してんじゃねぇ」
ルクが、すでにそこにいた。
「――っ!」
拳が、迫る。
太陽が腕で受ける。
「ぐっ……!」
骨が軋む。
だが。
「――そこ!」
理久の指示。
その一瞬で。
「圧殺」
ヴァルキリアの重力が、横から叩き込まれる。
「チッ!」
ルクが舌打ちする。
回避。
ギリギリで、逸らす。
「……っ」
それでも。
一瞬、止まる。
「今!」
雷華が飛び込む。
雷が、走る。
「――ッ!」
直撃。
さっきなら流されていたはずの一撃。
だが。
「ぐっ……!」
今は、違う。
傷口。
そこを、焼く。
「効いてる!」
澪が、立ち上がりながら叫ぶ。
だが。
「……甘い」
ルクの目が、ギラつく。
その瞬間。
魔力が、爆発した。
「――ッ!!」
衝撃波。
周囲一帯が、まとめて吹き飛ぶ。
「うわっ……!」
太陽が転がる。
「くっ……!」
セレスティアの障壁が、砕ける。
「……強い……!」
澪が歯を食いしばる。
勝ち筋は、見えている。
再生は止まる。
削れば、確実に効く。
それでも――
「通すのが……難しい……!」
その通りだ。
「……獣か」
理久が、小さく呟く。
ルク=エリオス。
その動きは、もはや戦術ではない。
本能。
生き残るためだけの、最適行動。
だからこそ。
「読めない」
軌道が不規則。
攻撃が不定。
「全体、対応優先」
理久が指示を出す。
「無理に削るな。まず生きろ」
勝てる。
だが。
「一手、間違えたら終わる」
その認識が、全員に共有される。
「……っ!」
澪が再び光弾を放つ。
今度は、牽制。
当てにいかない。
「はっ!」
太陽が横から踏み込む。
だが。
「見えてる」
ルクが、振り返る。
そのまま、蹴り。
「ぐあっ!」
太陽が弾き飛ばされる。
「太陽!」
「大丈夫だ……!」
立ち上がる。
だが、ダメージは明確。
「……くそっ」
吐き捨てる。
「一発が、重すぎる……!」
その通りだ。
一撃で崩れる。
だから。
「ミスれない」
理久が、静かに言う。
「ここからが、本番」
勝ち筋は、確かにある。
だが。
それを“通す”には。
この獣を、捌ききらなければならない。
「……来る」
理久の声。
その直後。
ルクが、再び消えた。
戦場が、息を呑む。
そして――
“次”が、始まる。
「来る!」
理久の声と同時に、戦場が散る。
次の瞬間、ルクが現れたのは――空。
「上か!」
鬼塚の声。
だが、判断の刹那。
「――遅い」
落ちてきた。
ただの落下ではない。
圧縮された魔力をまとった“質量”が、そのまま叩きつけられる。
「全体、横へ流せ!」
理久が叫ぶ。
「受けるな!」
「了解!」
セレスティアの空間が歪む。
落下軌道を、ほんのわずかに逸らす。
ヴァルキリアの重力が、横に逃がす。
だが。
「甘い」
ルクが、空中で軌道を変えた。
「――っ!?」
想定外。
そのまま、中央へ。
「ぐあああっ!!」
数名が巻き込まれる。
衝撃。
地面が砕け、空間が歪む。
「……くっ」
澪が歯を食いしばる。
「さっきより……無茶苦茶……!」
「読めない」
理久が短く言う。
「だから――」
一拍置いて。
「逆にいい」
「え?」
「動きが粗い」
本能で動いている。
だからこそ。
「“隙”は増えてる」
その瞬間。
「右!」
理久が叫ぶ。
「そこ、三連で被せろ!」
「了解!」
雷華が動く。
一発。
間を空けて、二発目。
さらに遅れて、三発目。
「――ッ!」
ルクの動きが、一瞬止まる。
完全には止まらない。
だが。
「そこ!」
澪の光弾が差し込まれる。
「ぐっ……!」
直撃。
傷が、さらに広がる。
「効いてる!」
太陽が叫ぶ。
そのまま踏み込む。
「うおおおお!!」
拳が、叩き込まれる。
「――ッ!」
ルクの身体が、後ろへ滑る。
今までより、明確に。
「押せる!」
「行ける!」
声が上がる。
だが。
「……ッ!」
ルクの目が、鋭く光る。
次の瞬間。
爆発。
「――っ!!」
魔力が、周囲を吹き飛ばす。
「くっ……!」
澪が腕で顔を庇う。
「……まだ余裕あるの……!?」
「余裕じゃない」
理久が否定する。
「“焦ってる”」
だからこそ、力を使う。
無駄に。
無理に。
「つまり」
「削れてるってことね……!」
澪が理解する。
その通りだ。
「全体、ペース維持!」
理久が指示を飛ばす。
「無理に詰めるな。確実に削れ!」
「了解!」
戦場が、再び整う。
散開。
連続攻撃。
ズレた連携。
「――ッ!」
再び、雷。
光。
重力。
それぞれが、途切れず叩き込まれる。
「ぐっ……!」
ルクの身体に、傷が増えていく。
肩。
腕。
胴。
「……チッ」
舌打ち。
その表情に、余裕はない。
「……なるほど」
低く呟く。
「削るつもりか」
その声に、苛立ちが混じる。
そして。
「なら――」
魔力が、さらに膨らむ。
「削られる前に、潰す」
その宣言。
次の瞬間。
「――ッ!!」
突っ込んできた。
直線。
だが、速い。
さっきまでとは比べ物にならない。
「来るぞ!」
鬼塚が叫ぶ。
「全体、分散!」
理久の指示。
「一点に集まるな!」
だが。
「逃がすか」
ルクが、腕を振るう。
空間が、歪む。
「……ッ!」
澪の動きが、一瞬止まる。
引き寄せられる。
「なに、これ……!」
「空間干渉……!」
セレスティアが叫ぶ。
「強引に引いてる……!」
「……強化されてる」
理久が呟く。
能力そのものも、出力が上がっている。
成長ではない。
追い詰められたことによる、限界突破。
「――ッ!」
そのまま、拳が振り下ろされる。
澪の頭上へ。
「澪!」
太陽が叫ぶ。
だが、間に合わない。
その瞬間。
「そこ、ずらせ」
理久の声。
「右、半歩」
反射的に、澪が動く。
ほんのわずか。
だが。
「――ッ!」
拳が、掠める。
直撃を回避。
「……っ!」
そのまま、転がるように離脱。
「助かった……!」
「礼は後」
理久が即座に言う。
「まだ来る」
その通り。
ルクは止まらない。
「――ッ!!」
連続。
攻撃。
止まらない。
「くっ……!」
太陽が受ける。
弾き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「太陽!」
「平気だ……!」
立ち上がる。
だが、消耗は明らか。
「……まずいな」
理久が小さく呟く。
削れている。
確実に。
だが。
「……こっちも削られてる」
持久戦。
その様相になりつつある。
そして。
ルクも、それを理解している。
「……」
視線が、全体を見渡す。
冷静さが、戻りつつある。
「……このままでは」
小さく、呟く。
その言葉は。
明確な“認識”。
「削り殺される」
四天王。
その存在が。
初めて、自分の“終わり”を具体的に捉えた。
その瞬間。
空気が、さらに張り詰める。
「……なら」
ルクの目が、変わる。
決意。
「――道連れにする」
その一言で。
空気が、凍りついた。
「……っ」
理久の目が、わずかに細まる。
(来る)
直感ではない。
確信。
次に来るのは、“攻撃”じゃない。
「全体、即時離脱準備!」
思考共有が、強制的に割り込む。
「最大距離を取れ! 今すぐだ!」
「え……!?」
澪が戸惑う。
「何が――」
「いいから動け!」
一切の余裕を削った声。
その一言で、全員が反射的に動いた。
「離脱!」
「後退します!」
「距離を取れ!」
戦線が、一気に引く。
だが。
「遅い」
ルクが、静かに呟いた。
その身体から、魔力が溢れ出す。
いや、“漏れている”んじゃない。
「……集めてる……?」
澪が息を呑む。
違う。
「……圧縮してる」
理久が低く言う。
周囲の魔力。
空間そのもの。
それらすべてを。
「自分の中に……!」
セレスティアが叫ぶ。
「まずい……!」
その通りだ。
極限まで圧縮された魔力。
それが解放されたら――
「範囲が広すぎる……!」
逃げ切れない。
距離の問題じゃない。
「……ッ!」
太陽が歯を食いしばる。
「止めるしかねぇだろ!」
踏み込もうとする。
だが。
「来るな」
理久が即座に止める。
「無駄だ」
「でも――!」
「無駄だ」
もう一度。
はっきりと言い切る。
「間に合わない」
その事実を、全員が理解する。
「……っ」
澪の拳が震える。
何もできない。
ただ、見ているしかない。
その中心で。
ルク=エリオスが、笑った。
「――終わりだ」
低く。
だが、確かな声。
「一人でも多く――」
魔力が、限界まで収束する。
空間が悲鳴を上げる。
世界が、歪む。
「――連れていく」
その瞬間。
「そこまで」
理久の声が、静かに響いた。
「――?」
ルクの目が、わずかに動く。
その視線の先。
そこには。
「……遅い」
理久が立っていた。
いや、違う。
「もう、準備してる」
その背後。
展開されていたのは。
無数の“ヴォイド”。
先ほど生成した対ルク専用機。
それが、すでに配置されている。
「――ッ!」
ルクが、理解する。
だが。
「遅い」
理久が、もう一度言った。
「展開、完了」
次の瞬間。
ヴォイドたちが、一斉に動いた。
四方から。
同時に。
だが、タイミングは微妙にズレている。
「――ッ!!」
ルクが魔力を解放しようとする。
だが。
「無理だよ」
理久が、淡々と言う。
「それ、止めるために作ったから」
ヴォイドたちが、突き刺さる。
一体。
二体。
三体。
四体。
「ぐっ……!」
魔力の流れが、乱れる。
収束が、崩れる。
「な……!」
ルクの目が見開かれる。
「再生だけじゃない」
理久の声。
「“魔力制御”も邪魔してる」
干渉。
内部から。
強引に。
「――ッ!!」
ルクが、咆哮する。
だが、遅い。
すでに。
「止まった」
収束が、完全に崩壊する。
暴発すらできない。
ただ、散る。
無意味に。
「……終わり」
理久が、静かに言った。
その一言で。
戦場が、止まる。
ルク=エリオスは、立っていた。
全身に、ヴォイドが突き刺さったまま。
動かない。
動けない。
「……」
ゆっくりと。
その視線が、理久を捉える。
「……なるほど」
かすれた声。
「ここまで……か」
その顔に、悔しさはない。
むしろ。
「……見事だ」
わずかな、笑み。
認めた。
完全に。
その瞬間。
身体が、崩れる。
砂のように。
光の粒となって。
「……」
静寂。
風もない虚界で。
ただ、静かに。
消えていく。
四天王。
ルク=エリオス。
その存在が――
完全に、消滅した。
「……終わった……?」
澪が、小さく呟く。
誰も、すぐには答えない。
実感が、追いつかない。
「終わり」
理久が、短く言った。
その一言で。
ようやく。
「……やった……」
太陽が、へたり込む。
「マジで……勝った……」
「……ええ」
セレスティアが、静かに頷く。
「確かに……撃破しましたわ」
「……確認」
雷華が、短く言う。
「反応、消失」
完全に。
消えた。
「……」
澪が、深く息を吐く。
全身の力が抜ける。
膝がわずかに揺れる。
「……終わった……」
小さく呟いたその瞬間。
「――まだですわ」
柔らかな声が、戦場に響いた。
振り向く。
そこには――橘透花が立っていた。
「皆さま、そのまま動かないでくださいませ」
穏やかな微笑み。
だが、その周囲に集まる魔力は、今までの戦闘とはまったく異質だった。
優しい光。
包み込むような、温度。
「わたくしの役目ですので」
透花が、ゆっくりと両手を重ねる。
その瞬間。
「――ルクス・リバース」
光が、広がった。
一気に。
戦場全体へ。
「……っ」
澪の目が見開かれる。
自分の身体。
痛みがあったはずの場所が――消えていく。
擦り傷。
打撲。
内部の疲労。
すべてが。
「……治ってる……?」
驚きの声。
それは澪だけではない。
「うおっ!?」
太陽が、自分の腕を見て叫ぶ。
「さっき折れかけてたのに……!」
「正常化を確認しました」
ソラが即座に補足する。
「損傷状態:完全回復」
「すご……」
澪が息を呑む。
だが、それだけではない。
「装備も……?」
セレスティアが、自身のフレームに触れる。
ひび割れていたはずの箇所。
削れていた外装。
すべてが――元通りに修復されている。
「回帰魔法ですわ」
透花が静かに説明する。
「一定時間以内の損傷であれば、“なかったこと”にできますの」
その言葉。
さっきまで敵がやっていたことと、同じ。
だが。
「……味方側にあるのは、反則だな」
鬼塚が苦笑する。
「助かりますわね」
セレスティアも、わずかに微笑む。
戦場にいた全員。
傷を負った者。
消耗した者。
損傷した装備。
すべてが――
「……完全復帰」
雷華が短く呟く。
「損失……なし」
「マジかよ……」
太陽が、呆然と空を見上げる。
あれだけの激戦。
死者が出てもおかしくなかった。
だが。
「……誰も、欠けてない」
澪が小さく言う。
その言葉が、すべてだった。
「いいね」
理久が、軽く頷く。
「想定通り」
魔力は消費している。
だが、それだけだ。
それ以外の損失は――ゼロ。
「これで、次に行ける」
その一言で。
空気が、引き締まる。
回復したばかりの身体。
だが、気は緩まない。
「……次」
澪が、顔を上げる。
その視線の先。
虚界の奥。
「……まだ、いるのよね」
「ああ」
理久が頷く。
「本命が」
ゼル=フィア。
ネメシスの首魁。
「……」
誰もが、その名を理解している。
四天王を超える存在。
ここからが――
「最終戦だ」
理久が、静かに告げる。
戦場は、整った。
戦力も、万全。
そして。
「行くよ」
その一言で。
全員の意識が、一つに揃う。
四天王を越えた先。
最後の敵へ。
――戦いは、終わらない。
お読みいただきありがとうございました!
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「面白い!」
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