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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第60話 虚界戦線開幕

世界が、裏返った。


足元の感触が一瞬で消えて、次の瞬間には――“別の何か”を踏んでいた。


「……転移、完了」


自分で言っておいて、少しだけ息を吐く。


成功だ。


それも、完璧な形で。


「うわ……なんだよ、ここ……!」


すぐ隣で太陽が声を上げる。普段の元気な調子とは違って、明らかに戸惑っている声だ。


無理もない。


「これが……虚界……」


透花も、言葉を失ったように周囲を見渡している。


僕も視線を巡らせる。


――異常だ。


空はある。でも青じゃない。紫と黒が混ざって、まるで液体みたいにゆっくり流れている。


地面は固いはずなのに、踏むたびにわずかに沈む。なのに靴底には何もつかない。


遠くには山のような影が見えるけど、その輪郭が一定じゃない。見ている間に形が変わる。


そして何より――


「魔力、濃すぎ」


思わず呟く。


空気が重い。呼吸するだけで、体の中に異物が流れ込んでくるような感覚。


普通の人間なら、これだけで体調崩してもおかしくない。


「理久くん……これ、本当に安全なんですの?」


透花が不安そうに胸元を押さえながら聞いてくる。声は落ち着いてるけど、視線があちこちに泳いでる。


「安全じゃないけど、対策はしてる」


僕は腕のデバイスを軽く叩く。


「フェーズ適応フィルタ稼働中。人体への干渉は遮断済み。しばらくは問題ない」


「しばらくって……!」


澪がすぐに食いつく。


「長時間はダメってことでしょ!?」


「まあね」


「軽く言わないで!」


いつものやり取りだ。


でも、その声の裏にある緊張は隠せていない。


それは周囲も同じだった。


「……これが敵地か」


低く呟いたのは鬼塚。


周囲を見渡すその目は鋭いけど、わずかに警戒の色が濃い。


さらにその外側。


各国から集まった魔法少女たち――地球連合の主力が、一斉に周囲を警戒している。


「空間構造が安定していませんわね……」


セレスティアが静かに言う。


「重力も一定じゃない。動きづらい」


ヴァルキリアが足元を軽く踏み鳴らす。


「……ノイズが多い」


雷華は短く呟いて、すでに戦闘姿勢に入っている。


いいね。


ちゃんと感じてる。


ここは“敵のホーム”だ。


「全体、配置確認」


僕は思考共有を展開する。


瞬間、全員の位置情報が頭の中に流れ込んでくる。


「……問題なし」


思わず口元が緩む。


転移前に構築した陣形、そのままの形で全軍が展開できている。


一人もズレてない。


「理久、どうなの?」


澪が振り向く。


「成功。完璧」


「……そう」


短く返しながらも、澪は少しだけ安心したように息を吐いた。


でも。


「完璧だからこそ、逆に怖いんだけど……」


小さく付け加える。


その気持ちは分かる。


僕だって、ここまでうまくいくと逆に警戒する。


「まあ、すぐに来るよ」


「え?」


太陽が聞き返す。


「何が――」


その瞬間。


空間が、わずかに“震えた”。


「……ほら」


僕は小さく笑う。


――――――


その頃。


ネメシスの前線監視区域。


黒い結晶のような構造物の上で、数体のネメシス兵が巡回していた。


「……異常なし」


一体が機械的に呟く。


ここは虚界の中でも、比較的静かな領域。


ヴォイドの生産ラインにも近く、外敵が侵入してくる可能性は極めて低い。


――はずだった。


「……ん?」


ふと、一体が空を見上げる。


空間が、揺れている。


「……何だ、これは」


違和感。


それも、明確な異常。


「報告する――」


言いかけた、その瞬間。


“裂けた”。


空間が。


まるで紙を引き裂くみたいに、虚界の空が横一線に開く。


「――ッ!?」


ネメシス兵の動きが止まる。


ありえない。


この領域に、外部からの干渉?


そんなことは――


「な、何が起きている……!」


裂け目の向こう側から、光が溢れる。


虚界には存在しない“色”。


そして。


「――なっ……」


現れたのは。


人間。


それも、一人や二人じゃない。


「……軍勢、だと……?」


信じられない光景だった。


整然と並ぶ無数の存在。


魔力を纏った個体が多数。


しかも――


「魔法……少女……?」


理解が追いつかない。


なぜ人間が、ここに?


どうやって侵入した?


なぜ、この数で?


「報告しろ! すぐに――!」


叫ぶ声が、震える。


だが、その命令が最後まで届くことはなかった。


なぜなら。


裂け目は、まだ“広がっている”からだ。


次々と、現れる。


終わりが見えない。


「ありえない……ありえない……!」


ネメシス兵の一体が後ずさる。


その目の前で。


完全に展開された。


人類の、全戦力が。


「……侵攻、された……?」


誰かが呟く。


その言葉が、現実を形にした。


侵入ではない。


これは。


「――侵攻だ……!」


その瞬間。


警報のように、虚界全域に魔力の波が走る。


ネメシス側の“理解”が、ようやく追いついた。


だが。


遅い。


すでに。


「配置、完了」


人類は、戦場に立っている。


そして――


「これより、作戦開始」


静かに。


確実に。


最終決戦が、始まろうとしていた。



――――――



「これより、作戦開始」


その一言で、世界が“整列”した。


ざわついていた空気が、一瞬で研ぎ澄まされる。


――いいね。


ちゃんと動く。


「全体、迎撃フェーズ移行。前衛ライン維持、後衛は面制圧。無駄な突出はするな」


思考共有で指示を流す。


言葉じゃない。直接、意図が届く。


迷いも、遅れも、ない。


「……すご」


澪が小さく呟く。


その視線の先。


すでに戦闘が始まっていた。


――――――


最初に動いたのは、ネメシス側だった。


「排除しろォォ!!」


異形の兵が吠える。


黒い甲殻に覆われた身体、鋭く伸びた腕。明らかに人型から逸脱したその姿が、一斉にこちらへ殺到する。


さらに。


空間が歪む。


「来るぞ!」


鬼塚の声。


次の瞬間、ヴォイドが“湧いた”。


数十、いや百はいる。


地面から、空中から、壁面のような空間から。


黒い影が次々と現れる。


「うわっ、また増えた!?」


太陽が叫ぶ。


「数で押すのが基本戦術だよ、あいつらは」


僕は淡々と返す。


「でも――」


その言葉を言い切る前に。


「遅い」


雷華が消えた。


次の瞬間。


閃光。


雷が、戦場を走り抜ける。


「――っ!?」


ネメシス兵の一体が反応する前に、首から上が消し飛んだ。


続けざまに、二体、三体。


「速すぎる……!」


澪が息を呑む。


「反応前に潰す。それだけ」


僕は簡単に言う。


実際、そういう装備を渡してる。


雷華の身体能力と魔法、それに“雷霆ブースター”が合わされば――ああなる。


「左翼、制圧完了」


短く報告が入る。


早い。


予定より三秒短縮。


いいね。


「中央、押し返す」


今度は重い声。


ヴァルキリアだ。


地面が、軋む。


見えない何かが“のしかかる”。


「う、動け……」


ネメシス兵たちの動きが止まる。


押し潰されている。


重力だ。


それも、点じゃない。“面”でかかっている。


「圧殺」


短く呟いた次の瞬間。


――ぐしゃり。


音がした。


数体のネメシス兵が、そのまま地面に押し潰される。


骨も、甲殻も、関係ない。


純粋な物理の暴力。


「えげつな……」


太陽が引きつった顔で呟く。


「範囲制圧はあの人の担当だからね」


僕は軽く肩をすくめる。


「じゃあ右は――」


言い終わる前に。


「封鎖、完了ですわ」


セレスティアの声。


空間が、閉じる。


見えない“輪”が幾重にも重なり、ネメシスとヴォイドの動きを制限する。


「逃げ場、ないよ」


僕が言うと同時に。


光が、降った。


魔法少女たちの一斉射撃。


面で押さえ、逃げ場を奪い、そこに火力を叩き込む。


「――すごい……」


澪が思わず漏らす。


「これが……連携……」


「うん」


僕は頷く。


「個じゃ強くても、限界がある。でも――」


その先は言わなくても分かる。


「全体なら、こうなる」


実際。


戦場は、一方的だった。


ネメシス兵は数で押そうとする。


ヴォイドは不規則に湧き続ける。


普通なら、それだけで崩れる。


でも。


「前衛、ライン維持!」


「了解!」


「後衛、射線確保!」


「撃てます!」


「右から回り込む敵、三秒後に来るよ」


「把握、対応します!」


全てが、噛み合っている。


誰かが崩れても、別の誰かが補う。


死角がない。


遅れがない。


「……これ、俺たちいらなくね?」


太陽がぽつりと呟く。


「いるよ」


即答する。


「まだ前座だから」


「前座でこれかよ……」


顔を引きつらせる太陽。


まあ、その感想は正しい。


でも。


「油断するな」


僕は視線を前に向ける。


「数はまだ増える」


その言葉通り。


空間が、さらに歪む。


ヴォイドが、また増える。


今度は密度が違う。


「ちょ、ちょっと多くない!?」


澪が叫ぶ。


「いい傾向」


僕はむしろ口元を上げる。


「戦力、引き出せてる」


ネメシス側も本気で迎撃に来てる証拠だ。


つまり。


「ここで削れるだけ削る」


僕は指を軽く鳴らす。


「全体、第二フェーズ。殲滅速度優先」


その瞬間。


戦場の“温度”が上がった。


「了解!」


「出力、上げる!」


「潰す!」


魔法少女たちの声が重なる。


雷がさらに加速し。


重力がさらに強まり。


空間がさらに狭まる。


そして。


「行くぞォォ!!」


太陽が飛び出した。


「ちょ、太陽!?」


澪が叫ぶ。


「大丈夫」


僕は止めない。


「許可してる」


「え!?」


その理由は簡単。


「前、空いてるから」


太陽の進路。


そこには、ちょうどいい“穴”ができている。


「ソラ!」


「了解。出力補助開始」


炎が、弾けた。


「うおおおおお!!」


太陽の拳が、ヴォイドを吹き飛ばす。


一体、二体、三体。


勢いのままに突っ込む。


「……いけるじゃん」


僕は軽く笑う。


「ちゃんと戦力になってる」


「それ、あとで本人に言ってあげて!」


澪が叫ぶ。


「今は無理!」


そのやり取りの間にも。


戦場は、削れていく。


ネメシス兵が倒れ。


ヴォイドが消え。


空間が、少しずつ“静か”になる。


「……第一波、ほぼ壊滅」


僕はデータを確認する。


「被害、軽微。想定内」


「すご……」


澪がぽつりと呟く。


「本当に……勝てるかもしれない……」


その言葉。


戦場の空気が、わずかに緩む。


――その瞬間。


「……」


僕は、目を細めた。


「どうしたの?」


澪が気づく。


「いや」


少しだけ、考えてから。


「まだだよ」


そう言った。


「え?」


「前座、終わってない」


その直後。


遠く。


虚界の奥。


見えないはずの“何か”が、こちらを見た気がした。


「……いいね」


僕は小さく笑う。


「ちゃんと見てる」


この程度で終わるはずがない。


むしろ。


「ここからが本番」


そう。


これはまだ――


最終決戦の、入り口に過ぎない。

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