表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/62

第58話 最終準備

「――全員、集まって」


理久の声は、いつもと同じ温度だった。


だが、その一言で。


ざわついていた広い整備区画が、ぴたりと静まる。


統合指揮拠点――その中でも最も広い装備配備エリア。


天井は高く、壁面には無数のケーブルと魔力導線が走っている。床はフェーズ制御パネルで覆われ、どこに立っても安全領域が保たれるようになっていた。


そして――その中央。


等間隔に並べられた、数十、いや百を超えるケース。


すべてが開いた状態で、静かに“待っている”。


「……これ、全部?」


澪が思わず呟いた。


声は小さいのに、その場にいた全員の耳に届いた気がした。


理久は振り返らない。


端末を操作したまま、軽く答える。


「うん」


「今回の作戦に参加する魔法少女、全員分」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が、明確に揺れた。


「全員分……?」


「これが……?」


「まさか……」


各国の魔法少女たちが、一斉にケースへと視線を向ける。


太陽がぽかんと口を開けた。


「おい……何人いると思ってんだよ」


「知らない」


理久は即答した。


「数えてない」


「数えろよ!?」


反射的なツッコミ。


でも、誰も笑わない。


目の前にある“物量”が、それを許さなかった。


透花が一歩前に出る。


ゆっくりと、一つのケースを覗き込む。


「……形が、違いますね」


その言葉通りだった。


どのケースにも“装備”が収められている。


だが。


一つとして同じ形状がない。


リング状、腕輪型、細いコード、結晶体、半透明のプレート、球体、刃のようなもの。


統一性がない。


それでいて――


どれも“意味がある形”をしている。


ミルが低く呟く。


「既製品ではございませんな」


「当然」


理久がようやく顔を上げる。


その目は、完全に“作った側”のものだった。


「全部、フルオーダー」


短く言い切る。


「魔法の特性、戦闘スタイル、反応速度、魔力量、癖、全部見てる」


「共通装備の方が効率悪い」


一切の迷いがない。


澪が小さく息を呑む。


「……そんなの、どうやって……」


「観測して、解析して、組んだだけ」


さらっと言う。


でも。


それが“できる人間”は、ここに一人しかいない。


セレスティアが腕を組みながら笑った。


「本当に、とんでもないわねあなた」


雷華は無言でケースを見つめている。


ヴァルキリアは口の端を上げた。


「いいじゃねぇか。使えるならなんでもいい」


その一言で、空気が少しだけ動く。


理久が軽く指を鳴らす。


すると。


並んでいたケースの表面に、淡い光が走った。


それぞれに――名前が浮かび上がる。


「自分の名前のとこ、取って」


シンプルな指示。


だが。


誰もすぐには動かなかった。


一瞬の躊躇。


未知のものに対する、本能的な警戒。


それを破ったのは――一人の少女だった。


小柄で、東欧系の顔立ち。魔力は中程度だが、安定している。


ゆっくりと、自分の名前が表示されたケースの前に立つ。


「……開けるわよ」


誰に言うでもなく、呟く。


手を伸ばす。


パチン、と軽い音。


ケースが完全に開いた。


中にあったのは――


細い、半透明の帯状装置。


まるで布のように柔らかそうで、それでいて光を帯びている。


「……これが?」


少女が手に取る。


その瞬間。


――光が走った。


「っ!?」


思わず手を引く。


だが装置は離れない。


逆に。


するり、と。


意思を持つように、少女の腕に巻き付いた。


「なに、これ……!」


周囲がざわつく。


だが、次の瞬間。


少女の表情が変わった。


「……あ」


目が、開かれる。


「分かる……」


ぽつりと呟く。


「これ……防御補助と、魔力流制御……あと、展開タイミングの補正……?」


理久が軽く頷く。


「そう」


「あなた、展開魔法の初動が遅いから」


「それ、補正してる」


少女が息を呑む。


「なんで……」


「見てたから」


即答。


それ以上でも、それ以下でもない。


周囲の空気が、明確に変わった。


「……本物ね」


セレスティアが小さく笑う。


それを合図にしたかのように。


他の魔法少女たちも動き出した。


次々にケースが開く。


「これは……!」


「私の魔法に……」


「動きが軽い……!」


装備が装着されるたびに、小さな驚きの声が上がる。


誰もが気づく。


これは“強化”ではない。


“最適化”だ。


無理に上げるのではなく、元々の力を最大限に引き出す設計。


だからこそ――


違和感がない。


「……すごい」


澪がぽつりと呟く。


太陽も真顔になっていた。


「これ、やばいだろ……」


透花は静かに微笑む。


「皆さん……とても、嬉しそうです」


実際、その通りだった。


警戒は、もうない。


代わりにあるのは――期待。


戦える、という確信。


理久はそれを一通り確認して、端末を閉じた。


「じゃあ」


一歩、前に出る。


「次、説明する」


その一言で、場の空気が再び引き締まる。



照明が、少し落ちた。


空間中央に、立体的な魔力モデルが投影される。


戦場のシミュレーション。


そこに、各自の装備データが重ねられていく。


理久が指を動かす。


「まず前提」


声は淡々としている。


だが、その一言一言が無駄なく積み上がっていく。


「今回の装備、全員“役割前提”で組んでる」


「単独で強くなるためじゃない」


「連携したときに最大効率になるようにしてる」


セレスティアが目を細める。


「……なるほど」


雷華が短く言う。


「統合戦闘前提」


「そう」


理久は頷く。


そして――


「順番に説明する」


その言葉と同時に。


最初の魔法少女の装備データが、拡大表示された。


戦いの準備は、もう次の段階に進んでいる。



――――――



理久の指先が、空中のホログラムを弾いた。


最初に拡大されたのは――セレスティア・オルビスのデータ。


星環魔法の構造式が、幾重にも重なって表示される。


円環、干渉点、固定座標。

美しいけれど、どこか“遅い”構造。


「――セレスティア」


名前を呼ばれると同時に、彼女の前の空間に装備の実体モデルが浮かび上がる。


複数の細いリングと、中心に配置される結晶体。


まるで小さな惑星系だ。


「これ、さっきの」


セレスティアが手を伸ばす。


触れる直前で、リングがふわりと回転した。


理久が淡々と続ける。


「名称、“オルビス・フレーム”」


「あなたの星環魔法、完成度は高い」


「ただ――」


一瞬、間を置く。


「“配置が遅い”」


セレスティアの眉が、わずかに動いた。


否定しない。


「環を展開して、位置決めして、固定する」


「その三工程が、全部“手動”」


理久が指を動かすと、ホログラム上でセレスティアの魔法が再現される。


星の輪が広がり、敵を囲む――


が、ほんのわずかな“間”がある。


「この遅延」


理久がその瞬間を指し示す。


「上位相手だと、普通に抜けられる」


「……分かってるわ」


セレスティアが静かに言う。


「だからこそ、精度で縛ってるの」


「でも、それだと“完成する前に崩される”」


理久はあっさり言い切った。


その代わりに、装備のリングが光る。


「これで解決する」


リングが、勝手に動いた。


ホログラム上の魔法陣に先行して、配置が完了する。


「……今の」


セレスティアの目が細くなる。


「予測配置」


理久は短く答える。


「相手の動き、魔力の流れ、空間歪み」


「全部見て、“最適な配置”を先に出す」


「あなたはそれを“なぞるだけ”でいい」


ホログラム上で、再び魔法が展開される。


今度は――


一瞬。


星環が、すでに完成していた。


「……速い」


思わず、セレスティアが呟く。


「展開時間、ほぼゼロ」


理久が補足する。


「正確には、思考より先に配置してる」


「だから――」


リングが収束する。


「囲い込みが、“反応前に終わる”」


静寂。


セレスティアは、しばらく何も言わなかった。


そして。


ゆっくりと、笑った。


「……なるほど」


指先でリングをなぞる。


それだけで、装備が彼女の周囲に展開された。


「これなら」


一歩、踏み出す。


「“逃がさない”わね」


理久は軽く頷いた。


「そういう用途」


次に、指が動く。


ホログラムが切り替わる。


今度は――雷華。


稲妻の軌跡が、空間に幾重にも走る。


直線、加速、反射。


速い。


だが。


「――雷華」


名前を呼ぶ。


彼女はすでに装備を手にしていた。


細いブレスレット型。


だが、その表面には微細な回路が走っている。


「“雷霆ブースター”」


理久が説明を始める。


「あなた、速い」


「でも――」


雷華の過去の戦闘ログが再生される。


高速移動、瞬間加速、敵の殲滅。


そして。


ほんの一瞬の“乱れ”。


「ここ」


理久が指す。


「制御、ギリギリ」


雷華は無言でそれを見る。


「出力上げすぎて、身体側が追いついてない」


「……事実」


短く答える。


「そのままだと、いずれ壊れる」


「だから抑えてる」


雷華の言葉は簡潔だった。


「でも、それだと上限が出る」


理久は即座に返す。


ブレスレットが、淡く光る。


「これ、制御補助」


「神経伝達と魔力出力、同期させてる」


「……どういうこと」


雷華の目がわずかに鋭くなる。


「簡単に言うと」


理久は肩をすくめた。


「“動こうとする前に、体が動く”」


一瞬の沈黙。


「……は?」


太陽が思わず声を漏らす。


澪も目を見開く。


「それって……反応速度の限界、越えてない?」


「越えてる」


理久はあっさり肯定した。


ホログラム上で、雷華の動きが再現される。


通常の動き。


そして――装備使用後。


稲妻が、線ではなく“消失”する。


気づいたときには、別の位置にいる。


「……これは」


セレスティアが小さく呟く。


「もう“速い”じゃないわね」


雷華自身が、ゆっくりと息を吐いた。


ブレスレットを装着する。


カチリ、と軽い音。


次の瞬間。


彼女の周囲の空気が、わずかに震えた。


「……分かる」


低く言う。


「制御が、軽い」


一歩、踏み出す。


その動きが――


“滑らかすぎた”。


「無駄な力がいらない」


「そう」


理久が頷く。


「だから」


少しだけ口角を上げる。


「もっと速くしていい」


雷華の目が、ほんのわずかに光る。


「……了解」


短く答えた。


だが。


その一言に、確かな変化があった。


制限していた何かを――解放するような。


周囲の魔法少女たちが、その空気を感じ取る。


「……これは」


「やばいわね……」


誰かが小さく呟く。


理久は気にせず、次のデータに手を伸ばした。


「次」


戦いの準備は、もう止まらない。


理久の指が、次のデータを呼び出す。


空間に投影されたのは――重力場のモデル。


同心円状に歪む空間。圧縮され、沈み込むような構造。


「――ヴァルキリア」


名を呼ばれた女は、すでに腕を組んだままニヤついていた。


「来たな、俺の番」


前に出る。


ケースはすでに開いている。


中に収まっていたのは――


やや重厚な、黒銀の腕装備。


籠手に近いが、関節部には柔軟性があり、内部に細かい結晶が埋め込まれている。


「“グラビティ・ドライバー”」


理久が名前を告げる。


ヴァルキリアはそれを手に取った。


「……いい重さだ」


軽く振る。


ただそれだけで、空気がわずかに沈む。


理久は構わず続ける。


「あなたの重力魔法、出力は高い」


ホログラムに、彼女の戦闘ログが再現される。


一点に集中した圧縮。


敵を叩き潰す、シンプルで強烈な一撃。


「でも使い方が“点”だけ」


「当たり前だろ」


ヴァルキリアが笑う。


「潰すなら一点で十分だ」


「効率悪い」


即答。


空気が一瞬止まる。


だが、ヴァルキリアは気にせずニヤリとする。


「言うじゃねぇか」


理久は淡々とホログラムを操作する。


重力場が変形する。


点から――面へ。


「これ、面展開」


「範囲指定で“重力場そのもの”を敷ける」


ヴァルキリアの目が、ほんの少しだけ変わる。


「……つまり?」


「近づく前に潰せる」


シンプルな答え。


だが。


その意味は重い。


ホログラム上で、仮想敵が配置される。


重力場が展開される。


次の瞬間――


広範囲が一斉に沈み込む。


逃げ場がない。


「拘束と制圧を同時にやる」


理久が補足する。


「その上で、殴りたいなら好きに殴ればいい」


数秒の沈黙。


そして。


ヴァルキリアが、低く笑った。


「……最高だな」


そのまま装備を装着する。


カチリ、と音がして固定される。


瞬間。


床が――わずかに沈んだ。


「……おいおい」


太陽が思わず後ずさる。


「今の、ただつけただけだろ……?」


ヴァルキリアは拳を軽く握る。


ギュッ、と。


それだけで空気が圧縮される。


「……いい」


口元が歪む。


「殴る前に終わるかもしれねぇな」


理久は軽く頷く。


「その場合は殴らなくていい」


「それはつまんねぇ」


「知らない」


即答。


周囲に、わずかな笑いが漏れた。


だがすぐに、空気は引き締まる。


理久の指が、最後のデータを呼び出したからだ。


空間に現れたのは――


膨大な魔力の流れ。


複数の源泉が、一点に集まり、渦を巻いている。


「――イリス」


静かに名を呼ぶ。


イリス=ヴァレナは、すでに中央に立っていた。


腕には、魔力共有兵装。


淡く光り続けている。


その背後には、セリオ。


目を閉じ、静かに魔力を流し続けている。


理久は、もう一つの装置を取り出した。


それは――


小さな核のような、結晶体。


だが内部には、複雑な構造が詰め込まれている。


「“アストラ・コア・リミッター”」


名前を告げる。


イリスがわずかに眉をひそめる。


「……リミッター?」


「制御装置」


即答。


「今のままだと、魔力が多すぎる」


「暴走する可能性がある」


セリオが静かに頷く。


「……事実だ」


イリスは何も言わない。


ただ、その目が理久を見ている。


理久は続ける。


「だから、“層分け”する」


ホログラム上で、魔力の流れが分解される。


一本の巨大な流れが、複数の層に分割される。


「全部まとめて使うんじゃなくて」


「必要な分だけ解放」


「残りは待機」


イリスの目が細くなる。


「……効率は?」


「上がる」


即答。


「あと、もう一つ」


理久は結晶体をイリスに渡す。


「偏流補正」


「一点集中しすぎてるから、全身に分散させる」


ホログラム上で、魔力の流れが変わる。


偏っていた流れが、全身に均等に広がる。


「これで」


理久が言う。


「“全部使える”」


静寂。


イリスは、ゆっくりと結晶体を受け取った。


そのまま、胸元に当てる。


瞬間。


――光が走る。


魔力の流れが、変わる。


さっきまでの“重さ”が消えた。


代わりに。


“密度”が増す。


「……これは」


セレスティアが息を呑む。


雷華も、わずかに目を見開いた。


ヴァルキリアが低く笑う。


「おいおい……別物じゃねぇか」


イリスは、ゆっくりと拳を握る。


今度は――空間は歪まない。


だが。


そこにある“圧”は、明らかに増していた。


「……なるほど」


低く呟く。


「制御できる」


その一言に、確信があった。


セリオが静かに目を開く。


「……どうだ」


イリスは、わずかに口元を上げた。


「問題ない」


短く言い切る。


「全部、使える」


理久は軽く頷いた。


「じゃあ、それで四天王一体」


当然のように言う。


イリスは、迷わず答えた。


「任せろ」


その声に、揺らぎはなかった。


周囲の空気が、変わる。


誰もが理解する。


この戦力。


この装備。


そして、この連携。


――勝てる可能性は、確かにある。


だが同時に。


“相手もこれを超えてくる”という予感も、確かにあった。


理久はそれを気にしない。


端末を閉じる。


「――これで全員分説明終わり」


そして。


「最終調整、入るよ」


決戦は、もう目の前だった。


お読みいただきありがとうございました!


この作品を

「面白い!」

「続きが気になる!」


と思っていただけましたら、

★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


皆さまの応援が更新の大きな力になります。


今後ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ