第38話 魔法という“データ”
正直に言うと、飽きた。
いや、違うな。正確には――
理解しきってしまったものには、興味が持てない。
「なあ澪」
「嫌な予感しかしない呼びかけやめてくれる?」
即座に返ってくる。反応速度だけなら軍用レーダーといい勝負だな、こいつ。
「星光魔法ってさ」
「私の主力なんだけど!?」
「うん、知ってる。で、その上で言うけど」
僕は机の上に広げたデータパネルを軽く指で弾いた。
透花の回帰魔法の波形、その横に澪の魔法の解析データ。
「単純すぎない?」
一瞬、空気が止まった。
「……は?」
「いや、だってさ」
僕は平然と続ける。
「光子の発生と加速、あと魔力による軌道制御。
構造としてはシンプルすぎる。
ビームも弾丸も、結局“光を撃ってるだけ”だし」
「だけって言った!?」
澪が机を叩く。
でも、その目はちゃんとデータの方を見ていた。
理解してる。
こいつ、自分でも分かってるな。
「でも実際そうだろ。再現難易度も低い」
「ちょっと待って、それ褒めてるの?」
「うん。量産向き」
「褒めてない!」
まあいいや。
「太陽も似たようなもんだし」
「え、俺も!?」
後ろでストレッチしてた太陽が振り向く。
「陽炎魔法。火と光。
エネルギー密度は高いけど、構造は単純。
魔力→熱変換+光発生。以上」
「……なんか、急に俺の魔法がショボく聞こえるんだけど」
「安心しろ。実戦では強い」
「フォロー雑!」
ソラが横で淡々と言う。
「評価:火力性能は高いが、構造的独自性は低い」
「追い打ちやめろ!?」
うん、やっぱり面白くない。
透花の回帰魔法は違った。
あれは“構造そのものが異常”だった。
でも――
「他にもあるだろ、こういうの」
僕は椅子に深く座り直す。
「固有魔法。もっと変なやつ」
澪が腕を組む。
「……あるにはあるけど」
「あるんだ」
「あるわよ。魔法少女って、基本的に“個人ごとに違う魔法”だし」
そう。
つまり――
「まだ未解析のデータが山ほどあるってことだな」
思わず口元が緩む。
いいね。
それ、すごくいい。
「ちょっと理久、その顔やめて」
「どの顔?」
「研究対象見つけた時の顔」
ああ、これか。
「で、どうするの?」
「決まってるだろ」
僕は即答する。
「借りる」
「は?」
「魔法少女」
部室の空気が、今度は違う意味で止まった。
――――――
数分後。
僕はモニターの前に立っていた。
画面の向こうには、いつもの人。
『……で?』
ため息混じりの声。
白峰朱音。魔法少女協会関東支局長。
『今度は何をやらかすつもりかしら、天原くん』
「やらかす前提で話すのやめてくれる?」
『今までの実績から判断してるのよ』
まあ否定はしない。
「要件はシンプル」
僕は指を一本立てる。
「面白い魔法を持ってる魔法少女、貸して」
沈黙。
画面の向こうで、白峰がこめかみを押さえた。
『……理由は?』
「研究」
『具体的には』
「魔法の汎用化」
その一言で、空気が変わった。
さすがに理解が早い。
『……回帰魔法の次、ということね』
「そう。あれで分かった」
僕は淡々と続ける。
「魔法は“再現できる現象”だ。
だったら、他も全部できる」
『……』
「だからデータが欲しい。
いろんな種類の魔法の」
『それで、“貸して”と』
「短期でいい。数日単位。
データ取るだけ」
白峰はしばらく黙っていた。
考えてる。
リスクとリターンを。
そして――
『……条件付きで許可するわ』
即答だった。
「早いな」
『あなたの技術、もう止められる段階じゃないもの』
正しい判断だ。
『ただし』
指が一本立つ。
『必ず監督をつける。
危険と判断した場合は即中止』
「いいよ」
どうせ止められないし。
『それと――』
少しだけ、声のトーンが落ちた。
『対象の魔法少女には、必ず同意を取ること』
「当然」
そこはルールだ。
守る。
……まあ、研究の範囲内で。
『では手配するわ。
数日以内に派遣を開始する』
「助かる」
通信が切れる。
静かになった部室。
澪がぽつりと言った。
「……通っちゃった」
「そりゃ通るだろ」
僕は椅子に座り直す。
「必要だからな」
そして――
「忙しくなるぞ」
――――――
最初に来たのは、三日後だった。
部室のドアが開く。
「失礼します」
見慣れない制服。
魔法少女協会のエンブレム。
……名前は、どうでもいい。
重要なのは――
「能力、何?」
僕の問いに、彼女は少し驚いた顔をした。
「えっと……“重力操作”です」
いいね。
当たり。
「ちょっと魔法のデータ取らせてもらっていい?」
「は、はい……」
戸惑いながらも頷く。
よし。
「フェーズドーム起動」
透明なドームが展開される。
「澪、記録」
「はいはい……」
「太陽、危険だったら止めろ」
「おう!」
準備は完了。
「じゃあ、適当に使って」
「適当に!?」
困惑してるけど、まあいい。
彼女が手をかざす。
空間が歪む。
床に置いた鉄球が――
ふわり、と浮いた。
そのまま、急激に落下。
ドン、と重い音。
いい。
すごくいい。
「データ取れてる?」
「取れてるわよ!」
僕はモニターに視線を走らせる。
波形。
変換式。
位相干渉。
全部記録されていく。
「もう一回」
「え、あ、はい!」
繰り返し。
何度も。
浮かせて、落として。
強くして、弱くして。
そのすべてを――
数値に変換する。
「……うん、分かった」
僕は満足げに頷いた。
「もういいよ」
「え、もうですか?」
「十分」
データは揃った。
あとは解析するだけ。
――――――
二人目。
“音を操る魔法”。
空気振動の増幅と制御。
共鳴現象。
応用範囲が広い。
良い。
――――――
三人目。
“時間遅延”。
局所的な時間の伸長。
ただし範囲限定。
制御が粗い。
でも――
構造は面白い。
――――――
四人目。
“空間転移”。
短距離限定。
誤差あり。
だが理論としては――
使える。
――――――
五人目。
“物質変換”。
簡易的な組成変化。
エネルギー効率が悪い。
でも――
基礎式は応用可能。
――――――
そんな感じで。
繰り返した。
来て、測って、帰る。
来て、測って、帰る。
来て、測って――
「……あんた、ほんとにこればっかりやってるわね」
澪が呆れた声で言う。
「効率いいだろ」
「まあね……」
部室の壁一面に、データが並んでいる。
魔法の波形。
変換式。
構造解析。
全部。
「……ねえ理久」
「なに」
「これ、全部……再現するつもり?」
僕は一瞬も迷わなかった。
「する」
当然だろ。
「できる?」
「できる」
断言。
だってもう見えてる。
構造が。
原理が。
再現方法が。
「……ほんと、怖いわね」
澪が小さく息を吐く。
でもその目は、ちゃんと前を見ていた。
「で、次は?」
いい質問だ。
僕はモニターに表示されたデータ群を眺める。
重力。
音。
時間。
空間。
物質。
バラバラに見えるけど――
「共通点はある」
「え?」
「全部、“変換”だ」
魔力を使って。
何かを変えている。
物理法則を。
状態を。
現象を。
「つまり」
僕は笑った。
「魔法は全部、同じ土台の上にある」
だったら――
「組み合わせられる」
「は?」
「編集できる」
「は???」
澪の声が一段階大きくなる。
でも構わない。
もう次が見えてる。
「コピーして終わりじゃない」
ここから先は――
「自分で作る」
ゼロから。
好きな形で。
好きな性能で。
好きなだけ。
魔法を。
「……ねえ理久」
「なに」
「それ、完全に一線越えてない?」
僕は少しだけ考えて、答えた。
「とっくに越えてる」
だから問題ない。
むしろ――
「ここからが本番だろ」
そう言った瞬間。
胸の奥が、少しだけ熱くなった気がした。
久しぶりだな、この感じ。
未知に手を伸ばす時の。
――ああ、楽しい。
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