第36話 発魔所、稼働開始
「――通ったぞ」
部室のドアが勢いよく開いた。
そのまま入ってきた鬼塚の顔は、珍しく“隠しきれてない”レベルで興奮していた。
「なにが」
僕は顔も上げずに手元のタブレットを操作する。
「予算だよ! 発魔所の建設計画、正式承認だ!」
「へえ」
「へえ、じゃねえよ!」
机を叩かれた。
振動で小型魔力生成装置がカタカタ揺れる。
「もっと驚け! 普通こんなの通らないんだぞ!」
「でも通った」
「通ったけどな!?」
「じゃあいいじゃん」
「よくねえよ! 過程を考えろ!」
「結果が全てでしょ」
僕はようやく顔を上げた。
「で、どこに作るの」
「……そこだよ」
鬼塚が苦い顔をする。
「天霧市内、旧工業地帯の一角が割り当てられた」
「いいね」
「いいのか?」
「インフラ引き込みやすいし、面積も確保できる。最適解に近い」
「……お前、もう場所まで想定してたのか」
「してた」
即答。
「というか、設計の時点で“この辺だろうな”って想定してる」
「怖えよ」
「効率だよ」
僕は立ち上がる。
「じゃあ行こう」
「は?」
「建てるんでしょ」
「いや、準備とか――」
「もう設計終わってるし、資材もリスト出してる。あとは組むだけ」
「……マジかよ」
「マジ」
僕はフェーズストレージから設計図データを呼び出す。
「人員は?」
「工兵部隊が来てる。あと、民間の技術者も何人か」
「じゃあ問題ない」
「……お前、ほんとに中学生か?」
「書類上はね」
僕は軽く笑った。
「行くよ」
こういうのは、早い方がいい。
――――――
旧工業地帯。
広い空き地に、すでに重機と資材が並んでいた。
「うわっ……」
太陽が目を輝かせる。
「なんかもう、完全に工事現場じゃん!」
「工事現場だよ」
「いやそうだけどさ!」
「理久くん……」
澪が小声で言う。
「これ、本当に学校帰りに来ていい場所なの?」
「問題ない。許可取ってる」
「そういう問題じゃない気がするんだけど……」
「気のせい」
僕は前に出る。
「天原理久だ。設計担当」
作業員たちの視線が一斉にこっちを向く。
一瞬、ざわついた。
まあそうだろうね。
「……中学生?」
「そう」
「……」
「設計図はこれ」
僕はデータを共有する。
タブレットに表示された構造図を見て、作業員たちの顔が一気に変わった。
「……これ、もうほぼ完成してるじゃないか」
「だから言ったでしょ、組むだけだって」
「いや……普通はここから調整するんだが……」
「必要ない」
僕は淡々と言う。
「誤差も計算済み。素材の収縮率も織り込んでる」
「……」
「やることは“そのまま再現”だけ」
数秒の沈黙。
そして、
「……よし」
現場責任者らしき男が頷いた。
「全員、指示通りに動け。これは“設計通りに作る”案件だ」
「了解!」
空気が変わる。
いいね、この感じ。
「じゃあ僕も手伝う」
「は!?」
鬼塚が素っ頓狂な声を上げる。
「いや、お前は指示出す側だろ!?」
「指示も出すし手も動かす」
「なんでだよ!」
「早いから」
「……」
「効率」
僕はすでに動き出していた。
――数時間後。
「……なあ」
鬼塚が呟く。
「これ、本当に“建設”か?」
「そうだよ」
僕は配線を接続しながら答える。
「でもさ」
「なに」
「普通、こんなスピードで建物って出来るか?」
「普通じゃないから」
「だよなぁ……」
鬼塚が遠い目をする。
実際、異常な速度だった。
設計が完璧だから、迷いがない。
迷いがないから、手が止まらない。
結果――
「外殻、完成」
「内部構造、組み上げ完了!」
「エネルギーライン接続、問題なし!」
次々と報告が上がる。
予定より、だいぶ早い。
「……理久くん」
透花がぽつりと言う。
「これ、もう……」
「うん」
僕は頷いた。
「起動できる」
「早すぎません?」
「そうでもない」
僕は中央制御ユニットの前に立つ。
透明な筐体の中に、巨大なコアが収まっている。
小型装置の――完全上位版。
「じゃあ、いくよ」
僕はスイッチに手をかける。
「全員、離れて」
少し距離を取る。
静寂。
そして――
「起動」
カチ。
次の瞬間。
ゴォォォン……!
低く、重い音が響いた。
コアが光る。
脈動するように、魔力が生成される。
「……っ!」
澪が息を呑む。
「これ……」
「すごい……!」
太陽が声を上げる。
空気が変わる。
目に見えないはずの“何か”が、確かにここにあるとわかる。
フェーズグラス越しじゃなくても、感じる。
「出力、安定」
僕はモニターを確認する。
「問題なし」
「……成功、か」
鬼塚が呟く。
「当然」
僕は肩をすくめる。
「次」
「次!?」
「蓄魔器」
僕は別の装置を取り出す。
円筒形の、少し大きめのデバイス。
「これに詰める」
「バッテリーか……」
「そう」
僕は接続する。
魔力の流れが変わる。
コアから、蓄魔器へ。
数秒。
そして――
「充填完了」
「はやっ!?」
「効率いいから」
僕は蓄魔器を持ち上げる。
「これ一本で、ポーションタブレット何百回分かな」
「何百!?」
「たぶんもっといける」
「……」
鬼塚が無言になる。
「これを量産すれば」
僕は続ける。
「前線に“魔力切れ”はなくなる」
「……」
「補給も簡単。運ぶだけ」
「……」
「で、これをさらに増やせば」
僕は発魔所を見上げる。
「街全体をカバーできる」
「……」
「どう?」
僕は鬼塚を見る。
「使えそう?」
鬼塚は、しばらく何も言わなかった。
ただ、発魔所と蓄魔器を交互に見て――
「……使える、どころじゃないな」
ぽつりと呟く。
「これは……“前提が変わる”」
「でしょ」
僕は笑う。
「だから言ったじゃん」
「インフラだって」
「……ああ」
鬼塚が頷く。
「これはもう、“武器”じゃない」
「うん」
「“基盤”だ」
「正解」
僕は満足げに頷いた。
「じゃあ、これで完成」
「……完成、か」
「うん」
僕は軽く伸びをする。
「あとやることは一つだけ」
「なんだ?」
「増やす」
「……やっぱりそれか」
「当然」
僕はあっさり言う。
「一個じゃ意味ない」
「いや意味はあるだろ!?」
「限定的すぎる」
「……」
「だからさ」
僕は軽く指を立てる。
「設計図、もうあるから」
「……」
「増やしたほうがいいんじゃない?」
にこっと笑う。
鬼塚は数秒黙って――
「……お前な」
深く、深くため息をついた。
「わかって言ってるだろ」
「うん」
「……はぁ」
でも、その顔は。
どこか楽しそうだった。
「……やるしかねえな」
「でしょ」
僕は頷く。
こうして――
魔力は、“資源”になった。
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