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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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35/63

第35話 魔力はインフラになる

「――で、これがその“試作品”」

 僕は机の上に置いた手のひらサイズの装置を軽く叩いた。

 カチ、と小さな音がして、透明な筐体の中で淡い光が脈打つ。

 それは、まるで心臓みたいに――規則的に、確かに“何か”を生み出していた。

「……それ、本当に“魔力”なんですの?」

 画面越しに白峰が眉をひそめる。

 オンライン会議用の大型モニターに映る彼女は、いつも通り冷静な顔をしているけど、ほんのわずかに目が細められていた。

 疑い半分、警戒半分ってところか。

「魔力だよ。正確には“人工生成魔力”。回帰魔法の波形をベースにしてる」

「……いや待て」

 横で腕を組んでいた鬼塚が口を挟んだ。

「お前、魔法を再現したってだけでも大概なのに……今度は“魔力そのものを作る”ってどういうことだ」

「そのまんまだよ」

 僕は肩をすくめる。

「魔法ってさ、結局“魔力を使った現象”なんだよね。なら、魔力が安定供給できれば、魔法は“ただの消費処理”になる」

「……」

「つまり、今までの問題は“魔法少女しか魔力を持ってない”って一点だけだった」

 僕は装置を持ち上げて、軽く振った。

 中の光がふわっと揺れる。

「それ、解決した」

 部室の空気が、一瞬止まる。

「いやいやいやいや!」

 真っ先に反応したのは太陽だった。

「それってさ、それってさ! もう誰でも魔法使えるってことじゃん!」

「そうだよ」

「軽っ!?」

「軽く言ってるけど、やってることは重いから安心して」

「安心できねぇよ!?」

 太陽が頭を抱える。

 うん、いいリアクション。

「理久くん……」

 透花が、少しだけ困ったように僕を見る。

「それは……つまり、わたくしたち魔法少女が持っていた“特別”が……」

「なくなるね」

 即答した。

 透花の肩がぴくっと揺れる。

「でもさ」

 僕は続ける。

「それって別に悪いことじゃないでしょ」

「……え?」

「特別だから守らなきゃいけない、とか。特別だから危険な場所に行かなきゃいけない、とか。そういう構造そのものが歪んでる」

 僕は装置を机に戻した。

「だったら、全員が使えればいい」

 淡々と、当たり前のことを言う。

「そうすれば、“戦う人”と“守られる人”の区別は消える」

「……」

「まあ、現実には訓練とか適性とかあるから完全には無理だけど。でも“選択肢”は増える」

 僕は鬼塚を見る。

「で、それをやるには“インフラ”が必要なんだよね」

「……来たな、本題」

 鬼塚がため息をつく。

「そう。これ」

 僕は再び装置を指で叩いた。

「これは“個人用”。部室で使うための小型魔力生成装置」

「個人用……」

「でもさ、これをそのまま拡張すればどうなると思う?」

 鬼塚は答えない。

 でも、わかってる顔だ。

「“発電所”になる」

 僕は笑った。

「魔力の」

 沈黙。

 今度は長い。

 白峰がゆっくりと口を開いた。

「……つまり、あなたはこう言いたいのね」

「うん」

「“国家規模で魔力を生産しろ”と」

「そう」

 即答。

「予算出して」

「簡単に言うな」

 鬼塚が頭を押さえる。

「いやだって必要じゃん」

「必要かどうかの話じゃない! 前例がないんだよ、こんなもん!」

「前例なんて作ればいいでしょ」

「お前なぁ……」

 呆れたように鬼塚が笑う。

 でも、その目は真剣だった。

「規模は?」

「とりあえず天霧市一つ賄えるくらい」

「とりあえずで言うな」

「最終的には全国、できれば全世界」

「段階を踏め段階を!」

「踏むよ? だからまずは一個」

 僕は机に指でトントンとリズムを刻む。

「で、それができたら“蓄魔器”を作る」

「ちくまき?」

「バッテリーみたいなもん。魔力を保存して持ち運べるようにする」

「……」

「そうすればさ、ポーションタブレットとかも“魔力切れ”で使えないってことなくなる」

 鬼塚の表情が変わる。

「……つまり、前線での継戦能力が……」

「跳ね上がるね」

 僕は頷く。

「あと、迎撃ユニットも完全自律になる」

「……」

「フェーズドームも常時展開可能」

「……」

「まあ、ついでに言うと」

 僕は少しだけ声を落とした。

「四天王クラスが来ても、“リソース切れ”で負けることはなくなる」

 その一言で、空気が変わる。

「……理久」

 鬼塚が低く言う。

「それ、本気で言ってるのか」

「うん」

「根拠は?」

「計算した」

 僕は即答する。

「魔力消費量と生成効率、全部データ取ってる。大型化すれば供給は十分間に合う」

「……」

「むしろ余る」

「余る!?」

「うん。だから新しい用途も考えないといけない」

「お前なぁ……」

 鬼塚が頭を抱えたまま笑う。

「スケールがデカすぎるんだよ、毎回」

「そう?」

「そうだよ」

 白峰が口を挟む。

「……ですが」

 彼女はゆっくりと言葉を選ぶ。

「理論上は……成立しているのね?」

「してるよ」

「実証は?」

「これ」

 僕は装置を指差す。

「連続稼働12時間。出力安定。劣化なし」

「……」

「魔力密度も測定済み。既存の魔法少女の平均出力の約0.3倍」

「それを“生成し続ける”と?」

「そう」

「……」

 白峰が目を閉じる。

 数秒。

 そして、開いた。

「鬼塚さん」

「はい」

「この件、上に通します」

「……いいんですか?」

「通すだけです。通るとは言っていません」

「それはまあ……」

「ですが」

 白峰は僕を見る。

「これは“可能性”ではなく“現実”です」

「うん」

「無視はできません」

 その言葉に、僕は少しだけ満足する。

「でしょ」

「ただし」

 白峰の声が一段低くなる。

「管理体制は厳重にします」

「いいよ」

「暴走した場合のリスクは?」

「ないとは言わない」

「具体的に」

「魔力暴走による局所的な位相干渉……まあ、最悪でも半径数メートルが歪むくらい」

「それを“最悪でも”と言うのね……」

「対策はあるよ。フェーズアンカーと組み合わせれば抑制できる」

「……」

「あと、停止機構も三重にしてる」

「……」

「だから大丈夫」

 僕は軽く笑う。

「壊れても、直せばいいし」

「その発想が一番危険なのよ」

 白峰が即座にツッコんだ。

 うん、知ってる。

「でもさ」

 僕は少しだけ真面目な声になる。

「今のままじゃ負けるよ」

「……」

「四天王、あと三体いるんでしょ」

「……ええ」

「しかも戦闘特化」

「その通りです」

「だったら、こっちも“戦い方”変えないと」

 僕は机に置いた装置を見る。

「個人の強さに依存するの、限界あるよ」

「……」

「だから“全体の底上げ”」

「インフラ化、ね」

「そう」

 白峰はしばらく黙っていた。

 そして、小さく息を吐く。

「……本当に、とんでもないことを考えるわね」

「褒め言葉?」

「半分は」

「じゃあ十分」

「もう半分は呆れです」

「それも慣れてる」

 僕は笑う。

 白峰も、わずかに口元を緩めた。

「……鬼塚さん」

「はい」

「暫定でいいので、試験施設の用地を確保してください」

「了解です」

「予算は私の方で交渉します」

「……通ると思いますか?」

「通します」

 即答だった。

 強い。

「理久くん」

「なに」

「設計図、用意しておきなさい」

「もうある」

「でしょうね」

 白峰が苦笑する。

「送ってください」

「あとで送る」

「できれば今すぐ」

「了解」

 僕はフェーズストレージからタブレットを取り出す。

 数回タップして、データを送信。

「送った」

「……受信しました」

 白峰が画面を確認する。

 そして――

「……は?」

 珍しく、素の声が出た。

「どうした」

「これ……」

「なに」

「……すでに“量産設計”になっているじゃない」

「うん」

「試作じゃなくて?」

「試作はこれ」

 机の装置を指差す。

「これは“完成形の縮小版”」

「……」

「だから、拡大すればそのまま使える」

「……」

「問題ある?」

「ありすぎるわよ」

 白峰が額に手を当てる。

「普通は逆でしょう……」

「効率いいからこっちにした」

「効率の問題じゃないのよ……」

 でも、その声はどこか楽しそうだった。

「……鬼塚さん」

「はい」

「この子、絶対に手放さないでください」

「ええ、もうそのつもりです」

「世界が変わります」

「もう変わってますよ」

 鬼塚が苦笑する。

「こいつが来た時点で」

「否定できないわね……」

 白峰は小さく息を吐いた。

 そして、僕を見る。

「理久くん」

「なに」

「あなたがやろうとしていることは――」

 一瞬、言葉を切る。

「――“魔法の民主化”よ」

「かっこいい言い方だね」

「実態はもっと恐ろしいけどね」

「そう?」

「ええ」

 白峰は真っ直ぐに僕を見た。

「でも」

 少しだけ、微笑む。

「今はそれに賭けるしかないわ」

「了解」

 僕は軽く頷く。

「じゃあ、次は大型版の設計詰めるから」

「もう次に行くのね……」

「時間ないし」

「そうね……」

 白峰は一度だけ深く頷いた。

「では、この件はここまで。進展があれば随時報告を」

「了解です」

「了解」

 通信が切れる。

 モニターが暗くなる。

 静かになった部室で――

「……なあ理久」

 鬼塚がぽつりと呟いた。

「なに」

「お前、自分が何やってるかわかってるか?」

「わかってるよ」

「本当に?」

「うん」

 僕は即答する。

「世界変えてる」

「……」

「楽しいよ」

 そう言って、僕は笑った。

 鬼塚はしばらく黙っていたけど――

「……そうかよ」

 最後には、諦めたように笑った。

 その横で、

「……ほんと、とんでもない人ですわね……」

 透花が小さく呟いていた。

 でも、その目は――

 どこか、少しだけ楽しそうだった。

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