第29話 四天王撃破、その代償
異次元虚界――ネメシス領域。
そこには“空間”という概念が、完全な形では存在していない。
上下も、前後も、曖昧。
ただ、情報と意志だけが編み上げた構造体。
その中心。
“会議”と呼ばれる場があった。
座という形を取らない。
だが、確かにそこには“序列”が存在する。
最上位。
――ゼル=フィア。
その存在があるだけで、場の基準が決まる。
「……欠損を確認」
低く、静かな声。
感情の起伏はほとんどない。
「リゼ=ノクス、反応消失」
その言葉が落ちた瞬間。
場に、わずかな歪みが走る。
怒りでも、悲しみでもない。
“異常”への反応。
「は?」
最初に声を上げたのは、バル=グラドだった。
巨躯。
筋肉の塊のような輪郭。
「消えたってなんだよ」
言葉は荒いが、単純だ。
「負けたのか?」
直球。
だが、それが本質だ。
「肯定」
ゼル=フィアは即答した。
余計な装飾はない。
「戦闘記録、断絶。再接続不可。よって、撃破と判断」
場が、静まる。
「……マジかよ」
バル=グラドが笑う。
だがそれは、楽しげではない。
「アイツがやられるとか、相当だぞ」
「当然だ」
別の声。
ルク=エリオス。
その輪郭は、他のネメシスと違う。
どこか“揺らぐ光”を内包している。
「リゼ=ノクスは戦闘能力こそ低いが、システム構築においては最上位だった」
淡々とした分析。
「それを破壊した存在がいる」
一拍。
「興味深い」
その言葉には、わずかな高揚が混じっていた。
「……へえ」
別の気配。
まだ不安定な輪郭。
イグ=レイヴ。
若い。
未完成。
だが、その中に“血”の濃さがある。
「リゼ、死んだんだ」
どこか軽い。
だが、その奥には確かな好奇心。
「じゃあ次は、僕らの番?」
ゼル=フィアは、わずかに視線を巡らせた。
全員を見ている。
そして。
「現状、ヴォイドシステムの運用者が不在となった」
事実を述べる。
「よって、暫定的に私が引き継ぐ」
決定。
誰も異論を挟まない。
挟む意味がないからだ。
「新規開発は停止」
「既存資源の再配分と運用効率の最適化に集中する」
ルク=エリオスが小さく頷く。
「合理的だな」
「リゼほどの精度は出ないが、侵攻継続には十分」
バル=グラドが腕を鳴らす。
「で?」
単純な問い。
「その“倒したやつ”はどうすんだ」
沈黙。
ほんの一瞬。
だが、それで十分だった。
「排除対象」
ゼル=フィアが告げる。
「優先度、最上位」
空間が、わずかに震える。
命令。
絶対。
「地球へ出向せよ」
その言葉に、三つの存在が反応する。
バル=グラドが笑う。
「いいね」
拳を握る。
「久々に当たりか?」
ルク=エリオスは静かに目を細める。
「魔力の反応があるなら、広域で焼き払うだけだ」
単純。
だが、それで十分な火力。
イグ=レイヴは、少しだけ首を傾げた。
「ねえ」
軽い調子で言う。
「僕も行っていいの?」
ゼル=フィアが、視線を向ける。
「許可する」
短い。
だが明確。
「実戦経験を積め」
「やった」
イグ=レイヴが笑う。
無邪気に。
だが、その奥にあるのは純粋な“破壊衝動”。
「じゃあ、誰が一番に仕留めるか競争だね」
「面白え」
バル=グラドが応じる。
「横取りしても文句言うなよ」
「構わない」
ルク=エリオスが淡々と言う。
「結果が全てだ」
三者三様。
だが、方向は同じ。
――殺す。
ゼル=フィアは、それを止めない。
むしろ。
「制限は設けない」
静かに告げる。
「各自、最適と判断した手段で排除せよ」
完全な自由。
それはつまり――
最も効率的な殺戮が行われるということ。
「地球侵攻の最終段階において、ヴォイドシステムの再設計は必要となる」
一拍。
「その判断は、侵攻完了後に行う」
つまり。
今は考えない。
考える必要がない。
「優先順位は明確」
ゼル=フィアの声が、場を締める。
「敵性個体の排除」
それだけ。
バル=グラドが前に出る。
「了解だ」
ルク=エリオスも続く。
「任務受諾」
イグ=レイヴは、軽く手を振った。
「楽しみにしてるよ」
三つの存在が、消える。
地球へ。
戦場へ。
残るのは、ゼル=フィアのみ。
静寂。
だがその内側では、すでに膨大な処理が動いている。
「……リゼ=ノクス」
わずかに、その名を呼ぶ。
感情はない。
ただ、事実の確認。
「システムは継続する」
それだけ。
ネメシスは止まらない。
侵略は続く。
そして――
次は、三体。
より単純で。
より暴力的で。
より危険な存在が。
地球へと向かっていた。
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