第23話 虚界の幹部会議
光のない空間だった。
上下の感覚すら曖昧な、歪んだ空間。
黒でもなく、紫でもなく、どこか濁った色の霧が漂う。
そこが――異次元虚界。
地球の空に現れる裂け目の向こう側。
ヴォイドと呼ばれる怪物が生まれ、人類侵略の拠点となっている異世界である。
その中心部に、巨大な構造体が浮かんでいた。
無数の尖塔が生えた、城のような建造物。
だが石でも金属でもない。
生きているかのように、ゆっくりと脈動していた。
その最上部。
円形の空間に、四つの影と、一つの巨大な影が集まっていた。
それが――
ネメシスの幹部会議だった。
中央に座すのは、首魁。
ゼル=フィア。
人型ではあるが、その姿は不安定だった。
黒い霧のような身体が揺らぎ、輪郭が定まらない。
だが、そこに存在するだけで空間が歪む。
それほどの圧力を持っていた。
その前に、四つの影が並ぶ。
四天王。
ネメシスの最高幹部たちである。
一人目。
細身の体躯に、長い外套をまとった影。
リゼ=ノクス。
ヴォイドの製造と運用を担う、研究肌のネメシスだった。
戦闘能力は四天王の中で最も低いが、その知性は他のネメシスを圧倒している。
二人目。
巨大な体躯の戦士。
バル=グラド。
筋肉の塊のような体。
四天王の中でも屈指の近接戦闘能力を誇る、純粋な戦士だった。
三人目。
長いマントをまとい、空中に浮かぶ影。
ルク=エリオス。
ネメシスでありながら、アストラの血を引く異端。
膨大な魔力を持ち、広域殲滅魔法を得意とする。
そして四人目。
まだ若さを感じさせる体格の影。
イグ=レイヴ。
ゼル=フィアの子。
四天王の中で最も新しく、未完成の存在だった。
重苦しい沈黙が続く。
最初に口を開いたのは、ゼル=フィアだった。
「……報告せよ」
低く、重い声が空間に響く。
その言葉に、リゼ=ノクスが一歩前に出た。
「はい、首魁」
落ち着いた声だった。
「ヴォイドの運用状況について報告します」
バル=グラドが退屈そうに腕を組む。
「また侵攻の話か」
「その通りです」
リゼ=ノクスは淡々と続ける。
「現在、地球侵攻における異常が発生しています」
ルク=エリオスが興味深そうに目を細めた。
「異常?」
「はい」
リゼ=ノクスは指先を動かす。
空間に映像のようなものが浮かび上がった。
地球の上空に開いた裂け目。
そこから出現するヴォイドの群れ。
そして――
消滅していくヴォイド。
「通常、ヴォイドは討伐された場合、死体は虚界へ回収されます」
イグ=レイヴが頷く。
「それを再利用してるんだよね」
「はい」
リゼ=ノクスは続ける。
「しかし最近、回収されない個体が増加しています」
バル=グラドが眉をひそめる。
「回収されない?」
「はい」
映像が切り替わる。
ヴォイドが倒される。
しかし、そのまま消滅する。
虚界への回収が行われない。
「……」
ルク=エリオスが小さく呟く。
「これは……」
「異常です」
リゼ=ノクスは断言する。
「さらに」
次の映像が浮かぶ。
ヴォイドの製造ライン。
しかし、その数が減っていた。
「再利用資源の減少により、ヴォイドの製造数が減少しています」
バル=グラドが舌打ちする。
「戦力が減るのは面倒だな」
イグ=レイヴが少し不安そうに言う。
「それって……侵攻が遅れる?」
「その可能性があります」
リゼ=ノクスは頷いた。
沈黙が落ちる。
ゼル=フィアがゆっくりと口を開いた。
「……原因は」
「不明です」
リゼ=ノクスは即答した。
「ですが、地球側に何らかの変化が起きていると考えられます」
ルク=エリオスが笑う。
「ならば、直接見に行けばいい」
バル=グラドも頷く。
「俺が行くか?」
しかし、リゼ=ノクスは首を振った。
「いえ」
その目が細くなる。
「この異常は、ヴォイドのシステムに関わる可能性があります」
「ならば」
一歩前に出る。
「私が調査に向かいます」
イグ=レイヴが驚く。
「リゼが?」
バル=グラドも低く言う。
「戦闘は得意じゃないだろ」
「必要ありません」
リゼ=ノクスは静かに答える。
「特殊ヴォイドを同行させます」
その言葉に、三人が理解した。
リゼ=ノクスが地球に向かう。
それは――
新たな脅威の出現を意味していた。
ゼル=フィアがゆっくりと頷く。
「……許可する」
その一言で、決定した。
リゼ=ノクスは頭を下げる。
「では、地球へ向かいます」
虚界の霧が揺れる。
ネメシスの幹部が――
ついに、直接動き出そうとしていた。
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