第22話 発明を量産せよ ――自動製造機の自動製造機
「……作れない?」
僕はそう呟きながら、机の上に置かれたタブレットに視線を落とした。
虚界研究部の部室。
昼休みの終わりかけ、窓から差し込む光が白い実験机を照らしている。
その机の上には、分解途中のフェーズレーダーと、試作中の小型フェーズシールドの部品が散らばっていた。
「正確には……量産が難しい、だな」
そう言ったのは、腕を組んで壁にもたれていた鬼塚だった。
自衛隊の制服姿は相変わらず場違いだけど、もうこの部室ではそれが普通になっている。
「魔法少女協会の天霧観測所からの連絡だ。フェーズグラスとフェーズレーダーの追加配備を要請したが……」
鬼塚はタブレットを僕に向ける。
「再現はできるが、時間がかかりすぎるらしい。細かい調整が多すぎて、熟練者じゃないと組み立てられないと」
「ふーん……」
僕はタブレットを受け取りながら、軽く目を通す。
・フェーズグラス 製造に約2日
・フェーズレーダー 調整に熟練技術者が必要
・フェーズシールド 微調整が多すぎて安定しない
なるほど。
「つまり、僕が作ったものは、僕じゃないと量産できないってことか」
「……そういうことになるな」
鬼塚は苦笑した。
「正直、あれだけの装置を中学生が作ったという時点で十分異常だが……」
「異常って言うな」
僕は軽く言い返しながら、椅子に深く座る。
……まあ、でも。
確かにこれは問題だ。
僕の発明は、使われて意味がある。
一個しかないなら、研究用の試作品で終わる。
量産できて、初めて戦力になる。
「理久くん……どうするの?」
澪が少し心配そうに僕を見る。
白と青の髪留めが揺れる。
表情は真面目だけど、どこか期待も混じっていた。
「……どうするも何も」
僕は軽く息を吐いた。
「作るしかないだろ」
「……え?」
澪が目を瞬かせる。
「量産できないなら、量産できるようにすればいいだけ」
「それは……そうだけど……」
澪は少し戸惑った顔になる。
「でも、そんな簡単に……」
「簡単だよ」
僕はそう言いながら、机の上のペンを指で回す。
頭の中で、今までの装置を一つずつ思い出す。
フェーズグラス
フェーズシールド
フェーズドーム
フェーズレーダー
フェーズシフター
フェーズアンカー
フェーズストレージ
フェーズビースト
……人工ピクシスもあるけど。
「……ああ」
僕は小さく頷いた。
「人工ピクシス以外なら、全部いけるな」
「え?」
今度は鬼塚が反応した。
「全部……?」
「うん」
僕はあっさり頷く。
「これまで作った装置の自動製造機を作る」
部室が一瞬、静まり返った。
「……自動製造機?」
澪がゆっくりと聞き返す。
「そう。部品を入れたら、勝手に完成品が出てくるやつ」
「いや……」
鬼塚が思わず口を挟む。
「それは……工場レベルの話では……」
「だから?」
僕は肩をすくめる。
「別に工場を作ればいいじゃん」
鬼塚の表情が固まった。
澪も口を半開きにしている。
「理久くん……それって……」
「まずはフェーズグラス用の組み立て装置」
僕は指を折りながら説明を始める。
「次にフェーズシールドの調整装置」
「フェーズレーダーはキャリブレーション機構が必要だから専用ラインを作る」
「フェーズドームは大型だから、分割製造で後から結合」
僕の言葉に、二人の目がどんどん丸くなる。
僕は構わず続ける。
「フェーズシフターとアンカーは共通部品が多いから同一ラインでいける」
「ストレージは位相制御の微調整がいるけど……まあ、自動化できる」
「フェーズビーストは……」
そこで少し考える。
「……うん、これもいける」
鬼塚が息を飲んだ。
「人工ヴォイドまで量産するつもりか……?」
「護衛用としては有用だし」
僕はあっさり答える。
「アルゴみたいな個体を量産する必要はないけど、簡易型なら作れる」
「……」
鬼塚は完全に言葉を失っていた。
澪も額に手を当てている。
「……理久くんって、本当に何者なの……」
「中学生だけど」
僕はさらっと答える。
「いやそういう意味じゃなくて……」
澪が小さくため息をついた。
そのときだった。
僕の頭の中で、構造が一気に組み上がる。
搬送ライン
位相制御ユニット
組み立てアーム
自動調整システム
……ああ、これでいいな。
僕はペンを止めた。
「できた」
「……え?」
鬼塚が顔を上げる。
「設計図」
僕は軽く言った。
「脳内で一通り組んだ。問題ない」
「……今?」
「うん」
僕は頷く。
「必要な材料を用意してくれれば、すぐに作れる」
鬼塚は数秒、完全に固まったあと――
「……聞こう」
ゆっくりと頷いた。
「何が必要だ?」
僕は少し考えてから、口を開いた。
「まず、高精度加工できる金属フレーム」
「次に多軸制御モーター」
「あと、位相制御用の結晶体素材」
「それと――」
僕は机の上のメモに書き始めた。
項目はどんどん増えていく。
澪と鬼塚は、そのリストを無言で見つめていた。
そして僕は最後にペンを止める。
「……とりあえず、これだけあれば最初のラインは作れる」
鬼塚はメモを受け取り、ゆっくり息を吐いた。
「……わかった。自衛隊側で手配する」
その表情には、もう迷いはなかった。
僕は椅子にもたれながら、軽く笑う。
「じゃあ、準備ができたら始めよう」
――――――
鬼塚はメモを受け取り、ゆっくり息を吐いた。
「……わかった。自衛隊側で手配する」
その表情には、もう迷いはなかった。
――そして、三日後。
「……ここ?」
僕は目の前の建物を見上げた。
天霧市の郊外。
人の気配のほとんどない工業地帯の外れに、その廃工場はあった。
外壁はところどころ塗装が剥げ、窓ガラスの一部は割れている。
だが、建物自体はしっかりしており、広さは十分すぎるほどだった。
「数年前に閉鎖された金属加工工場だ」
隣で鬼塚が説明する。
「土地ごと自衛隊名義で確保した。内部の電源も復旧済みだ」
「へぇ」
僕は軽く頷きながら中に入る。
鉄製の大扉が開くと、広大な空間が広がっていた。
天井は高く、クレーンレールまで残っている。
床はコンクリートで平坦。
そして――
「材料はすべて搬入済みだ」
鬼塚の言葉と同時に、奥の方に視線を向ける。
そこには――
大量の金属材。
精密モーター。
電子部品。
結晶素材。
まるで小さな工場が丸ごと再現されたかのような光景だった。
「……いいね」
僕は自然と笑みを浮かべた。
これなら、すぐに始められる。
「理久くん……これ全部使うの?」
澪が少し驚いた声を出す。
「足りないよりはいい」
僕はそう言いながら、袖を軽くまくる。
「じゃあ、始める」
僕は床にチョークで軽く線を引き始めた。
迷いはない。
ラインの位置。
加工機の配置。
電源の取り回し。
頭の中にある設計図を、そのまま現実に落とし込んでいく。
「……速いな」
鬼塚が小さく呟いた。
僕は返事もせず、次々と位置を決めていく。
数分後。
「……よし」
僕は立ち上がった。
「ここから組む」
そして僕は、金属材の山へ歩み寄った。
次の瞬間。
金属が、音を立てて切断された。
火花が散る。
だが、通常の工具じゃない。
僕はフェーズストレージから取り出した、専用の加工ツールを使っていた。
位相干渉を利用した切断装置。
物理的な刃よりも、遥かに高速で正確に切れる。
ガンッ
ガンッ
ガンッ
金属フレームが次々と形成されていく。
僕は止まらない。
切断。
溶接。
組み立て。
まるで作業工程を何十倍にも早送りしたような速度だった。
「……」
澪が言葉を失っている。
鬼塚も、目を細めて見つめていた。
僕はさらに作業を続ける。
多軸アームを組み立てる。
制御基板を接続する。
位相制御ユニットを設置する。
動きに一切の無駄がない。
迷いもない。
まるで――
最初から完成形が見えているかのようだった。
「……そういえば」
鬼塚がぽつりと呟いた。
「今まで、完成品しか見てなかったな」
僕の手が止まることはない。
フレームを固定しながら、配線を通す。
「理久の発明は、いつも気が付いたら完成していた」
鬼塚はゆっくり続ける。
「だから気が付かなかったが……」
僕は最後のネジを締める。
カチン、と音が鳴る。
「……これは」
鬼塚の声が低くなる。
「研究者としてだけじゃない」
僕は次のユニットの組み立てに入る。
「技術者としても……異次元だな」
その言葉に、澪が強く頷いた。
「……うん」
僕は特に反応せず、作業を続ける。
金属が加工される。
装置が組み上がる。
ラインが形成される。
そして――
最初の大型ユニットが完成した。
だが、僕は止まらない。
さらに次の装置を作る。
その装置は――
今作った装置よりも、さらに複雑だった。
「……理久くん、それって」
澪が恐る恐る聞く。
僕は答える。
「自動製造機を作るための自動製造機」
鬼塚の眉が上がる。
「……つまり?」
「各発明品の量産機を作る装置を、さらに量産できるようにする」
僕は淡々と説明する。
「そうすれば、今後新しい発明を作っても、その量産ラインをすぐに作れる」
鬼塚が、静かに息を吐いた。
「……なるほど」
僕は最後のフレームを固定する。
配線を繋ぎ。
制御ユニットを起動する。
装置のランプが点灯する。
低い駆動音が工場内に響いた。
そして――
自動製造機を作るための自動製造機が、完成した。
低い駆動音が、廃工場の中に静かに響く。
ランプが順番に点灯し、各ユニットが自己診断を開始する。
ギィィ……と機械音が連動し、アームがゆっくりと可動範囲を確認する。
僕はその様子を軽く見上げてから、満足して頷いた。
「……うん、問題ない」
「……完成、なのか?」
鬼塚が慎重に聞いてくる。
「完成」
僕はあっさり答えた。
「これが、自動製造機を作る自動製造機」
澪が改めて装置を見回す。
「……でも、これでどうやって量産するの?」
「簡単だよ」
僕は装置の一部を軽く叩く。
「この装置で、各発明品用の自動製造機を作る」
「……各発明品用?」
鬼塚が聞き返す。
「フェーズグラス専用製造機」
僕は指を一本立てる。
「フェーズシールド製造機」
二本目。
「フェーズレーダー製造機」
三本目。
「フェーズシフター、アンカー、ストレージ……」
僕は淡々と続ける。
「必要な分だけ、この装置で作る」
鬼塚がゆっくり頷く。
「……なるほど」
僕はさらに続ける。
「完成した自動製造機は、ここに置く必要はない」
「どういうことだ?」
「別の場所に持っていけばいい」
僕は工場の外を軽く指さす。
「自衛隊の基地でも、魔法少女協会の観測所でも」
「そこに設置すれば、その場で量産できる」
鬼塚の目が少し見開かれる。
「……つまり」
「ここは製造機を作る工場」
僕は言い切る。
「量産は別の場所でやる」
澪が納得したように頷いた。
「だからこの広さなんですね……」
「うん」
僕は軽く頷く。
「この工場は拡張用」
鬼塚が眉を上げる。
「拡張?」
「例えば」
僕は少し考えてから言う。
「フェーズビースト」
鬼塚がすぐに反応する。
「アルゴか」
「うん」
僕は軽く頷く。
「今は猟犬型だけど」
僕は上を見上げる。
「鷹型とか作ってもいい」
澪が驚く。
「空を飛ぶフェーズビースト……?」
「偵察用として便利だし」
僕は当然のように言う。
「そういうマイナーチェンジ版の自動製造機も、この装置で作れる」
鬼塚が静かに頷いた。
「……確かに有用だな」
僕はさらに続ける。
「それに」
「今後、新しい発明を作る」
「そのたびに、専用の自動製造機を作る」
澪が苦笑する。
「どんどん増えそうですね……」
「増えるよ」
僕は即答した。
だから僕は、周囲を見回す。
広い工場。
そして外の空き地。
「だから、この周囲の土地も買い取っておいて」
僕は軽く言った。
鬼塚が一瞬固まる。
「……どのくらいだ?」
「できるだけ」
僕はあっさり答える。
「いつでも拡張できるようにしたい」
鬼塚は少し黙ったあと、苦笑した。
「……了解した」
澪も小さく息を吐く。
「なんか……もう工業地帯ですね……」
「そのうちなるかも」
僕は軽く笑った。
自動製造機のランプが、静かに点滅する。
この場所は、これから――
僕の発明を量産する、最初の拠点になる。
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