第20話 遊び尽くす午後
「……腹減ったな」
格闘ゲームの画面に「YOU WIN」の文字が表示されたまま、太陽がぐっと背伸びをした。
僕は時計を見る。
時刻は十一時四十分。
「そろそろ昼か」
「結構遊んだなー」
太陽は椅子から立ち上がり、腕を回す。
その手には、さっき取ったぬいぐるみと、お菓子の箱が抱えられていた。
「これどうすっかな……」
「持って歩くの面倒だな」
「だよなー」
僕は肩にかけていた小さめの黒いショルダーバッグを開けた。
見た目は普通のバッグ。
だけど中身は普通じゃない。
「入れるか」
「え? そんな小さいのに入るのか?」
「入る」
僕は太陽からぬいぐるみを受け取り、バッグの中へ入れる。
すっと吸い込まれるように収まった。
続けてお菓子の箱も入れる。
さらに僕が取った景品もまとめて入れる。
「……」
太陽がバッグと僕の顔を交互に見る。
「全部入ったぞ」
「いや、絶対入ってないだろサイズ的に」
「フェーズストレージ」
「ああ……」
太陽が納得したように頷く。
「そういやそれあったな」
「位相折りたたみ式の収納。重さもほぼない」
バッグを軽く揺らす。
見た目はほとんど変わらない。
「便利すぎだろそれ」
「日常用途としては最適」
「普通に売ったら大金稼げるぞ」
「量産設備がまだない」
「作れよ」
「いずれな」
僕はバッグを閉じ、肩にかけ直した。
こういうのはもう完全に日常装備になっている。
研究の副産物として作ったけど、普通に便利すぎる。
「じゃ、昼飯行くか」
「おう! 何食う?」
「さっと食えるもの」
「ラーメンとか?」
「いいな」
ゲームセンターを出て、ショッピングモールの通路を歩く。
昼が近づいているせいか、人が増えていた。
フードコートは既に席を探す人で混雑している。
「フードコート混んでるな」
「店の方がいい」
「ラーメン屋あったぞ」
太陽が指差す。
少し奥に、カウンター中心のラーメン店があった。
回転も早そうだし、ちょうどいい。
「ここでいいか」
「決まり!」
店に入り、食券を買う。
「俺、味噌ラーメン!」
「僕は醤油」
「チャーシュー増しにするか……いや、金あるし!」
「好きにしろ」
太陽は追加トッピングをいくつか押した。
明らかに浮かれている。
カウンター席に並んで座る。
すぐにラーメンが出てきた。
湯気の立つ丼。
「おお……うまそう」
「いただきます」
僕は箸を取る。
スープを一口。
「……悪くない」
「うまっ!」
太陽が勢いよく麺をすすった。
「やっぱ運動した後はラーメンだな!」
「ゲームしかしてないだろ」
「気分の問題!」
僕は淡々と食べ進める。
こういう、ただの昼飯も久しぶりな気がする。
研究でも戦闘でもない、普通の昼休み。
太陽が満足そうに丼を持ち上げる。
「はー、うまかった!」
「早いな」
「理久が遅いんだよ」
僕も食べ終え、水を飲む。
「次どうする?」
「まだ午後あるし、別のとこ行こうぜ」
「だな」
僕たちは席を立ち、店を出る。
午後の遊びは、まだこれからだった。
――――――
ショッピングモールを出て、連絡通路を渡ると、すぐに複合アミューズメント施設の入口が見えた。
ガラス張りの大きな建物。
入口には「ボウリング」「カラオケ」「ビリヤード」「ダーツ」などの看板が並んでいる。
「おお、結構ちゃんとしてるな」
太陽が少し驚いたように言う。
「地方にしては規模が大きい」
「理久ってたまに失礼だよな」
「事実」
僕たちは中に入り、エスカレーターで二階へ上がる。
上がった瞬間、独特の音が耳に入ってきた。
ボールがレーンを転がる音。
ピンが弾け飛ぶ乾いた音。
そして、ストライクが出たときの電子音。
ボウリング場特有の空気だ。
「おおー……久しぶりだ」
太陽が周囲を見回す。
休日ということもあり、家族連れや学生グループでそこそこ混んでいる。
とはいえ満席ではなく、数レーンは空いていた。
受付で料金を支払う。
「二ゲームでお願いします」
スタッフが手際よく受付を済ませる。
靴を渡され、僕たちはベンチへ移動した。
「こういう靴履くの久しぶりだな」
太陽がレンタルシューズを履きながら言う。
「前に来たのいつだ」
「小学校の時、家族で来たくらいかな」
「僕も似たようなものだ」
靴を履き替え、レーンへ向かう。
表示画面に名前を入力する。
Riku
Taiyo
「よし、勝負な」
「別に勝負しなくてもいい」
「いやするだろ!」
太陽が笑いながらボールラックへ向かう。
ずらりと並んだカラフルなボール。
太陽はその中から、少し重めのものを持ち上げた。
「これくらいでいいか」
軽く振って感触を確かめる。
筋肉質な腕がしなやかに動く。
こういう動きはやっぱり様になっている。
「見てろよ、いきなりストライク出すからな!」
「フラグ」
「違うって!」
太陽が助走に入る。
一歩、二歩、三歩。
ボールを振り上げて――
投げる。
ボールは勢いよく転がる。
……が。
少し右にズレる。
そのまま、ガター。
「あー!」
太陽が頭をかく。
「力みすぎ」
「久しぶりなんだよ!」
「力じゃなくて角度」
「分かってるって」
太陽が苦笑しながら戻ってくる。
僕もボールラックの前に立つ。
持ち上げてみて、少し軽めのボールを選んだ。
「軽くないか?」
「制御しやすい」
助走は短め。
無駄な動きを減らす。
ボールを振り、転がす。
ボールはまっすぐ進み――
中央より少しズレた位置へ。
ガシャン。
六本倒れる。
「お、普通にうまいじゃん」
「まあ、こんなもの」
スペア狙いの二投目。
残ったピンを狙って転がす。
ガシャン。
スペア成功。
「おー」
「単純な角度計算」
「それ毎回言うな」
ゲームが進む。
太陽は最初こそガターが多かったが、徐々に感覚を取り戻していく。
三フレーム目。
太陽がボールを投げる。
ボールが中央へ。
ガシャン!
ピンが一気に倒れる。
ストライク。
「よっしゃ!」
太陽が拳を握る。
表示画面に派手な演出が流れる。
「運動神経はやっぱりいいな」
「だろ!」
太陽が満面の笑みを浮かべる。
僕も続けて投げる。
中央を狙う。
……少しズレる。
八本倒れる。
「惜しいな」
「でも安定してるよな」
「平均値は高い」
そんなやり取りを繰り返しながら、ゲームが進んでいく。
途中、太陽が二連続ストライクを出す。
「うおお、来た来た!」
太陽のテンションが上がる。
僕は安定してスペアを取り続ける。
「理久、派手さはないけど強いな」
「確率的にはこの方が有利」
「なんか理久らしい勝ち方だな」
最終フレーム。
太陽が最後の一投。
ストライク。
「よっしゃあ!」
ガッツポーズ。
最終結果。
太陽 138
理久 126
「勝ったー!」
太陽が嬉しそうに両手を上げる。
「まあ、運動系は太陽が有利」
「でも結構いい勝負だったな!」
「初回としては悪くない」
僕たちは椅子に座り、少し休憩する。
程よく体を動かしたせいか、軽い疲労感がある。
「こういうのもたまにはいいな」
太陽が水を飲みながら言う。
「研究よりは健康的」
「理久ももっと体動かした方がいいぞ」
「必要性を感じない」
「そのうち澪先輩に怒られるぞ」
「あり得るな」
僕は苦笑する。
少し休憩したあと、僕は周囲を見渡した。
同じフロアに、ダーツコーナーが見える。
「まだ時間あるな」
「そうだな」
「ダーツやるか」
太陽がそっちを見る。
「やったことねえ!」
「じゃあちょうどいい」
僕たちはボウリングレーンを後にし、ダーツコーナーへ向かった。
ボウリング場の奥に進むと、少し照明が落ちたエリアに入った。
電子音と軽い音楽が流れ、壁際にダーツマシンがいくつも並んでいる。
大人の利用者も多いのか、ボウリング場よりも少し落ち着いた雰囲気だった。
「へえ……こんな感じなんだな」
太陽が周囲を見回す。
ボードの前に立っている人たちは、手慣れた様子でダーツを投げている。
カツン、と矢が刺さる乾いた音が、一定のリズムで響いていた。
「なんか大人っぽいな」
「確かに」
僕たちは空いている台を見つけ、スタッフに簡単な説明を受ける。
「こちらがダーツになります。ルールは――」
基本的な遊び方を聞く。
初心者向けのモードもあるらしい。
「じゃあ、これで」
太陽が初心者モードを選択する。
ダーツを一本手に取る。
「軽いなこれ」
「投擲用だからな」
太陽がボードの前に立つ。
少し構える。
「こう?」
「たぶん」
太陽が腕を振る。
ダーツが飛ぶ。
――ボードの外。
「……」
「……」
「難しいなこれ」
「フォームが雑」
「いきなり厳しいな」
太陽が苦笑する。
もう一本。
投げる。
今度はボードの端に刺さる。
「お、当たった!」
「外周だけどな」
「でも当たった!」
太陽がちょっと嬉しそうに笑う。
僕もダーツを手に取る。
重さを確認。
距離を目測。
腕を軽く振る。
投げる。
カツン。
中央付近に刺さる。
「おお!」
太陽が声を上げる。
「理久またうまいな!」
「単純な放物線」
「それ言うと思った」
続けて二投目。
少しズレる。
三投目。
中央寄り。
表示画面に点数が加算される。
「なんか普通に強いな」
「再現性が高い」
「ゲームでもボウリングでもそれだな」
太陽も続けて投げる。
少しずつ感覚を掴んできたのか、ボードに当たる回数が増える。
「お、だんだん当たってきた」
「フォームが安定してきた」
「こういうのは慣れだな」
太陽が笑う。
三ラウンドほど続ける。
途中、太陽が中央付近に刺す。
「よっしゃ!」
ガッツポーズ。
「運動神経はやっぱりある」
「ボウリングより感覚つかみやすいかも」
「軽いからな」
ゲーム終了。
結果は、僕の勝ちだった。
「負けたー」
「まあ初回だし」
「でも楽しいなこれ」
「悪くない」
僕たちは少し休憩する。
ソラがふわりと浮かんだ。
「朝比奈太陽の楽しさ指数が上昇しています」
「それ、どこで測ってんだ?」
「表情解析と発声パターンです」
「なんか全部解析されてるな俺」
「学習対象」
「まあいいけど」
太陽が苦笑する。
「まだ時間あるな」
僕が時計を見る。
午後三時過ぎ。
「ビリヤードもあるぞ」
「やったことない!」
「じゃあやるか」
僕たちはビリヤードコーナーへ移動する。
スタッフに説明を受けながら、キューを持つ。
太陽は最初、空振りしたり、変な方向に球を飛ばしたりして笑う。
「これ難しい!」
「角度と力」
「またそれか!」
しばらくすると、太陽も一球入れる。
「入った!」
嬉しそうに笑う。
その後、カラオケも空いていたため、軽く一時間ほど入った。
太陽は元気よくアニソンやスポーツ系の曲を歌い、
僕は適当に知っている曲を数曲だけ入れる。
「理久、意外と歌えるな」
「普通」
「なんでも普通にこなすな」
そんな風に過ごしているうちに、外はすっかり夕方になっていた。
施設を出ると、空がオレンジ色に染まっている。
「……結構遊んだな」
太陽が伸びをする。
「だな」
僕も軽く肩を回す。
久しぶりに、研究でも戦闘でもない一日を過ごした気がする。
「夕飯どうする?」
太陽が聞く。
「せっかくだし、食って帰るか」
「いいな! どこ行く?」
お読みいただきありがとうございました!
この作品を
「面白い!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
皆さまの応援が更新の大きな力になります。
今後ともよろしくお願いします!




