第18話 思いっきり魔法使ってみたいだろ
太陽はまだ、自分の手をじっと見つめていた。
さっき灯った光はすでに消えているが、そこに確かにあった感覚が残っているのだろう。拳を開いたり閉じたりしている。
「……すげぇ」
ぽつりと呟く。
ソラが太陽の横で静かに浮かぶ。
「魔法回路は安定しています」
「ほんとか?」
「はい。初期状態としては良好です」
太陽が嬉しそうに笑う。
「なんか、体軽いし……動けそうな気がする」
僕はその様子を見て、口を開いた。
「太陽」
「ん?」
「思いっきり魔法、使ってみたいだろ」
太陽の顔が、一瞬で明るくなる。
「……いいの!?」
「ここじゃ無理」
僕は周囲の機材を軽く指差す。
「部室壊れる」
「あ、そりゃそうか」
澪が苦笑する。
「それに、初めてならちゃんとした場所でやった方がいいわね」
太陽が澪を見る。
「場所?」
「校庭か、裏のグラウンドか……」
澪は少し考えてから言った。
「なら、私も付き合う」
太陽が目を丸くする。
「え?」
澪は少しだけ胸を張る。
「先輩として、訓練してあげる」
その言い方に、太陽が少し笑う。
「頼もしいな」
澪が少し照れたように視線を逸らす。
「……一応、魔法少女歴はあなたより長いから」
「いや、そりゃそうだけど」
太陽が頭をかく。
そのやり取りを見ていた鬼塚が口を開いた。
「私も同行しよう」
三人の視線が鬼塚に向く。
「初めての魔法使用だ。万が一もある」
鬼塚は真剣な表情だった。
「暴走、魔力枯渇、身体負荷……初期段階では何が起きるかわからない」
澪が頷く。
「確かに……私も最初はかなり疲れました」
太陽が少し不安そうな顔をする。
「え、そんなやばいの?」
僕は肩をすくめる。
「ソラが制御するから問題ないと思うけど」
ソラがすぐに反応する。
「安全制御機能は作動中」
「契約者の過負荷は防止します」
太陽がほっとした顔になる。
「なら大丈夫か」
鬼塚はそれでも頷いた。
「念のためだ」
太陽は少し笑う。
「なんか、すげぇな……」
自衛隊の人が付き添う訓練。
普通の中学生ではまずありえない状況だ。
僕は立ち上がる。
「じゃあ行こう」
太陽の目が輝く。
「おお!」
ソラが太陽の横に浮かぶ。
「訓練モード準備」
澪も立ち上がる。
「まずは基本からね」
鬼塚も静かに歩き出す。
「安全確保は私が行う」
僕は部室のドアに向かう。
後ろから太陽の声が聞こえる。
「……魔法か」
期待と興奮が混ざった声。
その声に、少しだけ笑みが浮かんだ。
――新しい魔法少年の、最初の訓練が始まる。
――――――
校舎の裏手にあるグラウンドは、すでに放課後の部活動の声が遠くに聞こえる程度で、こちら側はほとんど人がいなかった。
サッカー部や野球部は反対側のグラウンドを使っている。
僕たちが向かったのは、さらに奥の空きスペースだった。
フェンスに囲まれ、部活動でもあまり使われない場所。
魔法の訓練にはちょうどいい。
「ここなら大丈夫か」
鬼塚が周囲を確認する。
「人も少ないし、万が一でも被害は最小限に抑えられる」
澪も周囲を見回す。
「うん、ここなら安心ね」
太陽はというと――
すでにソワソワしていた。
「で、どうすればいい?」
拳を握ったり開いたりしている。
完全に待ちきれない様子だ。
僕は軽く言う。
「まずはイメージ」
「イメージ?」
「魔法は意識の影響受ける。使いたいって思えばいい」
太陽が真剣な顔になる。
「使いたい……」
ソラが補足する。
「太陽の適性は陽炎系統」
「炎と光の複合魔法」
太陽の目が輝く。
「炎か……いいな」
澪が一歩前に出る。
「最初は小さい魔法からね」
太陽が頷く。
「わかった」
澪が手を前に出す。
「例えば、こんな感じ」
澪の手のひらに、小さな光の粒が現れる。
ふわりと浮かび、柔らかく輝く。
太陽が目を見開く。
「おお……」
「これくらいの規模でいいから」
澪が言う。
「まずは出すことを意識して」
太陽が頷く。
「……よし」
太陽が手を前に出す。
真剣な表情。
少し力が入っている。
「炎……光……」
ソラが静かに言う。
「魔法回路同期」
「魔力供給開始」
太陽の手の周囲に、わずかに光が集まり始める。
澪が息を呑む。
「……出てる」
鬼塚も静かに見守る。
太陽の手のひらに――
小さな火花のような光が、ぱちっと弾けた。
「おっ!?」
太陽が驚く。
さらに、もう一度。
ぱちっ。
小さな炎のような光が、揺れる。
「……出た」
太陽が思わず笑う。
「出た!」
澪も嬉しそうに笑う。
「うん、出てる!」
ソラが言う。
「初期魔法生成成功」
太陽の手の上に、小さな炎の光が灯る。
揺れる金色の光。
炎のようであり、光のようでもある。
「……すげぇ」
太陽が呟く。
そのまま、少しだけ意識を強める。
すると――
光が少し大きくなった。
「うお」
太陽が驚く。
さらに――
ぼっと、小さな炎が揺れる。
澪が慌てる。
「ちょっと、急に大きくしないで!」
太陽が慌てて力を抜く。
光がすっと消える。
「わ、悪い」
でも顔は楽しそうだった。
「なんか、感覚でいけるな」
僕は頷く。
「適性高い」
鬼塚が感心したように言う。
「初回としてはかなり安定している」
太陽がにやっと笑う。
「よし……」
拳を握る。
「次は、飛んでみたい」
澪が少し驚く。
「もう?」
太陽が頷く。
「せっかくなら」
ソラが即座に反応する。
「出力制限設定」
「安全モード維持」
鬼塚も少し身構える。
「慎重にやれ」
太陽が頷く。
手を前に出す。
「……いくぞ」
光が集まる。
さっきよりも速い。
小さな炎が形成される。
太陽が前に押し出す。
「……っ!」
小さな光の弾が――
前方へ飛んだ。
ひゅっと飛び、数メートル先の地面に当たる。
ぱちっと弾ける。
土が少しだけ舞い上がった。
数秒の沈黙。
そして――
「……おおおお!!」
太陽が叫んだ。
「飛んだ!!」
顔が完全に子供みたいに輝いている。
澪が笑う。
「うん、成功ね」
鬼塚も小さく頷く。
「初回としては十分だ」
太陽はもう一度手を見る。
「……楽しい」
ぽつりと呟く。
その声は、素直だった。
ソラが太陽の横で静かに浮かぶ。
「太陽の適性は高い」
太陽が笑う。
「もっとやっていい?」
僕は軽く頷いた。
「好きにやればいい」
その瞬間――
太陽の顔がさらに明るくなった。
「よし、もう一発!」
太陽が再び手を構える。
「今度はもうちょい強めに――」
その時だった。
ピコン。
僕のスマホが鳴った。
同時に、澪のスマホも鳴る。
鬼塚も腕の端末に視線を落とした。
太陽が手を止める。
「……なんだ?」
僕はスマホを取り出す。
画面に表示されたのは――
フェーズレーダーアプリ
地図の上に、赤い点が点滅している。
僕は眉をひそめる。
「……ヴォイド反応」
澪が息を呑む。
「え、ほんとに?」
僕は画面を見せる。
学校からそう遠くない場所。
住宅街の端あたり。
鬼塚もすぐに確認する。
「こちらでも同様の反応を確認」
鬼塚の表情が一瞬で任務モードに変わる。
「規模は小型……だが、出現は確定だ」
太陽が目を丸くする。
「え……今?」
澪が少し緊張した声で言う。
「……いきなり実戦?」
僕は少し考える。
本来ならまだ訓練段階だ。
だが――
規模は小型。
鬼塚もいる。
そして何より。
太陽がこちらを見る。
「……行くのか?」
その目は、少し不安と、でもそれ以上に――
やる気があった。
僕は軽く言った。
「実戦、やってみる?」
太陽が一瞬だけ固まる。
そして――
ゆっくりと頷いた。
「……やる」
澪が少し驚く。
「太陽……」
太陽は笑った。
「せっかく魔法使えるようになったんだろ」
拳を握る。
「なら、使ってみたい」
鬼塚が太陽を見る。
数秒の沈黙。
そして――
「……小型個体、私がバックアップする」
澪も頷く。
「私もいるし」
太陽が深く息を吸う。
「……よし」
ソラが静かに告げる。
「戦闘モード移行」
太陽の周囲に、淡い光が走る。
魔力が静かに活性化する。
僕はスマホをポケットに戻す。
「じゃあ、初実戦だ」
太陽が笑う。
少し緊張している。
でも――
確実に、覚悟は決まっていた。
「魔法少年デビューってやつだな」
そう言って、太陽は一歩踏み出した。
新しい魔法少年の――
最初の戦いが、始まろうとしていた。
――――――
住宅街の外れにある、小さな公園。
夕暮れの色が落ち始めた中、空気がわずかに歪んでいた。
太陽は思わず立ち止まる。
「……なんか、変だな」
澪が小さく頷く。
「うん……この感じ」
鬼塚が周囲を警戒する。
「フェーズ干渉が始まっている」
ソラが太陽の横で静かに告げる。
「ヴォイド出現まで、数秒」
その言葉の直後だった。
空間が、ひび割れるように歪む。
黒い裂け目が空中に現れる。
太陽が息を呑む。
「……これが」
裂け目から、黒い影が落ちる。
地面に着地したそれは――
人の背丈ほどの、黒い塊。
表面がゆらゆらと揺れている。
異形。
ヴォイドだ。
太陽が一歩前に出る。
「……行くぞ」
澪がすぐに言う。
「無理しないで、まず距離取って」
鬼塚も続ける。
「接近戦は避けろ。まずは遠距離」
太陽が頷く。
「了解」
手を前に出す。
魔力が集まる。
さっきよりもスムーズだ。
金色の光が手の中に集まり――
小さな炎になる。
ヴォイドがこちらに気づく。
黒い体が、ずるりと動く。
地面を滑るように近づいてくる。
太陽が息を吸う。
「……っ!」
光の弾を放つ。
ひゅっ!
金色の弾が飛ぶ。
ヴォイドに直撃。
ぱんっと光が弾ける。
ヴォイドの表面が、わずかに削れる。
太陽の顔が明るくなる。
「効いてる!」
ヴォイドが動きを止める。
次の瞬間――
黒い触手のようなものが伸びる。
太陽に向かって突き出される。
「来る!」
澪が叫ぶ。
太陽が横に飛ぶ。
触手が地面を叩く。
土が跳ねる。
太陽が体勢を立て直す。
「おお、マジで来るな……!」
ソラが告げる。
「回避成功」
「次の攻撃推奨」
太陽が笑う。
「了解!」
両手を前に出す。
今度は、少し強く。
光が両手に集まる。
澪が目を見開く。
「……早い」
太陽が前に押し出す。
「いけっ!」
二つの光弾が飛ぶ。
ヴォイドに連続で命中。
ぱん、ぱん、と光が弾ける。
ヴォイドの体が揺れる。
鬼塚が冷静に言う。
「いい、押している」
ヴォイドが再び触手を伸ばす。
今度は二本。
太陽が身構える。
澪が手を振る。
「太陽、右!」
光の粒が空中に浮かぶ。
澪の魔法だ。
ヴォイドの視界を遮るように光が弾ける。
一瞬、ヴォイドの動きが鈍る。
太陽が横に回り込む。
「今だ!」
光弾を放つ。
直撃。
ヴォイドの体がさらに削れる。
黒い体が揺らぐ。
鬼塚が短く言う。
「もう一押しだ」
太陽が頷く。
「……よし」
今度は、少しだけ集中する。
光が、さっきよりも大きくなる。
金色の炎が手の中で揺れる。
澪が少し緊張した声を出す。
「太陽……」
ソラが即座に言う。
「出力制御維持」
太陽が前に踏み出す。
「いくぞ!」
金色の光弾を放つ。
今までで一番大きい。
ひゅっと飛び――
ヴォイドに直撃。
光が弾ける。
ぱあっと金色の光が広がる。
ヴォイドの体が――
崩れた。
黒い体が霧のように消えていく。
数秒後。
完全に消滅した。
静寂。
太陽が、息を吐く。
「……倒した?」
ソラが答える。
「ヴォイド消滅確認」
太陽の顔が、ゆっくり笑顔になる。
「……やった」
澪もほっと息をつく。
「初実戦で撃破……すごい」
鬼塚も頷く。
「十分な戦果だ」
太陽が振り返る。
少し照れたように笑う。
「……なんか、いけたな」
僕は肩をすくめた。
「適性高いって言ったろ」
太陽が笑う。
夕暮れの公園に、静かな空気が戻る。
こうして――
魔法少年・太陽の。
最初の戦いは、成功で終わった。
―――――――
部室に戻ると、さっきまでの戦闘の緊張が嘘のように、静かな空気が戻ってきた。
太陽は椅子に座ると、大きく息を吐いた。
「……なんか、疲れた」
澪が少し笑う。
「初めてならそんなものよ」
太陽が手を開いたり閉じたりする。
「でも、なんかまだ体軽いな」
ソラが静かに告げる。
「魔力循環は安定しています」
「初回としては良好」
鬼塚も頷いた。
「無理な出力を行っていなかったのが大きい」
僕は机に腰掛けながら言う。
「ちゃんと戦えてたな」
太陽が少し照れる。
「まあ……なんとなくな」
澪が真面目な顔になる。
「でも、初戦であそこまで動けるのはすごいと思う」
太陽が少し驚く。
「そうなのか?」
「うん。普通はもっと戸惑う」
澪は少し思い出すように言う。
「私なんて最初は逃げ回ってただけだったし」
鬼塚も続ける。
「状況判断も悪くなかった」
「距離を取り、攻撃を重ねたのは評価できる」
太陽が少し嬉しそうに笑う。
「褒められると照れるな」
僕は軽く言った。
「適性高いからな」
太陽が肩をすくめる。
「なんか、感覚でいけるんだよな」
ソラが補足する。
「太陽の適性は高い」
「魔法回路との同期率も良好」
澪が頷く。
「うん、あれなら今後も伸びると思う」
少しの沈黙。
そして、澪がふと思い出したように言った。
「そういえば」
太陽が顔を上げる。
「ん?」
「魔法少年として、この先戦っていくなら」
澪が少し考えて言う。
「名前、決めておいた方がいいかも」
太陽が首を傾げる。
「名前?」
僕が軽く補足する。
「魔法少女は変身名あるだろ」
「それと同じ」
太陽が納得する。
「あー、なるほど」
鬼塚も頷く。
「識別の意味でも必要だ」
太陽が腕を組む。
「名前か……」
少し考える。
さっきの戦闘を思い出すように、手を見つめる。
「炎と光だろ……」
ソラが静かに言う。
「陽光系魔法」
太陽がふっと笑う。
「……太陽っぽいな」
澪も少し笑う。
「確かに」
太陽が少し考え込み――
そして、顔を上げた。
「……サンブレイザー」
澪が目を瞬かせる。
「え?」
太陽が言う。
「太陽で、炎で、光だろ」
少し照れたように笑う。
「サンブレイザーにする」
僕は小さく頷く。
「悪くない」
鬼塚も静かに言う。
「覚えやすい」
ソラがすぐに反応する。
「識別名登録」
「魔法少年名称――サンブレイザー」
太陽が少し嬉しそうに笑う。
「……なんか、それっぽいな」
澪も微笑む。
「うん、かっこいいと思う」
太陽が椅子の背にもたれる。
「サンブレイザーか……」
少しだけ、実感が湧いてきたようだった。
僕はその様子を見ながら言った。
「これで正式に魔法少年だな」
太陽が笑う。
「だな」
こうして――
新たな魔法少年。
サンブレイザーが誕生した。
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