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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第15話 国家予算で作ったのは、護衛用ヴォイドでした

 ――数日後。


 正直、ここまで早いとは思ってなかった。


「……早すぎない?」


 僕は目の前の扉を見ながら言った。


 隣で澪も、同じように少し戸惑った顔をしている。


「私も……こんなにすぐとは思ってなかった」


 場所は、旧・科学部の部室。


 ……のはずなんだけど。


 扉の横にかけられたプレートは、すでに変わっていた。


 そこに書かれているのは――


『虚界研究部』


 さらにその下に、小さく。


『魔法少女協会 天霧観測所 管轄』


「……本当に作ったんだ」


 澪が小さく呟く。


 僕はドアノブに手をかけた。


「入るよ」


「う、うん」


 扉を開ける。


 そして――


「……」


 僕は、少しだけ固まった。


 広い。


 まず、それだった。


 元々の科学部の部室の、ほぼ倍の広さになっている。


 壁の一部が取り払われて、隣の空き教室と繋がっていた。


 さらに――


 机が違う。


 実験台仕様の作業机。

 耐熱、耐薬品、耐電圧仕様。


 そして壁際には――


「……電子顕微鏡」


 思わず口に出た。


 ちゃんとある。


 小型だけど、研究用。


 その隣には――


「スペクトラムアナライザ……」


 さらに――


「高周波オシロスコープ……」


 そのさらに奥。


「……金属対応3Dプリンタ」


 ……全部ある。


 澪が、ぽかんと口を開けていた。


「……えっと……これ、学校だよね?」


「たぶん」


 僕は答える。


 さらに視線を巡らせる。


 クリーンベンチ。

 専用サーバーラック。

 測定機器。


 そして――


 金属ケースに入った資材。


 僕は近づいて、ラベルを見る。


「……タンタル」


 別のケース。


「ニオブ」


 さらに。


「インジウム……」


 ……本当に持ってきた。


 しかも、量も多い。


 僕はケースを軽く持ち上げる。


 重い。


 ……いいね。


 これは研究が進む。


「理久くん……」


 澪が少し引いた声で言った。


「これ……本当に全部……?」


「うん」


 僕は頷く。


「要求通り」


 そのとき。


「気に入ってもらえましたか?」


 声がした。


 振り返る。


 ドアのところに立っていたのは――


 鬼塚だった。


「鬼塚さん」


 澪が少し驚いた顔をする。


 鬼塚は軽く会釈した。


「本日から、こちらの特別顧問として配置されました」


「特別顧問?」


 僕が聞くと、鬼塚は頷いた。


「形式上は学校の部活動ですが、実質は魔法少女協会との共同研究機関です」


 鬼塚は、部室を見渡す。


「そのため、出入りは制限されます」


「制限?」


「はい」


 鬼塚は、ドア横のカードリーダーを指差す。


 ……いつの間に。


「認証された人物のみ入室可能です」


 澪が少し驚く。


「じゃあ……普通の生徒は?」


「立ち入り禁止です」


 鬼塚は落ち着いた声で言った。


「ここはもう、科学部ではありません」


 そして、プレートの方を見る。


「虚界研究部です」


 ……なるほど。


 僕は少しだけ頷いた。


 確かに、その方が都合がいい。


 危険な実験もやりやすいし。


「ちなみに」


 鬼塚が続ける。


「資材の追加申請も可能です」


 それはいい。


「じゃあ、あとでリスト出す」


 僕が言うと、鬼塚は少しだけ苦笑した。


「……承知しました」


 澪が、少しだけ肩の力を抜いた。


「……なんか、本当にすごいことになっちゃったね」


 部室を見渡しながら言う。


 確かに。


 数日前まで、ただの科学部だった。


 それが今は――


 国家規模の研究室。


 でも。


「まあ、これで研究進む」


 僕は机の上にフェーズグラスを置いた。


 澪が、少し笑う。


「理久くんらしいね」


 僕はケースから資材を取り出す。


 タンタル。


 いい素材だ。


 これなら――


 もっと面白いものが作れる。


 ……たぶん。


 僕は、小さく口元を上げた。


 ――研究が、加速する。


 机の上に置かれた金属ケースを開く。


 内部には、丁寧に仕分けされたレアメタル。


 タンタル。

 ニオブ。

 インジウム。


 ……いい。


 これは、かなり使える。


 僕は軽く頷いて、フェーズストレージを取り出した。


「澪、ここ数日の分ある?」


「うん」


 澪が少し緊張した様子で頷く。


 最近の戦闘は、ほとんど素材集めも兼ねていた。


 フェーズアンカーで回収阻止。

 フェーズストレージで持ち帰り。


 その結果――


「結構、あると思う」


 澪が言った。


「じゃあ、出す」


 僕はフェーズストレージの位相ロックを解除する。


 空間が、わずかに歪む。


 そして――


 ドン、と重い音がした。


 机の横の床に、半透明の塊が現れる。


 さらにもう一つ。


 さらにもう一つ。


 澪が少し後ずさった。


「……やっぱり、こうやって並ぶとちょっと怖いね」


 床に並ぶヴォイドの死体。


 崩れかけた半透明の構造体。

 内部に残る微弱な位相反応。


 ……いい状態だ。


「回収タイミング良い」


 僕はしゃがみ込んで観察する。


 コア構造もまだ崩壊していない。


 十分使える。


「……それ、やっぱり作るの?」


 澪が少し慎重な声で聞く。


「人工ヴォイド」


「うん」


 僕は頷いた。


「今ならできる」


 新しい設備。

 高純度素材。

 十分なサンプル。


 条件は揃ってる。


 鬼塚も、少し離れた位置から様子を見ている。


「……ここで実施するんですね」


「うん」


 僕は答える。


「制御コアの再構成から」


 僕は工具を手に取る。


 精密分解用の器具。


 新しい装置は、使いやすい。


 僕はヴォイドの死体の一つに触れる。


 フェーズグラス越しに見ると、内部構造がはっきり見える。


 ……やっぱり。


 ピクシスに似てる。


 でも単純。


 命令系統も単純化されてる。


「制御信号……この辺」


 僕は小さく呟きながら分解を始める。


 澪が、息を呑んで見ている。


 鬼塚も無言。


 部室に、工具の小さな音だけが響く。


 数分後。


 僕は小さな結晶状のコアを取り出した。


「……これ」


 澪が小さく言う。


「うん」


 ヴォイドの制御コア。


 微弱に光っている。


「これをベースにする」


 僕は新しい作業台へ移動する。


 クリーンベンチを起動。


 内部にコアを置く。


 そして、レアメタルを取り出す。


「タンタル……導電効率良い」


 僕は小さく加工を始める。


 3Dプリンタを起動。


 金属構造体の設計を入力する。


 新しい筐体。


 制御可能な構造。


 数分後、プリンタが動き出す。


 低い機械音が響く。


 澪が、小さく呟いた。


「……本当に、作るんだ」


「うん」


 僕は頷いた。


 数分後。


 新しい金属フレームが完成する。


 僕はそれを取り出し、コアを組み込む。


 位相調整。


 制御信号の再現。


 ……いける。


 僕は電源を入れる。


 空間が、わずかに歪んだ。


 澪が息を呑む。


 鬼塚の目が鋭くなる。


 そして――


 金属フレームの中心で、光が灯った。


「……動いた」


 僕は小さく呟いた。


 金属フレームの中心で、光が灯った。


 淡い青白い光。


 それが、ゆっくりと広がっていく。


 空間が、わずかに歪む。


 ……でも、今までのヴォイドとは違う。


 半透明じゃない。


 金属フレームが、そのまま形を維持している。


 やがて――


 それは、ゆっくりと形を整えていった。


 四本の脚。

 低く構えた体勢。

 細く長い尾。


「……犬?」


 澪が、小さく呟いた。


 確かに、犬に近い。


 でも、普通の犬とは違う。


 全身は、滑らかな金属装甲。

 関節部は細く、可動域が広そうな構造。


 頭部は、やや鋭角的。


 そして――


 目の部分。


 そこだけが、青白く光っている。


 ヴォイド特有の位相光。


 でも、それが金属装甲の隙間から漏れていて――


 どこか、生き物みたいだった。


 体長は中型犬くらい。


 でも、全体的に細身で、猟犬のようなシルエット。


 しなやかで、速そうだ。


「……」


 それが、ゆっくりと立ち上がる。


 金属の脚が、床に触れる。


 カツ、と小さな音。


 ……物理的に存在してる。


 それは、ゆっくりと首を動かした。


 そして――


 僕の方を見る。


 青い光の目が、わずかに強くなる。


 ……反応した。


 僕は、静かに言う。


「……動ける?」


 次の瞬間。


 それは、軽く一歩前に出た。


 金属の脚が滑らかに動く。


 ぎこちなさはない。


 ……いい。


 僕はさらに観察する。


 そして――


 その金属の体が、わずかに歪んだ。


 次の瞬間。


 半透明になる。


 ……位相移行。


 さらに、数秒後。


 再び実体化。


 床に、しっかりと立つ。


「……任意位相移行、成功」


 僕は小さく呟く。


 澪が少し驚いた声を出す。


「……それって……」


「物理的にも存在できるヴォイド」


 僕は答える。


「日常では実体。戦闘時は位相移動」


 鬼塚が静かに息を吐いた。


「……護衛用、ですか」


「うん」


 僕は頷く。


「常に近くに置ける」


 そのとき。


 金属の猟犬が、ゆっくりと僕の横に歩いてきた。


 そして――


 座った。


 まるで、本当にペットみたいに。


 ……いい。


 これは使える。


「……なついてる」


 澪が小さく言う。


「制御信号、僕に固定してる」


 僕は説明する。


「基本は護衛」


 鬼塚が興味深そうに観察している。


「……武装は?」


「位相干渉爪」


 僕は答える。


「あと咬合部にエネルギー集中」


 澪が少し緊張した顔になる。


「……結構危なくない?」


「護衛用」


 僕は軽く答える。


 そのときだった。


 机の上のフェーズレーダーが反応した。


 ピッ――


 電子音。


 全員の視線がそちらへ向く。


「……タイミングいい」


 僕は表示を見る。


「ヴォイド出現、約二十分後」


 澪の表情が引き締まる。


「場所は?」


「学校裏の空き地」


 鬼塚も立ち上がった。


「……性能試験にはちょうどいいですね」


「うん」


 僕は立ち上がる。


 そのとき――


 金属の猟犬も、すっと立ち上がった。


 青い目が、わずかに強く光る。


 ……いい反応。


「行くよ」


 僕が言うと。


 それは、僕の横にぴったりと並んだ。


 まるで――


 主に従う、猟犬のように。



――――――


 学校裏の空き地。


 すでに周囲には、人気がない。


 鬼塚が周囲を確認しながら、小さく頷いた。


「この辺りなら問題ないですね」


 僕はフェーズグラスを取り出す。


「鬼塚さん」


「はい」


 僕はフェーズグラスを差し出した。


「これ」


 鬼塚は一瞬だけ視線を落とし、受け取る。


「……これが」


「ヴォイド観測用」


 鬼塚はそれをかけた。


 次の瞬間――


 鬼塚の表情が、わずかに変わる。


 空間が歪む。


 空き地の中央に、ゆっくりと影が現れる。


 黒い、半透明の塊。


 そして――


 異形の形へと変化する。


 四足。


 大型。


 不安定な構造。


 しかし、明らかに敵対的な形状。


 鬼塚が、静かに息を吐いた。


「……これが」


「ヴォイド」


 僕は答える。


 澪はすでに、戦闘態勢に入ろうとしていた。


 その瞬間。


「澪」


 僕は声をかけた。


 澪が止まる。


「今回は、いい」


「……え?」


 澪が振り向く。


 僕は、足元にいる金属の猟犬を見る。


「性能試験」


 澪が少し驚いた顔になる。


「……任せるの?」


「うん」


 僕は頷く。


 そのとき。


 ヴォイドがこちらに気付いた。


 ゆっくりと動き出す。


 地面がわずかに歪む。


 鬼塚の目が鋭くなる。


「来ます」


「うん」


 僕は、足元の猟犬に言う。


「行って」


 次の瞬間。


 金属の猟犬が、地面を蹴った。


 速い。


 鬼塚の目が、わずかに見開かれる。


「……速い」


 猟犬は、一直線にヴォイドへ向かう。


 ヴォイドが腕状の構造を振り下ろす。


 しかし――


 猟犬の体が、半透明になる。


 攻撃が、すり抜ける。


「……位相移動」


 鬼塚が小さく呟く。


 次の瞬間。


 猟犬が再実体化。


 ヴォイドの側面に回り込む。


 金属の爪が伸びる。


 青い光が集中する。


 そして――


 切り裂いた。


 ヴォイドの体が歪む。


 大きく崩れる。


 澪が驚く。


「……強い」


 ヴォイドが反撃する。


 複数の触手状の構造が伸びる。


 しかし猟犬は、低い姿勢で回避。


 さらに――


 空間が歪む。


 瞬間移動に近い動き。


 背後へ回り込む。


 そして――


 噛みついた。


 咬合部に、青い光が集中する。


 ヴォイドのコア部分に、直接噛みつく。


 次の瞬間。


 ヴォイドが大きく崩壊した。


 空間が歪み、消える。


 静寂。


 鬼塚が、ゆっくり息を吐いた。


「……これが」


 澪も、少し呆然としている。


「……一体で?」


 猟犬は、ゆっくりとこちらへ戻ってきた。


 そして――


 僕の横に座る。


 まるで何もなかったかのように。


 僕は軽く頷いた。


「うん」


 そして少しだけ、得意げに言った。


「僕が改良したヴォイド」


 澪がこちらを見る。


 鬼塚も視線を向ける。


 僕は、猟犬の頭を軽く撫でた。


「ネメシスのヴォイドより強い」


 鬼塚の目が、わずかに見開かれた。


 澪も、言葉を失っていた。


 金属の猟犬が、静かに青い目を光らせていた。


 まるで――


 主の言葉を肯定するように。

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