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魔法少女しか見えない怪物を、天才中学生が科学で観測してしまった  作者: 悪癖


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第14話 公立中学の科学部、国家予算を要求する

 魔法少女協会・天霧観測所。


 ここに来るのは、もう何回目だろう。


 外から見ると、ただのオフィスビルにしか見えない。

 でもフェーズグラス越しに見ると、違う。


 空間の歪みを観測する装置。

 魔法エネルギーを計測するセンサー。

 そして、ピクシスの移動経路らしき光の軌跡。


 ……やっぱり、ここは面白い。


「天原くん」


 声をかけられて視線を戻す。


 応接室のソファに座っているのは、白峰朱音。

 魔法少女協会日本支部・関東支局長。


 元魔法少女で、今は管理側の人間。


 向かいには、もう一人。


 制服ではなく、落ち着いた私服姿の男性。

 短く整えられた黒髪に、姿勢のいい座り方。


 この人が――


 自衛隊の人、か。


「こちら、自衛隊ヴォイド対策部隊の鬼塚錬さん」


 澪が隣から紹介する。


「どうも」


 鬼塚は軽く会釈した。


 視線が鋭い。

 観察する目だ。


 まあ当然か。


 公立中学の科学部の一年生が呼ばれてる時点で、疑うのが普通だ。


「天原理久」


 僕も軽く名乗る。


「よろしく」


 鬼塚は少しだけ眉を動かした。


 たぶん、僕の口調が気になったんだろう。


 でも別に気にしない。


 どうせ話すのは研究の話だ。


 敬語とか関係ない。


「さて」


 白峰が手を組んで話を始める。


「星川さんから、少し驚く話を聞いたわ」


 落ち着いた声。


 でも、視線は僕をじっと見ている。


「ヴォイドを観測し、出現を予測し、干渉する技術を……あなたが持っていると」


「うん」


 僕は普通に頷いた。


 その瞬間、鬼塚の視線がわずかに鋭くなる。


 まあ、そうなるよね。


「……それはつまり」


 鬼塚が口を開く。


「魔法少女でない一般人が、ヴォイドを視認できるということですか」


「できる」


 即答する。


 沈黙が落ちた。


 白峰と鬼塚が、ほんの一瞬だけ視線を交わす。


 半信半疑。


 まあ当然だ。


 証拠も出してないし。


「それに加えて」


 白峰が続ける。


「出現予測……さらに位置誘導まで可能だと?」


「できる」


「……」


 今度は、白峰が黙った。


 信じてないというより、

 理解が追いついてない感じ。


 まあ、無理もない。


 これまで誰もやってないことだから。


「理由を聞いてもいい?」


 白峰が静かに言う。


「どうして、その技術を提供しようと思ったのか」


 理由。


 別に難しくない。


「材料が足りない」


 僕は答えた。


「……はい?」


 白峰が一瞬、固まった。


 鬼塚も同じ反応だった。


「この辺の廃棄家電、だいたい回収し終わった」


 僕は続ける。


「今のままだと、研究進まない」


「……」


 二人とも、黙ってる。


 澪だけが、少し困ったように苦笑していた。


「だから、資材と設備が欲しい」


「……そのために、技術提供を?」


 鬼塚が確認する。


「うん」


「……」


 また沈黙。


 なんか、想定してた理由と違ったのかもしれない。


 でも、これが本音だ。


「自由に研究できるなら、提供してもいい」


 僕は続ける。


「あと、結果は共有する」


 それで、別に問題ない。


 むしろ研究が進むならメリットの方が大きい。


 白峰は、しばらく黙ってから息を吐いた。


「……星川さんの言っていた通りね」


「え?」


 澪が少し驚いた顔をする。


「あなた、本当に研究目的なのね」


「それ以外に理由ある?」


 僕が聞くと、白峰は苦笑した。


「普通は、もっと別の理由を考えるものよ」


「例えば?」


「名誉とか、権力とか」


「いらない」


 即答した。


 そんなの、研究の役に立たないし。


 鬼塚が、小さく息を吐いた。


「……なるほど」


 そして、少しだけ前に身を乗り出す。


「天原くん」


「なに」


「もしそれが事実なら――」


 鬼塚の目が、真剣になる。


「あなたの技術は、ヴォイド対策の常識を変える」


「たぶんそう」


 僕は普通に答える。


 実際、変わると思うし。


「……」


 鬼塚は、ほんの少しだけ笑った。


「星川さんが、興味を持つはずだと言っていた理由が分かりました」


 まあ、そうなるよね。


 僕は鞄の中に手を入れた。


「じゃあ、まずこれ」


 机の上に置く。


 フェーズグラス。


「それかければ、見える」


 白峰と鬼塚の視線が、一斉にそれに向いた。


 白峰が、机の上に置かれた眼鏡を見つめる。


 細いフレーム。

 見た目は普通の眼鏡にしか見えない。


 でも――


「……これが?」


 白峰が静かに聞いた。


「うん。フェーズグラス」


 僕は頷く。


「位相観測用」


 鬼塚が腕を組んだまま、じっとそれを見ている。


「……装着しても?」


「どうぞ」


 白峰が手を伸ばし、慎重に眼鏡を持ち上げた。


 そして、ゆっくりと装着する。


 ――数秒。


 次の瞬間。


 白峰の目が、わずかに見開かれた。


「……これは」


 視線が、部屋の隅へと向く。


 そこには――


 ふわふわと浮かぶ、小さな存在。


「ピノ……」


 澪が少し驚いた声を出す。


 白峰は、ピノをじっと見つめている。


「……見えるわね」


 低い声で、白峰が呟いた。


 その声には、明確な驚きが含まれていた。


「魔法少女でなくても……ピクシスが視認できる……」


「ヴォイドも見える」


 僕は付け加える。


 白峰は、ゆっくりと眼鏡を外した。


 そして、鬼塚へと差し出す。


「鬼塚さん」


 鬼塚は一瞬だけ迷い――


 眼鏡を受け取った。


 そして、装着する。


 数秒後。


「……なるほど」


 鬼塚の口調が、少し変わった。


 視線が、空間の一点を追っている。


 ピノの移動を見ているんだろう。


「これは……確かに」


 鬼塚はゆっくりと眼鏡を外す。


「本物ですね」


 その言葉には、先ほどまでの半信半疑はなかった。


「これだけじゃない」


 僕は鞄を開く。


 フェーズレーダーの携行型。

 フェーズシールドの腕輪。

 簡易測定装置。


 机の上に並べる。


 白峰と鬼塚の視線が、一斉にそれらへ集まる。


「これ、出現予測用」


 僕はフェーズレーダーを指差す。


「最大三十分前に検知できる」


「三十分……?」


 白峰の眉が動く。


「それに、こっち」


 フェーズシールドの腕輪を持ち上げる。


「防御用」


 僕は軽くスイッチを押した。


 空間に、半透明の壁が展開される。


 白峰と鬼塚の目が、同時に見開かれた。


「……位相干渉……?」


 白峰が小さく呟く。


「うん」


「これが……携行型?」


「そう」


 鬼塚が、静かに息を吐いた。


「……これは」


 言葉を探すように、少し間が空く。


「……常識が変わりますね」


「そうだと思う」


 僕は頷いた。


 別に誇張じゃない。


 実際そうなる。


 白峰は、しばらく装置を見つめていた。


 そして――


 静かに顔を上げる。


「……天原くん」


「なに」


「これらの技術……すべて、あなた一人で?」


「うん」


 即答する。


 澪が少し苦笑した。


 白峰は目を細める。


「……公立中学の科学部で」


「そう」


 再び、沈黙。


 鬼塚が、ゆっくりと背もたれに体を預けた。


「……星川さん」


「はい」


「あなたが信頼している理由が、よく分かりました」


 澪が少しだけ照れたような顔をする。


 白峰は、深く息を吐いた。


「……分かったわ」


 そして、静かに言う。


「条件を聞きましょう」


 僕は少しだけ姿勢を直した。


 ここからが、本番だ。


「条件を聞きましょう」


 白峰がそう言った瞬間、僕は少しだけ考えた。


 ……まあ、遠慮する理由はない。


「まず、研究資材」


 僕は机の上のフェーズシールドを指で軽く叩く。


「普通の中学生じゃ手に入らない素材が欲しい」


 白峰は静かに頷く。


「例えば?」


「高純度レアメタル」


 白峰の眉がわずかに動いた。


「タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル。あとインジウムも」


 僕は続ける。


「できれば工業用じゃなくて研究用の高純度」


 鬼塚が少し身を乗り出した。


「……それらは軍需にも使われる素材です」


「知ってる」


 僕は頷く。


「だから欲しい」


 白峰が小さく息を吐いた。


「量は?」


「申請すれば天井なしで持ってきてほしい」


 沈黙。


 澪が「えっ」という顔をした。


 鬼塚も、さすがに少しだけ目を見開いた。


「……天井なし?」


 白峰が確認する。


「うん。研究って、途中で足りなくなるのが一番面倒」


 僕は続ける。


「あと、電子部品」


「電子部品?」


「高性能マイコン、FPGA、量子効率高いセンサー」


 鬼塚の表情が少しずつ変わっていく。


「できれば、軍用規格でもいい」


 澪が小さく息を呑んだ。


 でも、必要だから仕方ない。


「あと」


 僕はさらに続ける。


「測定機器」


 白峰が静かに聞き返す。


「具体的には?」


「オシロスコープ。高周波対応の」


「……」


「あとスペクトラムアナライザ。位相観測用に改造する」


 鬼塚が完全に腕を組み直した。


「さらに、電子顕微鏡」


 今度は白峰が沈黙した。


「小型でいい」


 僕は続ける。


「あと、クリーンベンチ」


「……学校の科学部に?」


 白峰が確認する。


「うん」


 当然。


「あと3Dプリンタ。金属対応の」


 澪が思わず口を開きかけて、閉じた。


 まあ、無茶苦茶言ってるのは分かってる。


 でも、必要だし。


「それから」


 僕はさらに続ける。


「専用作業スペース」


「……科学部に?」


「うん。今の部室、ちょっと狭い」


 鬼塚が小さく息を吐いた。


「……それは学校の許可が必要になりますね」


「じゃあ、それもお願い」


 白峰と鬼塚が同時に沈黙した。


 澪が、少し申し訳なさそうな顔をしている。


 でも、白峰はすぐに表情を戻した。


「……他には?」


「自由な研究」


 僕は答える。


「研究テーマの制限なし」


「危険な研究も含めて?」


「うん」


 鬼塚の目が鋭くなる。


「例えば?」


「人工ヴォイド」


 空気が、変わった。


 白峰と鬼塚の視線が同時に僕へ向く。


「……人工、ヴォイド?」


 白峰が低く聞き返す。


「今、理論段階」


 僕は淡々と説明する。


「でも実証したい」


 鬼塚が完全に前に身を乗り出した。


「……それは」


 かなり危険な単語だったらしい。


 でも、ここで隠す意味はない。


「制御可能なヴォイド」


 僕は続ける。


「できれば、対策にも使える」


 沈黙。


 数秒。


 白峰がゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど」


 そして、鬼塚を見る。


 鬼塚も、ゆっくりと頷いた。


 そして――


 白峰が、静かに言った。


「……分かったわ」


 その言葉に、澪が目を見開いた。


「白峰さん……?」


「条件としては、かなり無茶だけど」


 白峰は苦笑した。


「でも、それに見合う価値があるのも確かね」


 鬼塚も、静かに口を開く。


「自衛隊としても……全面的に協力したい」


 ……話が、思ったより早い。


 僕は少しだけ頷いた。


 これで、研究が進む。

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