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まず初めに、晩餐室に入って感じた事は、広い!だった。
私とレノンさんは、ローレンス様の後ろを歩く。
キョロキョロしてはいけないと思いつつも、天井に吊るされている豪奢なシャンデリアや、壁に掛けてある大きな絵画に目がいってしまう。
そしてテーブルに着く前に、レノンさんは給仕をする為、侍従達が並んでいる場所へと行ってしまった。
見ると、国王夫妻と第一王子は来ていなかった。
私達は案内された席に腰掛ける。
ローレンス様の隣なのが、少し救われた。
「アレン、大丈夫か?」
「はい、頑張ります」
そしてしばらくして、第一王子が笑顔でやって来た。
「ローレンス、今日は早いな。
それに、女王も久しぶりだ」
女王と呼ばれて驚いた私は『レオナード殿下、私の事は、名で呼んでいただけないでしょうか?』と訂正した。
すると考えているのか、一瞬眉を寄せて『では、アレンシアだな』と呟いた。
だか、それに目を見張ったローレンス様が口を開く。
「・・・兄上。
呼び捨てはダメです。
家名か敬称を付けて下さい」
「なぜだ?」
「彼女は俺の専属です。
それに、兄上の婚約者を俺が呼び捨てにしたら嫌ではないですか?」
腕を組み考える第一王子に、婚約者がいたとは知らない私は驚いた。
いったい、誰なんだろう・・・?
と、いけない事に好奇心を刺激される。
「・・・そうだな。
では、アレンシア・シルバリーと呼ぶ。
これなら良いだろう?」
「・・・まぁ、いいです。
それより兄上は、エカテリーナ嬢とはどうなんですか?」
第一王子の婚約者はエカテリーナさんと言うらしい。
私は、やっときた本物の恋の話に耳を傾けた。
「どうと言われてもな。
・・・特に何もないが。
それより、父上から騎士達に通達が出たみたいだな」
全くもって、恋の話になりもしなかった事を残念に思う。
だが、そのあとに言った通達とはなんだろうか。
「そうですね。
俺は一人でいいんですが・・・」
「お前を心配しているのだろう?
それぐらいは受け入れるべきだ。
私達は、どうしたってついて行く事が出来ないからな」
第一王子はローレンス様を心配そうに見つめている。
すると、扉が開く音がした。
「皆揃っているな。待たせてしまったか?」
そう言って入って来たのは、第一王子と同じ金髪に、赤い眼をした国王陛下だった。
私は、咄嗟に立ち上がった。
そんな私と陛下の赤眼がかち合う。
その目には、なんの感情も読み取れなかった。
「其方がアーデンヴァルトの次期女王か。
ローレンスから話は聞いている。
名はなんと言う?」
その言葉に、騎士としての挨拶をしてしまった。
「はい!
私は、アレンシア・シルバリーと申します。
特殊部隊所属です」
「そうか。
では、アレンシア。
そんなに硬くならなくていい。
席に座ろうか」
そう言って、陛下と共に着席した直後に声が聞こえた。
「遅くなっちゃったわ!
ごめんなさいね。
アレンさんも来てくれてありがとう。
さぁ、早速始めましょうか」
今日の王妃陛下は可愛らしい黄色いドレスに身を包んでいた。
失礼ながらも、まじまじと見ていると、とても成人した息子が二人もいる母には見えない。
小柄な体躯に、小さな手や顔。
下手したら、私よりも若いのでは?と思ってしまう。
すると、王妃陛下の青い瞳と目が合った。
「アレンさんは、今日も騎士様なのね?」
「はい。ローレンス様の専属騎士ですので」
「・・・そう。
けれど、そろそろ次のステップに進んでもいいんじゃない?
少し、刺激が足りなくてよ?」
「えっと・・・刺激、ですか?」
王妃陛下が言う刺激やステップとは何なのだろうか。
そう思ったのは束の間、ローレンス様が口を挟んだ。
「母上、そういう話はまたの機会にしてくれますか?
今日は父上がアレンに会いたいというから連れてきたのです」
ジッと私を見つめていた王妃陛下の視線が、ローレンス様に移った。
「・・・そうだったわね。
ごめんなさいね、アレンさん。
是非今度、進展があったら聞かせてちょうだい」
なんの進展かは気になるが、聞き返せる空気ではないので『はい』と頷いたのだった。
すると今度は、陛下が口を開いた。
「アレンシアから見て、このハインデルト王国はどうだ?」
「はい。
私はシルバリー家の領地で育ちましたが、皆優しく、生き生きとしていました。
ハインデルト王国を心から好きです。
本当に、とても離れ難くなるほどに・・・」
すると一瞬だが、陛下の瞳が鋭くなった。
「そうか。
だがこの国も、遠い昔は内乱の時代があったのだ。
それを乗り越えてきたから今がある。
・・・アレンシア。
其方はアーデンヴァルトをどうしたい?
ローレンスを連れて行く覚悟を聞かせて欲しい」
その言葉で、先ほどの違和感が分かった。
陛下は、ローレンス様がアーデンヴァルトへ行く事に納得をしていない。
それは親心か国の為なのかは分からないが、私の返答次第では、一緒に行く事が白紙になるだろう。
私だって、ローレンス様を危険な目に遭わせたくはない。
そんな事は、最初から思っている。
けどローレンス様は、それでも私と一緒に居たいと何度も言ってくれた。
・・・だったら私も、望んでいいのかもしれない。
そう思ったら、自然と背筋が伸びた。
隣を見るとローレンス様が不安そうな顔をしている。
初めて見せる表情に、私は今まで彼に何も伝えていない事に気付いた。
「私は、アーデンヴァルトを豊かで平和な国にしたいと考えます。
民達が安心して暮らし、未来を自由に選択できる、そんな国にしたい。
・・・ですが私は、いつもローレンス様に助けられてばかりで、本当に不甲斐ないと思う事ばかりです。
でもそんな私でも、彼が一緒ならばきっとやり遂げられる。
だから、お願い致します。
ローレンス様と一緒に行く事をお許しいただけないでしょうか?
私には、ローレンス様が必要なのです」
私は深々と頭を下げた。
「・・・顔を上げなさい」
その一言に頭を上げると、陛下の赤眼と目が合った。
「其方の気持ちは分かった。
それに、ローレンスの表情を見れば一目瞭然だ。
ここで私がダメだと言おうものなら、二人から目の敵にされてしまう」
そう言って、陛下が見つめた先には王妃陛下とローレンス様がいた。
「ローレンス。
お前は危険を冒してまで、アーデンヴァルトの地を踏む事を後悔しないか?」
「ええ、もちろん後悔なんてありません。
俺が望んでいるのですから」
隣から聞こえるローレンス様の声には、なんの迷いもなかった。
すると、陛下がフッと微笑んだのだ。
「・・・そうか。
アレンシア、ローレンスをよろしく頼む。
そして今から言う言葉は、隣国の王として言わせてもらう。
ハインデルト王国は、正当な王位継承者アレンシア次期女王を支持する。
もちろん、出来る限りの支援はしよう。
ローレンスと共に、太平の世を築く事を願う」
「はい。お言葉、感謝いたします。
この御恩をお返し出来るように、邁進して参ります」
すると隣から視線を感じたので見てみると、ローレンス様が包み込むような眼差しを私に向けていた。
こんな時なのに胸が高鳴る。
すると王妃陛下が呟いたのだ。
「・・・困難を一つ乗り越えた二人・・・。
さぁ、これからどんどん加速して行くわよ!」
と上機嫌に白身魚のソテーを切り分けていた。
そしてその後の晩餐は順調に進み、最後のデザートとなった。
フルーツがゴロゴロと入ったパウンドケーキに、生クリームが添えられている。
一口食べると口の中にほどよい甘さが広がり、鼻からラム酒の香りが抜けた。
・・・うん、美味しい。
私がケーキを堪能していると、王妃陛下が口を開いた。
「レオナードちゃんは、エカテリーナさんとどうなの?」
第一王子をちゃん付けで呼んだ瞬間、ケーキが喉に詰まった。
咳き込みそうになったが、何とか耐える事に成功した私は、そっと聞き耳を立てる。
「母上、アレンシア・シルバリーがいるのです。
敬称は外してください」
「アレンさんは、もういいのよ。
だって、娘のようなものでしょう?
・・・ねぇ?ローレンスちゃん?」
その瞬間咽せた。
ゴホゴホと咳き込む私の背をローレンス様が撫でる。
「母上、いい加減にして下さい。
アレンが苦しそうじゃないですか」
そう言うローレンス様を無視した王妃陛下は、第一王子に視線を向ける。
「で、エカテリーナさんとは、ちゃんと会っているの?」
「ええ、まぁ。
それなりに会ってます」
回復した私は、第一王子の婚約者に対する温度差が低い事に違和感を感じた。
どちらかと言うと、感情豊かな第一王子にしては珍しい。
すると、陛下が口を開く。
「アイリーンが騒ぐから、レオナードも言いたくないのだろう?
宰相からは、良好だと聞いているぞ」
私はローレンス様に聞いてみた。
「宰相とは、婚約者の方との交流にも顔を出すものなのですか?」
「・・・ああ、兄上の婚約者はリーズベルト公爵の娘だからな。
エカテリーナ嬢から話を聞いているのだろう」
・・・そうだったのか。
私達が話している間も王妃陛下と第一王子の会話は続いていたようで、二人の間にも温度差を感じる。
恋の話に興味津々の王妃陛下。
無難な回答を一言でまとめる第一王子。
それに加わるように、陛下が会話をしていた。
すると、ローレンス様が立ち上がった。
「俺とアレンは先に戻ります。
それでは失礼致します」
そう言って、ケーキを堪能していた私の手を取った。
「あの、今日はありがとうございました」
と、あまりの性急さに一言添え、頭を下げる事しか出来ない。
早足で部屋の扉へ向かうが、後ろから『ローレンスちゃん!』と聞こえてくる。
「ローレンス様、呼んでますよ?」
そう声をかけたが、一向に振り向く気配はなく、足が前へと進む。
「いや、いい。
用件は済んだし、これ以上いたら兄上と同じように俺達も巻き込まれるからな」
そうして、使用人が開く扉を抜けたのであった。
部屋へ着いて数分後、遅れてレノンさんが帰ってきた。
その顔には、笑みを湛えている。
「アレンさん、今日はよく頑張りましたね!
とても立派でございました」
だが、そう言ったあとに眉を寄せたのだ。
「ただ、最初の挨拶はいけません。
食事の場で急に立ち上がるなど、あってはならないのです。
ですが、機会はこれからもあります。
一緒に精進して参りましょう」
拳を握りしめるレノンさんは何かに目覚めてしまったようだ。
・・・そして、部屋へ着いてから気になる事がある。
ローレンス様の様子がおかしい。
なんだか、そわそわしているのだ。
チラチラと私を見ては、目が合うと逸らす。
先程まではそうじゃなかったのに、一体何があったのだろうか。
その後は、チラチラ見ては目を逸らすローレンス様と、メガネを取り出し、晩餐の振り返りをするレノンさんに囲まれて過ごしたのであった。




