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次の日、いつも通りに仕事をしている私の前に立ち、レノンさんはメガネを指でクイっと押し上げた。
「アレンさん!
王家の晩餐に出るのに、マナーは必須です。
今のままでは、全くダメと言っても過言ではありません!
しかし、残念な事にあと3日で晩餐会。
付け焼き刃だとしても、しないよりはマシです!
・・・いいですか?
まずは、その男らしい立ち方からなんとかしましょう」
私は、そのメガネを一体どこから持ってきたのかが気になったのだが、グッと堪える。
そして私も、レノンさんに物申した。
「レノンさん、今の私はローレンス様の専属騎士です。
晩餐も騎士として参加するので、女性らしさは求められておりません!」
すると、メガネをこれでもかと、さらに押し上げた。
「貴女は女性です。
男らしさなんて、求められておりません!
それに、無作法を男らしいと履き違えられては困ります!
ローレンス様が恥をかかない為にも、何としてでも正さなくてはなりません!」
・・・そのメガネは、何かのスイッチなのかな?
と、そんな事を考えていたら、私が了承したと思ったのだろう。
そっと、マナーブックを渡してきた。
「時間がある時は、この本に目を通してください。
必要最低限の事のみ、まとめてみました。
迫り来る晩餐会を、これで乗り切るのです!
晩餐の席では、もちろん私もサポートさせて頂きますので、大船に乗った気持ちでいて下さい」
・・・なんだろう。
分かんないけど、感動してきた。
「レノンさん・・・。
・・・私の為に、わざわざありがとうございます」
すると、またメガネをクイっとさせ『全ては、ローレンス様の為です』と得意げな顔している。
・・・まぁ、レノンさんならそうですよね。
・・・はぁ。さっきの感動を返して欲しい。
と、心の中で呟いたのであった。
そんな私達のやり取りを見ていたローレンス様がレノンさんを呼んだ。
するとメガネを外し、にこやかにローレンス様のもとへと行ってしまったのだ。
・・・やっぱり。
そのメガネは教育する為のオンオフスイッチなのだと認識したのだった。
それからマナーブックと向き合う事3日。
とうとう晩餐の日がやってきた。
「アレン、行けるか?」
「はい。大丈夫です」
晩餐室は距離があるようで、開始時間の15分前に部屋を出た。
3人で廊下を歩くなか、レノンさんが口を開く。
「アレンさん?本に目を通しましたか?」
「もちろんです!」
私の返答を聞いたレノンさんは、どこからともなく例のメガネを取り出してかけた。
そして、フレームを指でクイっと押し上げる。
「では、問題です。
カトラリーを落とした時の対処法は?」
「はい。
自分では拾わず、レノンさんを見つめる事です!」
「そうです!
ですが、これは初歩の初歩。
では、次に参ります!」
と、こうして長い廊下をマナー知識の確認に当てたのだった。
そして、最後の角を曲がった時にローレンス様が口を開いた。
「2人とも、そろそろ着く。
アレンはいつも通りで大丈夫だ。
レノン、俺よりアレンを見てやってくれ」
私達は頷き、扉を開けてくれた使用人に軽く会釈をした私は、そのまま晩餐室へと入ったのであった。
ヴィンセル視点
俺はアレンと別れたあと、団長室の扉を開いた。
「なんだ?・・・ヴィンセルか。
ノックぐらいしてくれ。
で、緊急か?」
「叔父上!先日の話、オレも立候補しようと思う」
その言葉に驚いた叔父上は、勢いよく立ち上がった。
「はぁ!?
お前、家はどーすんだ!?」
「・・・ちゃんと帰ってくるよ。
けど俺には、これくらいしかしてやれる事がないんだ」
ーーー遡る事数日前ーーー
特殊部隊室には数少ない特殊部員が集められていた。
そして、皆の前で副団長が口を開く。
「実はな、ローレンス殿下がアーデンヴァルトへと行く事が決まった。
アーデンヴァルトの次期女王と共に、王位を奪還する為に立ち上がられたのだ。
皆も知っている通り、アーデンヴァルトの情勢は最悪と言ってもいい。
我がハインデルト王国も出来るだけ支援すると、国王より通達があった。
よって、これは強制ではない。
希望した者のみローレンス殿下とアーデンヴァルトへ向かってもらう。
・・・これは決して、生易しいものではないだろう。
覚悟がある者は、私か、団長に声を掛けてくれ。
それと、特殊部員は知っての通り人員が少ない。
そこで、定員は1名までとする。
質問がある者は個別に受け付けるのでいつでも来い。
では、今日も一日、気合いを入れて頑張るように」
こうして、この通達は騎士全部隊に告げられた。
隣国のアーデンヴァルトが平和になれば、魔力を持つ者達の内乱に巻き込まれる可能性もなくなる。
だが一番は、武功を挙げて出世できるかもしれない千載一遇のチャンスでもあったのだ。
* * * * *
「てかさ、叔父上はまだ若いんだから結婚して子を儲ければいいじゃないか。
そうすれば、オレが継がなくてもいいだろ?」
「お前はまた、勝手な事を言うんじゃない!
家は長子が継ぐのが決まりだろうが。
それに、俺は今の生活を変える気はない」
頑なな叔父上を見ると、何か理由があるのかもしれない。
だからオレは、前から気になっていた事を聞いた。
「・・・気になってたんだけどさ。
叔父上は、アレンを好きなの?」
「・・・はぁ?ったく。
若い奴はすぐ、ほれたはれたで騒ぐからな。
あのな、俺はアイツを異性として見た事はない。
だが・・・まぁ、なんだ?
・・・妹ってこんな感じか?とは思っている。
だから、お前の言う好きとは違う。
期待に応えてやれなくて悪いな」
そう言う叔父上からは、誤魔化そうとする気配を感じられなかった。
「・・・じゃあさ、早く誰かと結婚しなよ」
「お前、話聞いてた?」
「・・・うん、まぁね。
なぁ叔父上、お願いだ。
オレに一年くれないか?
ちゃんと戻ると約束するよ」
オレは頭を深く下げた。
これを逃したら、もうアレンとは会えない気がしたからだ。
頭の上で叔父上のため息が聞こえる。
「・・・どんな決断をしたとしても、応援してやるって、前に言ったからな。
だから、長くても2年だ。
お前には、お前のやるべき事を果たす義務がある。
・・・分かったか?」
「うん・・・ありがとう。
けど、父上はどうしよう・・・」
すると叔父上は顔を上げた俺の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「な!?なにすんだよ!」
「お前は一人前の男になったんじゃないのか?
だったら、そんなガキくせえ事言ってないで、自分でなんとかするんだな。
・・・もし、できないって言うんなら、この俺が掛け合ってやってもいいぞ?」
と、ニヤニヤしながら揶揄っている。
俺の頭に手を置いている叔父上の腕を振り払った。
「いいよ!自分でなんとかするから!
絶対に父上を説得してみせるから、特殊部隊はオレで決定ね!」
「あーそーかい。
じゃあ、男なら最後までビシッと決めてみせろ!
・・・まぁ兄貴なら、お前の決意をきっと分かってくれると思うがな」
そう言うと穏やかに微笑んだのだった。
いつもは、ニヒルな笑みや酔った時の馬鹿笑い、社交界での作り笑いしか見た事がなかった俺は驚いた。
もしかしたら、なんだかんだで叔父上は俺の事を思ってくれているのかもしれない。
そう思ったら、やっぱり嬉しかった。
「叔父上!
オレ、精一杯頑張るから!だから、悔いのない様にするよ」
すると、いつものニヒルな笑みに戻ったのだ。
「・・・そうか。
じゃあヴィンセル?
早速で悪いが、コレを調べてきてくれ。
最近は、小さな案件だが結構あって困っていたんだ。
まさか、お前が悔いのない様に精一杯頑張ってくれるなんてな!
いやぁ、助かった」
と仕事をたんまり渡してきた。
その量に目を剝く。
「・・・は?
オレは、これからの事を言ったんだよ。
それは仕事の事じゃない」
そう言うオレを叔父上は鼻で笑った。
「お前こそ何言ってんだ?
特殊部隊もマクガディ家もアレンと一緒に行く為に親を説得させる事も、すべてがお前のこれからの事だろうが。
仕事だけ別なんて、お前の理屈が通用するわけないだろ?」
そして先ほどと同じく、穏やかな微笑みを浮かべて呟いた。
「・・・さぁ、2年もいなくなるんだ。
たんまり働いてもらおうか?」
そう言い終わる前に、笑みを深めた叔父上を見た瞬間に気付いた。
・・・これは、仕組まれたのかもしれない。と。
けど、時すでに遅し。
こうしてヴィンセルは、ジェラルドにこき使われる日々を過ごすのであった。




