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私はあれから毎日魔法の練習をしている。
最近は、なんとなくコツを掴めたようで、疲労困憊になる事も減ってきた。
そして今日は、朝からヴィンセルに会いに特殊部隊室へと向かっている。
いつもの様に廊下の角を曲がると、たんぽぽ色の髪の毛が目に入った。
その後ろ姿は、日に照らされてキラキラと輝いている。
そして見覚えのあるその人は振り返ったのだ。
予期せぬ出会いに驚いた私は、足が縫い付けられた様に動かなくなった。
視線は彼から離せない。
・・・なんで、ここにビルが?
騎馬隊は別棟のはずだ。
何か話さなくてはと思うのに、なかなか声が出ない喉を憎らしく思った。
ただ、二人して見つめ合う事数秒。
この空気に居た堪れなくなってきた時に、ビルが頭をポリポリと掻きながら『この前は言い過ぎた。・・・悪い』と呟いた。
その言葉に瞬時に反応する。
「ビルが謝ることじゃない。
悪いのは私だ。
話せず、嘘をついていた事を本当に申し訳ないと思っている」
私は深く頭を下げた。
「・・・お前が嘘をついていた事に、友と思われていないんじゃないかと思ったんだ。
けど、ゲイルに言われたんだよ。
今も昔も、アレンはアレンのままだって。
だから俺は、それを信じる事にした。
・・・今日はそれを伝えたくて、ここまで来たんだ」
ビルの言葉が心の中にスッと入ってくる。
嬉しくて、涙が出そうなぐらいだ。
私は一度、歯をぐっと食いしばってから笑顔で答えた。
「ビル、ありがとう。
私はここで、みんなと出会えた事が何よりの宝だと思っている。
・・・これからも、友達でいてくれる?」
すると白い歯を見せ、ははっと笑い少し釣り上がっている目を細めて『当たり前だろ!俺達はいつまでも友達だ』と私の肩を軽く叩いた。
頷く私を見たビルは『仕事中に悪かったな。それと、送別会楽しみにしてろよ!』と言い置き、手を振って去って行った。
私は、その後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあとに廊下の窓から外を眺めた。
空は澄み渡り、白く大きな入道雲が悠然と流れている。
訓練場では、重騎士が相変わらず重装備を身につけて訓練をしていた。
夏も近づき蒸し暑い中、皆一様に頑張っている。
きっと、この中にゲイルもいるのだろう。
そして私は小さく呟いた。
「ゲイル、色々とありがとう」
そうして特殊部隊室への扉を開けたのだった。
中を見回すとヴィンセルは書類仕事をしていた。
「ヴィンセル、おはよう」
「おはよう。こんな時間に来るなんて珍しいね」
ヴィンセルは書類から顔を上げた。
「うん。
引き継ぎをするのを忘れていたから、今日どこかで時間をもらえないかと思って朝一に来たんだ」
「・・・引き継ぎか。
最近抱えてる案件はあるの?」
「いいや、ローレンス様の専属以外これといってないけど、今のうちに片付けたい事とかあれば、一緒に行くよ」
するとヴィンセルは右手に持っていたペンを回しながら考えているようだ。
「オレも特にないかな。
それより、ローレンス様の出発はいつだ?」
「・・・えっと、それは何の出発?」
「アーデンヴァルトへ発つ日だよ」
その言葉を不思議に思った。
私からは、正式に許可が出たとは話していないからだ。
「10月だけど・・・」
すると、ヴィンセルが回していたペンがピタリと止まる。
「分かった。
オレもやらなきゃいけない事ができた。
今日はもういいか?」
そう言って、席を立つヴィンセルに面食らった。
「あ、うん」
私の言葉を聞くや否や、歩き出したヴィンセルの背中を見つめていると急に振り向いた。
「そうだ!送別会はビルも参加するって」
そう言って微笑んだあと、団長室へと行ってしまったのだった。
ヴィンセルがいない今、ここにいても仕方ないので、ローレンス様の執務室へと戻ったのである。
「ただいま戻りました」
レノンさんが書類を運び、その書類をローレンス様が捌いていた。
「おかえり、アレン。随分と早いな」
「はい。これと言って、引き継ぎがなかったのです」
そう伝えた私は、いつもの定位置についた。
黙々と仕事をこなすローレンス様を視界に捉えながら立っていると、後ろの扉からノック音がした。
私は扉を開けると『ローレンス様、お忙しいなか申し訳ありません。レオナード様の使いで参りました』と、そう言った侍従は、そのまま中へと入り、ローレンス様に手紙を渡した。
「それでは失礼致します」
ものの数秒で退出して行く侍従に目を向けていると、ローレンス様が手紙を開く音が聞こえた。
私は扉を閉めて、姿勢を正す。
「アレン、晩餐の日取りが決まった。
・・・急だが、3日後になる」
「はい、分かりました。
・・・私は騎士の服装でいいのでしょうか?」
「ああ、それは問題ない」
その会話を聞いていたレノンさんが不思議そうに口を開いた。
「なぜアレンさんが晩餐に出席するのですか?」
そう言えば、レノンさんには私が女である事もアーデンヴァルトの前女王の娘だという事も何も伝えてない。
・・・そして、ローレンス様がアーデンヴァルトへ一緒に行くという事も、レノンさんの顔を見る限り、きっと知らないのだろう。
そんなレノンさんの素朴な疑問に答えたのはローレンス様だった。
「そうだ、レノン。
俺はアーデンヴァルトへと行く事になった。
出発は10月になる。
それまでに、俺と一緒に行くか残るかを決めてくれ」
それを聞いたレノンさんはポカンと口を開けている。
いくらなんでも、単刀直入すぎて意味が分からないのだろう。
「・・・あの、ローレンス様は、なぜアーデンヴァルトへ?」
「話すと長いから後で伝える」
そう言い置き、仕事へと戻ったのであった。
そして一段落したあと『話してくるからアレンはここにいてくれ』と言い残して、二人で隣の部屋へ行ってしまった。
私の事なのだから、自分が居てもいいのではないかと思いつつ、待つ事10分。
部屋から出て来たレノンさんの私を見る目から憐れみを感じるのは、なぜだ?
すると、そっと口を開いた。
「アレンさんが、まさか女性とは・・・全く分からないものですね。
・・・そして今までの行動を見る限り、アレンさんはローレンス様に釣り合っておりません!
ですが、安心してください!
私の目が黒いうちに正せるように一緒に精進して参りましょう!
もちろん、私もアーデンヴァルトへと参りますから、ご安心下さい」
何かにやる気を見出したレノンさんの圧に押された私は『あ、はい。よろしくお願いします』としか返せなかった。
しかし、ローレンス様に釣り合わないのは分かるが、何を精進するのだろうか・・・?
そしてこの時以降、レノンの厳しい淑女教育が始まるとは露ほどにも知らないアレンシアだった。
しかもそれは、アーデンヴァルトへ行ってからは更に熱を増し、ついにレノンはアレンシアの教育係にまで登り詰めるのである。




