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「みんな、少し聞いていい?
魔法って、どうやって使うの?」
休日の私は子供達の部屋へと来ていた。
今日の夕方頃、イメルダさんに教えてもらおうと思っているのだが、コツなどがあれば前もって知りたいと思い、聞いてみたのである。
すると、ルーナが口を開いた。
「魔法はね、ギュッてやって、パッとやると出てくるんだよ」
身振り手振りで教えてくれるのだが、全く分からない。
「えっと、手に力を入れるのかな?」
「違うよ!心をギュッとするの!」
そんな私達のやり取りを見ていたリオンが、本から目を離して口を挟んだ。
「ルーナ、それじゃ分からないよ。
えっとね、アレンさん。
身体の中にある、散らばっている魔力を集めてから一気に押し出すんだよ。
例えば、怖かったり、緊張したりすると心臓がドキドキするでしょ?
魔法を使う時は、そのドキドキしている状態になるんだ」
「魔法って、すぐに使えるものなのかな?」
「コツを掴めばすぐだよ。
ちょっと見てて!」
そう言って、リオンは手の親指と人差し指を10センチほどに広げて見せた。
「今は魔力を集めてないんだけど、これから集めるよ」
すると、指の間にバチバチと電流が通ったのだ。
ジッと指の間を見つめる私に、リオンは話し続けた。
「魔力を集めると心臓がドキドキしてくるから、それを押し出すようにするんだ。
・・・けどさ、何でそんな事を知りたいの?」
私はリオンの手から目を離し彼を見つめた。
「・・・少し気になってね。
リオンもルーナもありがとう。
とても参考になったよ。
時間が押しちゃったけど、早速始めようか」
その後はいつも通り計算や文字を教えたのだった。
それからは、自分の部屋へと帰る途中、厩舎が見えた。
・・・ビルはどうしているかな?
そう思うと、一瞬魔力が揺ぐ。
(いけない。平常心を保たないと)
私は厩舎をしばらく眺めてから歩き出したのだった。
部屋へ着くと、私が開いた扉の音でローレンス様が顔を上げた。
「アレン、おかえり。今日は早いんだな」
「ただいま戻りました。
はい。これからイメルダさんに教えてもらおうと思いまして」
するとローレンス様は『そうか。では、頑張ると良い』と笑顔で頷いてくれた。
私は自室へと戻り、魔石を起動させる。
しばらく待つとイメルダさんの姿が映し出された。
「アレンシア様、今日は、どうぞよろしくお願い致します」
慈愛のこもった眼差しで見つめられると、なんだか居心地が悪くなる。
「・・・はい。
イメルダさんもお忙しいのに、お時間を頂きありがとうございます」
「とんでもない事でございます。
では早速、始めましょうか」
そうして始まった魔法練習会。
イメルダさんの話は、リオンが言っている事と大体同じだった。
けど、何十年と魔法を使いこなす彼女の方が、より分かりやすく指導してくれた。
「アレンシア様?
目を閉じ、魔力を探るのです。
身体の中にある熱を感じますか?」
「はい」
「その熱を少しずつ心臓へと持って行くのです。
・・・徐々に鼓動が速くなり、心音を感じるはずです」
ドキ・ドキ・ドキ・ドキドキ・・・
音が響く。
すると、頭の中に大中小の火の映像が浮かんだ。
「はい、そこまでです」
イメルダさんの言葉で頭の中に浮かんだ火は、一瞬の内に消えた。
「アレンシア様?
何か見えませんでしたか?」
「はい。
大きさの違う火が見えました」
そう答えた私を見てイメルダさんは『大変、結構です』と口角を上げた。
「アレンシア様の適性は火。
大小の様々な火は、魔法を使う時の威力を意味します。
小さい物を選べば、暖炉に火を点ける程度の魔法が、そして大きい物を選べば、爆発を起こす事もできるでしょう。
これは血筋、経験によって選べる威力は増減します。
アレンシア様は、誰よりも多い魔力の持ち主です。
練習をして行けば、もっと大きな火が出現するはずです」
その話を聞いて、魔法の使い方に対するイメージが、ガラッと変わった。
自分の思い描いた魔法を念じて使うものだと勝手に思っていたが、まさか、頭に浮かんだ物を選択するとは思いもしなかったのだ。
私は自分の手を握りしめていると、イメルダさんが続ける。
「では今の要領で、手の平に火を乗せる想像しながら一番小さな火を選んでください。
コツは、徐々に魔力を手から押し出す感じです」
その言葉を基に、何回かチャレンジしてみたのだが、そんな簡単にはいかなかった。
魔力の扱いに慣れていない私は、すぐに疲れてしまうのである。
「アレンシア様。
今日はここまでと致しましょうか?
魔力の探り方が分かれば、後は練習あるのみです。
お時間がある時には、是非試してみて下さい」
私は時計に目をやると、始めてから3時間ほど経っていた。
「イメルダさん。
本日は、ありがとうございました」
そう伝えると、イメルダはニコリと微笑み『また、いつでもご連絡ください』と言い置き、魔石の映像が消えた。
疲れた私は少し横になった。
魔力をしっかりと感じられるようになった事に嬉しくなった私は、横になって休んでいるのにも関わらず、魔力を意識してしまう。
・・・あと少しで出せそうなんだけどな。
私は横になっていた体を起こした。
肩の力を抜き、もう一度集中する。
先程と同じく魔力を動かして行くと徐々に心拍数が上がるのが分かる。
そして、脳内に火が浮かんだ。
右手のひらを上に向けて一番小さな火を選ぶ。
・・・さぁ、ここからだ。
私は、心臓に集めた魔力を右手の平へと慎重に動かした。
肩を伝い、二の腕、腕へと意識を向け押し出す。
その時、小さな赤い火が出たのだ。
たった数秒であったが、ちゃんと確認できたのである。
けど、頭がクラクラする。
心臓の鼓動は、バクバクと大きな音を鳴らしていた。
・・・この感覚を私は知っている。
ダントン伯爵で雇われていた男が燃えた時と同じだ。
あれは人体自然発火ではない。
私がした事なのだと気付いた。
混乱の最中、無意識で魔法を使っていたのだ。
人を殺めてしまった事実に、居ても立っても居られなくなった私は、部屋を飛び出した。
すると、レノンさんが目の前にいたのだ。
「アレンさん?
顔色がすぐれない様ですが、どうしました?」
「あ、いえ。大丈夫です」
そのまま、レノンさんの前を通り過ぎ、扉の取っ手に手を掛けた時、もう片方の腕を取られたのだ。
「アレン、何があった?
・・・レノン。
悪いが、お茶の準備を頼む」
ローレンス様の言葉にレノンさんは頷き、部屋の外へと行ってしまった。
「顔色が悪い。一体どうしたんだ?」
私はローレンス様を見つめた。
「男が燃えた事を覚えてますか?」
「ああ、ダントンのところのだろう?」
「はい。
・・・それ、私がやったんです」
「うん?どういう事だ?」
と眉を寄せるローレンス様。
そして私の腕を掴んだまま、いつものソファへと連れて行かれた。
「今の言い方だと、アレンが燃やしたって事か?」
「・・・はい。
私が無意識に魔法を使ったせいで、あの人は・・・」
「・・・なるほど。
・・・だが、過ぎた事を考えたって仕方ない。
それがあったから助かった命もある。
そして、これからどうするのかが、大事なんじゃないか?」
私は自分の手を見つめた。
すると、ローレンス様は私の手に自分の手を重ねて話し続ける。
「それにアーデンヴァルトへ行けば、嫌でも戦場となる。
戦い、そして人を殺めなくてはならない事もあるだろう。
俺達がこれから向かう場所は、そういう所だ。
そして王位を奪還し、国を平定する。
豊かな国、アーデンヴァルトを取り戻すんだ。
・・・近い将来、子供達を親元へ帰したいのだろう?」
その言葉にハッとした。
私には、成さなくてはならない事がある。
もちろん、男を殺めた事の罪悪感は消えないが、それを糧にするぐらいでないと、これから先の道を歩めない。
私はローレンス様の手を握りしめた。
「・・・そうですね。
子供達に平和で豊かなアーデンヴァルトを見せてやりたい。
ローレンス様、ありがとうございます」
そうして私は、また一歩前へ踏み出したのだ。




