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灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


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ビル視点

アレンにずっと騙されていた。

その事実が、俺の心に重くのしかかる。


共同スペースから帰って来た俺は、部屋で一人、その事実と向き合っていた。


ゲイルやアルト、ヴィンセルやアレン。

俺にとっては、かけがえのない仲間であり友だ。


・・・そう思っているのに、揺らいでしまう。


それは(ひとえ)に、昔の出来事を思い出してしまうからだ。


俺はこの通り、口は悪いし、態度もでかい。

そんなのは、人に言われなくたって知っている。


昔の俺は、地元での生活をそれなりに楽しくやっていたと思っていたんだ。


だが、それが間違いだと気付いたのは、この寮へやって来る前日の事だった———


俺は、曲がりなりにも子爵家の三男坊だ。

小さな町を管理している俺の家は、貴族といっても金はない。

だから、社交界や貴族の集まりには、ほとんど顔を出す事はなかった。

そんな俺の友は、町の子供達だったんだ。


この時の俺は、貴族としてではなく、俺自身をみんなは見てくれている。

俺を好ましいと思ってくれているから、一緒にいてくれる。

そう感じていた俺は、貴族だろうが平民だろうが関係ないと思っていたんだ。


そんな俺が騎士の試験に合格した日、友はお祝いをしてくれた。

・・・本当に嬉しかったのを今でも覚えている。


そして旅立つ日の前日に、当分帰って来られないからと、みんなの所へ行ったんだ。

すると・・・


「やっと、ビルがいなくなるな!」


「ははっ!これで、俺達も自由だ!」


「本当だよ!あいつ、貴族だからって偉そうに俺らに指図してさ。

こっちは仕方なく付き合ってやってるって分からないのかね?」


友と思っていた者達から出る言葉に、最初は悪い夢を見ているのかと思った。

呆然とその場に立ち尽くす俺を置いて、友は(なお)も言葉を連ねて去って行った。


俺は右手で頬をつねる。


・・・いたい。

これは、夢ではない。


そう知った時に、涙が出た。


全て、俺の勘違い。

友なんて、初めからいなかったのだ。


そう思ったら、もうこの場所に用はない。

俺は体を(ひるがえ)し、家までの道をひた走った。


それからの俺は、王都で心機一転頑張る事にしたんだ。

貴族しかなれない騎士という職種に、今のままの俺の態度では、友ができないかもしれない。

けど、本当の自分を出せない人を友と呼べるのだろうか。


そう考えながら馬車の窓から外を眺めた。


「次は、王都になります。

終着駅となりますので、お忘れ物などないようにお願いします」


御者の声が車内に響き渡る。


俺は、身の回りを確認してからトランクを持った。


停車駅に着き、運賃を払っていたら、目の前を真っ赤な髪の男の子が通った。


赤い髪とは珍しい。

俺は今まで、赤茶しか見た事がないからだ。


・・・やっぱり、王都には色々な人が集まって来るんだな。


そんな彼を見ると、大きなボストンバッグを持っている。


もしかしたら彼も、これから新しい生活を始めるのかもしれない。

そう思うと、俺だけではないとやる気に満ちた。

くよくよ考えたって仕方がない。

当たって砕けろだ!


そうして俺は、新生活への第一歩を踏み出したのだ。


王都が初めての俺は、寄り道をしながら寮を目指した。

俺の町とは比べものにならないほど、物や人が多い。

田舎者の俺は、人波に流されてしまう事もしばしばあった。


けど、なんとか寮にたどり着き、門の前へ立つ。


ここが今日から俺の家となる。


両開きの門には葡萄の絵柄が描かれている。

その奥にある青い屋根の家を眺めていると、玄関ドアが開いた。


木製のドアから出て来たのは、さっき見かけた男の子だったのだ。


「・・・あれ?君もここの入寮者?」


「ああ。今日から入るビルだ」


「私はアレン。これからよろしくね」


これが俺とアレンの出会いだった。


その後は、ゲイルやアルトと出会い、本当の自分をさらけ出しても、みんな俺を敬遠しなかった。

そしてしばらくして、アレンと入れ違いにやって来たヴィンセル。


俺は初めて、本当の友が出来たと思ったんだ。


・・・なのに、アレンは嘘をついていた。


先ほどの事を思い出す。


俺達の事を友と思っているから話したと言ったその言葉に、また疑問が浮かぶんだ。


・・・じゃあ、なんで最初から言ってくれなかったんだ?と。


女が騎士の仕事をするなんて、到底考えられない。

今までアレンが過ごして来た日々は、生易しいものではなかったはずだ。


きっと、悩みだってあっただろう。


それなのに、誰にも相談しなかった。

その事が、友として思われていないのではないか、と勘ぐってしまうんだ。


騎士としての誇りなんて、建前に過ぎない。

本音は、一緒に頑張って来た事も、今までの楽しい思い出も、嘘ではないと思いたかったんだ・・・。


俺は手元の時計に目をやった。

時間は既に、9時を回っている。

その時、ノック音が響いた。


「ビル?入ってもいい?」


「・・・ああ」


すると、ゲイルが顔を出した。


「・・・アレンの事、許せない?」


「許す許さないとかじゃないんだ。

・・・確かに、女ってのは驚いたが今となってはどうでもいい。

ただ、なんで相談してくれなかったのかが納得できない。

なぁゲイル、友と言うのであれば、話せるよな?」


ゲイルはそんな俺を見て『うーん、そうだね』と呟いてから話し始めた。


「ねぇビル?友達だから話せない事だってあるよ。

・・・それに、なんでも話す事が友達って訳ではないと思う。

友達だから心配かけたくない、巻き込みたくない。

気遣われたくない、対等でいたい。

・・・色々な気持ちが存在すると思うんだ。

ビルはさ、もしアレンが最初から女性なんだって言っていたら、どうしてた?」


そう言われて考えてみる。

出会ってすぐに言われたら、きっと関わっていないと思う。

そう行き着いた事に、ばつの悪さを感じた。


「・・・最初に言われていたら、関わってないな」


「うん、そうだよね。

それとさ、もしビルがアレンの立場だったとして、友達になり仲を深めてから自分の最大の秘密を知られる事をどう思う?

・・・その秘密は、友達である事がなくなってしまうかもしれない重大な事だよ」


そう言われると、言い出せないかもしれない・・・。


「なぁ、ゲイル?

やけにアレンの肩を持つ言い方をしてないか?」


するとゲイルは『あれ?気付いた?』と言って笑った。

馬鹿にされたようでイラついた俺は『は?お前、どういう事だよ!』と食ってかかった。


「ははっ、ごめんね。

僕はさ、ビルの気持ちもアレンの気持ちも分かるんだ。

けどそれよりも、もっと大事な事があるんだよ。

僕達はたまたま同じ寮になり、馬も合って仲良くなった。

これってさ、すごい事だと思わない?

だからこの縁をこんな事でなくす訳にはいかないんだ」


「・・・こんな事ってなぁ」


「だって、そうでしょ?

ビル?アレンは何も変わってないよ。

最初から、僕達が知っているアレンのままだ」


ゲイルが真剣に見つめてくる。

出会った頃とは違う、確かな絆で結ばれた遠慮のない関係に、俺はフッと頬が緩んだ。


「・・・そうかもな。

アレンにも、酷い言い方をしちまった」


「うん。

けど、そう思うのなら謝ればいい。

僕達は友達なんだ。

どちらかが我慢する事なんてないんだよ」


そう言って、いつもの笑みを浮かべたのだった。


「・・・なぁ?

思ったんだけどさ、ゲイルは見た目や口調は優しいのに、言いたい事は言うだろう?

そのギャップはなんなんだ?」


「・・・え?そうかな?

けどさ、それはお互い様だよ。

ビルは口悪いけど、面倒見いいでしょ?」


その言葉を聞いた時、自然と口角が上がった。


「・・・ははっ。

俺って面倒見が良いんだ?

てかさ、今の聞くと、俺の方が良いギャップに聞こえないか?」


俺がふざけて言うと、ゲイルは目を見開いた。


「はぁ!?何言ってんの?

僕が一生懸命に立ち回ってるのに、そんな事言う?

もっと、感謝してほしいぐらいだよ!」


そう言って、口を尖らせるゲイルを見て思う。


・・・ああ、友っていいな。

地元の奴らとは、こんな風に言い合った事なんてなかった。

今思うと、俺の一方通行だったんだな。


「ごめんごめん、冗談だ。

もちろん、感謝してるよ。

・・・お前達が友で仲間である事を、俺は誇りに思う」


「ビルがそんな事言うなんて・・・明日は雪かもね。

・・・あ!それとさ、今度アレンの送別会するから!

もちろん、ビルも手伝ってね」


「・・・ああ、分かった。

それとさ・・・ゲイル、今日はありがとうな」


するといつもの笑みで『それはお互い様だよ』と言い置き、手を振って部屋から出て行った。


【友は宝なり】

とは、本当によく言ったものだ。


俺はここに来て、本当の宝物を見つける事ができた。

だからこれから先も、この宝物を精一杯守り続けなければならない。


手元の時計に目をやると既に10時を回っていた。


さぁ、明日からまた頑張ろう。

アレンにも、ちゃんと謝らなきゃな。


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