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カチャカチャとカトラリーの音が聞こえる。
私達は他愛ない話をしていた。
いつ切り出していいのかと迷っていた時に、ヴィンセルが口を開いた。
「今日アレンが来たのは、最初に言ったけど、話す事があるからなんだ。
・・・アレン、話せる?」
助け舟を出された私は頷き、深呼吸をしてから話し始めた。
「今日は時間をくれてありがとう。
・・・みんなにずっと言えなかった事があるんだ。
私は、本当は・・・男じゃないんだ」
その瞬間、しんとなったのは束の間『知ってるよ』と聞こえてきた。
私は顔を上げると、それを言ったのはアルトだった。
「・・・え!?
なんで、知ってるの?」
まさか知っている人がいるとは思わなかった私は、話の出鼻を挫かれてしまった。
「え?
だって、構造が全然違うでしょ?」
・・・こうぞう?
なんだか分からない私を余所に、アルトはこともなげに言った。
「人体構造の本に書いてあったから、すぐに分かったよ」
って事は・・・最初から知っていたという事だ。
「・・・なんで、言わなかったの?」
すると、きょとんとした顔をして答えた。
「性別の違いって、そんなに重要な事かな?
僕にはそう感じられなかったから、言う必要がなかったんだ」
だが、それにビルが口を開く。
「いやそれ、だいぶ違うだろ?
アレンが女だったんだぞ!
・・・なぁ?
なんで隠してまで騎士になったんだ?」
眉を寄せて聞き返すビルの口調は怒っていた。
「家の事情で弟の学費を稼ぐ為に騎士になったんだ」
「その言い方だと、金の為に騎士になったって事だよな?
それは、騎士に憧れてとか、功績を上げたいとか、国の為に戦いたいとか・・・。
俺が目指している騎士としての誇りは、お前には無いって事か?」
そう言われて、即座に返せなかった。
確かに、私のモチベーションはマイケルだった。
けど、騎士として過ごすうちに、この仕事が楽しいと思っていたのも事実だ。
ビルが言うような誇りではないが、私は私なりに、騎士としての仕事に向き合ってきた事は嘘ではない。
「・・・確かに、最初はお金だった。
けど、みんなと出会い、騎士として過ごしていくうちに、この仕事が楽しいと、続けたいと思ったんだ。
私のは、ビルの言う誇りではないかもしれない。
だが、私なりに真剣に向き合ってきたのは事実だ」
ビルと私の間に嫌な空気が流れていると、ゲイルが口を開いた。
「・・・ビルもさ、騎士になる動機って、人それぞれだと思うんだ。
僕やアルト、ヴィンセルだってきっと違う。
だから、そんなにアレンを責めるのも、どうかな?
・・・それと、アレンはなんで今話そうと思ったの?」
私はテーブルの上に出してある両手を握り直してから話し始めた。
「ゲイル、ありがとう。
・・・私はシルバリー家の養女で名はアレンシアと言う。
みんなに隠して、騙していた事を本当に申し訳ないと思っている。
・・・本当に、ごめん」
私はみんなに頭を下げた。
「そして先日、実家に帰った時に、私をシルバリー家に紹介した人が訪ねて来たんだ。
その紹介人から、私はアーデンヴァルトの前女王の娘であり、次期女王であると言われた。
・・・そして、このハインデルト王国に居られるのもあと僅かとも。
・・・だから、みんなにも話さなくてはと思った。
私は・・・みんなを友達だと思っているし、大事な仲間でもあるから」
するとアルトから声がした。
「へぇ、女王様なんだ!
それは、知らなかったな!
ヴィンセルは知っていたの?」
今までの会話を静かに聞いていたヴィンセルが口を開く。
「オレも先日聞いたばかりだ。
確かに驚いたけど、一番驚いたのはアレンであり、これからの事に不安だってあるはずだ。
だから俺は、俺にできる事をしようと思ってるんだよ」
そう言ってくれるヴィンセルに嬉しさを感じていると、ビルが口を開いた。
「・・・じゃあアレンは、アーデンヴァルトへ行って、俺達とは二度と会えないって事か?」
「・・・うん」
するとビルは席から立ち上がった。
「俺、アレンが女って事も、女王って事も、すぐには納得できないんだ。
もちろん、嘘をつかれていた事には思う事がある。
・・・悪いけど、今日は席外すわ」
そう言って、共同スペースを出て行った。
扉がパタンと閉まったのを見計らってからゲイルが呟いた。
「ビルは人一倍面倒見が良いし、みんなに対して思い入れがあるんだよ。
そんなアレンに隠し事をされていた事実を受け止めきれないんだろうね。
だから、ビルを悪く思わないで」
「悪いのは私だ。
そしてずるい私は、謝れば許してもらえると心のどこかで思っていたのかもしれない。
・・・本当にどうしようもないな、私は」
みんなを騙していたのは私。
針のむしろになってもいいと、決めていたはずだ。
なのに優しいみんななら、きっと許してくれる。
男であった時の自分と同じように接してくれると、厚かましくも思っていたんだ。
「僕もアレンが女性であり、女王様だなんて本当に驚いたよ。
けどさ、アレンだって何も言わずに僕達の前から去る事も出来たんだ。
だから僕は、責められる覚悟を持って話してくれたアレンの事を友達だと思っているよ」
そう言って、薄茶色い瞳を細めているゲイルに、私も『ありがとう』と微笑んだのであった。
「ボクはずっと知ってたからね、今更どうこうないよ。
けど、アレンはいつ王都から発つの?」
「二ヶ月半後には、実家に帰ろうと思っている」
「じゃあ今日とは別に、送別会が出来るといいね。
こういうの、ゲイルが得意だからセッティングしてくれるよ」
「もちろんアレンの為だからしっかりやるよ!
けどさ、毎回僕だから、今回はアルトも手伝ってよ」
ゲイルの思ってもみない提案に、アルトは苦肉の策を取った。
「ヴィンセルがやるならボクもやるよ!」
その言葉に、みんながヴィンセルを見つめる。
「オレ?
・・・うん。もちろん、いいけど」
「じゃあ、三人でアレンに喜んでもらえる会を開こう!
それまでにはきっと、ビルも分かってくれるよ。
だって僕達は、友達だからね」
そう言って、ゲイルは朗らかに微笑んだのだった。




