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頭の中が晩餐でいっぱいとなるなか、ローレンス様は話し続けた。
「・・・アレン?どうした?」
「・・・あ!すみません。頭が飛んでました。
・・・何でしょうか?」
「大丈夫か?
それで、アーデンヴァルトの者達と話したいんだが、こちらに呼べたりするのだろうか?」
ローレンス様・・・全然だいじょばないです・・・。
そんな私は、気を取り直して口を開いた。
「通信用の魔石を預かっているので、いつでも連絡はできます。
聞いてみましょうか?」
「そうだな。
・・・連絡を取る時に、俺も一緒にいても良いだろうか?」
その提案は願ったり叶ったりだ。
私も一人より、ローレンス様がいてくれた方が心強い。
「はい。お願いします。
では、明日の夜はどうでしょうか?」
「ああ。
レノンが帰ったら始めようか」
そう話がまとまったのである。
それから定時となり、ローレンス様とレノンさんに挨拶をしてから部屋を出た。
エントランスまでは距離があるので、急足で向かう。
そして、最後の角を曲がると人影が見えたのだ。
「ヴィンセル!お待たせ」
少し息が上がっている私に、ヴィンセルは微笑みかけた。
「大丈夫。たいして待ってないから」
・・・やっぱり、いつものヴィンセルではない。
私に微笑むなんて、初めてではなかろうか。
頭の中で、懐かない猫が、手に頭を擦り付けてくれた瞬間の嬉しい感覚に陥った。
だがここで、前のめりに深追いするのはいけない。
・・・距離を見誤ると逃げられるからだ。
「・・・じゃあ行こっか」
気持ちを抑えつつ、普通を装う事にした。
ぼんやりと光る街灯を見ながら、寮へと向かう。
心なしか、懐かしい気持ちに浸っていると、ヴィンセルが口を開いた。
「・・・アレンは料理するの?」
「うん。
大した料理はできないけど、家ではそれなりにやっていたよ。
・・・ヴィンセルは?」
すると前を見つめたまま口を開いた。
「・・・ここに来て初めて食材を触ったんだ。
いつも食している物の原型を手に取った時、なんだか不思議な気持ちになったな・・・」
「・・・それはなんで?」
「当たり前だけど、料理を作ってくれる人がいたり、掃除をしてくれる人がいたり・・・。
色々な人の頑張りがあって、オレの生活は成り立っているんだ。
そんな当然な事に、今更気付かされたんだよ」
・・・本当にヴィンセルはどうしたんだろう。
年下の男の子が、急に成長して大人の男性に見える。
「・・・ヴィンセル?何かあった?」
すると私を見つめて柔らかく微笑みを浮かべた。
「独りよがりを止めたんだ。
何事にも、目を逸らさずに受け止める事の大切さを知ったんだよ」
そう言う彼の顔から目を離す事ができなかった。
・・・ヴィンセルも変わって行く。
私も、変わる時が近付いている。
・・・目を逸らさない、か。
私は気合いを入れる為に、両手で両頬を叩いた。
「な!?なにやってんの!?」
ヴィンセルの驚いた顔は、いつもの彼だった。
どんなに変わったって、根底は揺るがない。
・・・彼は、彼である。
そして、それが分かった事に安堵する自分がいたのだ。
「私も、ヴィンセルを見習って、これからの道を進むよ!」
ははっと笑う私に『程々にね』と仕方無さそうに言うヴィンセル。
なんだかんだで、共に過ごす時が楽しいと思っていた事に気付かされたのであった。
そうして、寮の青い屋根が見えたのである。
* * * *
「お邪魔します」
そう言って靴を揃えていると、共同スペースの扉からゲイルが顔を覗かせた。
「あれ?
アレンじゃないか!
ヴィンセルもおかえり!
折角だけど、まだ手紙は来てないよ」
「今日は手紙じゃないんだ。
みんなに話したい事があるってヴィンセルに話したら夕食に招待されたんだけど、いいかな?」
「もちろんだよ!
またアレンと夕食を作れるなんて嬉しいな。
ビルもアルトもそろそろ帰ってくるよ」
ヴィンセルは自室に荷物を置いてくると言って、階段を上がって行った。
「ゲイルは、また逞しくなったんじゃない?」
私はゲイルに勧められた椅子に腰掛けながら、口を開いた。
「毎日、重装備で訓練だからね。
嫌でも筋肉が付くんだよ」
「そうそう、今日ゲイルを窓から見たよ!」
「みんな同じ格好をしているのに、よく分かったね!」
「ヴィンセルが教えてくれたんだ」
と、そんな話をしていると、ヴィンセルが降りて来た。
「ゲイル、今日は何のご飯にする予定?」
とヴィンセル。
「僕達じゃ決められないよ。
だって僕ら、野菜しか毟れないじゃないか・・・」
と宙を見ながら答えるゲイル。
その言葉に、アルトは別として、ビルに同情の念を禁じ得なかった。
面倒見の良いビルだ。
ギャーギャー言いながらも、なんとかみんなを纏めているのだろう。
私が言葉を失っている時に、玄関から声が聞こえた。
「ヴィンセルー!帰ってる?」
・・・アレは、まさか!!
あんなに、声に張りのあるアルトは知らない。
すると、ヴィンセルが『ここにいるよ』と返した。
あんなに愚痴っていたのに、なんか、親友みたいじゃないか。
そのまま、共同スペースへ来たアルトは話し続ける。
「ここにいたんだ!
さっきさ、寮の前に猫がいたんだよ!
・・・って、アレ?
アレンじゃないか!
どうしたの?」
ヴィンセルしか目に入っていないようで、私はついでだった。
「あ、うん。
ちょっと話したい事があってね。
ビルが来たら時間をもらえない?」
「うん、いいよ。
でさ、ヴィンセル!
猫に餌をあげようと思うんだ」
すると、それを見たゲイルが私に耳打ちした。
「アレンだけじゃないから大丈夫だよ。
ヴィンセルが特別なだけだから」
・・・そうなのか。
寂しさを感じる気持ちに蓋をしようとしていたら、ビルが帰って来た。
「今日もメシ作るんだろ!
ゲイルとヴィンセルは、ちゃんと指示通りに動くんだぞ」
と玄関先から聞こえた。
・・・やっぱり。
今の言葉に、苦労を垣間見た気がした。
そのままビルの足音が近づいてくる。
そして扉から覗いた顔は、私を確認するとパッと目を見開いた。
「アレンじゃないか!
・・・もしかして、ご飯を食べに来たのか?
だったら、メチャクチャ助かるんだが!」
最後の【が!】の念押しがすごい。
私はそれに切実さを感じた。
「うん、ヴィンセルに言ってお邪魔させてもらったんだ。
話したい事もあるし、一緒に作ろうか」
そう言うと、ビルがあきらかにホッとした顔をしたのだった。
そして本日のメニューは、ピザと野菜のトマト煮込みにポテトサラダを作る事になった。
材料を用意して早速始めたのだが、これが予想を遥かに上回る惨状と化したのだ。
ヴィンセルが丸々一個剥いたジャガイモは1センチ角となり、ゲイルは腕力でトマトを握り潰し、辺り一面が血の海と化した・・・。
そして横を見ると、アルトはちゃんとやっているのだが、ヴィンセルが剥いたチマッとしたジャガイモをベタ褒めしている。
・・・なんなんだこれ?
そんな私は、始めてからずっと静かなビルに恐る恐る目をやった。
すると、ブツブツと何かを唱え、生地を伸ばしながら自分の世界に入っている。
思わず『あのさ!!』と大きい声を上げてしまった。
みんなが一斉に私を見る。
「まずヴィンセルだけど、それじゃ何個剥いてもポテトサラダが出来ないから、アルトにちゃんと教えてもらって!
アルト、お願いできる?」
『もちろんだよ!』と当然の如く引き受けてくれた。
「それと、ゲイルは潰すんじゃなくて、角切りにしてから入れていこうか。
まずは、今のままだと足の踏み場がないから、一旦掃除しよう!私も手伝うから」
そう言って、三手に分かれた。
ビルはピザ、ゲイルと私はスープ、アルトとヴィンセルはポテトサラダだ。
そうして、四苦八苦しながら出来上がった料理を見る。
あの状況で、良くここまでの完成形に持ち込めた事が不思議だ。
すると、隣にいたビルがウルウルしている。
そして私の手を両手で握り『アレンのおかげだ!本当に助かった!』と感極まった。
私は思わず手を握り返し『ビルはいつも良くやってるよ!』と励ましたのだ。
それからは、温かいうちに食べようとテーブルに移動してから、食事会を始めたのであった。




