ローレンス視点
アレンに伝えてから3日。
あっという間に母と会う日になった。
実は今日の晩餐も誘われたのだが、流石に長時間だと俺の気力と体力が持たないので断ったのだ。
机にある置き時計に目をやる。
開始時刻の15分前を指していた。
母の部屋は歩いて10分程度掛かるので、そろそろ出ないといけない。
「アレン、そろそろ行けるか?」
「はい。大丈夫です」
騎士の格好をしたアレンが返事をした。
アレンには、アーデンヴァルトの事、君が次期女王である事を両親に伝えてあるが、今は騎士として王宮にいるので、男装のままで良いと伝えてあるのだ。
どうやら母は、男装女子が好きなようなので、今のままが良いだろうと思ったのである。
そして俺達は、母の部屋を目指した。
長い廊下を歩いていると、魔石の光に照らされたアレンの影が、なんだかぎこちない。
しかも、終始無言なのも気になる。
「アレン?緊張しているのか?」
俺は後ろを振り返りながら問いかけた。
「・・・はい。
何を話せば良いのかと思いまして」
「そんな心配は、するだけ無駄だから大丈夫だ」
すると、アレンが立ち止まった。
「あの、ローレンス様?
それは、いったい・・・?」
俺はアレンの手を取り『行けば分かる』とだけ言い置き、歩き始めたのであった。
そして、部屋をノックすると母の侍従が扉を開けてくれる。
「母上、参りました」
中を見回すと、花の刺繍のカーペットに白いアンティーク調のティーテーブル。
そして仕上げには、レースをふんだんにあしらったカーテンが夜風に揺れていた。
部屋全体が、ピンク色を基調としている。
な、なんなんだ。
・・・この部屋は・・・
乙女の願望を詰め込んだような、お姫様部屋に眩暈がした。
俺は心配になり隣を見ると、アレンは心なしか瞳が輝いている。
・・・まさか?
・・・こういう部屋が好きなのか?
俺は、思わぬ発見をしたのだった。
そして、気を取り直して母に挑む。
どんな一言をかまして来るのかと身構えていると、母がにこやかに口を開いた。
「ローレンス、来たのね。こちらに座りなさい」
「はい。失礼します」
いつもと違う母に面食らったが、今のところ大丈夫そうだ。
俺の隣に掛けるようアレンにも伝えた。
「二人とも、ハーブティーで良いかしら?」
俺達が頷くと、メイドに用意をさせる母。
「さぁ、ローレンス?
そちらの騎士様を紹介してくれる?」
「・・・はい。
俺の専属騎士、アレン・シルバリーです」
「お初にお目にかかります。
アレン・シルバリーと申します」
やはり緊張しているようで、笑顔が硬い。
「ご挨拶ありがとう。
私はローレンスの母、アイリーンよ。
それで早速なのだけれど、貴女はローレンスをどう思っているの?」
・・・やはり。
序盤からぶっ込んできた母の質問だが、これは俺も気になる。
直接、アレンから好きと言われた事がない俺は、確かな言葉が欲しいと思っていた。
そんな俺と母は、ジッとアレンを見つめて回答を待った。
「・・・はい。
ローレンス様は、お仕えする主人でございます」
・・・そうだった。
アレンには、専属騎士として対応して欲しいと言ってあったのだ。
自分で言ったずなのに、期待してしまう心が憎い。
そして、母の小声で呟く声が聞こえた。
「・・・そうよね。そういう設定だもの。
じゃあ、次よ」
「アレンさんは、この部屋をどう思う?」
俺はこの質問に、何の意図があるのか見出せなかった。
母はいったい、何を確認したいのだろうか・・・。
「はい。
とても可愛らしく、素敵なお部屋だと思います。
・・・その、王妃陛下の雰囲気と良く似ていると思いました」
すると母の目が変わった。
「アレンさん!?
貴女、とっても素直でいい子なのね!
昨日、ローレンスに聞いた通りだわ!
そうよね!幸せは待っているだけでは掴めないもの!
私、貴女のアグレッシブさがとても好きよ!
・・・やだ、話が逸れちゃったわ!
それで、アレンさんも可愛らしい物は好きなの?」
母はアレンが俺の為に騎士になったと、本当に信じているみたいだ・・・。
そして、マシンガントークに面喰らったアレンは、俺を見ている。
なので、頷いて返した。
「・・・はい。
憧れはありますが、私では似合いませんので、とてもお似合いになる王妃陛下が羨ましいです」
すると母は眉を寄せたのだ。
「貴女、何を言っているの?
似合う似合わないの問題ではないのよ!
好きか好きじゃないかが大切なんじゃない。
それと、私の事はお義母様と呼んで良いのよ?」
「・・・え?
・・・お義母様、ですか?」
マズイと思った俺は、即座に話題を変えた。
「母上!それより、会ってみてどうでしたか?」
すると、唇に指を置き『合格よ』と告げた。
俺はもう、此処に用はないと思い、そそくさと帰る挨拶をする。
それを見た母は『さっき来たばかりじゃない!』と引き留められたのだが『もう遅いから今日は帰ります』と言い置き、退出したのであった。
・・・やっぱり、ついて来て良かった。
まだアレンにバレる訳にはいかない。
婚姻する事を了承させるだけの手札が揃ってからでないと逃げられる可能性があるからだ。
・・・絶対に失敗はできない。
何がなんでも頷かせたい俺は、アレンの逃げ道を潰し終わるまでは、絶対に知られないようにと神経を尖らせるのであった。
部屋へ帰るとアレンが呟いた。
「王妃陛下は、とても可愛らしい方なんですね。
ローレンス様の髪色は王妃陛下譲りですか?」
「ああ、そうだな。
母は、メーヒェン国の王女だったんだよ」
「そうなんですね。
とても綺麗な黒髪に、ローレンス様の面影を感じました。
でも最後のお義母様とはなんだったのでしょう?」
・・・そりゃ気になるよな。
聞き流してくれていれば良かったのだが、仕方ない。
俺は、アレンに半分嘘をつく事にした。
「母はあの通り、可愛い物が好きだろう?
だが、母には息子しかいない。
理解を示してくれるアレンを娘のように思ったんだろうな」
「・・・そういう事ですか。
最初言われた時はビックリしました」
と、ホッとした顔をしている。
・・・だが悪いが、君はいずれ本当の娘になるんだ。
そして、俺の伴侶となる。
・・・ここまで来たら、絶対に逃しはしない。
安心して微笑むアレンを見つめながら、次はどの逃げ道を潰すかな、と考えていたのだった。




