ローレンス視点
俺はレノンと共に、部屋から距離のある晩餐室へと向かった。
使用人が開ける扉を潜ると、天井には煌びやかなシャンデリアが何台も吊るされている。
俺達家族は四人しかいないのだから、もっと狭くて実用的な部屋でいいのに・・・と、晩餐が始まる前から気が滅入ってしまった。
席を見ると、両親はまだいない。
すると、俺に気付いた兄上が口を開いた。
「ローレンス来たか。ここに座れ」
そう言って、隣の席を指した。
「兄上、お待たせしました」
「いや、まだ開始時刻の10分前だ。
・・・私が早く来過ぎただけだからな」
そう話す兄上の後ろから、扉の開く音が聞こえた。
「レオナード、ローレンス。
既に来ていたのだな。
・・・それにしてもローレンス。
もう少し、私達と顔を合わせても良いのではないか?
アイリーンが寂しがって敵わんぞ」
そう言って、後ろに目をやった。
そこには、ピンク色のドレスを着た、俺と同じ黒髪の女性がいる。
そして赤い唇が弧を描いた。
「ローレンスちゃん!!
会いたかったわー!
なんで、会いに来てくれないの?
ずっと待っていたのよ」
久しぶりに見たその様子に、俺はゲンナリする気持ちを押し込めた。
「父上、母上、お久しぶりです。
今日はお話ししたい事があり参加しました」
「もう!本当にローレンスちゃんの塩対応には痺れるわ」
・・・・・・。
よくこんなんで、王妃がやれるものだと思う。
それに、成人している息子二人がいるとは思えない程に若々しく、少女のような見た目にも、違和感しかない。
そんな母の事を、時が経つほどに人外ではないかと思ってしまうのだ。
そして、何かを話し続ける母と黙り続ける俺を見かねた父が口を開いた。
「アイリーン、嬉しいのは分かるが、一先ず晩餐を始めようか。
ローレンスも、アイリーンの気持ちを少しは汲んでやれ」
父上はまだまともだが、母上を諌めようとしない事には不満がある。
だから俺は、両親と関わりたくないのだ。
そして始まった晩餐の席で俺は早速、用件を告げた。
「婚姻したい人がいます」
そう告げると、兄以外の手が止まった。
「・・・誰なの?
ローレンスちゃんを誑かす女狐は!」
「アイリーン、いずれレオナードもローレンスも伴侶を持つんだ。
相手が誰か聞こうじゃないか。
レオナードは誰だか知っているのか?」
すると、兄上は食べる手を止めてから話し始めた。
「はい。
昨日相談を受けました。
私も悩みましたが、ローレンスが心を寄せた人です。
無下にはできません」
「そうか。
では、ローレンス。話してみなさい」
「はい。
相手は、俺の専属騎士なんですがーー(ガチャガチャ!ガタン!!)」
けたたましい音と共に、父が立ち上がった。
それと同時に、下に落ちたカトラリーを父の侍従が瞬時に拾い上げ、あたかも、そんな事実はなかったかのように新しい物へと交換していた。
「ま!?まさか!!男なのか!?」
「いいえ、女性です。
理由があり、騎士をしているのです」
すると今度は母が口を開いた。
「すごく面白い子がいるのね!
私、そういうの好きよ。
さぁ、続けて」
「・・・はい。
実は、彼女はアーデンヴァルトの次期女王となるので、俺も一緒に行きます」
俺は面倒くさくなり、要点だけを話したのだが、それにまたしても、父が反応した。
「なに!?アーデンヴァルトだと!!
ローレンス本気なのか!?」
「はい。
本気でなければ、ここにいません」
その言葉に父は『それもそれで傷付くな』と呟いた。
だが意外だったのは母だった。
「まぁ、良いじゃない!
それにしても、なんてロマンチックなのかしら。
ローレンスちゃんに会いたいが為に騎士となり、想いを叶えて今度は女王となる。
なんて、素敵な恋物語なの!」
・・・母の妄想が始まった。
だが、これを利用しない手はない。
「母上は、分かってくれますか?」
「もちろんよ!ローレンスちゃんの結婚を応援するわ!」
すると、父が目を剥き『アイリーン、少し待て!』と言うのを無視して母が話し続ける。
「ローレンスちゃんの彼女と会ってみたいわ」
今後の為にもう一押しが欲しい俺は、条件付きで了承したのだ。
「彼女は、まだ女王である事を口外できません。
どこに敵対勢力がいるのか分からないので、その時が来るまでは、男性として過ごさなければならないのです。
ですから母上も、彼女に対し騎士として接してください。
もちろん、婚姻の事は口に出さないと約束してくれますか?」
母の好きそうな話となるように盛って伝えた。
「ええ、もちろんよ。
私、オンオフの切り替えが上手なのよ?」
と笑っているが、全然信じられない。
やはり、母と二人で会わせるのは危険だな。
「母上、会う時は俺も一緒に会います。
いつ頃にしますか?」
「そうねぇ、3日後はどうかしら?
晩餐が終わってから、私の部屋でどう?」
「分かりました。
ではその頃に二人で伺います」
母と俺の中で話は終わったのだが、納得のいっていない父が乗り出して来た。
「待てと言っているだろう!
アーデンヴァルトは危険なんだぞ!
アイリーン、分かっているのか!?」
「貴方こそ、何を言っているの?
恋に障害や危険は付きもの!
燃え上がる恋には、絶対に外せない道のりなのよ?
それを乗り越えるからこそ、本当の愛になるんじゃない!
本当に貴方は、分かってないわね」
俺は心の中で、訳の分からない理屈を並べる母を応援した。
こんな事は初めてかもしれない。
そして、母に弱い父の事だ。
後少しで折れるだろうと踏んでいたら、その通りとなった。
本当は、父よりも母の説得に時間が掛かるものと思っていた俺は、予想外の展開にほくそ笑んだのであった。
ヴィンセル視点
アレンが、アーデンヴァルト前女王の娘だったなんて・・・。
オレはそれにショックを受けたと同時に分かったんだ。
アレンといると、居心地が悪いのも、頼まれると断れないのも、アレンにだけ振り回されるのも。
異性として好きだからなんだと・・・。
そして、その瞬間に失恋した。
アレンは分かっていなかったが、叔父上の言葉で気付いたんだ。
ローレンス殿下は、アレンと婚姻する事を視野に入れて動いている。
一瞬頭の中で、オレも名乗りをあげようかとも思った。
だが、オレは一人息子でマクガディ家を捨てられない。
だから、彼女について行くことが出来ない。
深緑色の絨毯を見つめながら、ギュッと自分の拳を握りしめた。
そして気付くと、団長室にはいつの間にか静けさが戻っていた。
周りを見ると、アレンはいない。
「ヴィンセル・・・残念だったな」
叔父上の呟きが風に乗って運ばれて来た。
その言葉に、オレの気持ちに気付いていたのだと知った。
オレは気付くのに遅れた自分が悔しくて、流れ落ちそうになる涙を必死で食い止める。
「叔父上?いつからオレの気持ちに気付いていたんだ?」
「・・・お前が、アレンを女と知った時からだ」
・・・ははっ。
なんだ、オレはそんな前からアレンを好きだったのか。
目に溜まった涙を袖で拭い、叔父上を見つめた。
「叔父上。
オレは、オレが出来る事をアレンにしてやりたい。
だから、少し時間が欲しい」
「・・・ああ、分かった。
どんな決断をしたとしても、応援してやる。
・・・ヴィンセル。
お前はもう、一人前の男だな」
その言葉が、オレの背中を押してくれた。
アレンへの気持ちに目を逸らし続けてきたオレは、ようやく、真っ向から向き合う事を決めたのだった。




