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ローレンス様はその後、夜遅くなってから帰って来た。
私が寝る間際に扉の開く音が聞こえたのである。
・・・きっと、第一王子の所へと行ったのだろう。
あの第一王子の事だ。
必ずやローレンス様を止めてくれる。
そう確信を持った私は、カーテンの隙間から覗く大きな満月を見上げながら就寝したのであった。
ーーチラチラと日が差し、眩しさで目を覚ました私は、早速準備を始めた。
そして部屋を出ると、すでにローレンス様がソファに腰掛けていた。
寝巻き姿なのを見ると、レノンさんはまだ来ていないのだろう。
「おはようございます」
「おはよう、アレン。
昨日の件だが、兄上に話したんだ」
そう区切るローレンス様に、胸が少しチクッとした。
「レオナード殿下は、なんて言われたのですか?」
ローレンス様との訣別を受け入れる覚悟で、本人から『一緒には行けない』と一言もらいたいと思った私は促した。
ジッと見つめて待っていると、ローレンス様は私の手を取り『ついて行く事を認めてくれた』と言うではないか。
その言葉に、目を瞠った。
え?本当に許可が出たの!?
呆然としている私に、ローレンス様は話し続ける。
「今日は両親に許可を得るから、分かったらまた伝える」
なんだか、ものすごい速さで進んで行く展開に、相変わらず付いていけない私は『分かりました』としか答えられなかったのだった。
とその時、ガチャっと扉が開き、レノンさんが慌ててやって来た。
「おはようございます。
遅くなり申し訳ありません。
さっそく、準備に入らせていただきます」
「レノンが遅刻なんて、珍しいな」
その言葉に眉を寄せた。
「はい。実は、ローレンス様が両陛下との晩餐に出席なさると噂になっているようでして、使用人達に問い詰められたのです。
だから私は『そういった事実は一切ありません!』とキッパリ、ハッキリ申し上げて来たのです」
「悪いがレノン、今日は晩餐に行く事にしたんだ」
すると、レノンさんは固まり『え?』と目が点になっている。
「色々あってな。
だから今日は、その予定で頼む」
レノンさんは、ローレンス様が晩餐に出席する事に驚いているのか、はたまた、使用人達に意図してではないにしろ、嘘をついてしまった事に罪悪感を覚えているのか、どちらかは分からないが、そのままヨロヨロとローレンス様の準備に取り掛かっていたのであった。
そして、今日の予定を熟したローレンス様が口を開いた。
「ではアレン、晩餐に行ってくるので、少し遅くなる。先に休んでいてくれ」
そう言い置き、レノンさんと共に行ってしまったのだ。
私は、昨日決めた事を実行する為に、特殊部隊室へと向かった。
部屋へ入ると、副団長とヴィンセルが話している。
そして、私に気付いた副団長が声を掛けた。
「アレン、こんな時間にどうしたんだ?」
「はい。団長とヴィンセルに報告がありまして」
すると副団長は、私とヴィンセルを交互に見てから『団長なら、奥にいるぞ。ヴィンセルも行ってこい』と送り出してくれた。
団長室をノックすると『入れ』と聞こえたので入室する。
「団長、お話したい事があって来ました」
「アレンと、ヴィンセルか。
で、何があった?」
そして私は、実家に帰ってから今日までの事を二人に告げた。
話終わって二人を見ると、師匠は眉を寄せていて、ヴィンセルは開いた口が塞がらないのか、呆然と呟いた。
「・・・え?
・・・女王・・・?
しかも、ローレンス殿下も行くかもしれないって・・・それは本当なのか?」
「ごめん、私にもよく分からないんだ。
レオナード殿下が、どうして許可を出したのかも不明だし・・・」
そんな私達のやりとりを見ていた師匠が、苦虫を噛みつぶした顔をして口を開いた。
「・・・アレン、ローレンス殿下をどう思ってる?
一緒にいたいと思うか?」
「えっと、そうですね。
ローレンス様は優しいし、離れるのは寂しいです」
流石に『好きです』とは言えないので、言葉を濁した。
「・・・そうか。
だが、もし両陛下から許可が出るとなったら、覚悟した方がいい」
・・・え?
なに?その不穏な言葉は?
「師匠?
・・・私、殺されるんですか?」
「・・・・・はぁ。
お前、本気で言ってるのか?
アホすぎて、開いた口が塞がらないだろうが。
・・・でもまぁ、俺から言うのも憚れるからな。
それに、もうここまで行ったら逃げられないだろうから、時の流れに身を任せておけばいいんじゃないか?」
私はその後、何回も師匠に聞いたのだが、結局、具体的な事は教えてくれなかった。
隣にいるヴィンセルは、最後は終始無言で何かを考えている。
もしかしたら、師匠が何を知っているのかを考えてくれていたのかもしれない。
そして、いつまでもしつこい私に師匠が『とりあえずは分かったから、今日は帰れ』と言われ、追い出されたのである。
・・・しかも、私だけ。
ヴィンセルはそのまま団長室へと残ったのだった。
そんな私は、部屋へと帰る途中に思い出したのだ。
此処にいられる期間は、あと6日だと伝え忘れた事に。
・・・仕方ない。また、明日出直すか。
師匠の言葉に不安要素を抱えた私は、廊下へ一直線に敷かれている、ぶどう色の絨毯を見つめながら、トボトボと部屋へと戻ったのであった。




