ローレンス視点
夜着のまま、急足で歩く。
廊下を照らす魔石とは別に、窓からは星々が輝いていた。
そして一際存在感を放つ満月は、今にも掴めそうなほどに大きく、俺の心を表しているかの様に満ち足りていた。
・・・そう。
アレンが女性だったのだ!
こんなに嬉しい事はない!!
俺は兄上の部屋へと向かいながら喜びを噛み締めた。
そして、先程の光景を思い出す。
俺の腕の中で泣く彼女は、とても綺麗だった。
思わず、流れ落ちる涙に口付けていたのは言うまでもない。
だがそんな俺に、アレンは『嫌ではない』と言った。
これは少なくとも、俺の事を嫌いではないはずだ。
・・・いや、寧ろ好かれているんじゃないか?
そう思うと、心臓が高鳴る。
だが、その後に『一緒にはいられない』と言われた時は、急転直下の展開に珍しくも動揺してしまった。
そして理由を聞いているうちに、この機に乗じる事にしたのである。
アレンが女であれば、何も問題はない。
それに、王族となれば話も早い。
そう考えついた俺は念の為、もう一度アレンに確認をした。
すると、俺を『嫌いではない』と言う。
だから俺は、これから兄上を説得し、アレンと一緒に居られる策を講じる事にした。
「兄上、ローレンスです」
しばらく待つと、扉が開き『ローレンス、こんな時間にどうした?」と、俺と同じく夜着の兄上が現れた。
あの事件が解決してからは、時間にゆとりが持てるようになったのだと感じる。
すると『取り敢えず、入れ』と言うので、遠慮なくお邪魔した。
兄上に勧められて椅子へ腰掛ける。
そして、兄上自ら茶を淹れてくれたのだ。
「で、用件とは、お前の専属騎士の件か?」
「はい。
俺もアーデンヴァルトへ行きます」
すると兄上は、口に含んでいた茶を吹き出した。
テーブルも夜着もビショビショになっている事に気付いてないのか、前のめりになり口を開く。
「あの女王に一緒に来いと言われたのか!?
断じてならん!!
ローレンス、アーデンヴァルトは危険なんだ!
いいように利用されてはダメだ!」
・・・まぁ、想定内だ。
「兄上、俺は利用なんてされていませんよ。
それに、ただ一緒に行く訳ではありません」
流石に気になったのだろう。
布で口を拭っている。
「・・・では、何だと言うのだ?」
いぶかしげに眉を寄せて聞いてきた。
「そう言えば、兄上の赤い瞳を見るのも久しぶりですね」
俺と兄上は同じ赤眼だが、若干色が違う。
俺は緋色。
兄上はオレンジが掛かった朱色をしているのだ。
「・・・まさか!?分かるようになったのか!?」
「はい。
これもアレンのおかげです」
その言葉で、仏頂面になった兄上は『・・・そうだな。だが、それとこれとは話が違うだろう?』と切り返してきた。
「そうですね。
ですが、今の俺があるのはアレンのお陰だ。
兄上、彼女は王族で俺もそうだ。
一緒に行くという意味がどういう事かは、もう分かっているんじゃないですか?」
「・・・まさか!?
本当に了承を得たというのか?」
「もちろんです」
すると『・・・そうか』と呟き、居住まいを正した兄上が再度口を開いた。
「ローレンス、これは兄としてではなく、次期王として聞く。
お前の決断は、このハインデルト王国に利益をもたらす事はできるのか?」
「はい。
必ずや利益をもたらすと約束します」
そして息を吐いた兄上は『本当に、あの女王の事になると、譲らないな。だが、そんな人間臭いお前を、私は結構気に入っている』と言って微笑んだのだ。
「兄上、ありがとうございます。
ついでと言っては何ですが、父上と母上にも伝えてくれませんか?」
「何を言う!
ケジメは自分でつけろ!
それと、お前が会いに来ないとぼやいていたぞ。
たまには、会いに行ってやれ」
・・・流石にそこまではダメだったか。
とそう考えていた俺に『反対されたら、後押しぐらいはしてやる』と言って、肩を叩いたのであった。
これで、兄上は味方になった。
明日、どう両親に話すかと算段をつけていると、兄上が再び口を開いた。
「ローレンス。
言いにくいのだが、お前達は今、同じ部屋で生活しているのだろう?」
「そうですが」
「・・・流石に女性と同じ部屋はダメではないか?」
「なぜですか?」
「なぜって・・・。
何か間違いが起こってからでは遅いからだ!
それに先程、女王には一週間と言ったが、お前とこうなったからには滞在期限も延びるだろう?」
・・・そうか。
アレンにも、いつまで王宮に居られるのかを確認しなくてはいけないな。
「兄上、間違いは起こりません。
何かあったとしても、それは正しい事ですから」
そう伝えると、もの凄い勢いで抗議してきたのだ。
だが、今更アレンと別部屋なんて考えられない俺は、右から左へ聞き流したのである。
「それと兄上、明日の晩餐ですが俺も参加します」
ギャーギャーと騒いでいた兄上はピタリと黙り『そうか。家族揃うのは久々だな』と頬を緩めた。
兄上は平気なようだが、俺は両親が苦手だ。
特に、母上とは分かり合える気がしないとさえ思っている。
明日の晩餐に気が滅入るが、仕方ない。
これも、アレンと俺の未来の為だ。
そうしてローレンスは、アレンの与り知らぬところで、着々と外堀を埋めていくのであった。




