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「今日は、この本をリオンに朗読してもらおうか」
私は児童書をリオンに渡した。
すると、照れ臭そうに『ちゃんと読めるかな?』と呟く。
「大丈夫。
リオンは、全ての字を読み書き出来るようになったんだから、自信を持って読んでごらん」
すると、深呼吸をしてから読み始めたのだ。
幼く、澄み切った声が部屋へと響き渡る。
私、ルーナ、テオは、静かにリオンの声に耳を傾けたのであった。
この話は、ハインデルト王国では有名な童話だ。
内容としては、魔物達に支配された国で、一人の少女が立ち上がり、冒険をしながら仲間を集めて魔王を倒す話だ。
当時、女性主人公の話が珍しかったのもあるが、ハインデルト王国は、女性はお淑やかさを求められる。
だからだろうか、この自由に振る舞う少女に憧れを持つ女の子が沢山いたのだ。
もちろん、私もその中の一人である。
苦難に遭っても諦めない強い心、仲間達と過ごす楽しい日々。
そして、少女を支えてくれる素敵な少年との淡い恋。
全てが、少女達を魅了する内容だった。
小さい頃の私は、義父母にねだって買ってもらった。
そして、冊子がくたびれてしまう程に何回も読んだ事を思い出したのである。
それから、リオンは上手に読み進めて行く。
「ーーー魔王は倒され、世界は平和になりました。
そして少女はその国の女王となり、その隣には、いつも支えてくれた少年の姿がありました。
それから、みんなは末長く幸せに暮らしましたとさ」
すると、大人しく話を聞いていたルーナが口を開いた。
「私、このお話知ってるよ!
アーデンヴァルトができた時のお話だってお母さんが言ってた」
それを聞いたリオンが眉に寄せて話し始めた。
「建国神話の話だろ?
けど、内容が少し違うよね」
まさか、アーデンヴァルトと関係があるとは思ってもみなかった私は、問いかけたのだ。
「リオン、内容が違うってどの辺りが?」
すると、思い出そうとしているのか、視線を宙に泳がせながら『うーん』と考えた後に教えてくれた。
「内容はほぼ一緒なんだけど、魔王を倒した時に降り注いだ光を浴びて魔力をもらうんだ。
そして、少女は誰よりも強い魔力を受け取り、アーデンヴァルトに結界を張るんだよ。
だから、末長く平和な国になったんだ。って父ちゃんが言ってた!」
そして、すかさずルーナが口を開く。
「でもリオンだって、本を見たわけじゃないでしょ?
本当の話は私達には分からないじゃない!」
するとテオが、両手で大きく円を描き始めたのだ。
・・・もしかしたら、その本を見せてくれるのかもしれない。
私は、ルーナとテオの準備が出来るまで待つ。
そして徐々に大きくなっていく水球の中に、本とテオの母親らしき人物が浮かび上がった。
とても優しそうな人で、垂れた目がテオに似ている。
それから私は、本へと意識を向けたのだった。
序盤から中盤までは大体同じような内容だが、終盤はリオンが言っていた通りだった。
そして、その後の続きがあったのだ。
少女、アーデンヴァルト初代女王は、魔王から受け取った魔力で国を繁栄に導いた。
そんな彼女を支えた少年は王配となり、二人は一人娘を授かる。
そして、その娘もまた、強力な魔力を引き継ぎ次代の女王となった。
それから、その次もそのまた次も、女王は一人娘しか産まなかった。
アーデンヴァルトは、女王なくしては成り立たない国というが、それは前女王の事だけではなく、代々一人娘のみに継承される魔力の事なのだ。
テオは、思い出の中でも母と会えた事が嬉しいのだろう。
ジッと嬉しそうに母親を見つめていた。
そんなテオの姿を見て思う。
・・・私は、アーデンヴァルトの次期女王。
この子達や民を幸せに導くのは、私の仕事だ。
寂しいとか、辛いだとか、自分の事を言っている場合ではない事に気付かされたのだった。
「テオ、ルーナありがとう。
色々と知ることができて良かった。
君達のアーデンヴァルトが、良い国となれるように最善を尽くすよ」
するとリオンが不思議そうに口を開いた。
「アレンさん?どうしたの急に?」
「・・・いいや、何でもないよ」
私は微笑みを浮かべ、自分の宿命に対して腹を決めたのであった。
その後は、ローレンス様の部屋へと戻るとレノンさんに声をかけられたのだ。
「アレンさん!先程、侍従からレオナード殿下の執務室へ来るようにと言伝を預かりました」
「ありがとうございます。
では、早速行って参ります」
第一王子に呼び出されるのは初めてだ。
私は、緊張しながらドアをノックして入室したのである。
すると書類から顔を上げたレオナード殿下が口を開いた。
「忙しいところ、悪いな。
ローレンスとはどうだ?
上手くやっているか?」
「はい」
「今日は、大事な話があって呼んだんだ。
まずは、こちらに座ってくれ」
そう言って、対面の椅子へ促された。
私は『失礼致します』と伝えてから腰掛ける。
「早速で悪いが、私の影から上がってきた情報があるんだ。
アレン・シルバリー。
・・・いいや。アレンシア、か?」
その瞬間、ヒュッと喉が鳴った。
自分の心臓の音しか聞こえない。
そして、私の心情を知ってか知らぬかは分からないが、第一王子は話し続ける。
「・・・悪いな。
君に、影を付けていたんだ。
そしてこの前、実家へと帰ったろう?
その時の会話も聞いた。
君は、次期アーデンヴァルト王国の女王となると。
君が女性で女王である事を、ローレンスは知っているのか?」
「いいえ!ローレンス様は何も知りません!
・・・全て、私が意図してした事です」
「・・・そうか。
だからと言って、このまま見過ごす訳にはいかない。
君が、この国へ留まるとどうなるのかも知っている。
だからこの事は、私からローレンスへと上手く伝えておくので、君は自分がいるべき場所へと帰りなさい」
言っている事は分かる。
けど、引き下がれない理由があるのだ。
私は、第一王子に向かって静かに頭を下げた。
「・・・すみません。
少し、お時間を頂けないでしょうか?
ローレンス様には、私から直接お伝えしたいのです。
差し出がましい事は、重々承知しております。
ですが、騙した罪は私自身で償いたいのです。
どうか、お願いできないでしょうか?」
すると、第一王子は口に手を当てて考えている。
そして、しばらく静かに待っていると、重い口を開いた。
「・・・1週間だ。
それまでには、ここを去りなさい。
・・・それとこれは別件だが、君の国、アーデンヴァルト王国は、とても見られるものではないだろう。
だから、同じ王族として言わせて欲しい。
人々の笑顔溢れる、良い国を作れ。
・・・それまで、子供達はこちらで預かろう」
第一王子からの譲歩と激励に、胸が熱くなる。
この方は本当に、王族たる器の持ち主だ。
「はい。ありがとうございます」
私はそう告げてから、第一王子の執務室を後にしたのであった。




