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灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


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今日は紹介人と会う日だ。

マイケルは学園へ、義父は仕事へと行った。


私と義母が家の事をしていると、ドアノッカーを叩く音が聞こえたのである。


「あら?もうそんな時間かしら?

アレンシア、ここに案内してもらえる?」


私は、玄関先に向かい扉を開くと、壮年の男性と女性が立っていた。


そして私を見た途端に目を丸くして『女王様・・・』と、男性が呟いたのである。


すると隣にいた女性が(ひざまず)き『アレンシア様、我々はこの時を待ち()びておりました。本当に、女王様と見間違うほどに、お美しくご成長あそばされましたね』と言い、私の手の甲にキスを落としたのだ。


な!?なんだ!?


私は、慌てて手を引っ込めて『人違いです』と勝手に口から出ていたのだった。


とその時、私達がなかなか来ない事に痺れを切らした義母の『アレンシア?どうしたの?』と言う声が背後から聞こえた。


私はすぐさま、女性を立たせて『あの、中へどうぞ』と促したのである。


客室へ着くと、すでにお茶やお菓子が用意されていた。


「お義母(かあ)様、お客様をお連れ致しました」


それから、義母達は挨拶を交わしている。


「シルバリー様、大変不躾ではありますが、アレンシア様と三人でお話をさせていただきたいのです」


「ええ、分かりました。

では、アレンシア?何かあれば呼びなさいね」


とそう言い置き、義母は退出して行ったのだった。


扉が閉まるのを見計らってから、男性が口を開く。


「アレンシア様。

早速ではありますが、本題に入らせて頂きます。

私は、アーデンヴァルト王国で前女王エグランティーナ様にお仕えしておりました、バチェットと申します。

そして、こちらは妻のイメルダです。

覚えておられないかもしれませんが、貴女様が国を追われるまでは、このイメルダがアレンシア様の乳母を務めていたのですよ」


私がイメルダを見つめると、ニコリと笑った。

そして、バチェットはそのまま話し続ける。


「貴女様は、エグランティーナ様のたった一人のお子にして、アーデンヴァルトの正統な王位継承者。

・・・時は来ました。

私達と一緒に、アーデンヴァルトへと参りましょう」


「ちょっ、ちょっと待って下さい!

さっきから一方的に言われても困ります!」


「これは、貴女様の宿命です。

・・・逃れる事は出来ない。

18歳になり、ピアスが外れてから身体の中に魔力を感じませんか?」


・・・この(うごめ)くものだろうか。

最近は、段々と大きくなっているのを感じる。


私は自分の手を握った。


「これは、無くならないのですか?」


「・・・はい。

今までは、エグランティーナ様が『18歳になるまでは、心穏やかに過ごせるように』と、まだ2歳にも満たないアレンシア様に贈ったピアスが、魔力を封印しておりました。ですが、それが解かれた今、これからさらに魔力が増し、本当の意味で覚醒する事になるでしょう」


「・・・覚醒って?」


「貴女様はアーデンヴァルトの支柱(しちゅう)

そして、その逆も(しか)り。

完全に覚醒した貴女が、他国にいると魔力を制御できずに暴走させてしまいます。

もし、このままハインデルト王国に留まるのであれば、この国中が烈火に包まれる事になるでしょう」


私は、あまりの事に目の前が暗くなった。


・・・座っていて良かった。

立っていたら、確実にぶっ倒れていただろう。


要するに、私はこの国の異物という事だ。

そして、危険をもたらす存在でしかない。


・・・ああ、なんだろう。

(うごめ)くものが、より一層強くなっていく。


そんな私の様子を見ていたイメルダが口を開いた。


「アレンシア様、気を確かに持って下さい。

いきなりの事に、動揺されるのは分かります。

私達も、貴女様に酷な事を告げているのは承知の上。

ですが、心が揺らぐと魔力も揺らいでしまう。

・・・暴走を起こす発端を作るのは、貴女様の本意ではないはずです」


・・・そうだ。

この国には大事な人達が沢山いる。

私がみんなに危険をもたらす存在にはなりたくない。


「・・・覚醒するまでには、どれくらいの時間がありますか?」


その言葉に、バチェットが口を開いた。


「封印のピアスが外れてから二年ぐらいでしょうか。

明確な事は私達にも分かりませんが、いずれ魔力を抑えられなくなるはずです」


「・・・あの、義父母はこの事を知っていますか?」


「・・・いいえ。

時が来るまでは、なんのしがらみもなく、安寧した日々を過ごして欲しいとエグランティーナ様から申し付けられました。

ですから私達は、アーデンヴァルトではなく、この国へ貴女様を託す事にしたのです。

そして人格や内情、色々な事を考慮して選ばれたのが、シルバリー家だったのですよ」


・・・そうなんだ。

けど、そのおかげでとても幸せに過ごせた。


・・・いや、幸せ過ぎたのだ。

それに、ローレンス様や師匠。

ヴィンセルにビル達。


数え切れない大切なものが、私にはある。

だから離れたくない。

・・・離れられない。


だがその一方、私がいたら皆を危険に晒してしまうかもしれない。


どうにもならない葛藤に心が(さいな)まれる。


「・・・もう少し、考える時間をください」


それを伝えるだけで精一杯だった。


「ええ、もちろんです。

ですが、余り時間はございません。

待って半年程でしょうか」


すると、バチェットは魔石を取り出した。


「通信用の魔石です。

お心が決まりましたら、ご連絡ください」


私はそれを受け取り『分かりました』と静かに答えたのだった。


それからバチェット達は、義母と挨拶をして帰って行った。


それを見送っていると、義母が口を開いたのだ。


「アレンシア?

・・・元気がないようだけど、何か言われたの?」


私は首を振り「何もないわ」と笑顔で伝えた。


心配を掛けてはダメだ。

それに、これを知られたら嫌がられるかもしれないと思うと、怖くなった。


すると義母は私の手を取り話し始めた。


「私達は、何があろうと貴女の味方よ!

アレンシアが自分自身で決めた事なら、私達は全力で応援するわ」


・・・事情を何も知らないはずなのに、それでも信じて背中を押してくれる義母に嬉しさが溢れた。


「・・・ふふっ。

義母(かあ)様?

私は、貴女の娘である事をとても誇りに思うわ」


そう伝えると、義母は泣き笑いの顔になり『ふふっ。どうしたの?それにアレンシアは、今もこれからも、私達の大切な娘よ!では、夕飯を一緒に作りましょうか?』と私よりも小さい手を背中に優しく乗せてくれたのであった。


・・・あと何回、こうして一緒に過ごせるのだろうか。


自由に生きられるのは約半年間。


どうにも逃げられない現実に、産まれた時から自分の人生が決まっていた事への落胆と、今まで積み重ねてきた人生との決別を受け入れる為に、私の限られた時間をどう使うのかを真剣に考えなくてはいけないと思うのであった。


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