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私は、帰って来た日から三日間、マイケルが学園へと行くのを見送り、義母の手伝いをしながら、帰って来たマイケルと遊ぶという、充実した日々を送っていた。
だが少し気掛かりなのが、ローレンス様の事だ。
専属になって以来、こんなに顔を合わせなかった事はない。
・・・ヴィンセルと上手くやっているだろうか・・・
すると・・・
「ただいま!
姉様、今日は何しようか?」
と、元気なマイケルの声が聞こえた。
「おかえり、マイケル!
まずは、学園の課題を終わらせるって約束だったでしょう?」
「・・・そうだった。
じゃあ、すぐにやってくるよ!」
そう言って、部屋へと向かって行った。
その会話を聞いていた義母が口を開く。
「マイケル、毎日元気でしょう?
けどね、アレンシアがいない時はもっと落ち着いているのよ。
・・・ふふっ。本当に嬉しいのね」
・・・そうだったんだ。
私がいない事で、寂しい思いをさせていたとは気付かなかった。
・・・お姉ちゃん失格じゃないか。
そして、課題を終えたマイケルを私は外へと連れ出した。
私は歩き慣れた道を進む。
「ねぇ、姉様?どこへ行くの?」
不思議そうに問いかけてくるマイケルに、私は得意げに返した。
「今日は、私がよく行くお店に行くのよ!
串肉は分かる?」
すると、マイケルは頬を赤くして『え!?あの屋台に売っているやつだよね!!もしかして食べられるの?』と興奮気味に返してきた。
「ええ、もちろんよ!
好きなだけ買ってあげるわ!
それとね、マイケルにお願いがあるの」
「やった!食べてみたかったんだ!
姉様、ありがとう!
それで、お願いってなに?」
「お義父様とお義母様に、何かプレゼントをしたいって思っているんだけど、一緒に選んでくれない?」
「もちろんだよ!
今ね、スプリングマーケットがやってるから見に行こう!」
そう言って、喜ぶマイケルの歩くスピードが速くなった事に、私は頬を緩めたのであった。
まずは、おっちゃんの屋台へと向かう。
帰ってから夕飯が食べられないと困るからだ。
「おっちゃん!
串肉二本とレモネードちょうだい!」
「お?アレンシアか。
そろそろ焼けるから少し待ってな」
すると、その様子を見ていたマイケルが口を開いた。
「なんか、いつもと話し方が違うんだね」
「ここで貴族らしくしても仕方ないでしょう?
だから、郷に入れば郷に従えよ」
「そうなんだ!じゃあ僕も姉様を見習わないとね!」
とその時、おっちゃんが『焼けたぞ!』と熱々の串肉を渡して来た。
マイケルは座る場所を探している。
「マイケル?立ったまま、齧っていいんだよ」
「え?そのまま!?
・・・本当にいいの?」
「うん。その方が何倍も美味しいよ」
そうして、恐る恐る口をつけたマイケルから『美味しい!』と聞こえて来た。
その様子を見ていたおっちゃんが口を開く。
「美味いだろう!
俺の焼く肉は、世界一なんだぞ!
ほら、レモネードだ」
「ありがとう、おっちゃん!
これ、代金ね」
「はいよ!毎度あり!
それはそうと、その坊主はアレンシアの弟か?」
「そうだよ!マイケルって言うんだ」
私はマイケルに、挨拶をするように促した。
「マイケルです。いつも姉がお世話になっています。
これからも姉共々、よろしくお願いします」
13歳から繰り出されたとは思えない言葉に、私もおっちゃんも目が点になった。
「・・・なんだ。
アレンシアと違って、賢い坊主じゃないか」
と頬を、ポリポリ掻きながら呟いた。
「おっちゃん、一言余計だよ!」
すると、マイケルは可笑しそうに笑ったのだ。
その笑顔は年相応で、急に大人びて見えたマイケルの雰囲気が和らいだ事に、私は安心したのであった。
それから私達は、おっちゃんの屋台を後にしたのだ。
楽しそうに、いろんなお店を見て回るマイケル。
私には師匠がいたから、屋台慣れしているが、マイケルはほぼ初めてと言っても過言ではない。
見る物全てに吸い寄せられて行くのだ。
だが、全部を買っても食べきれないので、食べきれる量を買い、スプリングマーケットまで足を運んだのであった。
「マイケル、何がいいかな?」
「僕も何があるか分からないから、まずは一周しようよ」
見ると、フライパンなどの料理雑貨や髪飾り、絵など多種多様な物が揃っている。
実用的な物にするか、それとも装飾品にするか。
見れば見るほどに迷ってしまう。
すると、マイケルが私を呼び止めた。
「姉様!
・・・これはどうかな?
キラキラしていて、とても綺麗だよ」
マイケルが薦めてくれた物は、天然石のブレスレットだった。
緑や赤、青、ピンクと様々な色合いの物がある。
「・・・綺麗だね。
じゃあ、みんなでこれにしようか?」
「うん!お揃いだね」
そうマイケルと話していると、店員が話しかけて来た。
「お客さん、お目が高いね!
これはね、幸運を呼ぶ石でできているんだよ!
着けた者は幸せになれるって話さ」
・・・なんだろう。
胡散臭いと思ってしまう私は、心が汚れているのだろうか・・・。
だが、マイケルはその話に『幸せになれるって、すごいね!』と目を輝かせている。
私は店員のお兄さんに買う事を伝えて、マイケルと色を選ぶ。
義母は藤色、義父は瑠璃色、そして、マイケルは向日葵色を選んだ。
私は、千草色と緋色のブレスレットを取る。
「お兄さん、これもらえる?」
一つ一つ丁寧に包装してくれるようで『少し待ってな』と言われた。
その間、マイケルが口を開いた。
「姉様はなんで二本買ったの?」
「緋色はお土産で、私は千草色にしたのよ」
「そうなんだ!
綺麗な赤だよね!姉様の髪色みたいだ」
「ふふっ。
それが違うのよ!
緋色の瞳をした人にあげるの」
するとマイケルは『赤い目の人がいるの!?王都ってすごいんだね!』とまた、興奮している。
それからブレスレットを受け取り、マイケルはバリバリと包装を開けて着けていた。
その様子を店員のお兄さんが横目で見ている。
時間を掛けて、しっかりと包装をしたのに一瞬で塵となったのだ。
思う事があるのだろうが、見て見ぬ振りをした。
「姉様、本当にありがとう。
僕は、このブレスレットを見る度に今日の事を思い出すよ」
「どうしたの急に?
また、いつでも来られるわよ!」
「うん。・・・そうなんだけどね。
なんか、姉様が遠くに行ってしまう気がしてさ。
・・・何言っているんだろう僕は・・・
けど、何があっても、僕達は二人だけの姉弟だよ」
そう真剣に見つめてくるマイケルの様子に、明日紹介人と会う事を知っているのではないかと思った。
私に、本当の親や兄弟姉妹が現れて、連れて行かれるのかもしれないと不安を覚えているのだろう。
「マイケル、私達は姉弟よ。
いつまでも、家族である事は変わらないわ」
すると、先程と同じ子供らしい笑みを浮かべて『うん、そうだね!じゃあ、母様も待っているし、帰ろうよ』と言って、二人でお土産を抱えて帰ったのであった。
そして、その途中
「今日の夕飯は何かな?」
とマイケルが呟いた。
「今日はビーフシチューって言ってたわ。
けどマイケル、あんなに食べてもうお腹空いたの?」
「うん、もうペコペコだよ。
最近、すぐにお腹が空くんだよね」
・・・恐るべし成長期。
「次に帰って来た時には、私よりも大きくなっているかもね」
「うーん、なんだか想像できないな」
と他愛ない会話をして歩く私達は、日が傾いて長く伸びた影の背くらべをしながら帰ったのであった。
「おかえりなさい」
「「ただいま戻りました」」
「そろそろ夕飯よ。二人とも、準備をして来なさい」
それから家族が皆揃い、夕食を食べた。
私とマイケルからプレゼントを渡すと、義父母はとても喜び、マイケル同様に、すぐに開けて身に着けてくれた。
その綻ぶ笑顔を見ると、とても嬉しくなる。
初めて、家族でお揃いの物を持てたので、私はとても良い買い物が出来たと大満足の一日であった。




