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あの事件から時は少し経ち、ネーベルフ侯爵の罪が確定した。
爵位剥奪の上、10年間の強制労働に出される事になったのだ。
務め上げれば、その後自由にはなれるが生涯平民として生活して行く事になるだろう。
そして、ネーベルフ侯爵家は存続するが、代替わりとして、侯爵の弟が引き継ぐ事になった。
だが遺恨を残し、謀反を起こさせる訳にはいかないので、公爵家が代わる代わる教育を施してからの爵位授与となるらしい。
その間は、王家が一時的に爵位を預かるそうだ。
また、ダントン伯爵とビンゼフ子爵だが、唆されたとは言え、私利私欲で犯罪に加担した事から、領地の縮小となった。
そして、今後10年間は観察人が付く事になる。
その間に不正や犯罪に手を染めた場合は、爵位剥奪となるそうだ。
それから、この事件が公になると模倣犯が出る恐れがあるので、これを知る者には箝口令が敷かれた。
表向き、ネーベルフ侯爵は持病の悪化の為、爵位を全うする事が出来なくなった、という理由になったのだった。
それと、リーズベルト公爵がヴァレーロ公爵を訪ねた理由も知る事が出来たのだ。
公爵曰く・・・
「大臣達を統括し、国王を支えるのが宰相の務めです。
私は、悩むヴァレーロ公爵の力となる為に、職務を全うしたまでです」
と言ってはいるが、四大公爵家は言わば血が繋がった親戚同士だ。
ただ単に、心配だったのだろう。
そして今日は、事件が解決してから初めての休日。
久々に街へ出掛けようと歩いていたら、厩舎近くでビルを見かけたのだ。
「やあ、ビル。調子はどう?」
「アレンか!調子はまぁ、順調かな。
って、そう言えば、手紙が届いてたぞ」
みんなとは、あれから時々会っている。
部署が違う為、全員一緒に会う機会は少ないが、個別には話しているのだ。
そして、手紙が届くと必ず教えてくれる。
「教えてくれてありがとう。
いつ取りに行けばいい?」
「今日はアルトが非番だから、寮にいると思うぞ。
暇なら寄ってみてくれ」
私はビルに別れを告げ、寮へと向かった。
いつもの様に玄関ベルを鳴らすが、誰も出て来ない。
だから、共用スペースのテラスへ行き、窓から覗いてみたのだ。
すると、ソファに寝そべり、本を読んでいるアルトが見えた。
私は、窓をコンコンとノックする。
それに気付いたアルトが窓を開けてくれたのだ。
「アレン、遊びに来たんだ?」
「ビルから手紙が来てるって聞いてね。
それより、何回かベルを鳴らしたんだけど、聞こえなかった?」
すると、悩む様に『本を読むと音が聞こえない時があるんだ』と言う。
すごい集中力だな。
そう思っていた私に『取り敢えず、入って』と言うアルトがテラス窓を全開にしたので、私はそこからお邪魔する事になった。
靴を玄関に置き、アルトが来るまで共同スペースで待つ。
「アレン。手紙だよ」
私は『ありがとう』と伝え、受け取って確認すると案の定、家からだった。
「今、お茶入れるね」
とアルトが準備をしてくれる。
・・・懐かしいな。
いつもは玄関先で手紙を受け取るので、中に入ったのは、一年ぶりだ。
みんなで料理を作り、食べた記憶が鮮明に蘇る。
「ねぇ、アルト。
新しい人は入寮したの?」
「うん。入って来たよ」
それを聞いて、もう私が居た場所は、違う人の場所になってしまったんだなと思うと、ふと、寂しさを感じた。
そうして、その後は、アルトと他愛ない話をしたのだ。
「何の本を読んでいたの?」
「馬の本だよ」
なんと、本を見て馬への気持ちを発散しているようである。
するとアルトが、私の後ろを見つめて『来たよ』と言った。
「え?何が?」
と聞いた瞬間、戸の開く音がした。
そして、後ろから『な!?なんで、君がいるの!?』と聞き覚えのある声が響く。
振り向くとそこには、ヴィンセルが居たのだ。
「え?なんでヴィンセルが、ここに?」
「それは、オレのセリフだよ。
・・・てか、なんの用?」
「えっと、アルトに用があったんだけど・・・?」
すると、ヴィンセルは私とアルトを交互に見てから『二人はどういう関係なの?』と聞いてきた。
「友達だけど」
「本当?嘘じゃないよね?」
また、訳の分からない事を聞いてくる。
すると、アルトが口を開いたのだ。
「二人は知り合いだったんだ。
この人が、アレンの部屋を使ってるんだよ」
・・・なるほど。
けど、ヴィンセルは家からの通いだったはず。
何故、寮にいるのか・・・。
私が口を開こうとしたら、真っ赤な顔のヴィンセルと目が合った。
「な!?
アレンの部屋って、オレの部屋がか!?」
と挙動不審になっている。
まぁ、いつもの事なので普通に返した。
「そうらしいね」
「・・・!!?
は!?
か、帰る!!」
と玄関から出て行ってしまったのだ。
いつにも増して、おかしなヴィンセルに唖然としてしまう。
・・・帰るって、ここに住んでるんじゃないのか?
そう思っていると、アルトが『面白い人だね』と興味を示したのである。
私は、それにもビックリしてしまったのだった。
【ヴィンセル視点】
下の階が煩いから、牽制の為に行ったら、アレンが居た。
アレンに対して、普通に接する事の出来ないオレは、思わず問い詰めてしまったのだ。
だって、まさかアレンが居るとは思わなかったし、男と二人っきりで話しているし・・・。
なんか、モヤモヤしたんだ。
すると、男がとんでもない事を言い出した。
オレが使っている部屋は、アレンが元々使っていたんだと。
という事は、家具はもちろん、ベッドもアレンが使っていたんだよな・・・。
同じベッドで寝ていると考えると、恥ずかしくて、どうして良いのか分からなくなってしまい、思わず寮を飛び出してしまった。
・・・はぁ。
オレは一体、どうしてしまったんだろう。
アレンといると、居心地の悪さを感じる。
でも、離れると何をしているのかが気になる。
好きなのか、嫌いなのか、もしくは、そのどちらでも無いのか・・・。
オレは、相反する気持ちに、名前を付けられずにいるんだ。
・・・取り敢えず、今日は実家に帰るか。
そうして、寮からそう遠くない、公爵邸へと歩いたのであった。




