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私は、ローレンス様に付き添い、子供達の元へと向かっている。
そして扉を開けると、子供達が私に寄ってきた。
「アレンさん!今日はお仕事じゃなかった?」
「ねぇ、見て!私ね、ちゃんと自分の名前が書けるようになったんだよ!」
と、リオンとルーナが興奮気味に話す中、テオは私の足に抱き付いている。
そんな様子を見ていたローレンス様が口を開いた。
「アレンは、子供達に好かれているのだな」
「・・・そうなのでしょうか。
でもそうなら、とても嬉しいです」
そう言ってから、私は一人ずつ頭を撫でてから子供達に話し掛けた。
「今日は勉強ではなく、ローレンス様からお話があるんだ。
みんな、静かに聞けるかい?」
すると三人は、いつも使う机と椅子を用意して腰掛けた。
「ローレンス様、子供達の準備は大丈夫です」
そう私が伝えると一つ頷き、口を開く。
「君達は、国にいる時、魔石に魔力を込めていたと言っただろう?
その時、何か見なかったか?」
「何かって、魔石と見張りの役人しか見てないよ」
と、リオン。
すると、ルーナが口を開いた。
「リオン、他にもいたじゃない!
誰かは分からないけど『偉い人が来るから、ちゃんとしろ』って私、言われたもん!」
「・・・そうだったか?全然覚えてないや」
その会話にローレンス様は、話を詰めた。
「顔を見たか?
何でも良い、何か覚えてないか?」
「見たけど、もう覚えてないよ」
すると、テオがルーナの裾を引っ張った。
「テオ?どうしたの?」
すると、両手いっぱい広げて円を描いている。
・・・何かのおまじないかな?
とそう思っていたら、ルーナが『まさか、アレするの!?』と驚いて返していた。
ローレンス様も気になったのだろう『アレってなんだ?』と聞き返す。
「アレはアレだよ。見ててくれる?」
そうしてルーナとテオが見せてくれたものは、にわかには信じられない光景であった。
それに、私もローレンス様も度肝を抜かれたのだ。
だが、いち早く我に返ったローレンス様が呟く。
「これなら大丈夫だ」と。
それから私達は部屋を後にし、執務室へと向かう。
すると、執務室の扉の前でレノンさんが待っていたのだ。
「ローレンス様、お戻りのところ急で申し訳ありませんが、レオナード殿下がお呼びだそうです」
そうして、私達は行き先を変えて、レオナード殿下の執務室へと向かったのである。
部屋へ入ると、第一王子とヴァレーロ公爵の姿があった。
「兄上、どうでしたか?」
「ああ、ヴァレーロ公爵から話を聞いていたんだが、集会後、接触して来た者が二人いたそうだ」
「そうですか、俺の方でも調べたんですが、首謀者がたった今、分かりましたよ」
「なんだと!?
まさか、首謀者は二人なのか!?」
「いいえ、一人です。
ちなみに、接触して来た人は誰ですか?」
「ネーベルフ侯爵とリーズベルト公爵だ。
・・・で、犯人はどちらだ?」
それからローレンス様は、調べた事を話した。
それを聞いた二人は、信じられないような顔をしていたが、アレは実際に見てみなければ信じられない光景だろう。
「なるほどな。
では早速、首謀者を呼び出すか。
ローレンス、証拠の準備を頼む」
「はい。分かりました」
「ヴァレーロ公爵も報告感謝する。
事が明らかになったら、また報告しよう」
「はい、お待ち申し上げております」
そうして、話し合いは終わり運命の日を迎えた。
私とローレンス様、第一王子と専属騎士や衛兵が待機するなか、ノック音が響き、扉がそっと開かれた。
「これはこれは、私にお話があるとは光栄です。
レオナード殿下、ローレンス殿下」
「ああ、来たか。
早速だが、呼び出した理由は分かるか?」
「・・・そうですね。
まさかとは思いますが、ヴァレーロ公爵と同様の内容でしょうか?」
「まぁ、そうだな。
では、前置きは無しにして、単刀直入に言う。
其方が紛い物の魔石を広めたのだろう?」
「一体、何の事ですか?
私がそんな事をする理由がありません。
それに、ヴァレーロ公爵を疑っていたのではないですか?」
・・・まぁ、この程度で白状するのなら、特殊部隊もこんなに調べ回ったりしない。
しかも、焦らずに悠然としている。
捕まらないという、絶対の自信があるのかもしれない。
「ヴァレーロ公爵の使用人が使われていたのは事実だが、公爵ではない。
そしてこれは、その使用人が着けていた物だが、見覚えがあるだろう?」
第一王子は真っ黒に焦げた首輪を見せた。
「・・・なんですか?これは?」
「白を切らなくても良い。
裏は取れているからな」
すると、ニッコリと笑い、問い掛けてきたのだ。
「それは、本当に私ですか?
私の名を騙った者ではないと言い切れるのでしょうか?
それにしてもレオナード殿下、私は残念でなりません。
国の為に、弛まぬ努力を積み重ねてきた私に対して、あんまりでございます」
「・・・そうか。
これ以上言ったとしても、無駄だな。
仕方ない、ローレンス、頼めるか?」
私は、ローレンス様の指示通りに、ルーナとテオを連れて来た。
準備が出来たのを見計らって、ローレンス様が口を開く。
「確かに、状況証拠だけでは認められないだろう。
では、物的証拠を見せようか。
・・・ルーナ、テオ、頼む」
頷いた二人は、手に魔力を込め始めた。
そしてルーナは水球を作り出し、テオがその中に映像を投影していく。
とても神秘的な光景が広がった。
皆、一様に言葉を失う。
すると、水球の中に、マティスとネーベルフ侯爵の姿があったのだ。
テオは、見たものを映し出す事ができる光魔法の使い手、ルーナは水を自由自在に操る事ができる水魔法の使い手である。
そして、リオンは雷魔法の特性を持っているという。
(アーデンヴァルトの民は、皆、魔法が使える)
言葉では理解していたが、初めて目にする魔法に、私達とは違う民族なのだと改めて実感する。
その映像には、侯爵の行動の一部始終が映っていた。
「な!?なんだ!!これは!?
い、インチキだ!これは、私じゃない!
お前っ!!私を嵌めようとしているんだろう!!」
そう言って、憤怒の顔で子供達へと向かって来る侯爵。
私は子供を背に隠し、取り押さえようとしたところ、横からローレンス様の一撃が飛んだ。
それが腹に入り、崩れ落ちる侯爵にローレンス様が告げる。
「侯爵、落ち着け。
この子は、見たものを映し出す能力を持っている。
嘘でも、ましてや、インチキでもない。
もう、観念しろ」
「ま、まだだ。
私は、まだ、公爵へと上り詰めていない」
目を血走らせながら、蹲って言う侯爵の執念に恐ろしさを感じる。
そして、第一王子が口を開いた。
「まさか、公爵になりたいが為に、この事件を起こしたのか?」
「・・・そうだと言ったらなんですか?
この国の制度が、私をこうさせたのですよ?
私は、この国の為にずっと努力してきた!
なのに、私の努力は報われる事はない。
責任を取るのは、貴方達、王族ではないですか?」
この国は、王族、四大公爵家が国の中枢を担う。
侯爵であっても、公爵との間には絶大な差があるのだ。
そして、この先も公爵家が増える事はない。
マクガディ、ヴァレーロ、シェディオン、リーズベルト。
この四家のみである。
さらに、王家の血を絶やさぬ為に、何代かに一度、王家の血を混ぜるのだ。
そして、侯爵は興奮気味に話し続ける。
「私は思ったのですよ!
公爵家が不祥事を起こせば、外務大臣を担う私の侯爵家が繰り上がるのではないかと!
だから、恵まれた権利の上に、のうのうと胡座をかいている公爵家の奴等を引きずり下ろしてやりたかった。
・・・それの何が悪い!?
私は、尽くしてきたものを、目に見える形で返してもらいたかっただけだ!」
「そうか、お前の言い分は分かった。
では、何故こちらに相談をしなかったんだ?
言っておくが、お前がした事は犯罪だ。
国に混乱を招き、他国の民にも危害を加える結果となった。
自分勝手な正義を振り翳したって、それはお前のエゴでしかない。
ネーベルフ侯爵、追って沙汰は出す。
それまでは、貴族牢へと幽閉する。
・・・連れて行け」
衛兵に連れて行かれるネーベルフ侯爵は、何かを喚いていたが、それは既に、言葉にはなっていなかった。
「兄上、終わりましたね」
「ああ、案外骨が折れたな。
ローレンス、協力感謝する。
お前がいてくれて助かった」
「俺は何もしていません。お礼は子供達に」
『そうだな』と呟いたレオナード殿下は、子供達の前へ行き、膝をついた。
「子供達、ありがとう。
君達のおかげで、早期解決に至った。
私も、君達が安全な母国へと帰れる様に、尽力しよう。
それまでは、我が国で悠々自適な生活ができるよう約束する」
子供達は、ローレンス様よりも王子様っぽい見た目の第一王子に、ドギマギしながらもルーナが口を開いた。
「ありがとう。お兄さんは、王子様?」
「ああ、ローレンスの兄、レオナードだ。
何かあれば、私を頼りなさい」
すると、ルーナは顔を真っ赤にして『・・・私の王子様』と呟いた。
私は、6歳でも女の子なんだなと思い、先程まで緊張していた心かほぐれていくのを感じたのだった。




