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報告の為に、ヴィンセルと団長室へと向かった。
すると師匠は、先程、先輩達が撮ったであろう映像を見ていた。
そして、私達に気付いた師匠が映像を止めて顔を上げたのだ。
「遅くまで、ご苦労だった。
・・・収穫はあったか?」
その言葉にヴィンセルが反応した。
「この魔石に全てが記録されています。
・・・やはり、ヴァレーロ公爵でした」
「・・・そうか。
二人とも、もう遅いから早く休め。
映像はこちらで確認する」
師匠はそう言って、ヴィンセルから魔石を受け取ったのであった。
そして、今日の任務は終わったのである。
帰り際に、ヴィンセルを見ると、神妙な面持ちをしていた。
とても、声をかけられる雰囲気ではなかった。
それから私は、中庭からローレンス様の部屋を見ると、まだ灯りが付いていた。
急いでいたから何も伝えずに出てしまったのだ。
・・・もしかしたら、怒っているかもしれない。
私は部屋へと急いだ。
扉を静かに開けると、ローレンス様は、机に向かい仕事をしていた。
「ただいま戻りました。
・・・あの、ローレンス様。
何も伝えずに任務に行ってしまい申し訳ありませんでした」
すると、何も言わずに立ち上がったローレンス様が、こちらへとやって来る。
顔を見ると、眉を寄せていた。
・・・やっぱり、怒ってる。
私は、手を握りしめ、一度、瞼をギュッと閉じた。
覚悟を決めて待っていると、身体に温もりを感じたのだ。
いつかの爽やかな香りが鼻腔へと駆け抜ける。
「・・・心配した。
・・・・無事で良かった・・・」
そう辿々しく話すローレンス様に、心から私の事を心配してくれているのが分かる。
こんなに思ってくれる人は、きっと、家族以外では、この人だけだろう。
そう思ったら、私もローレンス様の背中に、そっと腕を回したのであった。
すると、ピクリと驚いた様子のローレンス様に思わず笑みが溢れた。
いつもは、遠慮なく抱きしめたり、突拍子もない言動をして、私をドギマギさせるくせに、自分がされると驚くなんて・・・。
・・・ふふっ・・・本当に可愛い人。
私は遠慮なく、ローレンス様の香りを吸い込んでから、離れたのであった。
そして顔を見ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
何も言わずに、ジッと私を見つめているローレンス様を見つめ返し、静かに問いかけた。
「ローレンス様、抱きしめ返されるのは、どうでしたか?
・・・驚いてましたよね?」
すると、信じられないと言わんばかりの顔をして呟いたのだった。
「・・・ああ・・・幻想かと思った」
「幻想ではありません。現実です。
・・・だから、ちゃんと覚えておいて下さい」
そう伝える私に、目を丸くしてから微笑んでくれたのだ。
「ああ、忘れるわけがない。
知っていると思うが、俺は記憶力には長けているんだ。
・・・こんなに嬉しい事は、初めてだ」
私は、彼の顔を見つめながら思う。
きっと、私も忘れる事はないだろう。と。
それほどまでに、私の中のローレンス様の存在が大きくなっているのだ。
そして、また思う。
・・・女の私でもいいと言って欲しい。
・・・だが、それこそ幻想だ。
私は、気持ちにそっと蓋をし、口を開いた。
「ローレンス様、今日の任務で分かった事があります。報告よろしいですか?」
「いや、明日兄上から話があるはずだ。
それよりも今は、この気持ちを噛み締めたい。
・・・抱きしめ返される事が、こんなに幸せだとは知らなかった」
そう言って、今だに感極まっている。
そこまで喜んでくれるとは思わなかった。
私は、もう夜遅い事や、任務でヘロヘロな事を忘れてしまう程に、ローレンス様の幸せそうな顔を見る事への嬉しさを覚えたのであった。
それから程なくして、気になる事があったので、問いかけたのである。
「こんな時間までお仕事とは、何かあったのですか?」
すると、ローレンス様は、机の半分を占領している書類に目を向けてから答えてくれた。
「これは、兄上の仕事を手伝っているんだ。
兄上からは、さっさと寝ろと言われたんだが、アレンがいないから眠れないだろう?
ボーッとしているぐらいならと、無理やり預かってきたんだ」
「・・・あの、すみません」
「アレンが謝る事ではない。
俺が、勝手に待っていたいだけなんだ。
だから、気にしなくていい」
そう言ってはくれるが、やっぱり居た堪れない。
任務があれば、行かなくてはならないが、終わったら早めに帰って来ようと、改めて思うアレンシアであった。




