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「アレンさん、この字教えて?」
「あ!私も!これは何て読むの?」
今日は時間ができたので、子供達の部屋へと来ている。
リオンとルーナは本を持ちながら、近寄って来た。
そう、ルーナの怪我はだいぶ良くなり、普通に歩ける様になったのだ。
「二人共、まずは、椅子に座ってから始めようか」
そう話すと、いそいそと椅子に向かう二人。
私はその様子を見ていると、服の裾をツンツンと引かれた。
そこには、まだ話す事が出来ないテオが、絵本を持って、ジッと私を見ている。
「テオも椅子に座れるかな?」
すると、コクンと頷き、二人の間に座ったのだった。
「では始める前に、まずは約束をしよう。
質問をする時は、一人ずつ手を挙げてする事。
順番をちゃんと守る事。
みんな、出来るかな?」
「「はい」」(コクン)
それからは本を読み、基礎文字を教えていったのだが、みんな、飲み込みが速くて驚いた。
学びたくても学べない環境だったからだろうか、知識を得る事に、楽しさを見出しているように見えた。
「今日は、ここまでにしようか。
みんな、約束を守れて良く頑張ったね。
・・・本当に良く出来たから、次回までの宿題を出してもいいかな?」
すると、ルーナが『うん!いいよ!』と元気よく返してくれたのだ。
私は【リオン】【ルーナ】【テオ】と一人ずつ紙に書いて渡した。
「これが、君達の名前だ。
次回までに、この文字を書けるように頑張れる?」
すると、三人共嬉しそうに自分の名前を目で追っていた。
その光景を微笑ましく思う。
「アレンさん、本当にありがとう」
そう言って笑うリオンに、私は心が温かくなったのであった。
それから子供達の部屋を出て、ローレンス様の執務室へと行く途中、執務室から出て来たレノンさんに声を掛けられた。
「アレンさん、ちょうど良かった。
先程、特殊部隊の方がいらして、すぐに来て欲しいと言っておりました」
「分かりました。伝言ありがとうございます」
私は来た道を戻り、特殊部隊室へと急ぐ。
そして廊下の角を曲がると、ヴィンセルも急ぎ足で特殊部隊室へと入るのが見えた。
扉を開け、辺りを見回すと、ヴィンセルの姿はない。
すると、副団長が『ヴィンセルは団長室だ。アレンもすぐに行け』と教えてくれたのであった。
ドアをノックし、入室する。
書類仕事をしている師匠の前に、ヴィンセルが立っていた。
そして、顔を上げた師匠が話し始めたのだ。
「二人とも、忙しいところ悪いな。
レオナード殿下からの依頼の件で呼んだんだ。
早速だが、ダントン伯爵に動きがあった。
夜会を開くと、高位貴族相手に招待状を出したようなんだ。
もちろん、うちの家にも来ている。
そこでだ、二人のどちらかに、俺のパートナーを務めて欲しい」
先日、第一王子から『ダントン伯爵周辺を徹底的に調べ上げろ』とお達しがあったのだ。
特に、人間関係を重視しろと言われている。
「叔父上。
マクガディ家に来たのなら、オレが行きます」
「分かっていると思うが、女装だぞ?」
「・・・は?
なんで、女の格好なんですか!?
嫌に決まっているじゃないですか!」
「・・・そうか。
アレンはどうだ?」
子供達の為にも、早くこの事件を解決したいと思っていた私は『素性がバレなければやります』と返したのだ。
すると、ヴィンセルが驚いた顔をしてこちらを凝視している。
「え?分かって言ってんの?ドレス着るんだよ?」
「もちろん、分かっている。
だから、女だとバレなければいいと言ってるんだ」
「話は決まったな。
じゃあ、アレン。早速、準備するぞ」
師匠の言葉に焦ったのか、ヴィンセルが口を開いた。
「ちょっ、ちょっと待って!
オレも行きます!」
「アホか!
三人なんて、目立つからダメに決まってんだろ?
ついて来たとしても、ヴィンセルは外で待機だ」
すると、ヴィンセルは『・・・分かりました』と渋々頷いたのであった。
それからは、淑女教育のおさらいと、ドレスの準備をしてもらうのだが、私が女である事は秘密の為、師匠の家で行われた。
マクガディ公爵家の別邸だそうだが、一人で住むには広すぎる、贅沢なお屋敷だった。
師匠に案内されてエントランスへ向かおうとしたら『こっちだ』と言われ、裏口からお邪魔する事になったのだ。
そして、客室へ入ると『これを着て、これを被れ』と言われたので、受け取って見ると、ワンピースと赤茶色のウィッグだった。
「えっと、サラシは取るんですか?」
「ああ。
アレンではなく・・・。
そうだな、アンナと名乗れ。
うちの使用人は大丈夫だと思うが、念の為だ」
「分かりました。では、着替えて来ます」
そう言い残して、隣の部屋で着替えた。
そして、師匠のいる部屋へと戻る。
「よし、ちゃんと女に見えるな。
じゃあ、行くか」
そう言う師匠に付いて行くと、また、裏口から出て、エントランスへと向かう。
すると、使用人達が迎えてくれた。
「旦那様、お帰りなさいませ。
本日は、可愛らしいお客様もご一緒なのですね」
そう言って微笑む老執事は、とても優しそうな風貌をしていた。
「ああ。
アンナ嬢だ。
例の手配は出来ているか?」
「もちろんでございます。
どうぞ、こちらへ」
そうして、案内をされた客室には、仕立て屋のマダムが待っていた。
「お嬢様、早速ではございますが、どうぞこちらへ」
マダムに誘われ、衝立の奥へと行くと、巻き尺を持ったお針子さん達に、あれよあれよと測られていく。
さすが、プロ。
仕事に隙が無く、テキパキと熟している。
あっという間に測り終え、デザインの話になり、私は、師匠の話に耳を傾けた。
「お嬢様は、足が長く、とてもスタイルがよろしいので、こういったデザインはどうでしょう?
とても、魅力的に見えますわよ?」
私は、師匠の背後から覗き込むと、スレンダーラインで足にスリットが入ったセクシードレスだった。
すると師匠が、間髪入れずに話し始めた。
「いや、出来るだけ露出は避けたい。
だが、野暮ったくないので頼む」
「まぁまぁまぁまぁ!
コホン、失礼致しました。
そうですわよね!
愛する女性の肌を、他の男に晒す事なんて、出来ませんわ!
お任せ下さい!
お二人の愛を感じさせる、素晴らしい物を作り上げてみせますわ!」
・・・なんか、面倒な事になっているので、私は全てを師匠に丸投げをして、デザイン画に目を向けたのであった。
マダムとお針子さんが退出した後は、淑女教育をしてくれる先生がやって来た。
久々の事で、度忘れしたところもあったが、身体が覚えているのだろう。
なんとか無事に合格をもらえたのであった。




