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リオンからの話も聞き終わり、第一王子へと報告に向かうローレンス様の後ろを歩きながら、先程の事を思い返した。
「リオンは、何かしたい事はない?」
すると、恥ずかしそうに『文字が読めるようになりたい』と呟いた。
それから、俯いて『本を見れば、分かるようになるかと思ったんだけど、全然分からなかったんだ』と、一人で何とかしようとしていたリオンの姿を思い出すと、胸が痛くなった。
だから、私で良ければ、一緒に文字の勉強をしようかと提案したのだ。
すると『ありがとう』と、はにかんだのである。
もちろん、ローレンス様にも許可を得たので、時間がある時は、子供達の所へ行く事を決めたのだ。
そうこう考えているうちに、執務室へと着き、ローレンス様の報告が始まった。
・・・その途中・・・
「待て。ダントンは、彼の方と言ったのか?」
「はい。馬車の中で『彼の方の伝手に感謝しなくては』と言ったそうです」
「・・・そうか。
やはり、氷山の一角だったようだな。
・・・悪い、続けてくれ」
その後、第一王子は静かに耳を傾けていた。
「なるほど、分かった。
ネーベルフ侯爵が話していた噂は、この事だったんだな。
子供達は国へ帰りたがっているのか?」
「何れは帰りたいようですが、今は、そこまでの気力がなさそうです。
ですが、親の安否を気に掛けていました」
「・・・そうか。
今、父上の指示で、シェディオン公爵がアーデンヴァルトについて調べている。
何か分かり次第、報告があるだろう。
私も、親元へ帰してやりたいと思うが、今は難しい。
時期を見てからになる事を子供達に伝えてくれ」
「はい。分かりました」
「それと、私は【彼の方】について、調べてみる。
何か分かったら、また話そう」
そうして執務室を後にした私達は、部屋へと戻った。
窓の外を見ると、もう夕暮れ時になっている。
すると、レノンさんが『食事の準備を致しますね』と言い残して退出して行った。
そして、椅子に腰掛けたローレンス様が口を開いたのだ。
「アレン。
子供は親に会いたいと思うのが、普通なのだろうか?」
「・・・そうですね。
親と子の関係が、身近であればあるほど、その思いは強くなるのではないでしょうか」
「・・・そうか。
では、あの子達の親は皆、子供想いの良い親だという事だな」
そう呟き、書類をパラパラと捲っている。
それが何だか、寂しそうに見えた。
だから私は、お節介かと思ったが、口にする事にしたのだ。
「ローレンス様の事を大事に想ってくれている方はいますよ」
すると、書類から顔を上げたローレンス様の赤眼と目が合う。
「・・・それは、アレンか?」
・・・・・・。
思っていた返答では無かった為、少し間が空いてしまった。
「もちろん、私もそうです。
ですが、先日の会話で、レオナード殿下は、本当にローレンス様を想っているのだと感じました」
「・・・兄上か。
・・・そうだな。
俺は本当に、色々なものを見落としてきてしまったんだな。
・・・ありがとう、アレン。
そう思えたのは、君に出会えたからだ」
そう言って、嬉しそうに書類へと目を戻すローレンス様を見て『可愛い人ですね』と、口から勝手に出ていた。
すると、また、赤眼と目が合う。
ジッとこちらを見ていた。
・・・しまった。
思わずとは言え、王子に、しかも年上の男の人に言って良い言葉ではない。
「えっと、申し訳ありません。
口が滑りました」
「・・・いや、いい。
アレンの思った事を聞けて、嬉しい」
そう言って微笑むローレンス様に、心臓が跳ねた。
別に、好きだとか抱きしめられた訳ではない。
・・・なのに、何でだろう。
愛おしいと思ってしまうのは・・・。
私は、キュッと唇を結び、気持ちを押し込み、扉の前に立ち続けるのであった。




