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あれから数日経ち、子供達はだいぶ、今の環境に慣れたそうだ。
けれど、話を聞くまでには至っていないようで、もう少し、様子を見てからにするとローレンス様が言っていた。
そして先日、第一王子に報告した事により、ダントン伯爵の様子を探る任務を言い渡されたのだ。
その為、私とヴィンセルは、王都にある伯爵邸へと向かったのである。
「ヴィンセル、今日の聞き込みだけど、準備はいい?」
「・・・・」
・・・またか。
最近のヴィンセルはおかしい。
何かを考えているのか、ぼんやりとしている事が増えた。
私はヴィンセルの肩を叩き、再度話しかける。
「ヴィンセル、聞こえてる?」
すると、上の空で『・・・うん?』と返事をしたかと思ったら『!?ア、アレン!?何でここに!?』と挙動不審になっている。
「いや、一緒にここまで来たじゃないか。
熱でもあるんじゃないか?」
私はヴィンセルの額に手を当てた。
すると、触っているうちに、どんどんと熱くなっていく。
「ヴィンセル。やっぱり熱があるよ。今日は帰る?」
「ね、熱なんてない!大丈夫だから、手、どけてよ」
「分かったから、そんなに怒るなよ。本当に平気?」
「・・・平気。
それに怒ってなんかないから。
ほら、行くよ!」
ヴィンセルは、本当にどうしたのだろうか。
とりあえず、サクッと終わらせて、早く解散した方が良さそうだ。
私達は、屋敷の使用人達から話を聞くべく、変装をし、ヴィンセルに野菜が入った箱を持たせた。
一階の裏口から厨房へと向かう。
「こんにちはー!
野菜の販売で来ました!今日はキャベツがお勧めですよ」
私は扉を開けて、大声で呼びかけた。
すると、料理人がやって来たのである。
「ああ、今日は旦那様がいない日なんだ。折角来てくれたのに、悪いな」
「いえいえ。明日の分とかはどうですか?」
「二、三日は戻らないらしいから、大丈夫だ。
また、その頃に来てくれるか?」
「そうなんですね。
分かりました。では、また来ます」
そう言い残して裏口から退出した。
だが、もう少し詳しい事を知りたい為、そのまま洗濯場まで向かったのである。
そこには、三人の下女が井戸で洗濯をしていた。
「こんにちはー!
野菜の配達に来たんだけど、旦那様が留守だから不要って言われてしまったんだ。
良かったら、貰ってくれないかな?」
「・・・くれるって言うなら嬉しいけど。
・・・本当に、いいのかい?」
「大丈夫、大丈夫!
その代わりに、この事は内緒で頼むよ」
すると、ヴィンセルの箱の中を覗き込む下女達。
「キャベツがお勧めだよ!好きなの持っていってね」
下女達はキャッキャ言いながら、野菜を手に取っている。
「それでさ、旦那様はいつ帰って来るか知ってる?
いやね、また持って来て断られるのも嫌だなって思ってさ」
すると、キャベツを脇に抱えた下女が口を開いた。
「旦那様は、二、三日は帰らないらしいよ。
だから私達も明日、明後日と休みになったんだ。
本当、困るよ。
侍女と違って通いの私達は、日給制だからねぇ。
稼ぎが減っちまって、大変さ」
すると、他の下女達も野菜を選びながら口々に話へ加わる。
「そう言えば、借りてる屋敷で問題があったんだろう?
朝から怒鳴り散らしてたって話じゃないか」
「そうそう、ここまで聞こえる程の大声で凄かったんだから。
確か、男が子供を連れて居なくなったから、探し出せって言ってたね。
あんなに焦るなんて、ただ事ではないよ」
「それで、旦那様もその屋敷へ飛んで行ったんだろう?」
と、下女達の話は尽きそうもない。
私は、これ以上の情報は得られないと思い『じゃあ、僕達は帰るよ。野菜は置いていくから、ゆっくり選んでね』と切り上げたのであった。
敷地を出てから林の中で変装を解く。
ローレンス様の思惑通り、男が子供を攫ったと報告があったようだ。
そう考えていると、ヴィンセルが口を開いた。
「ねぇ、ローレンス様はアレンが女って知ってるの?」
「え?知らないけど・・・って、今それ関係ないだろ」
「本当は知ってるんじゃない?
だって、君と必要以上に距離が近いし・・・」
ローレンス様が男を好きなのを知らないヴィンセルが、口を尖らせて聞いて来た。
本当の事を話せない私は、濁すように伝えたのだ。
「いいや、それは断じてない。ただ、使用人思いのいい方なんだよ」
「絶対違う!そんなふうに見えないし!」
・・・また、面倒臭くなってきた。
「あのさ、ヴィンセルはローレンス様の何を知っているの?
それと、今は任務中なんだ。
関係ない話は今度にしてくれ」
すると、不貞腐れたヴィンセルが『もう、いい』と言い出したのだ。
・・・はぁ。
15、6歳の男子って、こんなに面倒なのか?
マイケルは素直で可愛いのになぁ。
まぁ、まだ12歳だけど、15歳になっても、きっと可愛いはずだ。
そう考えると、だいぶ家族とも会っていない。
この件が落ち着いたら、少し休みを貰おうかなと考えたのであった。
その後は、不機嫌なヴィンセルを連れて王宮へと戻った。
副団長に報告をし、ヴィンセルに『じゃぁ、また』と声を掛けると、伏し目がちに口を開いたのだ。
「・・・さっきは、ごめん。
なんか、意地になってしまった。
・・・じゃあ、また」
そう言って、去って行ったのである。
・・・なんだ。
可愛いところもあるじゃないか。
私は、ほっこりとして緩んでしまった口元を引き締めてから、部屋へと戻るのであった。




