ローレンス視点
子供達も救出できたし、きっと、アレンの憂いを取り除く事が出来ただろうと思いながら、兄上の執務室へと向かった。
「兄上、ローレンスです。参りました。」
「ああ。入れ」
レノンに扉を開けてもらい、入室する。
すると、開口一番で兄上が『報告書は読んだ。だが、何故、お前が行った?』と聞いてきた。
「その方が確実でしたから」
兄上は、こめかみを押さえ『私の頼み方がいけなかったのか?』とぶつぶつ言っている。
「今回は無事であったから良かったが、報告書を読んだ時の私の気持ちが分かるか?
何かあってからでは、済まされないのだぞ」
・・・兄上の言い分は分かる。
兄上のスペアとして育てられた俺に何かあれば、確かに不安だろう。
「はい。申し訳ありません。
ですが、兄上もご存じの通り、私は、その辺の騎士よりも武術に長けています。
そう簡単に、命を落とす事はありませんので、ご安心下さい」
「・・・なぁ、ローレンス?
私は、お前が強い事を知っている。
だがな、だからと言って、心配しないなんて事、あるはずがないだろう?
お前に何かあれば、悲しいと思う、私の心を少しは慮って欲しい」
・・・・・・。
「兄上は、スペアの俺が、いなくなる事に不安だったのではないですか?」
「・・・は?
そんなわけあるか!
それに、お前をスペアだと思った事など、一度もない!
もちろん、父上も母上もだ!
・・・ふぅ。
ローレンス、もう少し、心を寄せてはくれぬか?」
少し前の俺なら、兄上の言っている事が分からなかっただろう。
・・・だが、今なら分かる。
先日、アレンを心配した気持ちを、兄上も感じているという事だ。
「兄上の気持ちは分かりました。
俺がアレンを思う気持ちと同じなのですね・・・。
本当に、痛いほど、よく分かります」
すると後ろから、レノンとアレンの息を呑む音が聞こえる。
そして、目の前の兄上は眉間に皺を寄せ、口を開いた。
「・・・・。
まぁ、なんだ・・・。
分かってくれたのなら、いい。
それでだ、子供達からは情報を得られたのか?
報告書にあった【国へ帰ってもまた売られる】とは、どういう意味だ?」
「話はまだ聞けていません。
精神的にも肉体的にも休息が必要な状況です。
様子を見ながら進めて行くので、決まり次第、報告します」
「分かった。
子供達には、辛い思いをさせてしまったからな。
十分に配慮してやってくれ」
そうして、俺達は執務室を後にしたのだった。
帰り道、レノンが『あの・・・。ローレンス様?先程の言葉は、どういう意味ですか?』と遠慮気味に聞いてきた。
「何か言ったか?」
「アレンさんを思う気持ちです」
「ああ。もちろん好きだが、それがどうかしたのか?」
すると、挙動不審に『そ、そんな?まさか・・・。いや、私のローレンス様に限って、そんな事になるはずがない!ローレンス様、そうでしょう?貴方様は、鳥が好きなんですよね?』と話の最後には興奮していた。
「俺がいつ、お前のものになった?
それに、鳥が好きなのは、レノンだろう?
俺は、鳥に興味を持った事など、一度もない」
「そ、そんな事って・・・。
・・・少し、お時間を下さい。
頭を冷やしてきます」
そう言って、フラフラと何処かへ行ってしまった。
すると、おずおずとアレンが口を開いたのである。
「あの、ローレンス様?
私が言うのもなんですが、あまり、そういう事を人前で言わない方がよろしいかと思います」
「・・・そうなのか。
では、気をつける事にする」
そうして部屋へ着き、しばらくしたらレノンが戻って来た。
すると、アレンは『少し、外します』と退出して行ったのである。
先程とは違い、レノンの元気な様子に、何があったのかと不思議に思いながら見ていたら、話し始めたのだ。
「ローレンス様。
私は勘違いをしていたようです。
ローレンス様は、男が好きなのではなく、アレンさんが、好きなんですよね?」
俺はその言葉に驚いた。
未だ曽て、レノンが俺の考えを理解した事が無いからだ。
なんて、感慨深いんだろう。
レノンとは、子供の頃からの付き合いだ。
俺は、レノンとの確かな絆を感じたのであった。
「・・・レノン。
・・・お前、よく俺の事を見ているんだな」
「はい!私はローレンス様の侍従です!誰よりも貴方様を理解しなければならない立場ですよ」
そうやって言い切るレノンが頼もしく見えた。
俺は、その後の言葉に耳を傾ける。
「ローレンス様は、アレンさんを人として好きだというのに、私ったら、勝手に恋愛感情と結び付けるなんて、どうかしていました。
もし、男が好きなのなら、私も恋愛対象に入ってしまいます。
それに、ローレンス様が、男に欲情するような変態なはずありません!」
・・・・・・。
全然、何一つ理解していなかった。
・・・俺の感動を返せ。
それにしても・・・変態だと?
「俺は、変態じゃない。
それに、お前が恋愛対象に入る訳ないだろう」
「はい。もちろんでございます。
私は、ちゃんと理解しております」
・・・・・・。
俺はこの時、何を言っても、レノンとは分かり合えない運命なのだと思う事で、溜飲を下げる事にしたのであった。




